山本周五郎 赤ひげ診療譚 徒労に賭ける 5

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投稿者投稿者uzuraいいね2お気に入り登録
プレイ回数601難易度(4.5) 2723打 長文
映画でも有名な、山本周五郎の傑作連作短編です。
赤ひげ診療譚の第五話です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 HAKU 7069 7.3 96.3% 370.3 2722 104 58 2024/05/01
2 hutaba 4117 C 4.3 95.4% 630.5 2727 131 58 2024/04/21

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問題文

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(おんなしゅじんはへいぜんと、きせるでたばこをふかしていた。)

女主人は平然と、きせるで莨(たばこ)をふかしていた。

(となりのへやにはおんながふたりいたが、これもいきをころしているようすで、)

隣りの部屋には女が二人いたが、これも息をころしているようすで、

(こそっともものおとがしなかった。)

こそっとも物音がしなかった。

(だが、おとよのなきさけぶのをききつけたらしく、)

だが、おとよの泣き叫ぶのを聞きつけたらしく、

(とぐちのそとで「なんだなんだ」というこえがし、)

戸口の外で「なんだなんだ」という声がし、

(ふたりのおとこがあらあらしくどまへはいってきた。)

二人の男が暴(あら)あらしく土間へはいって来た。

(「なんだねえさん」とおとこのひとりがいった、)

「なんだ姐(ねえ)さん」と男の一人が云った、

(「どうしたんだ、なにかあったのか」)

「どうしたんだ、なにかあったのか」

(ふたりはどちらもわかい、おそらくにじゅういちかにくらいであろう、)

二人はどちらも若い、おそらく二十一か二くらいであろう、

(はけさきをまげたりゅうこうのまげにゆい、)

はけ先を曲げた流行の髷に結い、

(しゃれたゆかたにひらぐけをしめて、あたらしいせったをはいていた。)

しゃれた浴衣に平ぐけをしめて、新らしい雪駄をはいていた。

(「なんでもないのよ、さわがないでちょうだい」)

「なんでもないのよ、騒がないでちょうだい」

(とおんなしゅじんはきせるをおきながらいった、)

と女主人はきせるを置きながら云った、

(「ようじょうしょのせんせいがこのこがびょうきだからって、)

「養生所の先生がこの子が病気だからって、

(つれてってなおしてやろうとおっしゃるのに、)

伴れてって治してやろうと仰しゃるのに、

(このこがいやがってないてるだけなんですよ」)

この子がいやがって泣いてるだけなんですよ」

(「なくほどいやがるものをつれていこうというのかい」とわかもののひとりがいった、)

「泣くほどいやがる者を伴れていこうというのかい」と若者の一人が云った、

(「びょうきをなおすんなら、なにもようじょうしょでなくったっていいじゃねえか、)

「病気を治すんなら、なにも養生所でなくったっていいじゃねえか、

(このとちにはこのとちのいしゃもいることだしよ、なあてつ」)

この土地にはこの土地の医者もいることだしよ、なあ鉄」

(「おうよ」とつれのわかものがしゃがれたこえでいった、)

「おうよ」と伴れの若者がしゃがれた声で云った、

など

(「なにもようじょうしょのいしゃばかりがいしゃじゃあねえ、)

「なにも養生所の医者ばかりが医者じゃあねえ、

(ようじょうしょのいしゃだからどんなごうびょうでもなおせるってわけのもんじゃねえだろう、)

養生所の医者だからどんな業病でも治せるってわけのもんじゃねえだろう、

(そんならなにもよのなかにしぬにんげんなんかありゃしねえ、)

そんならなにも世の中に死ぬ人間なんかありゃしねえ、

(びょうきはびょうき、いしゃはいしゃ、しぬにんげんはしぬにんげん、)

病気は病気、医者は医者、死ぬ人間は死ぬ人間、

(なにもよけえなものがでしゃばるこたあねえんだ」)

なにもよけえな者がでしゃばるこたあねえんだ」

(「あたいはいやだ、いやだ」とおとよはみもだえをしながらなきさけんだ、)

「あたいはいやだ、いやだ」とおとよは身もだえをしながら泣き叫んだ、

(「どこへいくのもいやだ、あたいこのうちにいるんだ」)

「どこへいくのもいやだ、あたいこのうちにいるんだ」

(「たけぞう」ときょじょうがいった、「やくろうをよこせ」)

「竹造」と去定が云った、「薬籠をよこせ」

(たけぞうはあがりがまちのところで、ふたりのわかものをにらんでいた。)

竹造は上り框(がまち)のところで、二人の若者を睨んでいた。

(いまにもとびかかりそうなかおで、こぶしをにぎっていたが、きょじょうによばれてはっとし、)

いまにもとびかかりそうな顔で、拳を握っていたが、去定に呼ばれてはっとし、

(やくろうをのぼるのほうへおしやった。)

薬籠を登のほうへ押しやった。

(「あんしんしなおとよちゃん」とはじめのわかものがいっていた、)

「安心しなおとよちゃん」と初めの若者が云っていた、

(「おれたちがついているからな、だれにだってゆびいっぽんささせやしねえ、)

「おれたちが付いているからな、誰にだって指一本差させやしねえ、

(こっちはいのちをなげだしてるんだから」)

こっちは命を投げだしてるんだから」

(「おうよ」とそのつれもいった、)

「おうよ」とその伴れも云った、

(「このしまのためにゃあこちとらあいのちとごたいをはってるんだ、)

「このしまのためにゃあこちとらあ命と五躰を張ってるんだ、

(なにもだてにこのしまにすんでるんじゃねえんだから」)

なにもだてにこのしまに住んでるんじゃねえんだから」

(きょじょうはおんなしゅじんにくすりをわたしていた。)

去定は女主人に薬を渡していた。

(かいいりのこうやくとせんじぐすりとで、そのもちいかたをにゅうねんにおしえ、)

貝入りの膏薬と煎薬(せんじぐすり)とで、その用いかたを入念に教え、

(こうやくのほうはじぶんでおとよにはってみせた。おとよはぴたっとなきやんだ。)

膏薬のほうは自分でおとよに貼ってみせた。おとよはぴたっと泣きやんだ。

(いままでなきさけんでいたのがうそのように、なきじゃくりさえのこらなかった。)

いままで泣き叫んでいたのが嘘のように、泣きじゃくりさえ残らなかった。

(「はっきりいっておくが」ときょじょうはおんなしゅじんにいった、)

「はっきり云っておくが」と去定は女主人に云った、

(「こんごはけっしてきゃくをとらすな、)

「今後は決して客を取らすな、

(もしきゃくをとらせるようなことがあるととどけでるぞ、わかったな」)

もし客を取らせるようなことがあると届け出るぞ、わかったな」

(「わたしはだいじょうぶですがね」おんなしゅじんはきせるをとりあげながらいった、)

「わたしは大丈夫ですがね」女主人はきせるを取りあげながら云った、

(「いちにちじゅうにこくこのこにくっついているわけにはいきませんから、)

「一日十二刻この子にくっついているわけにはいきませんから、

(このこはませてるし、)

この子はませてるし、

(あんなことはしょうじのかげでたったままでもできるこってすからね」)

あんなことは障子の蔭で立ったままでもできるこってすからね」

(「そんなりくつがとおるとおもうのか」)

「そんな理屈がとおると思うのか」

(「こんなこでもにんげんですよ、)

「こんな子でも人間ですよ、

(まさかかなぐさりでつないどくわけにもいかないでしょ」)

まさか金鎖(かなぐさり)で繋ないどくわけにもいかないでしょ」

(そしてかのじょはふたりのわかものたちにいった、)

そして彼女は二人の若者たちに云った、

(「もういいよ、てつさんにかねさん、ごくろうさま」わかものたちはでていった。)

「もういいよ、鉄さんに兼(かね)さん、御苦労さま」若者たちは出ていった。

(こしぬけいしゃだとか、ふるえてたぜ、などというのがきこえ、)

腰抜け医者だとか、ふるえてたぜ、などと云うのが聞え、

(にさんけんいくとばかわらいするのがきこえた。)

二三間いくとばか笑いするのが聞えた。

(どうじにたけぞうのかおがあかぐろくなるのを、のぼるはみた。)

同時に竹造の顔が赤ぐろくなるのを、登は見た。

(きょじょうはまったくむかんしんに、とおかばかりしたらまたくるといい、)

去定はまったく無関心に、十日ばかりしたらまた来ると云い、

(まもなくそのいえをでた。)

まもなくその家を出た。

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