「こころ」1-56 夏目漱石
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | berry | 7500 | 神 | 7.7 | 97.3% | 237.2 | 1828 | 49 | 39 | 2024/09/20 |
2 | デコポン | 6441 | S | 6.6 | 97.5% | 277.4 | 1834 | 47 | 39 | 2024/09/11 |
3 | ぽむぽむ | 5588 | A | 5.8 | 95.4% | 319.4 | 1875 | 90 | 39 | 2024/10/21 |
4 | 饅頭餅美 | 5081 | B+ | 5.3 | 95.8% | 350.3 | 1861 | 81 | 39 | 2024/09/14 |
5 | yui | 4830 | B | 5.0 | 96.4% | 367.7 | 1843 | 67 | 39 | 2024/09/11 |
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問題文
(わたくしはたてかけたこしをまたおろして、はなしのくぎりのつくまで)
私は立て掛けた腰をまたおろして、話の区切りの付くまで
(ふたりのあいてになっていた。)
二人の相手になっていた。
(「きみはどうおもいます」とせんせいがきいた。)
「君はどう思います」と先生が聞いた。
(せんせいがさきへしぬか、おくさんがはやくなくなるか、もとよりわたくしにはんだんのつくべき)
先生が先へ死ぬか、奥さんが早く亡くなるか、固より私に判断のつくべき
(もんだいではなかった。わたくしはただわらっていた。)
問題ではなかった。私はただ笑っていた。
(「じゅみょうはわかりませんね。わたくしにも」)
「寿命は分りませんね。私にも」
(「こればかりはほんとうにじゅみょうですからね。うまれたときにちゃんときまったねんすうを)
「こればかりは本当に寿命ですからね。生れた時にちゃんと極った年数を
(もらってくるんだからしかたがないわ。せんせいのおとうさんやおかあさんなんか、)
もらって来るんだから仕方がないわ。先生のお父さんやお母さんなんか、
(ほとんどおなじよ、あなた、なくなったのが」)
ほとんど同じよ、あなた、亡くなったのが」
(「なくなられたひがですか」)
「亡くなられた日がですか」
(「まさかひまでおなじじゃないけれども。でもまあおなじよ。)
「まさか日まで同じじゃないけれども。でもまあ同じよ。
(だってつづいてなくなっちまったんですもの」)
だって続いて亡くなっちまったんですもの」
(このちしきはわたくしにとってあたらしいものであった。わたくしはふしぎにおもった。)
この知識は私にとって新しいものであった。私は不思議に思った。
(「どうしてそういちどにしなれたんですか」)
「どうしてそう一度に死なれたんですか」
(おくさんはわたくしのといにこたえようとした。せんせいはそれをさえぎった。)
奥さんは私の問いに答えようとした。先生はそれを遮った。
(「そんなおはなしはよしよ。つまらないから」)
「そんなお話は止しよ。つまらないから」
(せんせいはてにもったうちわをわざとばたばたいわせた。)
先生は手に持った団扇をわざとばたばたいわせた。
(そうしてまたおくさんをかえりみた。)
そうしてまた奥さんを顧みた。
(「しず、おれがしんだらこのうちをおまえにやろう」)
「静、おれが死んだらこの家をお前にやろう」
(おくさんはわらいだした。)
奥さんは笑い出した。
(「ついでにじめんもくださいよ」)
「ついでに地面も下さいよ」
(「じめんはひとのものだからしかたがない。そのかわりおれのもってるものは)
「地面は他のものだから仕方がない。その代りおれの持ってるものは
(みんなおまえにやるよ」)
皆なお前にやるよ」
(「どうもありがとう。けれどもよこもじのほんなんかもらってもしようがないわね」)
「どうも有難う。けれども横文字の本なんか貰っても仕様がないわね」
(「ふるほんやにうるさ」)
「古本屋に売るさ」
(「うればいくらぐらいになって」)
「売ればいくらぐらいになって」
(せんせいはいくらともいわなかった。けれどもせんせいのはなしは、よういにじぶんのしという)
先生はいくらともいわなかった。けれども先生の話は、容易に自分の死という
(とおいもんだいをはなれなかった。そうしてそのしはかならずおくさんのまえにおこるものと)
遠い問題を離れなかった。そうしてその死は必ず奥さんの前に起るものと
(かていされていた。おくさんもさいしょのうちは、わざとたわいのないうけこたえを)
仮定されていた。奥さんも最初のうちは、わざとたわいのない受け答えを
(しているらしくみえた。それがいつのまには、かんしょうてきなおんなのこころをおもくるしくした。)
しているらしく見えた。それがいつの間には、感傷的な女の心を重苦しくした。
(「おれがしんだら、おれがしんだらって、まあなんべんおっしゃるの。)
「おれが死んだら、おれが死んだらって、まあ何遍おっしゃるの。
(ごしょうだからもういいかげんにして、おれがしんだらはよしてちょうだい。)
後生だからもう好い加減にして、おれが死んだらは止して頂戴。
(えんぎでもない。あなたがしんだら、なんでもあなたのおもいどおりにしてあげるから、)
縁喜でもない。あなたが死んだら、何でもあなたの思い通りにして上げるから、
(それでいいじゃありませんか」)
それで好いじゃありませんか」
(せんせいはにわのほうをむいてわらった。しかしそれぎりおくさんのいやがることを)
先生は庭の方を向いて笑った。しかしそれぎり奥さんの厭がる事を
(いわなくなった。わたくしもあまりながくなるので、すぐせきをたった。)
いわなくなった。私もあまり長くなるので、すぐ席を立った。
(せんせいとおくさんはげんかんまでおくってでた。)
先生と奥さんは玄関まで送って出た。
(「ごびょうにんをおだいじに」とおくさんがいった。)
「ご病人をお大事に」と奥さんがいった。
(「またくがつに」とせんせいがいった。)
「また九月に」と先生がいった。