四隅-2-
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問題文
(かぜのおとをきいていると、またいきなりみぎかたをつよくつかまれた。)
風の音を聞いていると、またいきなり右肩を強く掴まれた。
(きょうすけさんだ。わざとやっているとしかおもえない。)
京介さんだ。わざとやっているとしか思えない。
(おれはやみのむこうのじんぶつをにらみながら、またとけいまわりにしずしずとすすむ。)
俺は闇の向こうの人物を睨みながら、また時計回りに静々と進む。
(さっきのりぷれいのようにだれかのかたにふれ、そしてだれかはさっていった。)
さっきのリプレイのように誰かの肩に触れ、そして誰かは去っていった。
(そのかどでまつおれは、こんどはびびらないぞとふんばっていたが、)
その角で待つ俺は、こんどはビビらないぞと踏ん張っていたが、
(やはりみぎからきただれかにみぎかたをつかまれ、びくりとするのだった。)
やはり右から来た誰かに右肩を掴まれ、ビクリとするのだった。
(そして、「おれがつぎのすたーとそうしゃになったらほうこうをかえてやる」とひそかに)
そして、『俺が次のスタート走者になったら方向を変えてやる』と密かに
(ちかいながらすすむことしばし。)
誓いながら進むことしばし。
(だれかのかたではなくすいちょくにたつかべにてがふれた。)
誰かの肩ではなく垂直に立つ壁に手が触れた。
(いっしゅんこえをあげそうになった。ぽけっとだった。)
一瞬声をあげそうになった。ポケットだった。
(だれもいないすみをなぜかそのときのおれはあたまのなかでそうよんだ。)
誰もいない隅をなぜかその時の俺は頭の中でそう呼んだ。
(たぶんえあぽけっとからのれんそうだとおもう。)
たぶんエア・ポケットからの連想だと思う。
(ぽけっとについたおれは、ねんがんのつぎのすたーとけんをえたわけだ。)
ポケットについた俺は、念願の次のスタート権を得たわけだ。
(いまよにんは、よすみのそれぞれにたたずんでいることになる。)
今4人は、四隅のそれぞれにたたずんでいることになる。
(おれはとうぜんのようにはんとけいまわりにすすみはじめた。ようやくきょうすけさんをさわれる!)
俺は当然のように反時計回りに進み始めた。ようやく京介さんを触れる!
(いや、ごかいしないでほしい。なにもじょせいとしてのきょうすけさんをふれるよろこびに)
いや、誤解しないで欲しい。なにも女性としての京介さんを触れる喜びに
(ひたっているのではない。びびらされたあいてへの)
浸っているのではない。ビビらされた相手への
(りべんじのきかいにもえているだけだ。)
リベンジの機会に燃えているだけだ。
(ただこのあんやのこと、へんなところをつかんでしまうきけんせいはたしかにある。)
ただこの闇夜のこと、変なところを掴んでしまう危険性は確かにある。
(だがそれはしかたのないじこではないだろうか。)
だがそれは仕方のない事故ではないだろうか。
(おれはできるかぎりあしおとをころしてみぎほうこうへあるいた。)
俺は出来る限り足音を殺して右方向へ歩いた。
(そしてすでにはあくしたきょりかんで、ここしかないといういちにひだりてをひねりこんだ。)
そしてすでに把握した距離感で、ここしかないという位置に左手を捻りこんだ。
(つぎのしゅんかんいじょうなかたさがゆびさきをおそった。ゆびをさすりながら、ぞくっとする。)
次の瞬間異常な硬さが指先を襲った。指をさすりながら、ゾクッとする。
(かべ?ということはぽけっと?そんな。おれからすたーとしたのに・・・・・・)
壁?ということはポケット?そんな。俺からスタートしたのに・・・・・・
(ぼうぜんとするおれのひだりかたをなにものかがつよくつかんだ。きょうすけさんだ。)
呆然とする俺の左肩を何者かが強く掴んだ。京介さんだ。
(おれはとうぜん、かべにせっしているひとかげをそうぞうしてひだりてをだしたのに。)
俺は当然、壁に接している人影を想像して左手を出したのに。
(なんてひとだ。くらやみのなか、かべによりそわずにたっていたなんて。)
なんて人だ。暗闇の中、壁に寄り添わずに立っていたなんて。
(あるいはわなだったか。ひとのけはいがかべづたいにさっていく。)
あるいは罠だったか。人の気配が壁伝いに去っていく。
(くやしさがこみあげて、のこされたおれはつぎはどういくべきかしんけんにしあんした。)
悔しさがこみ上げて、残された俺は次はどういくべきか真剣に思案した。
(そしてしばらくしてまたみぎかたをつかまれたとき、はずかしながら)
そしてしばらくしてまた右肩を掴まれたとき、恥ずかしながら
(うひ、というこえがでた。くそ!きょうすけさんだ。まただれかぎゃくかいてんにしやがったな。)
ウヒ、という声が出た。くそ!京介さんだ。また誰か逆回転にしやがったな。
(こんどこそかなしいじこをおこすつもりだったのに。)
こんどこそ悲しい事故を起こすつもりだったのに。
(あたまのなかでどくづきながら、とけいまわりにつぎのすみへむかう。)
頭の中で毒づきながら、時計回りに次の隅へ向かう。
(そしてみかっちさん(たぶん)にはえんりょがちにさわった。)
そしてみかっちさん(たぶん)には遠慮がちに触った。
(つぎのかいてんでもみぎからだった。そのつぎも。そのつぎも。)
次の回転でも右からだった。その次も。その次も。
(おれはいつまでたってもきょうすけさんをふれるはんとけいまわりにならないことに)
俺はいつまでたっても京介さんを触れる反時計回りにならないことに
(いらいらしながら、はやくぽけっとこいぽけっとこいとねんじていた。)
イライラしながら、はやくポケット来いポケット来いと念じていた。
(つぎぽけっとがきたらとうぜんはんとけいまわりにすたーとだ。)
次ポケットが来たら当然反時計回りにスタートだ。
(おれはそれだけをかんがえながらまわりつづけた。)
俺はそれだけを考えながら回り続けた。
(なんかいてんしただろうか、やみのなかでけはいだけがうごめくふしぎなげーむが)
何回転しただろうか、闇の中で気配だけが蠢く不思議なゲームが
(きゅうにおわりをつげた。「きゃー!」というひめいにせすじがこおる。)
急に終わりを告げた。「キャー!」という悲鳴に背筋が凍る。
(みかっちさんのこえだ。どたばたというおとがして、かいちゅうでんとうのあかりがついた。)
みかっちさんの声だ。ドタバタという音がして、懐中電灯の明かりがついた。
(きょうすけさんがてんじょうにむけてかいちゅうでんとうをおくと、へやはいっきにあかるくなった。)
京介さんが天井に向けて懐中電灯を置くと、部屋は一気に明るくなった。
(みかっちさんはへやのすみにうずくまってあたまをかかえている。)
みかっちさんは部屋の隅にうずくまって頭を抱えている。
(cocoさんがどうしたの?とちかよっていくと、)
CoCoさんがどうしたの?と近寄っていくと、
(「だって、おかしいじゃない!どうしてだれもいないとこがこないのよ!」)
「だって、おかしいじゃない!どうして誰もいないトコが来ないのよ!」
(それはおれもおもう。ぽけっとがきさえすればきょうすけさんを・・・・・・まて。)
それは俺も思う。ポケットが来さえすれば京介さんを・・・・・・まて。
(なにかおかしい。あるこーるでかいてんのおそくなっているあたまをたたく。)
なにかおかしい。アルコールで回転の遅くなっている頭を叩く。
(かいてんがとまらないのはへんじゃない。ごにんめがいなくても、)
回転が止まらないのは変じゃない。5人目がいなくても、
(ぽけっとにはいったひとがかってにさいすたーとするからだ。)
ポケットに入った人が勝手に再スタートするからだ。
(だからぐるぐるといつまでもへやをまわりつづけることにいわかんはないが・・・・・)
だからぐるぐるといつまでも部屋を回り続けることに違和感はないが・・・・・
(えーと、さいしょのひとりめがすたーとしてつぎのひとにさわり、よにんめがぽけっとにはいる。)
えーと、最初の1人目がスタートして次の人に触り、4人目がポケットに入る。
(これをくりかえしてるだけだよな。えーと、だから・・・・・・どうなるんだ?)
これを繰り返してるだけだよな。えーと、だから・・・・・・どうなるんだ?
(こんがらがってきた。「もうねようか」)
こんがらがってきた。「もう寝ようか」
(というcocoさんのひとことでとりあえずこのげーむはおながれになった。)
というCoCoさんの一言でとりあえずこのゲームはお流れになった。
(きょうすけさんはおれにむかって「ざんねんだったな」といいはなち、ひとさしゆびをさゆうにふる。)
京介さんは俺に向かって「残念だったな」と言い放ち、人差し指を左右に振る。
(みかっちさんもあっさりとふっかつして、「まあいいか」なんていっている。)
みかっちさんもあっさりと復活して、「まあいいか」なんて言っている。
(さすがおかるとふりーくのあつまり。このていどのことはきにしないのか。)
さすがオカルトフリークの集まり。この程度のことは気にしないのか。
(むしろふりーくだからこそきにしろよ。おれはきになってなかなかねむれなかった。)
むしろフリークだからこそ気にしろよ。俺は気になってなかなか眠れなかった。
(ゆめのなかでいようにつめたいてにみぎかたをつかまれてひめいをあげたところで、)
夢の中で異様に冷たい手に右肩をつかまれて悲鳴をあげたところで、
(つぎのひのあさだった。きょうすけさんだけがおきていて、あくびをしている。)
次の日の朝だった。京介さんだけが起きていて、あくびをしている。
(「きのうおこったことは、きょうすけさんはわかってるんですか」)
「昨日起ったことは、京介さんはわかってるんですか」
(あさのあいさつもわすれてそうきいた。「あのていどのさけじゃ、しらふもどうぜんだ」)
朝の挨拶も忘れてそう聞いた。「あの程度の酒じゃ、素面も同然だ」
(ずれたこたえのようだが、どうやら「わかってる」といいたいらしい。)
ズレた答えのようだが、どうやら「わかってる」と言いたいらしい。
(おれはのーとのきれはしにしゃーぺんでずをえがいてかんがえた。)
俺はノートの切れ端にシャーペンで図を描いて考えた。
(acocobきょうすけ)
ACoCo B京介
(dみかっちcおれ)
Dみかっち C俺
(そしてげーむがはじまってからおこったことをすべてかじょうがきにしていくと、)
そしてゲームが始まってから起ったことをすべて箇条書きにしていくと、
(ようやくわかってきた。さけさえぬけるとむずかしいはなしじゃない。)
ようやくわかって来た。酒さえ抜けると難しい話じゃない。
(これはみすてりーのようなたいしたものじゃないし、ただしいかいとうも)
これはミステリーのような大したものじゃないし、正しい解答も
(ひとつとはかぎらない。おれがそうかんがえたというだけのことだ。)
一つとは限らない。俺がそう考えたというだけのことだ。
(でもちょっとそうぞうしてみてほしい。あのやみのなかでなにがおこったのか。)
でもちょっと想像してみて欲しい。あの闇の中で何がおこったのか。
(1とけい)
1 時計
(2とけい)
2 時計
(3とけい)
3 時計
(4はんとけい)
4 反時計
(5とけい)
5 時計
(6とけい)
6 時計
(7とけい)
7 時計
(8とけい)
8 時計
(9とけい)
9 時計
(10とけい)
10 時計
(・・・・・・)
・・・・・・
(おれがまわったほうこうだ。そしてさんかいめのとけいまわりでおれはぽけっとにはいった。)
俺が回った方向だ。そして3回目の時計回りで俺はポケットに入った。
(かりにaがさいしょのすたーとだったとしたら、とけいまわりなら)
仮にAが最初のスタートだったとしたら、時計回りなら
(いっかいてんめのぽけっとはd、そしておなじほうこうがつづくかぎり、)
1回転目のポケットはD、そして同じ方向が続く限り、
(にかいてんめのぽけっとはc、さんかいてんめはb、とわかくなっていく。)
2回転目のポケットはC、3回転目はB、と若くなっていく。
(つまりどういつほうこうならかならずだれでもよんかいてんにいっかいはぽけっとがくるはずなのだ。)
つまり同一方向なら必ず誰でも4回転に一回はポケットが来るはずなのだ。
(とするとごかいてんめいこうのとけいまわりのなかで、おれにぽけっとがこなかったのは)
とすると5回転目以降の時計回りの中で、俺にポケットが来なかったのは
(やはりおかしい。もういちどずにめをおとすと、さんかいてんめで)
やはりおかしい。もう一度図に目を落とすと、3回転目で
(おれがぽけっとだったことからぎゃくさんするかぎり、さいしょのすたーとは)
俺がポケットだったことから逆算するかぎり、最初のスタートは
(bのきょうすけさんでとけいまわりということになる。)
Bの京介さんで時計回りということになる。
(いっかいてんめのぽけっと&にかいてんめのすたーとはcocoさんで、)
1回転目のポケット&2回転目のスタートはCoCoさんで、
(にかいてんめのぽけっと&さんかいてんめすたーとはみかっちさん、)
2回転目のポケット&3回転目スタートはみかっちさん、
(そしてそのつぎがおれだ。おれはほうこうをかえてはんとけいまわりにすすみ、)
そしてその次が俺だ。俺は方向を変えて反時計回りに進み、
(よんかいてんめのぽけっと&ごかいてんめのすたーとはみかっちさん。)
4回転目のポケット&5回転目のスタートはみかっちさん。
(そしてみかっちさんはまたかいてんをとけいまわりにもどしたので、)
そしてみかっちさんはまた回転を時計回りに戻したので、
(ごかいてんめのぽけっとは・・・・・・おれだ。)
5回転目のポケットは・・・・・・俺だ。
(おれのはずなのに、ぽけっとにははいらなかった。だれかがいたから。)
俺のはずなのに、ポケットには入らなかった。誰かがいたから。