緋のエチュード 32

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(これほどあからさまにちょうろうのけんいにたいしてはんこうしたじけんはなかった。)

これほどあからさまに長老の権威に対して反抗した事件はなかった。

(ちょっとしたあやまちでさえ、ひじょうにげんかくにばっせられるのなら、)

ちょっとした過ちでさえ、非常に厳格に罰せられるのなら、

(このむほんのしゅぼうしゃにどんなうんめいがあるだろうか。)

この謀反の首謀者にどんな運命があるだろうか。

(ふぇりあーはかれのざいさんもたちばもなんのやくにもたたないことをしっていた。)

フェリアーは彼の財産も立場も何の役にも立たないことを知っていた。

(かれとおなじほどゆたかだといわれてきたべつのおとこが、)

彼と同じほど豊かだと言われてきた別の男が、

(いぜんかみかくしにあっていた。そしてかれらのざいさんはきょうかいにぼっしゅうされた。)

以前神隠しにあっていた。そして彼らの財産は教会に没収された。

(ふぇりあーはゆうかんなおとこだった。しかしじぶんをつつむぼんやりとした、)

フェリアーは勇敢な男だった。しかし自分を包むぼんやりとした、

(つかみどころのないきょうふにふるえた。)

つかみ所のない恐怖に震えた。

(はっきりとしたきけんであればかくごをきめてたちむかえた。)

はっきりとした危険であれば覚悟を決めて立ち向かえた。

(しかしこのふあんなじょうたいにはしんけいをすりへらした。)

しかしこの不安な状態には神経をすりへらした。

(かれはじぶんのきょうふをむすめにはみせず、)

彼は自分の恐怖を娘には見せず、

(なにもかもたいしたことでないというそぶりをしていた。だがむすめは、)

何もかも大した事でないという素振りをしていた。だが娘は、

(あいじょうをもったするどいめは、)

愛情を持った鋭い目は 、

(はっきりとちちのふあんなきもちをみやぶっていた。)

はっきりと父の不安な気持ちを見破っていた。

(ふぇりあーはじぶんのこうどうにたいして、)

フェリアーは自分の行動に対して、

(やんぐからでんごんかこうぎしょがとどくとよそうしていた。)

ヤングから伝言か抗議書が届くと予想していた。

(そしてかれのよそうはただしかった。しかし、それがとどけられたのは、)

そして彼の予想は正しかった。しかし、それが届けられたのは、

(そうぞうもつかないほうほうだった。つぎのあさ、かれがめざめると、おどろいたことに、)

想像もつかない方法だった。次の朝、彼が目覚めると、驚いた事に、

(べっどかばーのちょうどむねのうえに)

ベッドカバーのちょうど胸の上に

(ちいさなしかくいかみがぴんでとめられていた。)

小さな四角い紙がピンで留められていた。

など

(そこにはふとくのたうつじで、こうかかれていた。)

そこには太くのたうつ字で、こう書かれていた。

(「おまえのかいしんに29にちあたえる。そのあとは」)

「お前の改心に29日与える。その後は 」

(このだっしゅが、ほかのなによりもきょうふをあおった。)

このダッシュが、他の何よりも恐怖を煽った。

(このけいこくぶんがどうやってへやにやってきたのか、)

この警告文がどうやって部屋にやって来たのか、

(じょんふぇりあーにはりかいできなかった。しようにんははなれにねていた。)

ジョン・フェリアーには理解できなかった。使用人は離れに寝ていた。

(そしてとびらとまどはすべてかぎがかかっていた。かれはかみをまるめ、)

そして扉と窓は全て鍵がかかっていた。彼は紙を丸め、

(むすめにはだまっていた。しかしこのできごとにかれはふるえあがった。)

娘には黙っていた。しかしこの出来事に彼は震え上がった。

(29にちとはあきらかにやんぐがいったひとつきとつりあう。)

29日とは明らかにヤングが言った一月と釣り合う。

(こんなふかしぎなちからでぶそうしたてきに、)

こんな不可思議な力で武装した敵に、

(どんなつよさやゆうきがていこうできるのだろうか。あのぴんをうったては、)

どんな強さや勇気が抵抗できるのだろうか。あのピンを打った手は、

(かれのしんぞうをつきさしていたかもしれない。)

彼の心臓を突き刺していたかもしれない。

(そしてかれはだれがじぶんをころしたかしることはできなかっただろう。)

そして彼は誰が自分を殺したか知ることは出来なかっただろう。

(つぎのあさ、かれはさらにふるえあがった。)

次の朝、彼はさらに震え上がった。

(おやこはちょうしょくをたべるためにせきについていた。)

親子は朝食を食べるために席についていた。

(そのときるーしーがおどろきのさけびをあげて、ずじょうをゆびさした。)

その時ルーシーが驚きの叫びを上げて、頭上を指差した。

(てんじょうのまんなかに、もえはしのようなもので28のすうじがはしりがきされていた。)

天井の真中に、燃え端のようなもので28の数字が走り書きされていた。

(むすめにはこのいみがわからなかった。そしてかれもむすめにおしえなかった。)

娘にはこの意味が分からなかった。そして彼も娘に教えなかった。

(そのよる、かれはねずにみはりをした。なにもかわったことはなかった。)

その夜、彼は寝ずに見張りをした。何も変わった事はなかった。

(それにもかかわらず、あさになってみると、)

それにもかかわらず、朝になって見ると、

(とびらのそとがわにぺんきでおおきく27とかかれていた。)

扉の外側にペンキで大きく27と書かれていた。

(このようにひはすぎた。あさがくるとかならず、)

このように日は過ぎた。朝が来ると必ず、

(けいさんをつづけるめにみえないてきは、)

計算を続ける目に見えない敵は、

(いっかげつのゆうよきかんののこりのにっすうをどこかめだつばしょにかきこんでいた。)

一ヶ月の猶予期間の残りの日数をどこか目立つ場所に書き込んでいた。

(うんめいのすうじはかべにあらわれるときもあり、ゆかにあらわれるときもあった。)

運命の数字は壁に現われる時もあり、床に現れる時もあった。

(ときにはにわのもんやてすりにちいさなかみがはってあった。)

時には庭の門や手すりに小さな紙が貼ってあった。

(かれがいくらねずのばんをしても、)

彼がいくら寝ずの番をしても、

(じょんふぇりあーにはこのひびのけいこくがいつじっこうされているのか、)

ジョン・フェリアーにはこの日々の警告が何時実行されているのか、

(はっけんすることはできなかった。そのしるしをめにすると、)

発見する事はできなかった。その印を目にすると、

(かれはほとんどめいしんてきなきょうふにおそわれた。かれはじょじょにやつれ、)

彼はほとんど迷信的な恐怖に襲われた。彼は徐々にやつれ、

(おちつきをうしなった。かれのめには、)

落ち着きを失った。彼の目には、

(かられるどうぶつのようなふあんのいろがうかびだした。いまや、)

狩られる動物のような不安の色が浮かび出した。今や、

(かれのじんせいでたったひとつののぞみは、)

彼の人生でたった一つの望みは、

(ねばだからわかきかりうどがかえってくることだけだった。)

ネバダから若き狩人が帰って来ることだけだった。

(20が15になり、そして15が10になった。)

20が15になり、そして15が10になった。

(しかしかれからのたよりはなかった。ひとつずつすうじはへっていった。)

しかし彼からの便りはなかった。一つずつ数字は減っていった。

(しかしかれからのれんらくはなかった。)

しかし彼からの連絡はなかった。

(うまにのったおとこがみちをかちゃかちゃとくるたび、)

馬に乗った男が道をカチャカチャと来るたび、

(ぎょしゃがうまにたいしてどなるたび、ろうのうふはついにたすけがやってきたとおもい、)

御者が馬に対して怒鳴るたび、老農夫は遂に助けがやって来たと思い、

(もんにかけよった。とうとう、5が4になり3になるのをみたとき、)

門に駆け寄った。とうとう、5が4になり3になるのを見た時、

(かれはしつぼうし、にげるのぞみをかんぜんにうしなった。)

彼は失望し、逃げる望みを完全に失った。

(このにゅうしょくちをぐるりととりかこんでいるさんがくちたいを)

この入植地をぐるりと取り囲んでいる山岳地帯を

(ほとんどしらないかれは、ひとのたすけがなければ、)

ほとんど知らない彼は、人の助けがなければ、

(どうすることもできないとわかっていた。)

どうする事も出来ないと分かっていた。

(ひとどおりのおおいどうろはげんじゅうにみはられかためられており、)

人通りの多い道路は厳重に見張られ固められており、

(ちょうろうかいのさしずがなければ、だれもとおりぬけることはできなかった。)

長老会の指図がなければ、誰も通り抜けることは出来なかった。

(どのみちをえらぼうと、)

どの道を選ぼうと、

(ずじょうにあるいちげきをさけることはできそうもなかった。しかし、)

頭上にある一撃を避けることはできそうもなかった。しかし、

(むすめにとってちじょくにもひとしいことをしょうだくするくらいなら、)

娘にとって恥辱にも等しい事を承諾するくらいなら、

(むしろしをえらぶというふぇりあーのけついはゆらがなかった。)

むしろ死を選ぶというフェリアーの決意は揺らがなかった。

(あるよる、かれはこのくなんをあれこれとかんがえ、)

ある夜、彼はこの苦難をあれこれと考え、

(のがれるしゅだんをむなしくさがしながらひとりすわっていた。そのあさ、)

逃れる手段を空しく探しながら一人座っていた。その朝、

(いえのかべにすうじの2があらわれていた。)

家の壁に数字の2が現われていた。

(そしてつぎのひはあたえられたじかんのさいごのひになるはずだった。)

そして次の日は与えられた時間の最後の日になるはずだった。

(そのあとどうなるのだろうか?ありとあらゆる、)

その後どうなるのだろうか?ありとあらゆる、

(ばくぜんとしたおそろしいおもいがかれのそうぞうをうめつくしていた。そしてむすめは、)

漠然とした恐ろしい思いが彼の想像を埋め尽くしていた。そして娘は、

(かれがいなくなるとどうなるのだろうか。)

彼がいなくなるとどうなるのだろうか。

(いえをとりかこむこのみえないあみからにげるほうほうはないのか?)

家を取り囲むこの見えない網から逃げる方法はないのか?

(かれはてーぶるにかおをふせて、じぶんのふがいなさをおもってないた。)

彼はテーブルに顔を伏せて、自分の不甲斐なさを思って泣いた。

(あれはなんだ?しずけさのなかで、かれはしずかなひっかくようなおとをきいた・・・)

あれは何だ?静けさの中で、彼は静かな引っかくような音を聞いた・・・・

(ちいさなおとだったがよるのしずけさのなかではっきりときこえた。)

小さな音だったが夜の静けさの中ではっきりと聞こえた。

(そのおとはいえのとぐちからやってきた。)

その音は家の戸口からやって来た。

(ふぇりあーはしずかにほーるまでいってみみをそばだてた。)

フェリアーは静かにホールまで行って耳をそばだてた。

(しばらくまがあって、またちいさく、ひみつめいたおとがくりかえされた。)

しばらく間があって、また小さく、秘密めいた音が繰り返された。

(あきらかにだれかがとびらのはめいたを、ほんとうにそっとたたいていた。)

明らかに誰かが扉の羽目板を、本当にそっと叩いていた。

(ひみつさいばんのまっさつしれいをしっこうにきた、まよなかのあんさつしゃか。)

秘密裁判の抹殺指令を執行に来た、真夜中の暗殺者か。

(それともゆうよのさいしゅうびがきたことをわざわざつげにきたししゃか。)

それとも猶予の最終日が来た事をわざわざ告げに来た使者か。

(そのしゅんかん、じょんふぇりあーはこんなふあんにしんけいをゆさぶられ、)

その瞬間、ジョン・フェリアーはこんな不安に神経を揺さぶられ、

(びくびくするくらいならしんだほうがましだとおもった。)

びくびくするくらいなら死んだ方がましだと思った。

(かれはまえにとびだして、かんぬきをひくととびらをぱっとあけた。)

彼は前に飛び出して、閂を引くと扉をぱっとあけた。

(そとはすべてがおだやかでしずかだった。そのよるはよくはれ、)

外はすべてが穏やかで静かだった。その夜はよく晴れ、

(ほしはずじょうであかるくきらめいていた。さくともんにへだてられたちいさなまえにわが、)

星は頭上で明るくきらめいていた。柵と門に隔てられた小さな前庭が、

(のうふのがんぜんにひろがっていた。しかしにわにもみちにもひとかげはなかった。)

農夫の眼前に広がっていた。しかし庭にも道にも人影はなかった。

(あんどのためいきをついて、ふぇりあーはさゆうをみた。)

安堵の溜息をついて、フェリアーは左右を見た。

(たまたまじぶんのすぐあしもとをみると、おどろいたことに、)

たまたま自分のすぐ足元を見ると、驚いた事に、

(うつぶせにだいのじになっておとこがたおれていた。)

うつぶせに大の字になって男が倒れていた。

(かれはこれをみてぎょうてんし、)

彼はこれを見て仰天し、

(おおごえをだしたいしょうどうをおさえるためにてをのどもとにあてると、)

大声を出したい衝動を押さえるために手を喉元に当てると、

(かべにもたれかかった。さいしょにかんがえたのは、)

壁にもたれかかった。最初に考えたのは、

(きずついたかしにかけのにんげんがたおれているということだった。)

傷ついたか死にかけの人間が倒れているということだった。

(しかしかれのめのまえで、それはへびのようにすばやくおともなく、)

しかし彼の目の前で、それは蛇のように素早く音もなく、

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