田舎 中編-6-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(そういえば、おじからたいざいちゅうじゆうにつかいなさいといわれていたことをおもいだす。)

そういえば、伯父から滞在中自由に使いなさいと言われていたことを思い出す。

(どこに、ときこうとしてすぐにきくまでもないとおもいなおした。)

どこに、と聞こうとしてすぐに聞くまでもないと思いなおした。

(あしたもいろいろありそうだ。)

明日もいろいろありそうだ。

(そうおもって、きょうのところはきちんとねておくことにする。)

そう思って、今日のところはきちんと寝ておくことにする。

(「おやすみなさい」ということばに、きょうすけさんはちいさくてをふった。)

「おやすみなさい」という言葉に、京介さんは小さく手を振った。

(あさがきた。めをさますと、となりでししょうがひどいねぞうをしている。)

朝が来た。目を覚ますと、隣で師匠がひどい寝相をしている。

(すこしほっとする。おじふうふとあわせてろくにんでちょうしょくをとる。)

少しほっとする。伯父夫婦と合わせて6人で朝食をとる。

(なにかたらないきがした。そうだ。しんぶんがない。「ああ、ひるにならんとこん」)

なにか足らない気がした。そうだ。新聞がない。「ああ、昼にならんと来ん」

(そういえばそうだった。おれのphsもししょうのけいたいもつうじない、)

そういえばそうだった。俺のPHSも師匠の携帯も通じない、

(じょうほうをせいげんされたいなかなのだ。たべおわって、へやにかえると)

情報を制限された田舎なのだ。食べ終わって、部屋に帰ると

(ししょうによるのことをきいてみた。「いったんですよね、あのきょうすけさんが)

師匠に夜のことを聞いてみた。「行ったんですよね、あの京介さんが

(けがをしたばしょへ」「うん」とししょうはこたえ、せんぷうきのすいっちを)

怪我をした場所へ」「うん」と師匠は答え、扇風機のスイッチを

(いれながらあぐらをかいた。「なにかあったんですか」「いや、なにもなかった」)

入れながら胡坐をかいた。「なにかあったんですか」「いや、なにもなかった」

(にえきらないこたえにすこしいらっとする。)

煮え切らない答えに少しイラッとする。

(あんなやりとりをしておいて、なにもないはずはない。)

あんなやり取りをしておいて、なにもないはずはない。

(するとししょうはいみしんにめをほそめると、ゆっくりとかたった。)

すると師匠は意味深に目を細めると、ゆっくりと語った。

(「ひるにはあり、よるにはなかった」ほりだされていた、というのだ。)

「昼にはあり、夜にはなかった」掘り出されていた、というのだ。

(「ぼくらがきづいたことを、しられたようだ」)

「僕らが気づいたことを、知られたようだ」

(ことばのはしに、きみのわるいえみがうかんでいる。)

言葉の端に、気味の悪い笑みが浮かんでいる。

(「なにが、うまっていたんですか」ししょうはたたみのうえにごろんとねころがった。)

「なにが、埋まっていたんですか」師匠は畳の上にごろんと寝転がった。

など

(「いぬかみをしってるかい」「きいたことは」)

「犬神を知ってるかい」「聞いたことは」

(きょうすけさんがこのたびのまえにくちにしていたのをおぼえている。)

京介さんがこの旅の前に口にしていたのを覚えている。

(「ふるくはじゅごんどうのこじゅつにゆらいするといわれるじゃあくなじゅつだよ。)

「古くは呪禁道の蠱術に由来すると言われる邪悪な術だよ。

(いぬがみをしえきするにんげんがたにんのものをほしがれば、いぬかみはたちまちにそのひとに)

犬神を使役する人間が他人の物を欲しがれば、犬神はたちまちにその人に

(わざわいをなし、そのものをあたえるまでやむことはない。)

災いをなし、その物を与えるまで止むことはない。

(いぬかみはおやからこへとうけつがれ、そのいえはいぬかみすじとかいぬかみおさむなどとよばれる。)

犬神は親から子へと受け継がれ、その家は犬神筋とか犬神統などと呼ばれる。

(いぬかみすじはきょうどうたいのなかでいみきらわれ、こんいんにだいひょうされるおおくのこうりゅうはきひされる。)

犬神筋は共同体の中で忌み嫌われ、婚姻に代表される多くの交流は忌避される。

(そのためにいぬかみすじはいちぞくかんでのつうこんをかさね、)

そのために犬神筋は一族間での通婚を重ね、

(ますますその”ち”をこくしていく」)

ますますその”血”を濃くしていく」

(ししょうはひみつめかしてあおむけのままゆびをたてる。)

師匠は秘密めかして仰向けのまま指を立てる。

(「いぬかみというのはそのなまえとはうらはらに、ちいさなねずみのようなすがたで)

「犬神というのはその名前とは裏腹に、小さな鼠のような姿で

(えがかれることがおおい。もしくはまめつぶだいのおおきさのいぬだとするきろくもある。)

描かれることが多い。もしくは豆粒大の大きさの犬だとする記録もある。

(いぬかみすじはそれらをてきたいするものにけしかけ、ふくつうやこうねつなど)

犬神筋はそれらを敵対する者にけしかけ、腹痛や高熱など

(きゅうげきなへんちょうをもたらす。いぬかみにとりつかれたものはやまぶしやぼうずなどに)

急激な変調をもたらす。犬神にとりつかれた者は山伏や坊主などに

(げんいんをさぐってもらい、どこのだれそれのいぬがみがさわっているのだとあきらかにする。)

原因を探ってもらい、どこの誰それの犬神が障っているのだと明らかにする。

(そのあとは、げんいんとはんじられたいぬかみすじのいえへおもむいて・・・・・・」)

その後は、原因と判じられた犬神筋の家へ赴いて……」

(「みつぎものをさしだすわけですか」くちをはさんだおれに、ししょうはくびをふる。)

「貢物を差し出すわけですか」口を挟んだ俺に、師匠は首を振る。

(「もんくをいいにいくんだよ。ひとのみちにはずれたことをしやがって、と」)

「文句を言いに行くんだよ。人の道に外れたことをしやがって、と」

(いぬかみのでんせつがいきづいているのは、のうそんちたいがほとんどなのだそうだ。)

犬神の伝説が息づいているのは、農村地帯がほとんどなのだそうだ。

(ひととひととのかかわりがふかくのうみつな、せまいきょうどうたいのなかでなにかりふじんなわざわいが)

人と人との関わりが深く濃密な、狭い共同体の中でなにか理不尽な災いが

(おこったばあい、それをだれかとくていのにんげんのせいにしてしまうのは、にほんのふるい)

起こった場合、それを誰か特定の人間のせいにしてしまうのは、日本の古い

(しゃかいこうぞうのはぐるまのひとつなのだろう。それがさべつかいきゅうをうむよういんにもなっている。)

社会構造の歯車の一つなのだろう。それが差別階級を生む要因にもなっている。

(ところがししょうは、このいぬかみすじについてはいわゆるさべつまるまるみんとは)

ところが師匠は、この犬神筋についてはいわゆる被差別〇〇民とは

(すこしいみあいがちがうという。「いぬかみすじは、ゆうふくないえとそうばがきまっている。)

少し意味合いが違うと言う。「犬神筋は、裕福な家と相場が決まっている。

(それも、のうそんにしょうひんけいざい、かへいけいざいがしんとうしはじめたころにうまれた)

それも、農村に商品経済、貨幣経済が浸透しはじめたころに生まれた

(しんこうじぬしがほとんだ。とちをもつこと、そしてはたけをたがやすことが)

新興地主がほとんだ。土地を持つこと、そして畑を耕すことが

(すべてだったのうそんのなかに、とちをかし、かへいをかし、しょうひんさくもつを)

すべてだった農村の中に、土地を貸し、貨幣を貸し、商品作物を

(りゅうつうさせることでまほうのようにゆたかになっていくいえがしゅつげんする。)

流通させることで魔法のように豊かになっていく家が出現する。

(そしてこのぱらだいむしふとをりかいできないひとびとはおもう。)

そしてこのパラダイムシフトを理解できない人々は思う。

(<あのいえがかねもちになったのは、いぬかみをつかっているからだ> と。)

<あの家が金持ちになったのは、犬神を使っているからだ>と。

(われわれのとちを、ざいを、どんよくにほしがり、いぬかみをしえきして)

我々の土地を、財を、貪欲に欲しがり、犬神を使役して

(それらをさくしゅしているのだと。かねがないのも、とちがないのも、)

それらを搾取しているのだと。金がないのも、土地がないのも、

(はらをくだしたのも、けがをしたのもぜんぶいぬかみすじのせいだ、というんだ。)

腹を下したのも、怪我をしたのも全部犬神筋のせいだ、というんだ。

(そうしんじることで、きょうどうたいとしてなんらかの)

そう信じることで、共同体としてなんらかの

(ばらんすをたもとうとしているのかもしれない」)

バランスを保とうとしているのかも知れない」

(きがふれるということを、むかしのひとはきつねがついたとか、)

気がふれるということを、昔の人は狐がついたとか、

(いぬがついたとかいうだろう?ししょうはそうつづけながらゆびをあたまのあたりでまわす。)

犬がついたとか言うだろう?師匠はそう続けながら指を頭のあたりで回す。

(「これはいぬかみにかぎらず、きつねつきもへびがみすじもさるがみすじもおなじだ。)

「これは犬神に限らず、狐憑きも蛇神筋も猿神筋も同じだ。

(きがふれたふりをするのはとてもかんたんで、しかもなにがついているのかを)

気がふれたフリをするのはとても簡単で、しかも何が憑いているのかを

(よういにひょうげんできるからだ。きつねならきつねのまねを、いぬならいぬのまねをすればいい。)

容易に表現できるからだ。狐なら狐の真似を、犬なら犬の真似をすればいい。

(そうすれば、つきものすじといういえがそんざいし、それがほかにがいを)

そうすれば、憑き物筋という家が存在し、それが他に害を

(なしているということを、さくしゅされているひとびとのあいだでさいかくにんすることができる」)

成しているということを、搾取されている人々の間で再確認することができる」

(ようするに「やらせ」なのだ、というようにおれにはきこえた。)

ようするに「やらせ」なのだ、というように俺には聞こえた。

(いぬかみは、なにかおどろおどろしいそんざいなのではなく、いや、それじたいが)

犬神は、なにかおどろおどろしい存在なのではなく、いや、それ自体が

(ひとのこころのやみをひめているにせよ、のうそんにおけるぐたいてきなふまんかいしょうの)

人の心の闇を秘めているにせよ、農村における具体的な不満解消の

(しすてむのひとつにすぎないのだと。そうきこえたのだった。)

システムの一つに過ぎないのだと。そう聞こえたのだった。

(しかしししょうはふいにおしだまる。)

しかし師匠はふいに押し黙る。

(おれはそのちんもくのなかで、ぜんじつにあのよつつじできょうすけさんがたおれたしーんと、)

俺はその沈黙の中で、前日にあの四つ辻で京介さんが倒れたシーンと、

(そのあとにおそわれたおかんがのうりをかすめ、じわじわときぶんがわるくなっていった。)

そのあとに襲われた悪寒が脳裏をかすめ、ジワジワと気分が悪くなっていった。

(「いぬかみのつくりかたとしてつたえられるきろくに、こんなものがある。)

「犬神の作り方として伝えられる記録に、こんなものがある。

(まず、いぬをどちゅうにうめ、くびだけをだしてうえさせる。)

まず、犬を土中に埋め、首だけを出して飢えさせる。

(そしてうえがきょくげんにきたところでえさをはなさきにおき、)

そして飢えが極限にきたところで餌を鼻先に置き、

(いぬがそれにかぶりつこうとくびをのばしたしゅんかんにそのくびをなたではねる。)

犬がそれにかぶりつこうと首を伸ばした瞬間にその首を鉈で刎ねる。

(<ねん>のこもったそのくびをはこにおさめてじゅつをかけ、いぬかみとする。)

<念>の篭ったその首を箱に納めて術を掛け、犬神とする。

(そのとき、のこされたどうたいはみちにうめたままとし、そのうえを)

その時、残された胴体 は道に埋めたままとし、その上を

(ふみつけられることでいぬの「ねん」はけいぞくし、またきょうこなものになっていく。)

踏みつけられることで犬の「念」は継続し、また強固なものになっていく。

(そのみちがひとのいききのおおい、よつつじであればなおりそうてきとされる」)

その道が人の行き来の多い、四つ辻であればなお理想的とされる」

(「うっ」おもわずはきけがしてくちをおさえた。)

「うっ」思わず吐き気がして口を押さえた。

(いやなよかんがあたまのなかでぱちぱちとおとをたてているようなきがした。)

嫌な予感が頭の中でパチパチと音を立てているような気がした。

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