東條英機 戦陣訓 - 本訓 其の三

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(だいいち せんじんのいましめ)

第一 戦陣の戒

(いち いっしゅんのゆだん、ふそくのだいじをしょうず。つねにそなえげんにいましめざるべからず。)

一  一瞬の油断、不測の大事を生ず。常に備へ厳に警めざるべからず。

(てきおよびじゅうみんをけいぶするをやめよ。しょうせいにやすんじてろうをいとうことなかれ。)

敵及住民を軽侮するを止めよ。小成に安んじて労を厭ふこと勿れ。

(ふちゅういもまたさいかのいんとしるべし。)

不注意も亦災禍の因と知るべし。

(に ぐんきをまもるにさいしんなれ。ちょうじゃはつねにしんぺんにあり。)

二  軍機を守るに細心なれ。諜者は常に身辺に在り。

(さん しょうむはじゅうだいなり。いちぐんのあんきをにない、いったいのぐんきをだいひょうす。)

三  哨務は重大なり。一軍の安危を担ひ、一隊の軍紀を代表す。

(よろしくみをもってそのおもきににんじ、げんしゅくにこれをふくこうすべし。)

宜しく身を以て其の重きに任じ、厳粛に之を服行すべし。

(しょうへいのみぶんはまたふかくこれをそんちょうせざるべからず。)

哨兵の身分は又深く之を尊重せざるべからず。

(し しそうせんは、げんだいのじゅうようなるいちめんなり。)

四  思想戦は、現代戦の重要なる一面なり。

(こうこくにたいするふどうのしんねんをもって、てきのせんでんぎまんをはさいするのみならず、)

皇国に対する不動の信念を以て、敵の宣伝欺瞞を破摧するのみならず、

(すすんでこうどうのせんぷにつとむべし。)

進んで皇道の宣布に勉むべし。

(ご りゅうげん、ひごはしんねんのよわきにしょうず。まどうことなかれ、どうずることなかれ。)

五  流言、蜚語は信念の弱きに生ず。惑ふこと勿れ、動ずること勿れ。

(こうぐんのじつりょくをかくしんし、あつくじょうかんをしんらいすべし。)

皇軍の実力を確信し、篤く上官を信頼すべし。

(ろく てきさん、てきしのほごにりゅういするをようす。)

六  敵産、敵資の保護に留意するを要す。

(ちょうはつ、おうしゅう、ぶっしのじんめつとうはすべてきていにしたがい、かならずしきかんのめいによるべし。)

徴発、押収、物資の燼滅等は総て規定に従ひ、必ず指揮官の命に依るべし。

(ひち こうぐんのほんぎにかんがみ、じんじょのこころよくむこのじゅうみんをあいごすべし。)

七  皇軍の本義に鑑み、仁恕の心能く無辜の住民を愛護すべし。

(はち せんじんいやしくもしゅしょくにこころうばわれ、またはよくじょうにかられてほんしんをうしない、)

八  戦陣苟も酒色に心奪はれ、又は慾情に駆られて本心を失ひ、

(こうぐんのいしんをそんじ、ほうこうのみをよぎるがごときあるべからず。)

皇軍の威信を損じ、奉公の身を過るが如きことあるべからず。

(ふかくかいしんし、だんじてぶにんのせいせつをけがさざらんことをきすべし。)

深く戒慎し、断じて武人の清節を汚さざらんことを期すべし。

(く いかりをおさえふまんをせいすべし。「いかりはてきとおもえ」とこじんもおしえたり。)

九  怒を抑へ不満を制すべし。「怒は敵と思へ」と古人も教へ足り。

など

(いっしゅんのげきじょうくいをごじつにのこすことおおし。)

一瞬の激情悔を後日に残すこと多し。

(ぐんぽうのしゅんげんなるはとくにぐんじんのえいよをほじし、こうぐんのいしんをまっとうせんがためなり。)

軍法の峻厳なるは特に軍人の栄誉を保持し、皇軍の威信を完うせんが為なり。

(つねにしゅっせいとうじのけついとかんげきとをそうきし、)

常に出征当時の決意と感激とを想起し、

(はるかにおもいをふぼさいしのしんじょうにはせ、かりそめにもみをざいかにさらすことなかれ。)

遙かに思を父母妻子の真情に馳せ、仮初にも身を罪科に曝すこと勿れ。

(だいに せんじんのたしなみ)

第二 戦陣の嗜

(いち しょうぶのでんとうにつちかい、ぶとくのかんよう、ぎのうのれんまにつとむべし。)

一  尚武の伝統に培ひ、武徳の涵養、技能の練磨に勉むべし。

(「まいじたいくつするなかれ」とはふるきぶしょうのことばにもみえたり。)

「毎事退屈する勿れ」とは古き武将の言葉にも見えたり。

(に こうこのうれいをたちてひたすらほうこうのみちにはげみ、)

二  後顧の憂いを絶ちて只管奉公の道に励み、

(つねにしんぺんをととのえてしごをきよくするのたしなをかんようとす。)

常に身辺を整へて死後を清くするの嗜を肝要とす。

(かばねをせんやにさらすはもとよりぐんじんのかくごなり。)

屍を戦野に曝すは固より軍人の覚悟なり。

(たといいこつのかえらざることあるも、あえていとせざるようかねてかじんにふくめおくべし。)

縦ひ遺骨の還らざることあるも、敢て意とせざる様予て家人にに含め置くべし。

(さん せんじんびょうまにたおるるはいかんのきわみなり。)

三 戦陣病魔に斃るるは遺憾の極なり。

(とくにえいせいをおもんじ、おのれのふせっせいによりほうこうにししょうをきたすがごときことあるべからず)

特に衛生を重んじ、己の不節制に因り奉公に支障を来すが如きことあるべからず

(し かたなをたましいとしうまをたからとなせるこぶしのたしなをこころとし、)

四 刀を魂とし馬を宝と為せる古武士の嗜を心とし、

(せんじんのあいだつねにへいきしざいをそんちょうし、ばひつをあいごせよ。)

戦陣の間常に兵器資材を尊重し、馬匹を愛護せよ。

(ご じんちゅうのとくぎはせんりょくのもとなり。)

五  陣中の徳義は戦力の因なり。

(つねにたたいのべんえきをおもい、しゅくしゃ、ぶっしのどくせんのごときはつつしむべし。)

常に他隊の便益を思ひ、宿舎、物資の独占の如きは慎むべし。

(「たつとりあとをにごさず」といえり。おおしくゆかしきこうぐんのなを、)

「立つ鳥跡を濁さず」と言へり。雄々しく床しき皇軍の名を、

(いきょうへんどにもながくつたえられたきものなり。)

異郷辺土にも永く伝へられたきものなり。

(ろく そうじてぶくんをほこらず、こうをひとにゆずるはぶにんのこうふうとするところなり。)

六 総じて武勲を誇らず、功を人に譲るは武人の高風とする所なり。

(たのえいたつをねたまずおのれのみとめられざるをうらまず、)

他の栄達を嫉まず己の認められざるを恨まず、

(かえりみてわがまことのたらざるをおもうべし。)

省みて我が誠の足らざるを思ふべし。

(ひち しょじしょうじきをむねとし、こちょうきょげんをはじとせよ。)

七 諸事正直を旨とし、誇張虚言を恥とせよ。

(はち つねにだいこくみんたるのきんどをじし、せいをふみぎをつらぬきて)

八 常に大国民たるの襟度を持し、正を践み義を貫きて

(こうこくのいふうをせかいにせんようすべし。こくさいのぎれいまたかろんずべからず。)

皇国の威風を世界に宣揚すべし。国際の儀礼亦軽んずべからず。

(く ばんしにいっしょうをえてきかんのたいめいによくすることあらば、)

九 万死に一生を得て帰還の大命に浴することあらば、

(ともにおもいをごこくのえいれいにいたし、げんこうをつつしみてこくみんのはんとなり、)

具に思いを護国の英霊に致し、言行を慎みて国民の範となり、

(いよいよほうこうのかくごをかたくすべし。)

愈々奉公の覚悟を固くすべし。

(むすび いじょうのぶるところは、ことごとくちょくゆにはっし、またこれにきするものなり。)

結 以上述ぶる所は、悉く勅諭に発し、又之に帰するものなり。

(さればこれをせんじんどうぎのじっせんにしし、もってせいゆふくぎょうのかんぺきをきせざるべからず。)

されば之を戦陣道義の実践に資し、以て聖諭服行の完璧を期せざるべからず。

(せんじんのしょうへい、すべからくこのしゅしをたいし、いよいよほうこうのしせいをぬきんで、)

戦陣の将兵、須く此趣旨を体し、愈々奉公の至誠を擢んで、

(よくぐんじんのほんぶんをまっとうして、こうおんのあつきにこたえたてまつるべし。)

克く軍人の本分を完うして、皇恩の渥きに答へ奉るべし。

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