緋のエチュード　２０

(「すたんがーそんもか！」かれはつぶやいた。)

「スタンガーソンもか！」彼はつぶやいた。

(「すじがきがいりくんできたな」)

「筋書きが入り組んできたな」

(「すでにひじょうにいりくんでいますよ」)

「すでに非常に入り組んでいますよ」

(れすとれーどがいすをひきながらふふくそうにいった。)

レストレードが椅子を引きながら不服そうに言った。

(「わたしはさんぼうかいぎかなにかにまよいこんだきぶんです」)

「私は参謀会議か何かに迷い込んだ気分です」

(「きみは、・・・きみは、このじょうほうをかくにんしたんだな？」)

「君は、･･･君は、この情報を確認したんだな？」

(ぐれっぐそんはくちごもりながらいった。)

グレッグソンは口ごもりながら言った。

(「かれのへやからちょくせつきたところだ」れすとれーどはいった。)

「彼の部屋から直接来たところだ」レストレードは言った。

(「わたしがじけんのだいいちはっけんしゃだ」)

「私が事件の第一発見者だ」

(「ちょうど、このじけんにたいするぐれっぐそんのけんかいを)

「ちょうど、この事件に対するグレッグソンの見解を

(きいていたところだ」ほーむずはいった。「きみがなにをもくげきして、)

聞いていたところだ」ホームズは言った。「君が何を目撃して、

(なにをやったか、きかせてもらえないか？」)

何をやったか、聞かせてもらえないか？」

(「もちろんです」れすとれーどはいすにすわりながらこたえた。)

「もちろんです」レストレードは椅子に座りながら答えた。

(「そっちょくにいいますと、わたしはすたんがーそんがどればーのしに)

「率直に言いますと、私はスタンガーソンがドレバーの死に

(かんけいしているとおもっていました。このしんてんかいで、)

関係していると思っていました。この新展開で、

(わたしはかんぜんにあやまっていたことがわかりました。あることをおもいつき、)

私は完全に誤っていたことが分かりました。ある事を思いつき、

(わたしはひしょがどうなったかをしらべはじめました。)

私は秘書がどうなったかを調べ始めました。

(かれらはみっかのよるはちじはんごろいーすとんえきでいっしょにいるところを)

彼らは三日の夜八時半頃イーストン駅で一緒にいるところを

(もくげきされています。そしてごぜんにじ、)

目撃されています。そして午前二時、

(どればーはぶりくすとんろーどではっけんされています。)

ドレバーはブリクストンロードで発見されています。

(わたしがちょくめんしたもんだいは、すたんがーそんがはちじはんからはんざいじこくまでのあいだ、)

私が直面した問題は、スタンガーソンが八時半から犯罪時刻までの間、

(どのようにじかんをすごしていたか、)

どのように時間を過ごしていたか、

(そしてそのあとどうしたかをつきとめることでした。)

そしてその後どうしたかを突き止めることでした。

(わたしはりばぷーるにすたんがーそんのにんそうがきをでんぽうでおくり、)

私はリバプールにスタンガーソンの人相書きを電報で送り、

(あめりかきせんからめをはなさないようにけいかいさせました。)

アメリカ汽船から目を離さないように警戒させました。

(それからわたしはいーすとんのちかくのほてるやげしゅくをいっけんずつまわるしごとに)

それから私はイーストンの近くのホテルや下宿を一軒ずつ回る仕事に

(ちゃくしゅしました。いいですか、わたしはこうかんがえました。)

着手しました。いいですか、私はこう考えました。

(もしどればーとすたんがーそんがべつこうどうをとっていたら、)

もしドレバーとスタンガーソンが別行動をとっていたら、

(すたんがーそんは、どこかちかくでいっぱくし、つぎのあさ、)

スタンガーソンは、どこか近くで一泊し、次の朝、

(えきでまっているというのが、しぜんなこうどうでしょう」)

駅で待っているというのが、自然な行動でしょう」

(「あらかじめまちあわせばしょをきめておいたかのうせいがたかいな」)

「あらかじめ待ち合わせ場所を決めておいた可能性が高いな」

(ほーむずはいった。)

ホームズは言った。

(「まさに、そうかくにんされました。)

「まさに、そう確認されました。

(わたしはさくやいっぱいかけてちょうさしましたが、)

私は昨夜いっぱいかけて調査しましたが、

(まったくせいかはありませんでした。けさはひじょうにあさはやくからはじめました。)

全く成果はありませんでした。今朝は非常に朝早くから始めました。

(そして８じ、わたしはりとるじょーじがいのはりでぃーぷらいべーとほてるに)

そして8時、私はリトルジョージ街のハリディー・プライベートホテルに

(いきました。わたしがすたんがーそんというおとこがとまっているかときくと、)

行きました。私がスタンガーソンという男が泊まっているかと訊くと、

(すぐにそうだというへんとうがありました」)

すぐにそうだという返答がありました」

(「「おきゃくさんがまっていたのはきっとあなたですね」)

「『お客さんが待っていたのはきっとあなたですね』

(ほてるのじゅうぎょういんがいいました。「ふつかかん、)

ホテルの従業員が言いました。『二日間、

(だんせいがたずねてくるのをまっていました」」)

男性が訪ねて来るのを待っていました』」

(「「いまどこにいる？」わたしはたずねました」)

「『今どこにいる？』私は尋ねました」

(「「うえのかいでねています。くじにおこしてくれといっていました」」)

「『上の階で寝ています。九時に起こしてくれと言っていました』」

(「「すぐにあがってあおう」わたしはいいました」)

「『すぐに上がって会おう』私は言いました」

(「わたしはきゅうにけいさつがあらわれれば、)

「私は急に警察が現れれば、

(かれがどうてんしてふよういになにかもらすことになるとかんがえました。)

彼が動転して不用意に何か漏らすことになると考えました。

(ぼーいはみずからへやまであんないしました。そこはさんかいでした。)

ボーイは自ら部屋まで案内しました。そこは三階でした。

(そしてへやにつくまでにせまいろうかがありました。)

そして部屋に着くまでに狭い廊下がありました。

(ぼーいがわたしにとびらをゆびさし、したにもどろうとしたとき、)

ボーイが私に扉を指差し、下に戻ろうとした時、

(わたしはにじゅうねんのけいけんにもかかわらず、)

私は二十年の経験にも関らず、

(めにしたものにおもわずむねがわるくなりました。とびらのしたからちがながれだし、)

目にしたものに思わず胸が悪くなりました。扉の下から血が流れ出し、

(ちいさなまがったあとをのこしていました。)

小さな曲がった跡を残していました。

(そのながれはろうかをくねくねとよこぎり、)

その流れは廊下をくねくねと横切り、

(はんたいがわのふちにちいさなちだまりをつくっていました。わたしがさけぶと、)

反対側の縁に小さな血だまりを作っていました。私が叫ぶと、

(ぼーいがもどってきました。)

ボーイが戻ってきました。

(かれはこのこうけいをみてほとんどきぜつしそうでした。)

彼はこの光景を見てほとんど気絶しそうでした。

(とびらはうちがわからかぎがかけられていました。しかし、)

扉は内側から鍵が掛けられていました。しかし、

(ふたりのかたでおしやぶってはいりました。へやのまどがひらかれており、)

二人の肩で押し破って入りました。部屋の窓が開かれており、

(そのまどのそばによぎをきてみをまるめたおとこのしたいがよこたわっていました。)

その窓の側に夜着を着て身を丸めた男の死体が横たわっていました。

(しんでからかなりじかんがたっていました。)

死んでからかなり時間が経っていました。

(ししがこうちょくしてつめたくなっていたからです。したいをひっくりかえすと、)

四肢が硬直して冷たくなっていたからです。死体をひっくり返すと、

(ぼーいはすぐにそれがじょせふすたんがーそんというなまえで)

ボーイはすぐにそれがジョセフ・スタンガーソンという名前で

(へやをよやくしたおとこだとだんていしました。しいんはからだのひだりがわのふかいさしきずで、)

部屋を予約した男だと断定しました。死因は体の左側の深い刺し傷で、

(しんぞうをつきぬけていたにちがいありません。)

心臓を突き抜けていたに違いありません。

(そしてここからがこのじけんのもっともきみょうなところです。)

そしてここからがこの事件の最も奇妙なところです。

(ころされたおとこのうえのかべになにがあったとおもいます？」)

殺された男の上の壁に何があったと思います？」

(わたしはせすじがぞっとした。そしてほーむずがこたえるまえに、)

私は背筋がぞっとした。そしてホームズが答える前に、

(きょうふがやってくるよちょうをかんじた。)

恐怖がやって来る予兆を感じた。

(「ちで、ｒａｃｈｅというたんごがかかれていた」かれはいった。)

「血で、RACHEという単語が書かれていた」彼は言った。

(「そのとおりです」れすとれーどはかんしんしたようなこえでいった。)

「そのとおりです」レストレードは感心したような声で言った。

(そしてしばらくのあいだ、ぜんいんがむごんのままだった。)

そしてしばらくの間、全員が無言のままだった。

(このなぞのあんさつしゃのこうどうは、りかいにくるしむが、)

この謎の暗殺者の行動は、理解に苦しむが、

(どこかにたいけいてきなものがあり、それによって、)

どこかに体系的なものがあり、それによって、

(はんざいにあらたなきょうふがうまれている。)

犯罪に新たな恐怖が生まれている。

(せんじょうでさえどうようしたことのないわたしだったが、)

戦場でさえ動揺したことのない私だったが、

(これをかんがえるとぞっとした。)

これを考えるとぞっとした。

(「そのおとこは」れすとれーどはつづけた。「はんばいじょにいくとちゅう、)

「その男は」レストレードは続けた。「販売所に行く途中、

(たまたまほてるのうらにあるきゅうしゃにつづくみちをあるいていたぎゅうにゅうはいたつのしょうねんに)

たまたまホテルの裏にある厩舎に続く道を歩いていた牛乳配達の少年に

(もくげきされています。しょうねんは、)

目撃されています。少年は、

(さんかいのまどのひとつにはしごがかけられているのにきづきました。)

三階の窓の一つにはしごが掛けられているのに気付きました。