図書館-2-(完)
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | tetsumi | 5436 | B++ | 5.6 | 96.9% | 846.3 | 4748 | 147 | 83 | 2024/10/04 |
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問題文
(そうか。しょこはとしょかんじたいがしまるよりはやくせじょうされるから・・・・・・)
そうか。書庫は図書館自体が閉まるより早く施錠されるから……
(ずいぶんまつはめになったが、じんめいしりとりをすこしやったあとうとうとしはじめ、)
随分待つ羽目になったが、人名尻取りを少しやったあとウトウトしはじめ、
(あっさりとふたりともねむってしまった。)
あっさりと二人とも眠ってしまった。
(めがさめてからよくこんなきゅうくつなかっこうでねられたものだとおもう。)
目が覚めてからよくこんな窮屈な格好で寝られたものだと思う。
(こったかんせつしゅうへんをもみほぐしながらとなりのししょうをゆりうごかすと、)
凝った関節周辺を揉みほぐしながら隣の師匠を揺り動かすと、
(「どこ?ここ」とねぼけたことをいうのであぜんとしかけたが、)
「どこ? ここ」と寝ぼけたことを言うので唖然としかけたが、
(「じょうだんだ」とすぐにかるくちだかべんかいだかをしてそとのようすをうかがう。)
「冗談だ」とすぐに軽口だか弁解だかをして外の様子を伺う。
(くらい。そしてしょこのほんだながくろいかべのようにしかいをさえぎる。)
暗い。そして書庫の本棚が黒い壁のように視界を遮る。
(さきへいくししょうをおいかけててさぐりですすむ。いきと、あしおとをころしてほんのもりのおくへと。)
先へ行く師匠を追いかけて手探りで進む。息と、足音を殺して本の森の奥へと。
(「あ」ししょうにぶつかって、たちどまる。)
「あ」師匠にぶつかって、立ち止まる。
(やみのなかでのじぇすちゃーにしたがい、そのばにすわりこむ。)
闇の中でのジェスチャーに従い、その場に座り込む。
(「その、えあぽけっとみたいなばしょって」ひそひそこえがいう。)
「その、エアポケットみたいな場所って」ヒソヒソ声が言う。
(「にんげんにはいごこちのわるいくうかんでも、れいこんにとってはそうじゃない。)
「人間には居心地の悪い空間でも、霊魂にとってはそうじゃない。
(むしろれいこんがそこをとおるからにんげんにはさけたくなるんだろう」)
むしろ霊魂がそこを通るから人間には避けたくなるんだろう」
(「れいどうってやつですか」くびをふるけはいがある。)
「霊道ってやつですか」首を振る気配がある。
(「みちってことばはしっくりこないな。どちらかというと、あな。そうだな。あなだ」)
「道って言葉はしっくり来ないな。どちらかというと、穴。そうだな。穴だ」
(そんなことばがしずまりかえったしょこのくうきをかすかにふるわせる。)
そんな言葉が静まり返った書庫の空気をかすかに振るわせる。
(そしてししょうは、このとしょかんがたっているばしょにはかつて)
そして師匠は、この図書館が立っている場所にはかつて
(きゅうにほんぐんのしせつがあったというはなしをした。それはしっている。)
旧日本軍の施設があったという話をした。それは知っている。
(だいがくのなかには、そのことにまつわるかいだんばなしもおおい。)
大学の中には、そのことにまつわる怪談話も多い。
(「このましたに、きょだいなあながある」)
「この真下に、巨大な穴がある」
(ほったら、とんでもないものがでてくるよ。たぶん。)
掘ったら、とんでもないものが出てくるよ。たぶん。
(そういって、こつ、こつとゆかをゆびでたたく。)
そう言って、コツ、コツと床を指で叩く。
(「だからそこにすいこまれるように、むかしからこのとしょかんには)
「だからそこに吸い込まれるように、昔からこの図書館には
(れいがとおるそういうあながたくさんある」ちんもくがあった。)
霊が通るそういう穴がたくさんある」沈黙があった。
(ししょうがたたいたゆかをなぞる。)
師匠が叩いた床をなぞる。
(ながいじかんのはてにふりつもったほこりがゆびさきにこびりついた。)
長い時間の果てに降り積もった埃が指先にこびりついた。
(ふいにあしおとをきいたきがした。)
ふいに足音を聞いた気がした。
(みみをすますと、とおいようなちかいようなばしょから、たしかにだれかが)
耳を澄ますと、遠いような近いような場所から、確かに誰かが
(あしをひきずるようなおとがきこえてくる。)
足を引きずる様な音が聞こえてくる。
(こしをうかしかけると、ししょうのてがそれをさえぎる。)
腰を浮かしかけると、師匠の手がそれを遮る。
(そのおとははいごからきこえたかとおもうと、みぎまわりにしょうめんほうこうから)
その音は背後から聞こえたかと思うと、右回りに正面方向から
(きこえはじめる。ほんだなのむこうをのぞきこむきにはなれない。あるくけはいはつづく。)
聞こえ始める。本棚の向こうを覗き込む気にはなれない。歩く気配は続く。
(それも、あきらかにふたりのいるこのばしょをさがしている。それがわかる。)
それも、明らかに二人のいるこの場所を探している。それがわかる。
(このまよなかのしょこというくうかんに、にんげんはおれたちふたりしかいない。)
この真夜中の書庫という空間に、人間は俺たち二人しかいない。
(それもわかる。おくばのあいだからぬけるようなちょうしょうがきこえ、)
それもわかる。奥歯の間から抜けるような嘲笑が聞こえ、
(ししょうのほうをむくと「あれはこっちにはこられないよ」というささやきがかえってくる。)
師匠の方を向くと「あれはこっちには来られないよ」という囁きが返ってくる。
(けっかいというのがあるだろう。)
結界というのがあるだろう。
(さどうでは、しゅじんときゃくのりょういきをわけるためのしきりのことだ。)
茶道では、主人と客の領域を分けるための仕切りのことだ。
(たけやきでつくるものがいっぱんてきだが、ぼくがもっともうつくしいとおもうものが、)
竹や木で作るものが一般的だが、僕が最も美しいと思うものが、
(しょもつでつくるけっかいだよ。そしてぶつどうではけっかいはそうをおかすぞくをさまたげるものが)
書物でつくる結界だよ。そして仏道では結界は僧を犯す俗を妨げるものが
(けっかいであり、みっきょうでははっきりとまをふさぐものをそういう。)
結界であり、密教でははっきりと魔を塞ぐものをそう言う。
(けっかいのはりかたはさまざまあるけれど、ここん、ほんでつくるものほどうつくしいものはない。)
結界の張り方は様々あるけれど、古今、本で作るものほど美しいものはない。
(ざりざり。かわがじょうげにすられるようなそんなおとをさせて、)
ザリザリ。革が上下に擦られるようなそんな音をさせて、
(ししょうははいごにそびえるたなからいっさつのほんをぬきとった。)
師匠は背後にそびえる棚から一冊の本を抜きとった。
(くらいいろあいのかばーで、たいとるはよめない。)
暗い色合いのカバーで、タイトルは読めない。
(これはぼくがここにしこんだほんだよ。)
これは僕がここに仕込んだ本だよ。
(どうすればふさわしいばしょにふさわしいほんをおけるか、)
どうすれば相応しい場所に相応しい本を置けるか、
(ひたすらけんきゅうしてそしてここにかよいつめた。)
ひたすら研究してそしてここに通い詰めた。
(おかげでとしょかんがくにはいっぱしのけんしきをみにつけたけどね。)
おかげで図書館学にはいっぱしの見識を身に着けたけどね。
(きょうじゅをだましてきそうさせたり、どのすぺーすがつぎにうまるか、)
教授を騙して寄贈させたり、どのスペースが次に埋まるか、
(そのまえにどのほんがつぎにしょこおくりになるか、そのまえにそれにえいきょうを)
その前にどの本が次に書庫送りになるか、その前にそれに影響を
(あたえるほんがはたしてつぎにこうにゅうされるのか。)
与える本が果たして次に購入されるのか。
(けいさんしてもうまくいかないこともおおい。)
計算しても上手くいかないことも多い。
(こっそりいれかえてもしょことはいえ、いつのまにかなおされてるから。)
こっそり入れ替えても書庫とはいえ、いつの間にか直されてるから。
(どうしてもしゅうせいできないときはまあ、たしょうひごうほうてきなしゅだんもとった・・・・・・)
どうしても修正できないときはまあ、多少非合法的な手段もとった……
(あしおとがふえた。ほはばのちがうふたつのおとが、とおくなったりちかくなったりしながら)
足音が増えた。歩幅の違うふたつの音が、遠くなったり近くなったりしながら
(しゅういをまわっている。)
周囲を回っている。
(かたほうはいらだっている。かたほうはかなしんでいる。ようなきがした。)
片方は苛立っている。片方は悲しんでいる。ような気がした。
(そしておれにはいったいなにが、ここにきたがっているそのふたつのけはいを)
そして俺にはいったいなにが、ここに来たがっているその二つの気配を
(さえぎっているのかまったくわからない。ひだりかたのほうからみぎかたのほうへ、)
遮っているのか全くわからない。左肩のほうから右肩の方へ、
(かすかにふるいかみのにおいがただようきりゅうがとおりぬけているだけだ。)
微かに古い紙の匂いが漂う気流が通り抜けているだけだ。
(しかいはせまく、さきはあんまくがかかったようにみとおせない。)
視界は狭く、先は暗幕が掛かったように見通せない。
(「ぼくがしょこのあなをふさいだころから、ながれがかわったのかそとのあなまで)
「僕が書庫の穴を塞いだころから、流れが変わったのか外の穴まで
(むしくいみたいにみだれはじめた」こんなことができるんだよ、たかがほんで。)
虫食いみたいに乱れはじめた」こんなことができるんだよ、たかが本で。
(ししょうはうれしそうにいう。いまのはなしにはどうきにあたるぶぶんがなかった。)
師匠は嬉しそうに言う。今の話には動機にあたる部分がなかった。
(けれど、なぜこんなことをするんですかというといをはっしようにも、)
けれど、何故こんなことをするんですかという問いを発しようにも、
(「こんなことができるんだよ、たかがほんで」というそのことばしか、)
「こんなことができるんだよ、たかが本で」というその言葉しか、
(こたえがないようなきがした。えんえんとあしおとはまわりつづける。)
答えがないような気がした。延々と足音は回り続ける。
(そのかずがふえたりへったりしながら、いらだちとかなしみのけはいがおおきくなり、)
その数が増えたり減ったりしながら、苛立ちと悲しみの気配が大きくなり、
(くうきをみたす。はだをさすようなきんちょうかんがせまってくる。)
空気を満たす。肌を刺すような緊張感が迫ってくる。
(おれはめにみえないぼうへきにすべてをたくして、めをとじた。)
俺は目に見えない防壁にすべてを託して、目を閉じた。
(いつか、「そのくらいにしておけ」というひとならぬもののこえが、)
いつか、「そのくらいにしておけ」という人ならぬものの声が、
(おれのみみもとでにんげんのるーるのおわりをつげるようなきがして、)
俺の耳元で人間のルールの終わりを告げるような気がして、
(りょうてでみみもふさいだ。ほかにとじるものはないだろうかとおもったとき、)
両手で耳も塞いだ。他に閉じるものはないだろうかと思ったとき、
(おれのなかのえたいのしれないかんかくきが、あしもとのずっとしたにあるなにかをちかくした。)
俺の中の得体の知れない感覚器が、足元のずっと下にある何かを知覚した。
(きょだいなあなのいめーじ。ししょうのいう「あな」を「れいどう」におきかえるならば、)
巨大な穴のイメージ。師匠の言う「穴」を「霊道」に置き換えるならば、
(したにむかうれいどうなんてものがそんざいしていいのだろうか。)
下に向かう霊道なんてものが存在していいのだろうか。
(このかんかくをとじるには、どうしたらいいのか。ふるえながら、あさをまった。)
この感覚を閉じるには、どうしたらいいのか。震えながら、朝を待った。
(そのしょこも、いまではたちいりきんしになっているらしい。)
その書庫も、今では立ち入り禁止になっているらしい。
(しょうぼうほうがどうとかいうはなしをみみにはしたけれど、どうだかわからない。)
消防法がどうとかいう話を耳にはしたけれど、どうだかわからない。
(ししょうがししょをしていたきかんとなにかかんけいがあるような)
師匠が司書をしていた期間となにか関係があるような
(きがしているが・・・・・・はたして。)
気がしているが……はたして。