四隅-3-
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問題文
(だからそのままとけいまわりにかいてんはつづき、そのあといちどもぽけっとはこなかった。)
だからそのまま時計回りに回転は続き、そのあと一度もポケットは来なかった。
(どうしてごかいてんめのぽけっとにひとがいたのだろうか。)
どうして5回転目のポケットに人がいたのだろうか。
(「いるはずのないごにんめ」というたんごがあたまをよぎる。)
「いるはずのない5人目」という単語が頭をよぎる。
(あのときみかっちさんだとおもってえんりょがちにさわったひとかげは、)
あの時みかっちさんだと思って遠慮がちに触った人影は、
(べつのなにかだったのか。「ろーしゅたいんのかいろうともいう」)
別のなにかだったのか。「ローシュタインの回廊ともいう」
(きょうすけさんがふいにくちをひらいた。)
京介さんがふいに口を開いた。
(「きのうやったあのあそびは、くろまじゅつではりっぱなこうれいじゅつのいっしゅだ。)
「昨日やったあの遊びは、黒魔術では立派な降霊術の一種だ。
(あれんじはくわえてあるけど、いるはずのないごにんめをよびだすぎしきなんだ」)
アレンジは加えてあるけど、いるはずのない5人目を呼び出す儀式なんだ」
(おいおい。こうれいじゅつって・・・・・・)
おいおい。降霊術って・・・・・・
(「でもまあ、そうかんたんにこうれいじゅつなんかせいこうするものじゃない」)
「でもまあ、そう簡単に降霊術なんか成功するものじゃない」
(きょうすけさんはあくびをかみころしながらそういう。そのことばと、きのうかいちゅうでんとうを)
京介さんはあくびをかみ殺しながらそう言う。その言葉と、昨日懐中電灯を
(つけたあとのみょうにしらけたふんいきをおもいだし、おれはひとつのかいとうへいたった。)
つけたあとの妙に白けた雰囲気を思い出し、俺は一つの回答へ至った。
(「みかっちさんがはんにんなわけですね」つまり、みかっちさんはごかいてんめの)
「みかっちさんが犯人なわけですね」つまり、みかっちさんは5回転目の
(すたーとをしてとけいまわりにcocoさんにたっちしたあと、)
スタートをして時計回りにCoCoさんにタッチしたあと、
(そのばにとどまらずにすたーとちてんまでかべづたいにもどったのだ。)
その場に留まらずにスタート地点まで壁伝いにもどったのだ。
(そこへおれがやってきて、たっちする。みかっちさんはそのあとふたりぶん)
そこへ俺がやってきて、タッチする。みかっちさんはその後二人分
(とけいまわりにいどうしてcocoさんにたっち。そしてまたひとりぶんもどっておれをまつ。)
時計回りに移動してCoCoさんにタッチ。そしてまた一人分戻って俺を待つ。
(これをくりかえすことで、みかっちさんいがいのだれにもぽけっとがやってこない。)
これを繰り返すことで、みかっちさん以外の誰にもポケットがやってこない。
(えんえんととけいまわりがつづいてしまうのだ。「きゃー!」というひめいでも)
延々と時計回りが続いてしまうのだ。「キャー!」という悲鳴でも
(あがらないかぎり。せっかくのいたずらなのに、いつまでもだれもおかしいことに)
あがらない限り。せっかくのイタズラなのに、いつまでも誰もおかしいことに
(きづかないので、じえんをしたわけだ。しかしcocoさんもきょうすけさんも、きのうの)
気づかないので、自演をしたわけだ。しかしCoCoさんも京介さんも、昨日の
(あのかんじではどうやらみかっちさんのいたずらにはきがついていたようだ。)
あの感じではどうやらみかっちさんのイタズラには気がついていたようだ。
(おれだけがきになってへんなゆめまでみてしまった。なさけない。)
俺だけが気になって変な夢まで見てしまった。情けない。
(あさめしどきになって、みかっちさんがめをさましたあと、「ひどいですよ」と)
朝飯どきになって、みかっちさんが目を覚ました後、「ひどいですよ」と
(いうと「えー、わたしそんなことしないって」としらをきった。)
言うと「えー、わたしそんなことしないって」と白を切った。
(「このろっじにでるっていう、おばけがまざったんじゃない?」)
「このロッジに出るっていう、お化けが混ざったんじゃない?」
(そんなことをわらいながらいうので、そういうことにしておいてあげた。)
そんなことを笑いながら言うので、そういうことにしておいてあげた。
(ごじつ、cocoさんのかれしにこのできごとをはなした。)
後日、CoCoさんの彼氏にこの出来事を話した。
(おれのおかるとどうのししょうでもあるへんじんだ。)
俺のオカルト道の師匠でもある変人だ。
(「で、そのあときょうすけさんがふしぎなことをいうんですよ。)
「で、そのあと京介さんが不思議なことを言うんですよ。
(ごにんめはあらわれたんじゃなくて、きえたのかもしれないって」)
5人目は現れたんじゃなくて、消えたのかも知れないって」
(あのげーむをおえたときには、よにんしかいない。よにんではじめて)
あのゲームを終えた時には、4人しかいない。4人で始めて
(ごにんにふえてまたよにんにもどったのではなく、さいしょからごにんではじめて、)
5人に増えてまた4人にもどったのではなく、最初から5人で始めて、
(おえたしゅんかんによにんになったのではないか、というのだ。)
終えた瞬間に4人になったのではないか、と言うのだ。
(しかしおれたちはいうまでもなくさいしょからよにんだった。)
しかし俺たちは言うまでもなく最初から4人だった。
(なにをいまさらというかんじだが、きょうすけさんはこういうのだ。)
なにをいまさらという感じだが、京介さんはこう言うのだ。
(よくきくだろう、かみかくしってやつにはさいしょからいなかったことになる)
よく聞くだろう、神隠しってやつには最初からいなかったことになる
(ぱたーんがある、と。つまり、きえてしまったにんげんにかんするきおくが)
パターンがある、と。つまり、消えてしまった人間に関する記憶が
(しゅういのにんげんからもきえてしまい、むじゅんがないようかこがうまいぐあいに)
周囲の人間からも消えてしまい、矛盾が無いよう過去が上手い具合に
(かいざんされてしまうという、おかるとかいではめずらしくないいつわだ。)
改竄されてしまうという、オカルト界では珍しくない逸話だ。
(しかしいくらなんでも、ごにんめのめんばーがいたなんてげんじつみがなさすぎる。)
しかしいくらなんでも、5人目のメンバーがいたなんて現実味が無さ過ぎる。
(そのひとがきえて、なにごともなくせいかつできるなんてありえないとおもう。)
その人が消えて、何事もなく生活できるなんてありえないと思う。
(しかしししょうはそのはなしをきくと、かんしんしたようにうなった。)
しかし師匠はその話を聞くと、感心したように唸った。
(「あのおとこおんながそういったのか。おもしろいはっそうだなあ。)
「あのオトコオンナがそう言ったのか。面白い発想だなあ。
(そのさんがくぶのがくせいのいつわは、にほんではよすみのかいとかおへやさまとかいう)
その山岳部の学生の逸話は、日本では四隅の怪とかお部屋様とかいう
(なまえでふるくからつたわるあそびで、いるはずのないごにんめのそんざいを)
名前で古くから伝わる遊びで、いるはずのない5人目の存在を
(こわがろうというしゅこうだ。それがじつはごにんめをしゅつげんさせるんじゃなく、)
怖がろうという趣向だ。それが実は5人目を出現させるんじゃなく、
(ごにんめをしょうめつさせるかみかくしのぎしきだったってわけか」)
5人目を消滅させる神隠しの儀式だったってわけか」
(ししょうはおもしろそうにうなずいている。)
師匠は面白そうに頷いている。
(「でも、かこのかいざんなんていうげんしょうがあるとしても、)
「でも、過去の改竄なんていう現象があるとしても、
(はじめからごにんいたらそもそもなにもおもしろくないこんなげーむをしますかね」)
初めから5人いたらそもそも何も面白くないこんなゲームをしますかね」
(「それがそうでもない。さんがくぶのがくせいは、ひとばんじゅうおきているためにやった)
「それがそうでもない。山岳部の学生は、一晩中起きているためにやった
(だけで、)
だけで、
(むしろごにんではじめるほうがしぜんだ。それからろーしゅたいんのかいろうって)
むしろ5人で始める方が自然だ。それからローシュタインの回廊って
(やつは、もともとごにんではじめるんだ」)
やつは、もともと5人で始めるんだ」
(ごにんではじめて、とちゅうでひとりがだれにもきづかれないようにぬける。ぬけたじてんで)
5人で始めて、途中で一人が誰にも気づかれないように抜ける。抜けた時点で
(かいてんがとまるはずが、なぜかえんえんとつづいてしまうというかいいだという。)
回転が止まるはずが、なぜか延々と続いてしまうという怪異だという。
(「じゃあじぶんたちも、ごにんではじめたんですかね。それだととちゅうで)
「じゃあ自分たちも、5人で始めたんですかね。それだと途中で
(いちどぎゃくかいてんしたのはおかしいですよ」)
一度逆回転したのはおかしいですよ」