エレベーター-3-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってしまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 tetsumi 5347 B++ 5.5 97.2% 793.1 4363 122 81 2024/11/12

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問題文

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(「そうぞうって、じはつてきなものとはかぎらないだろう。)

『想像って、自発的なものとは限らないだろう。

(ばばぬきのさいごのにたくでかたほうだけとりやすいようにすこしでっぱってたら、)

ババ抜きの最後の2択で片方だけ取り易いように少し出っ張ってたら、

(そっちがばばじゃないかってそうぞうするよな。)

そっちがババじゃないかって想像するよな。

(なにかにゆうはつされるそうぞうもあるってことだ。)

なにかに誘発される想像もあるってことだ。

(もしめにみえないじょーかーをしかくいがいのなにかでちかくしたなら、)

もし目に見えないジョーカーを視覚以外のなにかで知覚したなら、

(それはそうぞうのかわをかぶってあらわれるかもしれない」)

それは想像の皮を被って現れるかも知れない』

(もってまわったひょうげんだが、おれはそれをかれなりのけいこくととらえている。)

もって回った表現だが、俺はそれを彼なりの警告と捉えている。

(つまり、かんじたきょうふをおろそかにするなということなのだろう。)

つまり、感じた恐怖を疎かにするなということなのだろう。

(けれど、あまりしんけんにはうけとっていない。)

けれど、あまり真剣には受け取っていない。

(そんなそうぞうをこそ、もうそうというのだろうから。)

そんな想像をこそ、妄想というのだろうから。

(「で、どうする」)

「で、どうする」

(ちっちっ、というおとがして、いしころがほそうれんがのうえをすべっていく。)

チッチッ、という音がして、石ころが舗装レンガの上を滑っていく。

(なんにんかのこどもがそのあとをかけぬける。)

何人かの子どもがそのあとを駆け抜ける。

(まんしょんのかべにさえぎられてそのすがたがみえなくなっても、)

マンションの壁に遮られてその姿が見えなくなっても、

(ながくのびたかげだけが、なにかのぎがのようにうごめいてじめんをのたうっている。)

長く伸びた影だけが、何かの戯画のように蠢いて地面をのたうっている。

(おれはそちらにゆっくりとあるいていき、こえをかけた。)

俺はそちらにゆっくりと歩いていき、声をかけた。

(「このまんしょんのこ?」)

「このマンションの子?」

(ぎょっとしたひょうじょうでぜんいんのうごきがとまる。)

ギョッとした表情で全員の動きが止まる。

(ろく,しちにんいただだろうか。)

6,7人いただだろうか。

(しょうがっこうこうがくねんとおぼしきひとりがうたぐりぶかそうなめで「なんですか」といった。)

小学校高学年と思しき一人が疑り深そうな目で「なんですか」と言った。

など

(「ちょっとききたいんだけど」とまをおかずにきりだして、)

「ちょっとききたいんだけど」と間を置かずに切り出して、

(このまんしょんのえれべーたーでなにかおかしなことはないかときいた。)

このマンションのエレベーターで何かおかしなことはないかと訊いた。

(いっしゅんかおをみあわせるけはいがあったが、おずおずとひとりがだいひょうして)

一瞬顔を見合わせる気配があったが、おずおずと一人が代表して

(「しりません」とこたえる。えれべーたーじゃなくてもいいけど、)

「知りません」と答える。エレベーターじゃなくてもいいけど、

(おばけがでるとかいううわさがないか、かさねてきいていると、)

オバケが出るとかいう噂がないか、重ねてきいていると、

(すでにうしろのほうにいたなんにんかがいしころをふたたびけとばしてはしりはじめた。)

すでに後ろの方にいた何人かが石ころを再び蹴飛ばして走り始めた。

(だいひょうのおとこのこもそちらにきをひかれて、もじもじしている。)

代表の男の子もそちらに気を引かれて、もじもじしている。

(「なにかへんなものをみたとか、そういうこときいたことないかな」)

「何か変なものを見たとか、そういうこと聞いたことないかな」

(おとこのこはきみのわるそうなかおをして、「ないです」とちいさなこえでなんどかくりかえし、)

男の子は気味の悪そうな顔をして、「ナイデス」と小さな声で何度か繰り返し、

(すぐうしろにいたこに「おい、いこうぜ」とつつかれてから)

すぐ後ろにいた子に「おい、行こうぜ」とつつかれてから

(くるりとせをむけてはしりさっていった。)

クルリと背を向けて走り去っていった。

(「あ~あ」ゆうじんがためいきをついた。)

「あ~あ」友人がため息をついた。

(こどもはこういうはなし、すきそうなのに。とつぶやく。)

子どもはこういう話、好きそうなのに。と呟く。

(「おとなにもきく?」ととうおれに、「う~ん」ときのりしないへんじをして、)

「大人にも聞く?」と問う俺に、「う~ん」と気乗りしない返事をして、

(かれはかたわらのぶらんこにあしをかけた。)

彼は傍らのブランコに足をかけた。

(「にがてなんだよな。ここのひとたち」「どうして」)

「苦手なんだよな。ここの人たち」「どうして」

(おれももうひとつのぶらんこにこしをかける。)

俺ももう一つのブランコに腰をかける。

(きいきいとくさりをきしませながらゆうじんは「おれのじっかはいなかでさあ」と)

キイキイと鎖を軋ませながら友人は「オレの実家は田舎でさあ」と

(はなしはじめた。となりきんじょはすべてかおみしりだったこと。)

話し始めた。隣近所はすべて顔見知りだったこと。

(きんじょづきあいはとくいなほうではなかったが、みちであえばあいさつはするし、)

近所づきあいは得意な方ではなかったが、道で会えば挨拶はするし、

(しょくじによばれることもあったし、いたずらがばれてしかられたりもした。)

食事に呼ばれることもあったし、いたずらがばれて叱られたりもした。

(よくもわるくも、そこではにんげんかんけいがのうみつだった。)

良くも悪くも、そこでは人間関係が濃密だった。

(けれどだいがくにはいり、ここでひとりぐらしをはじめてから)

けれど大学に入り、ここで一人暮らしを始めてから

(となりきんじょのひととのこうりゅうがまったくなくなっていること。)

隣近所の人との交流がまったく無くなっていること。

(「さいしょはあいさつしてたんだけど、はんのうがさ、うすいんだよね。)

「最初は挨拶してたんだけど、反応がさ、薄いんだよね。

(しーんとしてるせまいつうろですれちがっても、こう、えしゃくするだけ。)

シーンとしてる狭い通路ですれ違っても、こう、会釈するだけ。

(たちばなしなんてしないし、となりのいえのこどもが)

立ち話なんてしないし、隣の家の子どもが

(ふたりなのかさんにんなのかしらないんだぜ、おれ」)

二人なのか三人なのか知らないんだぜ、オレ」

(ゆうじんのいいたいことはおれにもわかった。)

友人の言いたいことは俺にも分かった。

(おれじしん、いまのあぱーとにこしてから、おなじあぱーとのじゅうにんと)

俺自身、今のアパートに越してから、同じアパートの住人と

(ほとんどかいわをかわしていない。)

ほとんど会話を交わしていない。

(がくせいむきのぶっけんということもあったが、せいかつじかんもみんなちがうし、)

学生向きの物件ということもあったが、生活時間もみんな違うし、

(となりのひとのかおもしらない。しりたいともおもわない。)

隣の人の顔も知らない。知りたいとも思わない。

(すれちがってもみょうなきまずさがあるだけだ。)

すれ違っても妙な気まずさがあるだけだ。

(「むかんしんなんだよな」ゆうじんはぼそりといった。)

「無関心なんだよな」友人はぼそりと言った。

(そうとも。そしておれたちもそれにそまりつつある。)

そうとも。そして俺たちもそれに染まりつつある。

(こんなふうにみっしゅうしていきていると、みんなこうなっていくのだろうか。)

こんな風に密集して生きていると、みんなこうなっていくのだろうか。

(ふと、こうこうのころにならったばったのぐんせいしょうのはなしをおもいだした。)

ふと、高校の頃に習ったバッタの群生相の話を思い出した。

(でぱーとのえれべーたーならそれほどでもないのに」)

デパートのエレベーターならそれほどでもないのに」

(「しらないじゅうにんとさ、えれべーたーにのりあわせたらすごくいきがつまるよ。)

「知らない住人とさ、エレベーターに乗り合わせたら凄く息が詰まるよ。

(かおをあげると、ひがおちてうすやみがおりてきたまんしょんのなかへ、)

顔を上げると、日が落ちて薄闇が降りてきたマンションの中へ、

(かおもみえないだれかのうしろすがたがすいこまれていくところだった。)

顔も見えない誰かの後ろ姿が吸い込まれていくところだった。

(きいきいというおとだけがひびく。とくめいだ。なにもかもがとくめいだ。)

キイキイという音だけが響く。匿名だ。何もかもが匿名だ。

(とくめいのままこのきょだいなこうぞうぶつのなかをむすうのひとびとがかげのようにうごめいている。)

匿名のままこの巨大な構造物の中を無数の人々が影のように蠢いている。

(そうして、こいちじかんむいにぶらんこをこいでいたおれたちだったが、)

そうして、小一時間無為にブランコを漕いでいた俺たちだったが、

(あたりがすっかりくらくなりこばらもすいてきたのでもうかえろうと)

あたりがすっかり暗くなり小腹も空いてきたのでもう帰ろうと

(こしをうかしかけたときだった。phsにちゃくしんがあり、でてみると)

腰を浮かしかけた時だった。PHSに着信があり、出てみると

(おれにくだんの「めにみえないじょーかー」のちゅうこくをしたひとからだった。)

俺にくだんの「目に見えないジョーカー」の忠告をした人からだった。

(おれのおかるとどうのししょうだ。あさっていくよていのしんれいすぽっとについての)

俺のオカルト道の師匠だ。明後日行く予定の心霊スポットについての

(かくにんのでんわだったが、おれはついでとばかりいまいるばしょと)

確認の電話だったが、俺はついでとばかり今居る場所と

(そのまんしょんのえれべーたーについてのうわさをしらないかときいてみた。)

そのマンションのエレベーターについての噂を知らないかと聞いてみた。

(「しらない」そんなにきたいしたわけではないが、じもとみんでもないのに)

「知らない」そんなに期待した訳ではないが、地元民でもないのに

(やたらとこういうはなしをしいれているかれならばひょっとして、とおもったのだ。)

やたらとこういう話を仕入れている彼ならばひょっとして、と思ったのだ。

(やっぱりね、というにゅあんすのことばできろうとしたのがきにさわったのか、)

やっぱりね、というニュアンスの言葉で切ろうとしたのが気に障ったのか、

(くわしくはなせという。そこでおれは、ゆうじんのたいけんしたいくつかのれいや、)

詳しく話せという。そこで俺は、友人の体験したいくつかの例や、

(きょうあったことなどをてみじかにつげた。ししょうはすこしのあいだおしだまったあと、)

今日あったことなどを手短に告げた。師匠は少しの間押し黙ったあと、

(「そのえれべーたーのところでまってて」)

「そのエレベーターのところで待ってて」

(といってでんわをいっぽうてきにきってしまった。なにかわかったのだろうか?)

と言って電話を一方的に切ってしまった。何か分かったのだろうか?

(でんとうにてらされたまんしょんのいりぐちへあるく。)

電灯に照らされたマンションの入り口へ歩く。

(「なに?だれ?」ときくゆうじんに、「さーくるのせんぱい」とだけせつめいして、)

「何? 誰?」と訊く友人に、「サークルの先輩」とだけ説明して、

(かわす。かれがなにものかなんて、おれだってしりたいのだ。)

かわす。彼が何者かなんて、俺だって知りたいのだ。

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