田舎 中編-8-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5137 B+ 5.3 96.7% 932.2 4954 165 89 2024/10/14
2 daifuku 3594 D+ 3.8 93.9% 1252.7 4815 312 89 2024/11/07

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問題文

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(きょうすけさんがみぎてのゆびをからませ、そのくぎをぬいた。)

京介さんが右手の指を絡ませ、その釘を抜いた。

(そのしゅんかん、じょうくうから。じょうくうから、としかいいようがないばしょから)

その瞬間、上空から。上空から、としか言いようがない場所から

(みみをつんざくようなひめいがきこえた。おとこともおんなとも、そしてひとともけものとも)

耳をつんざく様な悲鳴が聞こえた。男とも女とも、そして人とも獣とも

(つかないこえだった。しかしつぎのしゅんかん、せつめいしがたいかんかくなのであるが、)

つかない声だった。しかし次の瞬間、説明しがたい感覚なのであるが、

(いっしゅんにしてそれがげんちょうだとわかったのだった。)

一瞬にしてそれが幻聴だとわかったのだった。

(そしてなにかめのまえのこうけいがいまにもぺろりとうらがえりそうな、)

そしてなにか目の前の光景が今にもペロリと裏返りそうな、

(そんなぶきみなよかんにおそわれる。)

そんな不気味な予感に襲われる。

(ざわざわときのえだがなって、おれはあしをぼうのようにかたまらせていた。)

ざわざわと木の枝が鳴って、俺は足を棒のように固まらせていた。

(「くるまにもどれ」というししょうのこえにわれにかえると、にげこむように)

「車に戻れ」という師匠の声に我に返ると、逃げ込むように

(じょしゅせきにとびのった。しーとべるとをするひまもなく、くるまはきゅうはっしんする。)

助手席に飛び乗った。シートベルトをする暇もなく、車は急発進する。

(そしてつぎのかーぶをまがるやいなや、ゆきおのげんつきがめのまえにあらわれた。)

そして次のカーブを曲がるや否や、ユキオの原付が目の前に現れた。

(とおざかっていくまえとなにもかわらないようすでやまみちをはしり、)

遠ざかって行く前となにも変わらない様子で山道を走り、

(しろいへるめっとがごとごととゆれている。)

白いヘルメットがゴトゴトと揺れている。

(みちもいつのまにかもとのはばにもどり、がーどれーるも)

道もいつの間にか元の幅に戻り、ガードレールも

(ところどころへこみながらもちゃんとりょうがわにある。)

所々へこみながらもちゃんと両側にある。

(おれはことばをうしなって、くびをゆるゆるとふる。)

俺は言葉を失って、首をゆるゆると振る。

(まるでさっきまでみどりいろのめいきゅうにとじこめられていたあいだ、)

まるでさっきまで緑色の迷宮に閉じ込められていた間、

(じかんがまったくけいかしていなかったかのように、すべてはすっきりと)

時間がまったく経過していなかったかのように、すべてはすっきりと

(つながっていた。いままでしんれいたいけんのたぐいをかずしれずあじわってきたおれにも、)

繋がっていた。今まで心霊体験の類を数知れず味わってきた俺にも、

(まるではくちゅうむのようなできごとにぼうぜんとせざるをえなかった。)

まるで白昼夢のような出来事に呆然とせざるをえなかった。

など

(「やってくれたな」ししょうがふかくいきをはいて、せもたれにからだをあずけた。)

「やってくれたな」師匠が深く息を吐いて、背もたれに体を預けた。

(「いまのがにんげんのしわざとは」)

「今のが人間の仕業とは」

(ことばのはしから、ゆらゆらとあおじろいほのおがたつようなこえだった。)

言葉の端から、ゆらゆらと青白い炎が立つような声だった。

(きょうすけさんのほうをみると、さっきのへびにうちこまれていたくぎをてにしている。)

京介さんの方を見ると、さっきの蛇に打ち込まれていた釘を手にしている。

(「もっていろ」そうししょうがいったとたん、きょうすけさんはまどからそれをなげすてた。)

「持っていろ」そう師匠が言ったとたん、京介さんは窓からそれを投げ捨てた。

(「おい」おこるというより、ためいきをつくようなちょうしでししょうがとがめる。)

「おい」怒るというより、溜息をつくような調子で師匠が咎める。

(きょうすけさんは、「よけいなものがよけいなものをまねくんだよ」といってよこをむいた。)

京介さんは、「よけいな物がよけいな物を招くんだよ」と言って横を向いた。

(ししょうはうらめしそうにばっくみらーごしににらんでいる。)

師匠は恨めしそうにバックミラー越しに睨んでいる。

(まえをいくゆきおがはんどるからかたてをはなし、やまがわをゆびさした。)

前を行くユキオがハンドルから片手を離し、山側を指さした。

(もうすぐもくてきちだ。ということらしい。)

もうすぐ目的地だ。ということらしい。

(まもなくおれたちはやまのなかにぽつんとたついっけんやにたどりついた。)

まもなく俺たちは山の中にぽつんと立つ一軒家に辿り着いた。

(おじのいえによくにたつくりのにほんかおくだ。ひろいにわににわとりをかっている。)

伯父の家によく似た造りの日本家屋だ。広い庭に鶏を飼っている。

(ゆきおがへるめっとをぬぎながら「せんせー」といえにむかってこえをかけ、)

ユキオがヘルメットを脱ぎながら「せんせー」と家に向かって声をかけ、

(おれはうしろからちかづいてそのみみもとにささやいた。)

俺は後ろから近づいてその耳元に囁いた。

(「なあ、さっきおれたちのくるまをみうしなわなかったか」)

「なあ、さっき俺たちの車を見失わなかったか」

(「いや」ゆきおはけげんそうにくびをふる。そうだろうとはおもった。)

「いや」ユキオは怪訝そうに首を振る。そうだろうとは思った。

(おそらくあれは、おれたちのれいかんにはんのうしたのだろう。)

おそらくあれは、俺たちの霊感に反応したのだろう。

(ゆきおにはなにごともないやまみちにすぎなかったはずだ。)

ユキオには何事もない山道にすぎなかったはずだ。

(だが、おれたちがねらわれたのはあきらかだった。)

だが、俺たちが狙われたのは明らかだった。

(なにか、「けいこく」じみたあくいをかんじたからだ。)

なにか、「警告」じみた悪意を感じたからだ。

(それは、きょうすけさんがあしからちをながしたあのよつつじで)

それは、京介さんが足から血を流したあの四つ辻で

(かんじたものとどうしつのものだった。)

感じたものと同質のものだった。

(おれはししょうのかおをみたが、くびをよこにふるだけだった。)

俺は師匠の顔を見たが、首を横に振るだけだった。

(なりゆきにまかせよう、というように。)

なりゆきにまかせよう、というように。

(「でんわしといたれいのひとたちです」)

「電話しといた例の人たちです」

(ゆきおがげんかんのなかにからだをいれながらおくにむかってことばをかける。)

ユキオが玄関の中に体を入れながら奥に向かって言葉をかける。

(おくからいらえがあっておれたちはいえのなかへまねきいれられた。)

奥からいらえがあって俺たちは家の中へ招き入れられた。

(たたみじきのきゃくまにとおされ、そのせいぜんとしたしつないのふんいきからせいざしてまった。)

畳敷きの客間に通され、その整然とした室内の雰囲気から正座して待った。

(ろうかがきしむおとがきこえ、しらがのだんせいがふすまのむこうからすがたをあらわした。)

廊下がきしむ音が聞こえ、白髪の男性が襖の向こうから姿を現した。

(ゆきおのしょうがっこうのせんせいだったというので、もうすこしわかいいめーじだったが、)

ユキオの小学校の先生だったというので、もう少し若いイメージだったが、

(70にとどこうというとしにみえた。)

70に届こうという歳に見えた。

(せんせいはきゃくまのいりぐちにたったままでしつないをへいげいし、)

先生は客間の入り口に立ったままで室内を睥睨し、

(あぐらをかいているゆきおをどなった。)

胡坐をかいているユキオを怒鳴った。

(「おんしゃあ、どこのもんをつれてきたがじゃ」「え」)

「おんしゃあ、どこのもんを連れてきたがじゃ」「え」

(といってゆきおはめをむいた。おれはおどろいてなかまたちのかおをみる。)

と言ってユキオは目を剥いた。俺は驚いて仲間たちの顔を見る。

(せんせいはけわしいひょうじょうをしたままきびすをかえすと、)

先生は険しい表情をしたまま踵を返すと、

(あしおともらんぼうにそのばからさってしまった。)

足音も乱暴にその場から去ってしまった。

(それをあわててゆきおがおいかける。のこされたおれたちはぼうぜんとするしかなかった。)

それを慌ててユキオが追いかける。残された俺たちは呆然とするしかなかった。

(しかしししょうはみょうにうれしそうなかおをしてこういう。)

しかし師匠は妙に嬉しそうな顔をしてこう言う。

(「あのじいさん、どこのものをつれてきたのか、といったね。)

「あの爺さん、どこのモノを連れてきたのか、と言ったね。

(そのものはしゃとかく”もの”じゃなくて、もののけの”もの”だぜ」)

そのモノはシャと書く”者”じゃなくて、モノノケの”物”だぜ」

(あるいは、おにとかくおに(もの)か・・・・・・)

あるいは、オニと書く鬼(モノ)か……

(ししょうはくすぐったそうにみをわずかによじる。)

師匠はくすぐったそうに身をわずかによじる。

(きょうすけさんがそのようすをつめたいめでみている。)

京介さんがその様子を冷たい目で見ている。

(やがてもういちどふすまがひらいて、せんせいのおくさんとおぼしきおばあさんが)

やがてもう一度襖が開いて、先生の奥さんと思しきお婆さんが

(しずしずとおれたちのまえにおちゃをならべてくれた。)

静々と俺たちの前にお茶を並べてくれた。

(「あの」くちをひらきかけたとき、ゆきおをともなってふたたびせんせいがみけんに)

「あの」口を開きかけた時、ユキオを伴って再び先生が眉間に

(しわをよせたままであらわれた。いれちがいにおばあさんがふすまのむこうにきえる。)

皺を寄せたままで現れた。入れ違いにお婆さんが襖の向こうに消える。

(ざぶとんをすっとひきよせながらせんせいはおれたちのまえにすわった。)

座布団をスッと引き寄せながら先生は俺たちの前に座った。

(ゆきおもあたまをかきながらそのよこにひかえる。)

ユキオも頭を掻きながらその横に控える。

(「で、」せんせいはふかいしわのおくからきびしくひかるがんこうをこちらにむけてくちをひらいた。)

「で、」先生は深い皺の奥から厳しく光る眼光をこちらに向けて口を開いた。

(「さきにいうちょくが、わしはほんらいおまんのようなもんをはらうやくめがある」)

「先に言うちょくが、わしは本来おまんのようなもんを祓う役目がある」

(そのめはししょうをみすえている。)

その目は師匠を見据えている。

(「そのうえでききたいことというがはなんぞ」)

「その上で聞きたいことというがはなんぞ」

(ししょうはひるんだようすもなくあっさりとくちをひらいた。)

師匠は怯んだ様子もなくあっさりと口を開いた。

(「いざなぎりゅうのべんきょうをすこし、させてもらいました。)

「いざなぎ流の勉強を少し、させてもらいました。

(みっきょう、おんみょうどう、しゅげんどう、そしてじゅごんどう。それらが)

密教、陰陽道、修験道、そして呪禁道。それらが

(こんぜんいったいとなっているようないんしょうをうけましたが、おんみょうどうのえいきょうが)

渾然一体となっているような印象を受けましたが、陰陽道の影響が

(かなりつよくでているようです。めいじ3ねんのあまこそしんどきんしれいと)

かなり強く出ているようです。明治3年の天社神道禁止令と

(そのあとのだんあつからつちみかどそうけはもちろん、うぞうむぞうのみんかんおんみょうじも)

その後の弾圧から土御門宗家はもちろん、有象無象の民間陰陽師も

(いきのねをとめられていったはずですが、このちではどうして)

息の根を止められていったはずですが、この地ではどうして

(こんなげんじつてきなかたちでのこっているのでしょう」)

こんな現実的な形で残っているのでしょう」

(せんせいはひょうじょうをくずさずに、「しらん」とだけこたえた。)

先生は表情を崩さずに、「知らん」とだけ答えた。

(「まあいいでしょう。ほうりつのふちってやつですか。そういえば)

「まあいいでしょう。法律の不知ってやつですか。そういえば

(「むささびもまじけん」ってのもぶたいはこのあたりじゃなかったかな。)

『むささび・もま事件』ってのも舞台はこのあたりじゃなかったかな。

(・・・・・・はなしがそれました。ともかくいざなぎりゅうはこのへいせいのじだいに、)

……話がそれました。ともかくいざなぎ流はこの平成の時代に、

(いまだにいんねんちょうぶくだとかびょうにんきとうだとかをしんけんにおこなっているばかりか、)

未だに因縁調伏だとか病人祈祷だとかを真剣に行っているばかりか、

(”しき”をうつこともあるそうですね」)

”式”を打つこともあるそうですね」

(「しきおうじのことか。・・・・・・なまはんかに、ことばばかり」)

「式王子のことか。……生半可に、言葉ばかり」

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