『大きな手』竹久夢二1【完】
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問題文
(「まあ、あなたのては、きれいねえ。しろくてほそいし、)
「まあ、あなたの手は、きれいねえ。白くて細いし、
(そしてまあ、このやわらかいこと。まりあさまのてのようだわ」)
そしてまあ、この柔らかいこと。マリア様の手のようだわ」
(「そうでしょうか」)
「そうでしょうか」
(「あら、あなたじしんは、そうおもわないの。)
「あら、あなた自身は、そう思わないの。
(これがうつくしくなかったら、なにをうつくしいっていえば、いいでしょう」)
これが美しくなかったら、なにを美しいって言えば、いいでしょう」
(「そりゃ、あたしのてはちいさくて、いろがしろいけれど、)
「そりゃ、あたしの手は小さくて、色が白いけれど、
(あたしよりもっとうつくしいてがあるとおもうのよ」)
あたしよりもっと美しい手があると思うのよ」
(「とおっしゃると、どんなてですの」)
「とおっしゃると、どんな手ですの」
(「どんなてってきかれてもこまるけれど、)
「どんな手って聞かれても困るけれど、
(あのくらすのcさんのてなんかは、ほんとにうつくしいてだとおもうわ」)
あのクラスのcさんの手なんかは、ほんとに美しい手だと思うわ」
(「まあ、bさん。あなた、あんなてのどこがうつくしいの。)
「まあ、bさん。あなた、あんな手のどこが美しいの。
(ゆびはぼうのようにふといし、いろはせきたんのようにくろいし、)
指は棒のように太いし、色は石炭のように黒いし、
(あのかたがたいそうでもしていらっしゃるところをみていると、)
あのかたが体操でもしていらっしゃるところを見ていると、
(まるでえんとつのそうじをするおとこが、けんかでもしているようだわ」)
まるで煙突の掃除をする男が、喧嘩でもしているようだわ」
(「そりゃ、あなたがおっしゃるようにcさんのてはふとくてくろいし、)
「そりゃ、あなたがおっしゃるようにcさんの手は太くて黒いし、
(それにあしだってずいぶんおおきいけれど、cさんのてやあしが)
それに足だってずいぶん大きいけれど、cさんの手や足が
(どんなにやくにたっているか、あなたごぞんじかしら」)
どんなに役に立っているか、あなたご存じかしら」
(「いいえ。だけど、cさんがなにをなさったからといって)
「いいえ。だけど、cさんがなにをなさったからといって
(てあしのおおきいことにちがいはないわ」)
手足の大きいことに違いはないわ」
(「そりゃそうですけど、あなたやわたしたちのてのうつくしさと、)
「そりゃそうですけど、あなたや私たちの手の美しさと、
(cさんのてのうつくしさではいみがちがうことを、あなたにおきかせしたいの」)
cさんの手の美しさでは意味が違うことを、あなたにお聞かせしたいの」
(「どういうわけなの」)
「どういうわけなの」
(「cさんのてはわたしたちのてとちがって、そりゃあおいそがしいのよ。)
「cさんの手は私達の手と違って、そりゃあお忙しいのよ。
(ほら、cさんのおかあさんは、ごびょうきでいつもねているじゃない。)
ほら、cさんのお母さんは、ご病気でいつも寝ているじゃない。
(だからcさんが、おとうさんのみのまわりやかじ、)
だからcさんが、お父さんの身の回りや家事、
(ちいさなおとうとさんのめんどうまで、そりゃかんぺきなんですって」)
小さな弟さんの面倒まで、そりゃ完璧なんですって」
(「まあ、そうなの」)
「まあ、そうなの」
(「それなのにいちにちだってがっこうは、おやすみにならないし、)
「それなのに一日だって学校は、お休みにならないし、
(ちこくひとつなさったことはないでしょう」)
遅刻ひとつなさったことはないでしょう」
(「ええ、そうよ」)
「ええ、そうよ」
(「たいへんさむいひのごご、おことのけいこのかえりに、)
「大変寒い日の午後、お琴のけいこの帰りに、
(cさんのいえのまえをとおったら、cさんがうらのいどばたで、)
cさんの家の前を通ったら、cさんが裏の井戸ばたで、
(あめがふっているのにてぬぐいをかぶって、)
雨が降っているのに手ぬぐいをかぶって、
(てをまっかにしておこめをといでいらしたの。)
手を真っ赤にしてお米を研いでいらしたの。
(あたし、ほんとにおきのどくになっちゃって、)
あたし、ほんとにお気の毒になっちゃって、
(しらないふりをしてとおりすぎようとおもったら、)
知らないふりをして通り過ぎようと思ったら、
(cさんのほうからきがついて「あら、bさん、どこへいってきたの」って、)
cさんのほうから気がついて「あら、bさん、どこへ行ってきたの」って、
(わらいながらおききになったのよ。あたし、ほんとになみだがでたわ」)
笑いながらお聞きになったのよ。あたし、ほんとに涙が出たわ」
(「そういえばあたし、あのかたがいぜんにんぎょうをつくって、)
「そういえばあたし、あのかたが以前人形を作って、
(べるぎーのしょうじょたちへおくったはなしをきいたわ」)
ベルギーの少女達へ贈った話を聞いたわ」
(「それもcさんが、ああしたいそがしいじかんのなかから、おつくりになったんだわ」)
「それもcさんが、ああした忙しい時間の中から、お作りになったんだわ」
(「そうねえ」)
「そうねえ」
(「それに、まだcさんのことでかんしんしたはなしがあるの。)
「それに、まだcさんのことで感心した話があるの。
(あのかたはねえ、まいあさぎゅうにゅうはいたつをしていらっしゃるのよ」)
あのかたはねえ、毎朝牛乳配達をしていらっしゃるのよ」
(「まあ」)
「まあ」
(「それは、こういうわけなの。きょねんのじゅういちがつの、がっきしけんのころなの。)
「それは、こういうわけなの。去年の十一月の、学期試験の頃なの。
(cさんは、いつものように、ごはんをしまっておいて、)
cさんは、いつものように、ご飯をしまっておいて、
(おかあさんのおくすりをかいに、まちへいらしたの。)
お母さんのお薬を買いに、町へいらしたの。
(そのかえりに、cさんのことだから、れきしのおさらいをしながら)
その帰りに、cさんのことだから、歴史のおさらいをしながら
(あるいていらしたんでしょう。cさんはれきしのほうへむちゅうなもんだから、)
歩いていらしたんでしょう。cさんは歴史のほうへ夢中なもんだから、
(むこうからきたひとにぶつかってしまったんですって。)
向こうから来た人にぶつかってしまったんですって。
(あっとおもってきがつくと、それがまあとしおいたおじいさんで、)
あっと思って気がつくと、それがまあ年老いたおじいさんで、
(ぎゅうにゅうをはいたつしてあるいていたんですって」)
牛乳を配達して歩いていたんですって」
(「おやおや。それじゃ、ぎゅうにゅうのびんは、すべてこわれたでしょう」)
「おやおや。それじゃ、牛乳のビンは、すべて壊れたでしょう」
(「ええ、そうなのよ。つえをついてやっとあるくくらいのとしよりだから、)
「ええ、そうなのよ。杖をついてやっと歩くくらいの年寄りだから、
(ぎゅうにゅうびんはもとより、おじいさんがころんだんですって。)
牛乳ビンはもとより、おじいさんが転んだんですって。
(cさんはびっくりしてかかえおこしながら、)
cさんはびっくりして抱え起こしながら、
(「おじいさん、けがはなさらなかったですか。まあ、ごめんなさいな」)
「おじいさん、ケガはなさらなかったですか。まあ、ごめんなさいな」
(「なんの、おじょうさま。すこしもけがはございません。)
「なんの、お嬢様。すこしもケガはございません。
(こうとしをとりましては、もとからからだがふじゆうなんで」って、)
こう年をとりましては、元から体が不自由なんで」って、
(そのおじいさんがいうんですって。)
そのおじいさんが言うんですって。
(cさんは、そのおじいさんをいえまでおくって、じぶんでそのひのぎゅうにゅうを)
cさんは、そのおじいさんを家まで送って、自分でその日の牛乳を
(はいたつしたんですって。それからずっときょうまで、まいにちがっこうへいくまで、)
配達したんですって。それからずっと今日まで、毎日学校へ行くまで、
(おじいさんのはいたつのおてつだいをなさっているんですって」)
おじいさんの配達のお手伝をなさっているんですって」
(「まあ、そうなの。それであんなにあしがおおきくなったんだわ、ねえ」)
「まあ、そうなの。それであんなに足が大きくなったんだわ、ねえ」
(「あたしは、こうおもうの。cさんは、そんなおおきなあしや、)
「あたしは、こう思うの。cさんは、そんな大きな足や、
(てをもっていらっしゃるからこそ、いそがしいしごともできるし、)
手を持っていらっしゃるからこそ、忙しい仕事も出来るし、
(あんなりっぱなことができたのだとおもうわ」)
あんな立派なことが出来たのだと思うわ」
(「まったくそうねえ」)
「まったくそうねえ」
(「わたしたちのちいさいてでも、わたしたちのてにできることは、)
「私達の小さい手でも、私達の手に出来ることは、
(なんでもしていいことだったら、しましょうねえ」)
なんでもしていいことだったら、しましょうねえ」
(「きっとそうね。これでうつくしいてのいみがわかったわ」)
「きっとそうね。これで美しい手の意味が分かったわ」