鋏-2-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | tetsumi | 5148 | B+ | 5.3 | 96.6% | 929.0 | 4956 | 173 | 90 | 2024/10/25 |
2 | 上半身が痛い | 4488 | C+ | 4.7 | 95.2% | 1021.3 | 4827 | 243 | 90 | 2024/11/07 |
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問題文
(おれはおれんじじゅーすを、おんきょうはぱいんじゅーすをちゅうもんして)
俺はオレンジジュースを、音響はパインジュースを注文して
(よこならびのせきにつくと、ひとときのあいだちんもくがおりてがらすごしにみえる)
横並びの席に着くと、ひと時のあいだ沈黙が降りてガラス越しに見える
(よるのまちにしばしめをむけていた。やがてかみがたたれるようなかすかなおとが)
夜の街に暫し目を向けていた。やがて紙が裁たれるようなかすかな音が
(きこえたきがして、てんないにしせんをうつす。するとおんきょうがまえをむいたまま)
聞こえた気がして、店内に視線を移す。すると音響が前を向いたまま
(てもとのかみでできたこーすたーをまるでむいしきのようにさいている。)
手元の紙で出来たコースターをまるで無意識のように裂いている。
(おれのふかかいなしせんにきがついてか、かのじょはてをとめて)
俺の不可解な視線に気がついてか、彼女は手を止めて
(きれはしのひとつをゆびではじいてみせる。)
切れ端のひとつを指で弾いて見せる。
(「がっこうのちかくのやまに、はさみさまってかみさまがいてね。)
「学校の近くの山に、鋏様ってカミサマがいてね。
(やぶのなかにかくれてて、しってなきゃぜったいみつかんないようなとこなんだけど。)
藪の中に隠れてて、知ってなきゃ絶対見つかんないようなトコなんだけど。
(みためはふつうのふるいおじぞうさまで、おなじようなのがみっつよこにならんでる。)
見た目は普通の古いお地蔵様で、同じようなのが3つ横に並んでる。
(でもそのなかのひとつがはさみさま。どれがはさみさまかはよるに)
でもその中のひとつが鋏様。どれが鋏様かは夜に
(ひとりでいかないとわからない」すらすらとしゃべっているようで、)
1人で行かないとわからない」スラスラと喋っているようで、
(そのこえにはきんちょうかんがひそんでいる。おれはすこしかのじょをとめて、)
その声には緊張感が潜んでいる。俺は少し彼女を止めて、
(「なに?それはがっこうではやってるなにかなの」ととうと、「)
「なに? それは学校で流行ってる何かなの」と問うと、「
(そう」というこたえがかえってきた。)
そう」という答えが返ってきた。
(「そのはさみさまに、じぶんがふだんつかってるはさみをそなえて、なまえをさんかいとなえる。)
「その鋏様に、自分が普段使ってるハサミを供えて、名前を3回唱える。
(するとちかいうちにそのなまえをとなえられたこがかみをきることになる」)
すると近いうちにその名前を唱えられたコが髪を切ることになる」
(おまじないのるいか。じょしこうせいらしいといえばじょしこうせいらしい。)
おまじないの類か。女子高生らしいといえば女子高生らしい。
(「そのかみをきるってのは、やっぱりしつれんのあんゆ?」)
「その髪を切るってのは、やっぱり失恋の暗喩?」
(「そう。ようするにじぶんのすきなだんしにもーしょんかけてるおんなを)
「そう。ようするに自分の好きな男子にモーションかけてる女を
(ふられるようにしむけるのろい。すでにできあがってるかっぷるにもきく」)
振られるように仕向ける呪い。すでに出来上がってるカップルにも効く」
(そういいながらじぶんのまえがみをひとさしゆびとなかゆびではさむまねをする。)
そう言いながら自分の前髪を人差し指と中指で挟む真似をする。
(いんしつだ。おもったままをくちにすると、くろまじゅつさーくるのおふかいに)
陰湿だ。思ったままを口にすると、黒魔術サークルのオフ会に
(きてるおとこにはいわれたくないとれいせいにぎゃくしゅうされた。)
来てる男には言われたくないと冷静に逆襲された。
(「で、そのはさみさまのせいでなにかこまったことがおこったわけだ?」)
「で、その鋏様のせいでなにか困ったことが起こったわけだ?」
(おんきょうはぱいんじゅーすにようやくくちをつけ、すこしかんがえこむそぶりをみせた。)
音響はパインジュースにようやく口をつけ、少し考え込むそぶりを見せた。
(そのよこがおには、ねんれいそうおうのとまどいとつめたくおとなびたひょうじょうがいりまじっている。)
その横顔には、年齢相応の戸惑いと冷たく大人びた表情が入り混じっている。
(「うちのくらすでなんにんかそんなことをしてるってはなしをきいて、ためしてみた」)
「うちのクラスで何人かそんなコトをしてるって話を聞いて、試してみた」
(「じぶんのはさみで?」「あかいやつ。しょうがっこうからつかってる。)
「自分のハサミで?」「赤いやつ。小学校から使ってる。
(よなかにひとりでやまにあがって、くさをかきわけてると)
夜中にひとりで山にあがって、草を掻き分けてると
(おじぞうさんのあたまがみえて、それからめをつぶってはさみさまをさがした」)
お地蔵さんの頭が見えて、それから目をつぶって鋏様を探した」
(「めをとじないとみつからない?」)
「目を閉じないと見つからない?」
(「あけてると、わからない。ぜんぶおなじにみえる」)
「開けてると、わからない。全部同じに見える」
(「まんなかとか、みぎはしとか、さきにおまじないしてるこにきけないのか」)
「真ん中とか、右端とか、先におまじないしてる子に聞けないのか」
(「きけない」「ひみつをおしえたらのろいがきかなくなるとか?」「そう」)
「聞けない」「秘密を教えたら呪いが効かなくなるとか?」「そう」
(「めをとじてどうやってさがす?」「てさぐりで、さわる」)
「目を閉じてどうやって探す?」「手探りで、触る」
(「さわってわかるもんなの?」「かみのけがはえてる」)
「触って分かるもんなの?」「髪の毛が生えてる」
(おんきょうがそのことばをはっしたとたん、ふたたびかみのせんいがさいだんされるおとが)
音響がその言葉を発した途端、再び紙の繊維が裁断される音が
(おれのみみにとどいた。ぞくりとしてみをおこす。)
俺の耳に届いた。ぞくりとして身を起こす。
(いつのまにかくろいながそでのすそからほそいゆびがのびて、)
いつのまにか黒い長袖の裾から細い指が伸びて、
(おれのこーすたーをしずかにひきさいている。)
俺のコースターを静かに引き裂いている。
(いつ、ぐらすをもちあげられたのかもわからなかった。)
いつ、グラスを持ち上げられたのかも分からなかった。
(おそるおそる、「いま、じぶんがしてることがわかってる?」ときくと、)
恐る恐る、「今、自分がしてることがわかってる?」と聞くと、
(「わかってる」とすこしいらだったようなこえがかえってきた。)
「わかってる」と少し苛立ったような声が返ってきた。
(おれはあえてそれいじょうついきゅうせず、かわりに「かみのけって、こけかなにか?」)
俺はあえてそれ以上追及せず、代わりに「髪の毛って、苔かなにか?」
(とといかけた。おんきょうはそれにはこたえず、「しっ。ちょっとまって」と)
と問いかけた。音響はそれには答えず、「シッ。ちょっと待って」と
(うごきをとめる。ためいきをついておれんじじゅーすにてをのばしかけたとき、)
動きを止める。溜息をついてオレンジジュースに手を伸ばしかけた時、
(なにかいやなかんじのするくうきのかたまりがせなかのすぐうしろをとおりすぎたようなきがした。)
なにか嫌な感じのする空気の塊が背中のすぐ後ろを通り過ぎたような気がした。
(みぶんかの、まだけはいにもなっていないようなのうみつなくうきが。)
未分化の、まだ気配にもなっていないような濃密な空気が。
(しゅういには、あかるいてんないでよふかしをしているわかものたちのこえが)
周囲には、明るい店内で夜更かしをしている若者たちの声が
(なにごともなくとびかっている。そのただなかでみをかたまらせているおれは、)
何ごともなく飛び交っている。その只中で身を固まらせている俺は、
(おなじようにひょうじょうをこわばらせているとなりのしょうじょに、ことばにしがたい)
同じように表情を強張らせている隣の少女に、言葉にし難い
(なかまいしきのようなものをかんじていた。)
仲間意識のようなものを感じていた。
(いやなかんじがさったあと、やがてふかくいきをはきかのじょは)
嫌な感じが去ったあと、やがて深く息を吐き彼女は
(「とにかく」といった。「わたしはあかいはさみをはさみさまにそなえて、)
「とにかく」と言った。「私は赤いハサミを鋏様に供えて、
(なまえをさんべんとなえた」めをふせたまま、ながいまつげがかすかにふるえている。)
名前を3べん唱えた」目を伏せたまま、長い睫がかすかに震えている。
(「だれの」ききようによってはげせわなといだったかもしれないが、)
「誰の」聞き様によっては下世話な問いだったかも知れないが、
(たいはなくはんしゃてきにそうきいたのだった。)
他意は無く反射的にそう聞いたのだった。
(「わたしの」そのことばをきいたしゅんかん、おれのなかのりせいてきなぶぶんが)
「私の」その言葉を聞いた瞬間、俺の中の理性的な部分が
(くびをかしげ くびをかしげたまま、めにみえないべつのせかいに)
首をかしげ 首をかしげたまま、目に見えない別の世界に
(つうじているどあがわずかにひらくような、)
通じているドアがわずかに開くような、
(どこかなつかしいかんかくにおそわれたきがした。)
どこか懐かしい感覚に襲われた気がした。
(「なぜ」「だって、なにがおこるのか、しりたかったから」)
「なぜ」「だって、何が起こるのか、知りたかったから」
(ああ。かのじょもまた、くらいふちにたっている。そうおもった。)
ああ。彼女もまた、暗い淵に立っている。そう思った。
(「で、なにがおこった」おれのことばに、きえいりそうなこえがかえってきた。)
「で、何が起こった」俺の言葉に、消え入りそうな声が帰ってきた。
(はさみのおとがきこえる・・・・・・)
ハサミの音が聞こえる……
(「ちょっとまった。はさみってのは、しつれんでかみを)
「ちょっと待った。ハサミってのは、失恋で髪を
(きるはめになるっていうひゆじゃないのか」)
切る羽目になるっていう比喩じゃないのか」
(「わからない」かのじょはあたまをふった。)
「わからない」彼女は頭を振った。
(「だって、いますきなおとこなんていないし。しつれんしようがないじゃない」)
「だって、いま好きな男なんていないし。失恋しようがないじゃない」
(そのことばがしんじつなのかはんだんがつかなかったが、おれはつづけてといかけた。)
その言葉が真実なのか判断がつかなかったが、俺は続けて問いかけた。
(「そのくらすのなかまになまえをとなえられたおんなのなかで、じっさいにかみをきった、)
「そのクラスの仲間に名前を唱えられた女の中で、実際に髪を切った、
(もしくは<きられた>やつはいるか」)
もしくは《切られた》やつはいるか」
(「しらない。ほんとにふられたこがいるってはなしはきいたけど、)
「知らない。ホントに振られたコがいるって話は聞いたけど、
(かみのけきったかどうかまではわからない」)
髪の毛切ったかどうかまでは分からない」
(「その、はさみさまのところにおいてきたはさみはどうした」)
「その、鋏様の所に置いてきたハサミはどうした」
(「・・・・・・ほんとはみにいっちゃいけないってことになってるんだけど、)
「……ほんとは見にいっちゃいけないってことになってるんだけど、
(おとといもういちどいってみたら・・・・・・」なくなってた。)
おとといもう一度行ってみたら……」無くなってた。
(おんきょうはよくようのうすいこえをひそめると、「どうしたらいいとおもう?」とつづけ、)
音響は抑揚の薄い声を顰めると、「どうしたらいいと思う?」と続け、
(かおをあげた。「そのまえにもうすこしおしえてほしい。)
顔を上げた。「その前にもう少し教えて欲しい。
(はさみはいっこもなかった?じぶんのじゃないやつも?」)
ハサミは一個も無かった? 自分のじゃないやつも?」
(うなずくのをみて、ふにおちないきもちになる。)
頷くのを見て、腑に落ちない気持ちになる。
(「おまじないのぎしきとしては、はさみはそなえっぱなしで)
「おまじないの儀式としては、ハサミは供えっぱなしで
(とりにもどっちゃいけないってことじゃないのか?)
取りに戻っちゃいけないってことじゃないのか?
(だったら、どうしてまえのひとがおいたはずのはさみがないんだ」)
だったら、どうして前の人が置いたはずのハサミが無いんだ」
(ねがいがかなったらとりにもどるというはなしになっているのかときいても、)
願いが叶ったら取りに戻るという話になっているのかと聞いても、
(ちがうという。だれかがじぞうのていれをしてるようなようすはあったか、)
違うという。誰かが地蔵の手入れをしてるような様子はあったか、
(ときいたが、かんぜんにうちすてられているようなばしょで、)
と聞いたが、完全に打ち捨てられているような場所で、
(ざっそうはぼうぼう、はなのひとつもかざられていない、)
雑草はボウボウ、花の一つも飾られていない、
(ひとからわすれさられているようなじょうたいだというのだ。)
人から忘れ去られているような状態だというのだ。