貯水池-4-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってしまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5537 A 5.6 97.7% 776.9 4402 100 77 2024/11/08
2 じゅん 4177 C 4.4 94.0% 944.1 4211 267 77 2024/11/13

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問題文

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(そのぜつぼうてきなそうぞうに、ぼくはしゃがみこんだ。うつむいてじめんだけをみている。)

その絶望的な想像に、僕はしゃがみこんだ。俯いて地面だけを見ている。

(ししょうはなにをかんがえているのだろう。ぼくにはわからないしんじゅうというみちをえらんだ)

師匠は何を考えているのだろう。僕には分からない心中という道を選んだ

(ははおやのこころをそうぞうしているのだろうか。すこし、さむくなってきた。)

母親の心を想像しているのだろうか。少し、寒くなってきた。

(くるまから、つけっぱなしのいながわじゅんじのこえがかすかにながれてくる。)

車から、つけっぱなしの稲川淳二の声が微かに流れてくる。

(ししょうはそれがきこえていたのか、ふいにくすっとわらうときびすをかえして)

師匠はそれが聞こえていたのか、ふいにクスッと笑うと踵を返して

(「ばってりーがあがる。かえろう」といった。かしゃんというおとがひびき、)

「バッテリーがあがる。帰ろう」と言った。カシャンという音が響き、

(ししょうの、ふぇんすをにぎっていたゆびがはなれたのか、ぼくもわれにかえってふりむきながら)

師匠の、フェンスを握っていた指が離れたのか、僕も我に返って振り向きながら

(たちあがった。そのつぎのしゅんかん。めのまえに、かべがあることにきがついた。)

立ち上がった。その次の瞬間。目の前に、壁があることに気がついた。

(いびつなひしがたをしたかなあみのこうし。それがぼくのからだにぶつかったのだ。)

いびつな菱形をした金網の格子。それが僕の体にぶつかったのだ。

(こうしのむこうには、くるまのらいととそこへあるいてくししょうのせなかがある。)

格子の向こうには、車のライトとそこへ歩いてく師匠の背中がある。

(とりはだがぜんしんにたつ。しんぞうがはやがねのようになる。)

鳥肌が全身に立つ。心臓が早鐘のように鳴る。

(いつのまに、ぼくは、ふぇんすのうちがわにいたのか。)

いつの間に、僕は、フェンスの内側にいたのか。

(「ししょうーっ!」こうしにゆびをかけながら、おもいきりさけんだ。)

「師匠ーっ!」格子に指をかけながら、思い切り叫んだ。

(そのしゅんかん、ししょうはふりかえり、めをむいてぼくをみた。)

その瞬間、師匠は振り返り、目を剥いて僕を見た。

(「いつのまになかにはいった」しぜん、こえがおおきい。はいってなんかいない。)

「いつの間に中に入った」自然、声が大きい。入ってなんかいない。

(どうやってこのてつじょうもうつきのたかいふぇんすのうちがわにはいれるというのか。)

どうやってこの鉄条網つきの高いフェンスの内側に入れるというのか。

(・・・・・・けれどたしかにここはふぇんすのうちがわなのだ。)

……けれど確かにここはフェンスの内側なのだ。

(ばちゃん。というおとがして、はいごをみた。)

ばちゃん。という音がして、背後を見た。

(ちょすいちのくろぐろとしたすいめんに、なにかてのようなものがつきだされている。)

貯水池の黒々とした水面に、なにか手のようなものが突き出されている。

(それがじめんをつかみ、ぬるぬるひかるどろのようなものをまといながら)

それが地面を掴み、ヌルヌル光る泥のようなものを纏いながら

など

(はいあがろうとしていた。)

這い上がろうとしていた。

(「しりぞいてろ」というこえとともに、ししょうのきんぞくばっとがふぇんすをおうだする。)

「退いてろ」という声とともに、師匠の金属バットがフェンスを殴打する。

(しかしちいさなひばながちっただけで、しょうげきはなみのようにさゆうへひろがるだけだった。)

しかし小さな火花が散っただけで、衝撃は波のように左右へ広がるだけだった。

(べちゃんべちゃんというきもちのわるいおとがじめんをたたき、)

べちゃんべちゃんという気持ちの悪い音が地面を叩き、

(ちいさくてくろいものがしゃめんをよじのぼってくる。)

小さくて黒いものが斜面をよじ登ってくる。

(「でいりぐちは!」)

「出入り口は!」

(「はんたいがわです」しんぞうがとまりそうなきょうふをあじわいながらも、ぼくはせいかくにこたえた。)

「反対側です」心臓が止まりそうな恐怖を味わいながらも、僕は正確に答えた。

(「でもきんぞくのかぎがかかってます」「ふぇんすのしたをほれないか」)

「でも金属の鍵が掛かってます」「フェンスの下を掘れないか」

(「むりそうです」ししょうのしたうちがきこえた。さっとはしりさるけはい。)

「無理そうです」師匠の舌打ちが聞こえた。サッと走り去る気配。

(ぼくはくだけそうになるあしこしを、かろうじてささえながらちょすいちにせいたいした。)

僕はくだけそうになる足腰を、かろうじて支えながら貯水池に正対した。

(しゃめんにどろのあとをのこしながら、ちいさくてくろいものがこちらにはってきている。)

斜面に泥の跡を残しながら、小さくて黒いものがこちらに這って来ている。

(くろいふーどのひとかげにはあった、わずかなひとのいしというものが、)

黒いフードの人影にはあった、わずかなヒトの意思というものが、

(このちいさいくろいものからはいっさいかんじられない。)

この小さい黒いものからは一切感じられない。

(ただ、こわいもの。きけんなもの。いやなもの。そしてぜったいにたすからないもの。)

ただ、怖いもの。危険なもの。嫌なもの。そして絶対に助からないもの。

(すいめんからつづくどろのすじが、まるでへそのおのようにのびている。)

水面から続く泥の筋が、まるで臍の緒のように伸びている。

(ぼくはこんらんするあたまで、なにをするべきかかんがえた。)

僕は混乱する頭で、なにをするべきか考えた。

(ははおやのたましいがすくわれるてだすけをしようとしたから、こうなったのか。)

母親の魂が救われる手助けをしようとしたから、こうなったのか。

(だったら、もうそんなことはしないということをつたえなければ。)

だったら、もうそんなことはしないということを伝えなければ。

(そうおもっても、そのちいさくてくろいものにむかうとなぜかこえが)

そう思っても、その小さくて黒いものに向かうと何故か声が

(かすれてでてこないのだった。ちょすいちのまわりをはしりまわってにげる?)

掠れて出てこないのだった。貯水池のまわりを走り回って逃げる?

(とじられたふぇんすのかこいのなかでずっとそうしてるというのか。)

閉じられたフェンスの囲いの中でずっとそうしてるというのか。

(ぼくはこころがおれていくのをかんじていた。)

僕は心が折れていくのを感じていた。

(じーんずのおしりがつめたいつちのかんしょくにふれ、)

ジーンズのお尻が冷たい土の感触にふれ、

((ああぼくはもうすわりこむしかないんだな)とげんじつからかいりしたような)

(ああ僕はもう座り込むしかないんだな)と現実から乖離したような

(しこうがふわふわとただよった。つぎのしゅんかん、ごうおんがした。)

思考がふわふわと漂った。次の瞬間、轟音がした。

(たいやがあすふぁるとをひっかくおととともに、くるまのふろんとが)

タイヤがアスファルトを引っ掻く音とともに、車のフロントが

(ふぇんすにつっこんできた。きんぞくのこげたようなにおいがして、)

フェンスに突っ込んできた。金属の焦げたような匂いがして、

(ふぇんすがかぜをはらんだようにおおきくひしゃげている。)

フェンスが風を孕んだように大きくひしゃげている。

(たわんだかなあみのやぶれめからなにかをさけびながらししょうがてをのばした。)

たわんだ金網の破れ目から何かを叫びながら師匠が手を伸ばした。

(ぼくはそのしゅんかんにたちあがり、きんぞくのえいりなとっきにふくをひっかけながらも)

僕はその瞬間に立ち上がり、金属の鋭利な突起に服を引っ掛けながらも

(だっしゅつすることにせいこうする。すぐにくるまはたいやをすりへらしながら、)

脱出することに成功する。すぐに車はタイヤをすり減らしながら、

(ごういんにばっくでかなあみからぬけだし、ぼくをじょしゅせきにのせてはしりだした。)

強引にバックで金網から抜け出し、僕を助手席に乗せて走り出した。

(うしろはふりかえらなかった。そのわずかなあいだにいろいろなことをかんがえたとおもう。)

後ろは振り返らなかった。そのわずかな間に色々なことを考えたと思う。

(でももうおぼえていない。そしてぼくはたすかった。)

でももう覚えていない。そして僕は助かった。

(ししょうのあぱーとにもどってきたとき、かぎもかけてないどあをあっさりとひねると、)

師匠のアパートに戻ってきた時、鍵も掛けてないドアをあっさりと捻ると、

(なぜだかわらいがこみあげてきた。)

なぜだか笑いが込み上げてきた。

(このおかるとどうのせんだつにとって、ほんとうにこわいものはかぎなど)

このオカルト道の先達にとって、本当に怖いものは鍵など

(つうようしないそんざいなのだと、いまさらながらきづいたのだ。)

通用しない存在なのだと、今さらながら気づいたのだ。

(どあはどあでありさえすればよく、かぎはきんきゅうじのじぶんのこうどうを)

ドアはドアでありさえすればよく、鍵は緊急時の自分の行動を

(せいげんしてしまうだけなのだと。)

制限してしまうだけなのだと。

(「こわいめにあわせたなぁ」)

「怖い目に遭わせたなぁ」

(へやのでんきをつけながら、ししょうはあまりすまなそうでもなくいう。)

部屋の電気をつけながら、師匠はあまり済まなそうでもなく言う。

(「ちびりました」ぼくのことばに、ししょうは「おとこもののしたぎはないぞ」といやなかおをした。)

「ちびりました」僕の言葉に、師匠は「男物の下着はないぞ」と嫌な顔をした。

(じょうだんですよとかえしながら、ぼくはくるまのことをあやまった。)

冗談ですよと返しながら、僕は車のことを謝った。

(ふろんとにきずがついてしまったはずだ。)

フロントに傷がついてしまったはずだ。

(それよりも、あのはかいしたふぇんす・・・・・・「なんとでもなる」)

それよりも、あの破壊したフェンス……「なんとでもなる」

(そんなことより、すぱげてぃののこりをくうかといって、)

そんなことより、スパゲティの残りを食うかと言って、

(ししょうはあと200ぐらむほどのこったたばをほぐしはじめた。)

師匠はあと200グラムほど残った束をほぐし始めた。

(「だいえっとじゃないんですか」とこえをかけると、)

「ダイエットじゃないんですか」と声を掛けると、

(「ぱわーぶそくをつうかんした」といってうしろもみずに)

「パワー不足を痛感した」と言って後ろも見ずに

(かべにたてかけたきんぞくばっとをゆびさす。)

壁に立てかけた金属バットを指さす。

(「ぼうはんなら、それよりもぼでぃーがーどをおきませんか」)

「防犯なら、それよりもボディーガードを置きませんか」

(ぼくなりに、しんけんないみをこめていったつもりだった。)

僕なりに、真剣な意味を込めて言ったつもりだった。

(それがつたわったのか、ししょうはだいどころからきちんとこちらにふりむいて、)

それが伝わったのか、師匠は台所からきちんとこちらに振り向いて、

(「さっきのれいがせなかにくっついてきてるのに)

「さっきの霊が背中にくっついて来てるのに

(きづかないやつにはむりだな」といった。)

気づかないやつには無理だな」と言った。

(ぼくはひめいをあげて、とびあがった。「うそだうそ」わらうししょう。)

僕は悲鳴を挙げて、飛び上がった。「ウソだウソ」笑う師匠。

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