海-1-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | tetsumi | 5029 | B+ | 5.1 | 96.8% | 734.8 | 3820 | 124 | 69 | 2024/09/25 |
2 | 上半身が痛い | 3804 | D++ | 4.0 | 95.0% | 930.4 | 3736 | 196 | 69 | 2024/10/25 |
3 | さいじゃくおう | 3799 | D++ | 4.0 | 93.6% | 918.9 | 3747 | 256 | 69 | 2024/09/26 |
4 | ちいさん | 3642 | D+ | 3.7 | 97.8% | 994.7 | 3705 | 82 | 69 | 2024/10/26 |
5 | Shion | 3110 | E++ | 3.1 | 97.3% | 1188.8 | 3801 | 103 | 69 | 2024/10/04 |
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問題文
(だいがくにかいせいのなつ。おれはだいがくのせんぱいとうみへいった。)
大学2回生の夏。俺は大学の先輩と海へ行った。
(てりつけるたいようともみずぎのじょせいともむえんの、うすらさむいよるのうみへ。)
照りつける太陽とも水着の女性とも無縁の、薄ら寒い夜の海へ。
(おれはせんぱいのあやつるこがたせんのへさきでふるえながら、)
俺は先輩の操る小型船の舳先で震えながら、
(どうしてこんなことになったのかかんがえていた。)
どうしてこんなことになったのか考えていた。
(がんかにはゆらゆらとゆらめくかいめんだけがあり、そのふかさのそこは)
眼下にはゆらゆらと揺らめく海面だけがあり、その深さの底は
(うかがいしれない。ときどきじぶんのかおがぐにゃぐにゃとゆがみ、)
うかがい知れない。ときどき自分の顔がぐにゃぐにゃと歪み、
(なみのなかにだれともしれないひとのよこがおがみえるようなきがした。)
波の中にだれとも知れない人の横顔が見えるような気がした。
(とおいりくちのかげはぶきみなしるえっとをよこたえ、ときどきかすかな)
遠い陸地の影は不気味なシルエットを横たえ、時々かすかな
(とうだいのひかりがどんちょうのようなくもをそらのそこにうかびあがらせている。)
灯台の光が緞帳のような雲を空の底に浮かび上がらせている。
(「うみのおとをとりにいこう」というせんぱいのさそいは、あらがいがたいちからをひめていた。)
「海の音を採りに行こう」という先輩の誘いは、抗いがたい力を秘めていた。
(おかるとどうのししょうでもあるそのひとのこれくしょんのなかには、)
オカルト道の師匠でもあるその人のコレクションの中には、
(あやしげなかせっとてーぷがある。きかせてもらうと、うすきみのわるいうなりごえや、)
あやしげなカセットテープがある。聞かせてもらうと、薄気味の悪い唸り声や、
(すすりなくようなこえ、どこのくにのことばともしれないささやきごえ、)
すすり泣くような声、どこの国の言葉とも知れない囁き声、
(そんなものがえんえんとしゅうろくされていた。)
そんなものが延々と収録されていた。
(ききおわったあとで「あんまりきくとじゅみょうがちぢむよ」といわれてびびりあがり、)
聞き終わったあとで「あんまり聞くと寿命が縮むよ」と言われてビビリあがり、
(もうにどときくまいとおもうが、なぜかしばらくすると)
もう二度と聞くまいと思うが、何故かしばらくすると
(またききたくなるのだった。)
また聞きたくなるのだった。
(うまくききとれないひそひそごえを、「なんといっているのだろう」という)
うまく聞き取れないヒソヒソ声を、「何と言っているのだろう」という
(ふのきたいかんでおってしまう。そんなようすをおもしろがり、ししょうは)
負の期待感で追ってしまう。そんな様子を面白がり、師匠は
(「これはうみのおとだよ」といってよるのうみへおれをさそったのだった。)
「これは海の音だよ」と言って夜の海へ俺を誘ったのだった。
(しりあいのぼーとをかりたししょうが、なれたちょうしでもーたーをあやつって)
知り合いのボートを借りた師匠が、慣れた調子でモーターを操って
(うみへでたころにはすでにひはおちきっていた。)
海へ出た頃にはすでに陽は落ちきっていた。
(ふぇりーならいざしらず、こんなちいさなふねでかいじょうにでたことのなかった)
フェリーならいざ知らず、こんな小さな船で海上に出たことのなかった
(おれははじめからあしがすくんでいた。「そうじゅうめんきょもってるんですか?」ととう)
俺は初めから足が竦んでいた。「操縦免許持ってるんですか?」と問う
(おれに「とうろくちょうさんめーとるいかならこがたせんぱくそうじゅうめんきょはいらない」と)
俺に「登録長3メートル以下なら小型船舶操縦免許はいらない」と
(うそぶいて、ししょうはくらくなみだつかいめんをすべらせていった。)
嘯いて、師匠は暗く波立つ海面を滑らせていった。
(どれくらいおきにでたのか、ししょうはふいにえんじんをとめて、)
どれくらい沖に出たのか、師匠はふいにエンジンを止めて、
(じさんしていたてーぷれこーだーのろくおんぼたんをおした。かぜはないでいた。)
持参していたテープレコーダーの録音ボタンを押した。風は凪いでいた。
(もーたーのかいてんするおとがやむと、あたりはしずかになる。)
モーターの回転する音が止むと、あたりは静かになる。
(いや、しばらくするとどこからともなく、うみのおととでもいうしかない)
いや、しばらくするとどこからともなく、海の音とでもいうしかない
(ざわざわしたおとがただよってきた。)
ザワザワした音が漂ってきた。
(しおにながされるにまかせてぼーとはなみまにゆれている。)
潮に流されるにまかせてボートは波間に揺れている。
(せんしゅからかおをだしてかいちゅうをのぞきこんでいると、そこしれないくろいみずのなかに)
船首から顔を出して海中を覗き込んでいると、底知れない黒い水の中に
(さかなのはらとおぼしきしろいものがときどききらめいてはきえていった。)
魚の腹と思しき白いものが時々煌いては消えていった。
(ししょうはだまったまますいへいせんのあたりをじっとみている。)
師匠は黙ったまま水平線のあたりをじっと見ている。
(よこがおをぬすみみてもなにをかんがえているのかわからない。)
横顔を盗み見ても何を考えているのかわからない。
(かすかなかぜのおとがみみをなでていき、せんていからにぶくひびいてくるようなうみなりが)
微かな風の音が耳を撫でていき、船底から鈍く響いてくるような海鳴りが
(どうしようもなくこころぼそくこどくなきぶんにさせてくれる。)
どうしようもなく心細く孤独な気分にさせてくれる。
(「とれてるんですかね」というと、くちにゆびをあてて「しっ」という)
「採れてるんですかね」と言うと、口に指を当てて「シッ」という
(くちびるのうごきでかえされた。なにかきこえるようなきもするが、)
唇の動きで返された。何か聞こえるような気もするが、
(はっきりとはわからない。)
はっきりとはわからない。
(そもそも、うみのうえでいったいなにがあのてーぷのようなささやきをはっするのか。)
そもそも、海の上でいったい何があのテープのような囁きを発するのか。
(おれはじっとみみをすましてやみのなかにこしをおろしていた。)
俺はじっと耳を澄まして闇の中に腰をおろしていた。
(どれくらいたったのか、ざあざあというなまぬるいしおかぜにかおを)
どれくらいたったのか、ざあざあという生ぬるい潮風に顔を
(つきだしたままぼーっとしていると、ふいにひとかげのようなものが)
突き出したままぼーっとしていると、ふいに人影のようなものが
(めのまえをよこぎった。おもわずめでおうと、たしかにひとかげにみえる。)
目の前を横切った。思わず目で追うと、たしかに人影に見える。
(ひょうりゅうぶつとはおもわなかった。)
漂流物とは思わなかった。
(なぜならそれは、こどものせたけほどもかいめんにでていたからだ。)
なぜならそれは、子供の背丈ほども海面に出ていたからだ。
(おれはかたまったままうごけない。)
俺は固まったまま動けない。
(ただゆらゆらゆれながらとおざかっていくくらいひとかげからめをはなせないでいた。)
ただゆらゆら揺れながら遠ざかっていく暗い人影から目を離せないでいた。
(うみのただなかであり、きや、ましてにんげんがたてるようなすいしんのはずがない。)
海の只中であり、樹や、まして人間が立てるような水深のはずがない。
(しかいはせまく、ゆっくりとひとかげはやみのなかへきえていったがおれはふるえるこえで、)
視界は狭く、ゆっくりと人影は闇の中へ消えていったが俺は震える声で、
(あれはなんでしょうか、といった。)
あれはなんでしょうか、と言った。
(ししょうはくびをふり、「うみはわからないことだらけだ」とだけつぶやいた。)
師匠は首を振り、「海はわからないことだらけだ」とだけ呟いた。
(かいちゅうでんとうをつけたくなるしょうどうにかられたが、なにかよけいなものを)
懐中電灯をつけたくなる衝動にかられたが、なにか余計なものを
(みてしまうきがしてできなかった。)
見てしまう気がして出来なかった。
(がちんというおとがしてあなくろなてーぷれこーだーの)
ガチンという音がしてアナクロなテープレコーダーの
(ろくおんぼたんがもとにもどった。)
録音ボタンが元にもどった。
(じどうてきにまきもどしがはじまり、しゃぁーというおとがやけにおおきくひびく。)
自動的に巻き戻しがはじまり、シャァーという音がやけに大きく響く。
(ししょうがてれこのほうへいどうするけはいがあり、わずかにふねがゆれた。)
師匠がテレコの方へ移動する気配があり、わずかに船が揺れた。
(「きいてみる?」そんなこえがした。ここで?おれはむりだ。)
「聞いてみる?」そんな声がした。ここで?俺は無理だ。
(おれやししょうのへやならいい。)
俺や師匠の部屋ならいい。
(いや、あえていえばふつうのしんれいすぽっとで、くらいならだいじょうぶだ。)
いや、あえていえば普通の心霊スポットで、くらいなら大丈夫だ。
(しかしここは、りくちからはなれてなみまにただようここは、かいめんよりうえもしたも)
しかしここは、陸地から離れて波間に漂うここは、海面より上も下も
(にんげんのりょういきではないというひふかんかくがあった。)
人間の領域ではないという皮膚感覚があった。
(さんがいにいえなし、というたんごがなぜかあたまにうかび、たよるもののない)
三界に家無し、という単語がなぜか頭に浮かび、頼るもののない
(こころぼそさがもうれつにおそってきた。)
心細さが猛烈に襲ってきた。
(なにかがきまぐれにこのちいさなふねをひっくりかえしても、)
なにかが気まぐれにこの小さな船をひっくり返しても、
(このよはそれをゆるすような、そんないみふめいのおかんがする。)
この世はそれを許すような、そんな意味不明の悪寒がする。