雨上がり-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(きのうからふっていたあめがあさがたにやみ、みちぞいにはきらきらとかがやく)

昨日から降っていた雨が朝がたに止み、道沿いにはキラキラと輝く

(みずたまりがいくつもできていた。だいがくにかいせいのはる。つゆにはまだすこしはやい。)

水溜りがいくつもできていた。大学2回生の春。梅雨にはまだ少し早い。

(たいきのそうをとうかして、やわらかくふりそそぐひかり。かるいあしどりでほどうをいく。)

大気の層を透過して、やわらかく降り注ぐ光。軽い足どりで歩道を行く。

(ひだまりのなかにたたずむようにばすていがあり、ふっといきをはいてもくめも)

陽だまりの中にたたずむようにバス停があり、ふっと息を吐いて木目も

(あざやかなべんちにこしをかける。はしのほうにすでにひとりすわっているひとがいた。)

鮮やかなベンチに腰を掛ける。端の方にすでに一人座っている人がいた。

(いっしゅん、しっているひとのようなきがしておどろいたが、すぐにべつじんだとわかり)

一瞬、知っている人のような気がして驚いたが、すぐに別人だとわかり

(ふかくすわりなおす。かみがたもぜんぜんちがう。)

深く座りなおす。髪型も全然違う。

(それにあのひとがここにいるはずはないのだから。)

それにあの人がここにいるはずはないのだから。

(ばすをまつあいだ、あのひとにはじめてあったのはいまごろのきせつだっただろうかと、)

バスを待つ間、あの人に初めて会ったのは今ごろの季節だっただろうかと、

(ふとおもう。いや、たしかもうつゆがはじまっていたころだった。)

ふと思う。いや、確かもう梅雨が始まっていたころだった。

(いちねんたらず、まえ。かのじょはべつのせかいへつうじるどあをあけてくれたひとのひとりだった。)

1年たらず、前。彼女は別の世界へ通じるドアを開けてくれた人の一人だった。

(そのどあをとおして、ふつうのせかいにいきているにんげんがなんねんかかったって)

そのドアを通して、普通の世界に生きている人間が何年掛かったって

(たいけんできないようなものをみたり、あじわったりしてきた。)

体験できないようなものを見たり、味わったりしてきた。

(もちろんどあなんて、ただのあんゆだ。)

もちろんドアなんて、ただの暗喩だ。

(けれどそれが、そこにあるもののようかんじていたのもじじつだった。)

けれどそれが、そこにあるもののよう感じていたのも事実だった。

(そのどあのひとつが、とじた。もうひらくことはないだろう。)

そのドアのひとつが、閉じた。もう開くことはないだろう。

(はるがきたころ、ひっそりとしまいこまれるふゆしょくのもののように、)

春が来たころ、ひっそりと仕舞い込まれる冬色の物のように、

(かのじょはさっていった。そのことをおもうとひどくかんしょうてきになるじぶんがいる。)

彼女は去っていった。そのことを思うとひどく感傷的になる自分がいる。

(けっきょく、きもちをつたえることはできなかった。)

結局、気持ちを伝えることはできなかった。

(それが、こころのふかいばしょにおりのようにたまり、そしてうずまいている。)

それが、心の深い場所に澱のように溜まり、そして渦巻いている。

など

(めのまえでからすがいちわ、ないてとびたった。)

目の前でカラスが一羽、鳴いて飛び立った。

(だれもとおるものもいないはるのばすていで、まどろむようにそんなことをかんがえている。)

だれも通る者もいない春のバス停で、まどろむようにそんなことを考えている。

(「ゆめをみるということは、ににているわ」)

「夢を見るということは、   に似ているわ」

(そらから、ぴあののねいろがきこえた。そんなきがした。)

空から、ピアノの音色が聞こえた。そんな気がした。

(べんちのはしにすわっているじょせいが、まえをむいたままもういちどいった。)

ベンチの端に座っている女性が、前を向いたままもう一度言った。

(「ゆめをみるということは、にもにている」)

「夢を見るということは、   にも似ている」

(はるのやわらかなじめんからこおりがわいてくるようなかんかくがあった。)

春のやわらかな地面から氷が沸いてくるような感覚があった。

(それがみしみしとしんぞうをしめつけはじめる。)

それがミシミシと心臓を締めつけはじめる。

(きゅうにさびついたようにうごかなくなったくびをそれでもわずかにめぐらせて、よこをみる。)

急に錆付いたように動かなくなった首をそれでもわずかに巡らせて、横を見る。

(かおをおおうかのようなながいくろかみのじょせい。)

顔を覆うかのような長い黒髪の女性。

(そらいろのわんぴーすからすらりとのびたあしが、かなりのちょうしんをおもわせる。)

空色のワンピースからすらりと伸びた足が、かなりの長身を思わせる。

(もういちどいった。「ゆめをみるということは、」)

もう一度言った。「夢を見るということは、    」

(また、いちぶぶんがきこえない。)

また、一部分が聞こえない。

(いや、きこえているのに、あたまのなかでにんしきされないような、ふしぎなかんかく。)

いや、聞こえているのに、頭の中で認識されないような、不思議な感覚。

(かのじょはめをとじている。「あなたはだれですか」わかっていた。)

彼女は目を閉じている。「あなたは誰ですか」わかっていた。

(だいのうのなかの、ふるいどうぶつてきなぶぶんがはんのうしている。)

大脳のなかの、古い動物的な部分が反応している。

(かのじょがだれなのかしっている、と。)

彼女が誰なのか知っている、と。

(「あのこがもっているものがほしかった。てにいれてもてにいれても、)

「あの子が持っているものが欲しかった。手に入れても手に入れても、

(しんきろうのようにきえた。これも、あのこと、おなじながさにした)

蜃気楼のように消えた。これも、あの子と、同じ長さにした

(つもりだったのだけれど」かのじょはひだりてでかみにふれた。)

つもりだったのだけれど」彼女は左手で髪に触れた。

(ほそく、しなやかなゆびだった。)

細く、しなやかな指だった。

(「たったひとつしかないものを、えいえんにてにいれるには、)

「たったひとつしかないものを、永遠に手に入れるには、

(ほうほうはたったひとつしかない。いちどは、それにとどいたとおもったのに」)

方法はたったひとつしかない。いちどは、それに届いたと思ったのに」

(このあめあがりのせいじょうなくうきに、あまりににつかわしいすずやかなこえだった。)

この雨上がりの清浄な空気に、あまりに似つかわしい涼やかな声だった。

(「あのてざわりが、まぼろしだったなんて」すっとてをおろした。)

「あの手ざわりが、まぼろしだったなんて」すっと手を下ろした。

(めをとじたまままえをむいている。そのよこがおからめをそらせない。)

目を閉じたまま前を向いている。その横顔から目を逸らせない。

(わかりはじめた。おなじながさ。だったのだろう。かのじょにとって。)

わかりはじめた。同じ長さ。だったのだろう。彼女にとって。

(あのひ、あのひとはじぶんの「はんしん」をうしなった。そのなぞがいまとけた。)

あの日、あの人は自分の「半身」を失った。その謎が今解けた。

(「めが・・・・・・」みえないんですね。そういおうとして、)

「目が・・・・・・」見えないんですね。そう言おうとして、

(ことばがちゅうにきえた。しゃべっているのに、あたまのなかでにんしきされないような、かんかく。)

言葉が宙に消えた。喋っているのに、頭の中で認識されないような、感覚。

(こうていするようにしろいてがべんちのうえにねかせているつえをひきよせる。)

肯定するように白い手がベンチの上に寝かせている杖を引き寄せる。

(「あのこのたったひとつしかないものはてにはいらなかったけれど、)

「あの子のたったひとつしかないものは手に入らなかったけれど、

(かわりにすばらしいせかいをもらったわ」おんがくのようにことばがみみをくすぐる。)

かわりにすばらしい世界をもらったわ」音楽のように言葉が耳をくすぐる。

(まるでまやくだ。そのこえをもっとききたい。)

まるで麻薬だ。その声をもっと聞きたい。

(こわれやすいほうせきのように、かいわはつづく。)

壊れやすい宝石のように、会話は続く。

(「よるがそのいりぐちになり、わたしはこいをしったしょうじょのようにあたらしいせかいを)

「夜がその入り口になり、わたしは恋を知った少女のように新しい世界を

(まっている。ねむりがたまごになり、わたしはそれをいだいてあたためる。)

俟っている。眠りが卵になり、わたしはそれを抱いてあたためる。

(そしてゆめをみるということは」ことばがきえる。けれどわかる。)

そして夢を見るということは    」言葉が消える。けれどわかる。

(かのじょは、あのひとのあくむをてにいれたのだ。)

彼女は、あの人の悪夢を手に入れたのだ。

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