「毒草」4 江戸川乱歩

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プレイ回数994難易度(4.2) 1964打 長文 かな 長文モードのみ
タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「毒草」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 れもん 4921 B 5.1 95.5% 378.1 1951 90 28 2024/10/15

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問題文

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(なんだかじっとしていてはわるいようなきがして、わたしはいえのなかをそわそわと)

何だかじっとしていては悪い様な気がして、私は家の中をソワソワと

(あるきまわった。にかいへあがって、あのひろっぱのみえるえんがわから、うすぐらいおかのあたりを)

歩き廻った。二階へ上って、あの広っぱの見える縁側から、薄暗い丘の辺を

(すかしてみたり、そのとき、ゆうびんきゃくふのにょうぼうはもうそこにはいなかった。)

すかして見たり、その時、郵便脚夫の女房はもうそこには居なかった。

(なんのひつようもないのに、かいだんをかけおりて、にさんだんもふみはずし、ばかばかしく)

何の必要もないのに、階段を駈けおりて、二三段も踏みはずし、馬鹿馬鹿しく

(さわがしいものおとをたててみたり、そそくさとげたをひっかけて、おもてぐちのこうしを)

騒がしい物音を立てて見たり、そそくさと下駄を引かけて、表口の格子を

(あけてみたり、またしめてみたり、そんなことをくりかえしたあとで、けっきょくもういちど)

開けて見たり、又しめて見たり、そんなことを繰り返したあとで、結局もう一度

(おかのしたまでいってみないではいられなくなったのである。)

丘の下まで行って見ないではいられなくなったのである。

(わたしは、もういっけんさきはみえないほどの、ゆうやみのなかを、だれかみていはしないかと、)

私は、もう一間先は見えない程の、夕闇の中を、誰か見ていはしないかと、

(みのすくむきもちで、うしろのかたをふりむきふりむき、れいのおかのところまでたどりついた。)

身のすくむ気持で、うしろの方を振向き振向き、例の丘の所までたどりついた。

(はいいろのもやのなかに、いっしゃくのおがわのくろいみずが、ちろちろとながれていた。)

灰色のもやの中に、一尺の小川の黒い水が、チロチロと流れていた。

(いっけんばかりむこうのくさのなかで、なんのむしだか、みょうにさえたおとでなきしきっていた。)

一間ばかり向うの草の中で、何の虫だか、妙にさえた音で鳴きしきっていた。

(わたしは、かたくなってあのしょくぶつをさがした。それは、あたりのひくいざっそうのなかに、)

私は、堅くなってあの植物を探した。それは、あたりの低い雑草の中に、

(ばけもののようにふといくきと、あつぼったいまるいはを、ぬっとつきだしているので、)

化物の様に太い茎と、厚ぼったい丸い葉を、ヌッとつき出しているので、

(すぐにわかったが、みると、そのいっぽんのくきが、なかばからぽっきりおりとられて、)

すぐに分ったが、見ると、その一本の茎が、半ばからポッキリ折り取られて、

(まるでかたうでなくしたふぐしゃのように、へんにさびしいすがたをしているのだ。)

まるで片腕なくした不具者の様に、変に淋しい姿をしているのだ。

(わたしは、ほとんどくれきったやみのなかで、うそさむくたちつくしていた。みにくいかおに、)

私は、殆ど暮れ切った闇の中で、うそ寒く立ちつくしていた。醜い顔に、

(いつもきょうしゃのようにかみのけをふりみだしている、あのしじゅうおんなのにょうぼうが、)

いつも狂者の様に髪の毛を振り乱している、あの四十女の女房が、

(さっきわたしたちのたちさったあとで、おそろしいけっしんのためにほおをひきつらせながら、)

さっき私達の立去ったあとで、恐しい決心の為に頬を引つらせながら、

(のそのそとおかをくだり、よつばいになってそのしょくぶつをおりとっているありさまが、)

ノソノソと丘を下り、四つ這いになってその植物を折り取っている有様が、

(きみわるくわたしのめにうかんでくる。それは、なんというこっけいな、しかしながらまた、)

気味悪く私の目に浮んで来る。それは、何という滑稽な、然しながら又、

など

(なんというげんしゅくな、ひとつのこうけいであったろう。わたしはあまりのこわさに、わっとさけんで、)

何という厳粛な、一つの光景であったろう。私は余りの怖さに、ワッと叫んで、

(いきなりはしりだしたいようなきもちになったことである。)

いきなり走り出したい様な気持になったことである。

(そして、それからすうじつのちのこと、そのあいだわたしは、かわいそうなうらのにょうぼうのことは、)

そして、それから数日のちのこと、その間私は、可哀想な裏の女房のことは、

(きにかかりながらしいてわすれるようにしていた。かじんのうわさばなしなどもなるべく)

気にかかりながら強いて忘れる様にしていた。家人の噂話などもなるべく

(きくまいとした。わたしはあさからいえをでては、ともだちのところをあそびまわったり、)

聞くまいとした。私は朝から家を出ては、友達の所を遊び廻ったり、

(しばいをみたり、よせにはいったり、なるべくそとでよるをふかしていた。だが、)

芝居を見たり、寄席に這入ったり、なるべく外で夜を更していた。だが、

(とうとうあるひ、わたしはいえのよこのほそいろじで、ひょっこりと、うらのにょうぼうにであって)

到頭ある日、私は家の横の細い路地で、ヒョッコリと、裏の女房に出逢って

(しまったのである。)

了ったのである。

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