奇形
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問題文
(いちどきえたみでありながら、ふほんいなだんぴつであったために)
一度消えた身でありながら、不本意な断筆であったために
(もんもんとしておりました。)
悶々としておりました。
(いちやかぎりのふっかつおゆるしねがいます。)
一夜限りの復活お許し願います。
(ろーかるねたは、くわしいひとがいるようなのでさけます。)
ローカルネタは、詳しい人がいるようなので避けます。
(さんわありますが、さいごのはなしをどうしてもかきたかったのです。)
3話ありますが、最後の話をどうしても書きたかったのです。
(おれにはおかるとどうのししょうがいるのだが、やはりかれなりのれいのとらえかたがあって)
俺にはオカルト道の師匠がいるのだが、やはり彼なりの霊の捉え方があって
(しばしば「れいとはこういうもの」とこうしゃくをしてくれた。)
しばしば「霊とはこういうもの」と講釈をしてくれた。
(ししょういわく、ほとんどのれいたいはじぶんがしんでいることをよくわかっていない。)
師匠曰く、ほとんどの霊体は自分が死んでいることをよくわかっていない。
(じこげんばなどにとどまっていまだにたすけをもとめているやつもいれば、)
事故現場などにとどまって未だに助けを求めているやつもいれば、
(せいぜんのせいかつこうどうをぐちょくにくりかえそうとするやつもいる。)
生前の生活行動を愚直に繰り返そうとするやつもいる。
(そういうやつはふつうのにんげんがこわがるものはやっぱりこわいのさ。)
そういうやつは普通の人間が怖がるものはやっぱり怖いのさ。
(やくざもこわければどうもうないぬもこわい。きちがいも。)
ヤクザも怖ければ獰猛な犬も怖い。キチガイも。
(どなってやるだけで、かわいそうなくらいびびるやつもいる。)
怒鳴ってやるだけで、可哀相なくらいびびるやつもいる。
(もんだいはどうかつにもびびらないやつ。)
問題は恫喝にもびびらないやつ。
(じぶんがしんでいることをりかいしているやつにはかかわらないほうがいい。)
自分が死んでいることを理解しているやつには関わらない方がいい。
(といったことなどをよくいっていたが、これはなっとくできるはなしだしよくきくはなしだ。)
といったことなどをよく言っていたが、これは納得できる話だしよく聞く話だ。
(しかし、あるときおしえてくれたことはししょういがいのひとからきいたことがなく、)
しかし、ある時教えてくれたことは師匠以外の人から聞いたことがなく、
(いまだにそれにるいするはなしもきいたことがない。おれのむちのせいかもしれないが、)
未だにそれに類する話も聞いたことがない。俺の無知のせいかもしれないが、
(このすれのひとたちはどうおもうだろうか。)
このスレの人たちはどう思うだろうか。
(だいがくにねんのなつごろ、おれはかわったものをたてつづけにみた。)
大学二年の夏ごろ、俺は変わったものを立て続けに見た。
(さいしょははじめていったぱちんこやで、ぱちんここーなーをうろうろしていると)
最初ははじめて行ったパチンコ屋で、パチンココーナーをウロウロしていると
(あるだいにすわるおっさんのいようにおもわずたちどまった。)
ある台に座るオッサンの異様に思わず立ち止まった。
(したくちびるがいじょうなほどはれあがってたれさがっている。)
下唇が異常なほど腫れあがって垂れ下がっている。
(ほとんどむねにつくくらい、ぼてっと。)
ほとんど胸に付くくらい、ボテっと。
(そういうびょうきのひともいるんだなあとおもい、たちさったがそのつぎのひのこと。)
そういう病気の人もいるんだなあと思い、立ち去ったがその次の日のこと。
(まちにでるのにばすにのり、じょうしゃぐちしょうめんのせきにすわってぼうっとしていると)
街に出るのにバスに乗り、乗車口正面の席に座ってぼうっとしていると
(まえのせきにすわるひとのてのゆびがおおいことにきづいた。)
前の席に座る人の手の指が多いことに気付いた。
(ひじかけにのせているてのゆびがどうかぞえてもろっぽんあるのだ。)
肘掛に乗せている手の指がどう数えても6本あるのだ。
(ひだりはしにおやゆびがあるのはいいのだがはんたいのはしっこにおおきなゆびが)
左端に親指があるのはいいのだが反対の端っこに大きな指が
(もういっぽんはえている。)
もう一本生えている。
(たししょうというやつだろうか。)
多指症というやつだろうか。
(そのひとはおれよりさきにおりていったが、ほかのだれもじろじろみている)
その人は俺よりさきに降りていったが、他の誰もジロジロみている
(けはいはなかった。)
気配はなかった。
(きづかないのか、とおもったがあとでじぶんのしりょのなさにおもいいたった。)
気付かないのか、と思ったがあとで自分の思慮のなさに思い至った。
(そしてまたつぎのひ、こんどはこびとをみた。)
そしてまた次の日、今度は小人を見た。
(これもぱちんこやだが、こどもがちょろちょろしてるなあとおもったら)
これもパチンコ屋だが、子供がチョロチョロしてるなあと思ったら
(かおをみるとちゅうねんだった。)
顔を見ると中年だった。
(おとこかおんなかよくわからないどくとくのかおだちで、かんだかいこえで「でないぞ」)
男か女かよくわからない独特の顔立ちで、甲高い声で「出ないぞ」
(みたいなことをいっていた。あしもまがってるせいか、かなりちいさい。)
みたいなことを言っていた。足もまがってるせいか、かなり小さい。
(せのひくいおれのむねまでもないくらい。)
背の低い俺の胸までもないくらい。
(こんどはあまりじろじろみなかったが、きけいをみるのがたてつづいたので)
こんどはあまりジロジロ見なかったが、奇形を見るのが立て続いたので
(そういうこともあるんだなあとふしぎなきもちになった。)
そういうこともあるんだなあと不思議な気持ちになった。
(このことをししょうにはなすと、よろこぶとおもいきやむずかしいかおをした。)
このことを師匠に話すと、喜ぶと思いきや難しい顔をした。
(ししょうはおれをこわがらせるのがすきなので「たたられてるぞ」とか)
師匠は俺を怖がらせるのが好きなので「祟られてるぞ」とか
(むせきにんなことをいいそうなものだったが。)
無責任なことを言いそうなものだったが。
(しばらくかんがえてししょうはりょうてをへんなかたちにあわせてからくちをひらいた。)
暫く考えて師匠は両手を変な形に合わせてから口を開いた。
(「いちどみると、しばらくはまたたにんをちゅういしてみるようになる。)
「一度見ると、しばらくはまた他人を注意して見るようになる。
(そういうこともあるさ。がいぜんせいのもんだいだね。)
そういうこともあるさ。蓋然性の問題だね。
(ただ、さっきのはなしでひとつおかしいところがある。」)
ただ、さっきの話でひとつおかしいところがある。」
(「じょうしゃぐちしょうめんのせきはみぎてがわにまどがあるね」)
「乗車口正面の席は右手側に窓があるね」
(なにをいいだすのかとおもったがうなずいた。)
何を言い出すのかと思ったが頷いた。
(「とうぜんそのまえのせきもおなじだ。さて、きみがみたひじかけにのせたてはみぎてでしょうか、)
「当然その前の席も同じだ。さて、君が見た肘掛に乗せた手は右手でしょうか、
(ひだりてでしょうか」いみがわからなかったので、くびをふった。)
左手でしょうか」意味がわからなかったので、首を振った。
(「まどぎわにひじかけがあるばすもあるけど、きみによくみえ、またほかのひとが)
「窓際に肘掛があるバスもあるけど、君によく見え、また他の人が
(きづかないのをふしぎにおもうというじょうきょうからしてそのひじかけはつうろがわだ。)
気づかないのを不思議に思うという状況からしてその肘掛は通路側だ。
(ということはおやゆびがひだりがわにあってはよくないね」)
ということは親指が左側にあってはよくないね」
(あっ、とおもった。)
あっ、と思った。
(「ひだりてがのってなきゃいけないのに、のっていたのはまるでみぎてだね。)
「左手が乗ってなきゃいけないのに、乗っていたのはまるで右手だね。
(ろっぽんあったことだけじゃなく、そこにもきづくはずだ。きいただけの)
6本あったことだけじゃなく、そこにも気付くはずだ。聞いただけの
(ぼくにもあったいわかんが、じろじろみていたきみにないのはおかしい」)
僕にもあった違和感が、ジロジロ見ていた君にないのはおかしい」
(これからおそろしいことをきくようなきがして、ひやあせがながれた。)
これから恐ろしいことを聞くような気がして、冷や汗が流れた。
(「ほかのふたつのはなしでは、おんななのかおとこなのかようしにふれたぶぶんがあったけど)
「他の2つの話では、女なのか男なのか容姿に触れた部分があったけど
(ばすのはなしではない。せきをたったのだから、みているはずなのに。)
バスの話では無い。席を立ったのだから、見ているはずなのに。
(みえているもののきおくがはっきりしない。きみはあやふやなぶぶんを)
見えているものの記憶がはっきりしない。君はあやふやな部分を
(むいしきにかくし、それをただのきけいだとおもおうとしている。)
無意識に隠し、それをただの奇形だと思おうとしている。
(もういちどきくがそれをじろじろみていたのはきみだけなんだね?」)
もう一度聞くがそれをジロジロ見ていたのは君だけなんだね?」
(ししょうはくんだてをかかげた。)
師匠は組んだ手を掲げた。
(「いいかい。ききうでをだして。きみはみぎだね。てのひらをしたにして。)
「いいかい。利き腕を出して。君は右だね。掌を下にして。
(そのてのうえにひだりのてのひらをしたにしてかぶせて。おやゆびいがいがかさなるように。)
その手の上に左の掌を下にしてかぶせて。親指以外が重なるように。
(そうそう。ひだりのなかゆびがみぎのくすりゆびにかさなるくらいのかんじ。)
そうそう。左の中指が右の薬指に重なるくらいの感じ。
(ひだりがきもちしためかな。のこりのゆびもながさがあわなくてもかさなるように。)
左が気持ち下目かな。残りの指も長さが合わなくても重なるように。
(するとゆびはろっぽんになるね」)
すると指は6本になるね」
(これはやってみてほしい。)
これはやってみてほしい。
(「おやゆびがにほんになり、さゆうたいしょうになったわけだ。どんなかんじ?」)
「親指が2本になり、左右対象になったわけだ。どんな感じ?」
(ふしぎなかんかくだ。)
不思議な感覚だ。
(おちつくというか。)
落ち着くというか。
(あんしんするというか。)
安心するというか。
(ふつうにりょうてをあわせるよりもいったいかんがある。)
普通に両手を合わせるよりも一体感がある。
(そのままじょうげさゆうにうごかすととくにかんじる。)
そのまま上下左右に動かすと特に感じる。
(「これはにんげんがせんざいいしきのなかでのぞんでいるてのひらのかたちだよ。さゆうたいしょうで、)
「これは人間が潜在意識のなかで望んでいる掌の形だよ。左右対象で、
(りょうわきのおやゆびがきんとうなちからでものをつかむ。ぼくはこんな「おやゆびがにほんあるゆうれい」を)
両脇の親指が均等な力で物を掴む。僕はこんな『親指が二本ある幽霊』を
(なんどかみたことがある」)
何度か見たことがある」
(「あれはおれだけにみえていたれいだったと?」)
「あれは俺だけに見えていた霊だったと?」
(「たぶんね。たまにいるんだよ。せいぜんのそのままのすがたでうろつくれいもいれば、)
「多分ね。たまにいるんだよ。生前のそのままの姿でウロつく霊もいれば、
(よりおちつくように、ふあんていなじぶんをたもとうとするように、りょうてとも)
より落ちつくように、不安定な自分を保とうとするように、両手とも
(ききうでになっていたり、さゆうたいしょうのろっぽんゆびになっていたり・・・ほんにんも)
利き腕になっていたり、左右対象の6本指になっていたり・・・本人も
(むいしきのうちにへんけいしているやつが。」)
無意識の内に変形しているヤツが。」
(ししょうはそういってぎじろっぽんゆびでおれにあいあんくろーをかけてきた。)
師匠はそう言って擬似6本指で俺にアイアンクローを掛けてきた。
(ふしぎなはなしだった。)
不思議な話だった。
(そんなはなしはかぶんにしてきいたことがない。)
そんな話は寡聞にして聞いたことがない。
(りょうてともききうでだとか・・・)
両手とも利き腕だとか・・・・
(かいだんぼんのたぐいはかなりよんだけどそういうことにふれているほんには)
怪談本の類はかなり読んだけどそういうことに触れている本には
(おめにかかったことがない。)
お目にかかったことが無い。
(ししょうのはったりなのか、それともおれのしらないせかいのどうりなのか。)
師匠のはったりなのか、それとも俺の知らない世界の道理なのか。
(いまはしりようもない。)
いまは知りようもない。