エレベーター-4-(完)

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プレイ回数464難易度(5.0) 4179打 長文 長文モード推奨
師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってしまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 daifuku 3779 D++ 3.9 95.1% 1049.7 4182 215 80 2024/11/05

関連タイピング

問題文

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(こつんとくつのおとがひびく。えれべーたーのまえにたつとふしぎなかんじがした。)

コツンと靴の音が響く。エレベーターの前に立つと不思議な感じがした。

(まんしょんというとくめいのはこのなかのさらにとくめいのくうかん。)

マンションという匿名の箱の中のさらに匿名の空間。

(いまとじているこのとびらのむこうにだれがいるのかおれはしらない。)

今閉じているこの扉の向こうに誰がいるのか俺は知らない。

(かいすうひょうじのひかりだけだながれ、ひとのうごきをそうぞうする。)

階数表示の光だけだ流れ、人の動きを想像する。

(そこにはほんとうにひとがいるのかおれにはわからない。いや、わからなくなった。)

そこには本当に人がいるのか俺には分からない。いや、分からなくなった。

(かおのないげんえいがさまよういめーじがひとりあるきしはじめた。)

顔の無い幻影が彷徨うイメージが一人歩きしはじめた。

(phsのちゃくしんおんにわれにかえる。とうかんかくにのびるてんじょうのでんとうがつうろをてらしている。)

PHSの着信音に我に返る。等間隔に伸びる天井の電灯が通路を照らしている。

(「おまたせ。いろいろかいてあるひょうじばんはそとにある?なかったらなかにはいって」)

「お待たせ。色々書いてある表示盤は外にある? なかったら中に入って」

(いわれるまま、ゆうじんをうながしてえれべーたーのなかにはいる。)

言われるまま、友人を促してエレベーターの中に入る。

(「そうさばんのなかか、ちかくになんかいろいろかいてるしーるかぷれーとがあるだろう。)

「操作盤の中か、近くになんか色々書いてるシールかプレートがあるだろう。

(めーかーめいはなんてかいてある?」)

メーカー名はなんて書いてある?」

(とじそうになったとびらをてでがーどして、”ひらき”ぼたんを)

閉じそうになった扉を手でガードして、”開”ボタンを

(ゆうじんにおしていてもらう。)

友人に押していてもらう。

(「えーと、がいこくせいっぽいです。どれがめーかーめいだろ・・・・・・」)

「えーと、外国製っぽいです。どれがメーカー名だろ……」

(どうやらこれらしいというもじをみつけてよみあげる。)

どうやらこれらしいという文字を見つけて読み上げる。

(ししょうはでんわぐちでわらいをこたえているようなおとをたてた。)

師匠は電話口で笑いを堪えているような音を立てた。

(「ok。じゃあもうひとりのともだちにさんかいにいってもらって」)

「OK。じゃあもう一人の友だちに3階に行ってもらって」

(ししょうはいくつかしじをとばしてから、でんわをきった。)

師匠はいくつか指示を飛ばしてから、電話を切った。

(おれたちはなにがおこるんだろうというふあんなきもちで、)

俺たちは何が起こるんだろうという不安な気持ちで、

(それでもいうとおりにする。)

それでも言うとおりにする。

など

(いっかいにおれ。さんかいにゆうじんというふじんでそれぞれえれべーたーのまえのたった。)

1階に俺。3階に友人という布陣でそれぞれエレベーターの前の立った。

(そしていっかいからえれべーたーのなかにのりこんだおれは、しじされたとおり、)

そして1階からエレベーターの中に乗り込んだ俺は、指示された通り、

(なかのそうさばんでごかいと”しめ”のぼたんをにほんのゆびでどうじにおした。)

中の操作盤で5階と”閉”のボタンを2本の指で同時に押した。

(それからつうわちゅうにしていたphsでゆうじんに「おした。そっちもおして」という。)

それから通話中にしていたPHSで友人に「押した。そっちも押して」と言う。

(うちあわせどおり、ゆうじんもさんかいでしたむきやじるしのぼたんをおしたはずだ。)

打ち合わせ通り、友人も3階で下向き矢印のボタンを押したはずだ。

(ほどなくしてとびらがしまりはじめる。)

ほどなくして扉が閉まり始める。

(むこうのかべのもようがやっぱりなにかのかおにみえた。)

向こうの壁の模様がやっぱり何かの顔に見えた。

(しみゅらくらげんしょう、しみゅらくらげんしょうと、さいきんしったばかりの)

シミュラクラ現象、シミュラクラ現象と、最近知ったばかりの

(しんりがくようごをおきょうのようにあたまのなかでとなえる。)

心理学用語をお経のように頭の中で唱える。

(ゆったりとはこがじょうしょうするかんかくがあり、すぐにさんかいでていしするはずとみがまえる。)

ゆったりと箱が上昇する感覚があり、すぐに3階で停止するはずと身構える。

(しかしはこはさんかいではとまらず、ごかいのらんぷがついたところで)

しかし箱は3階では止まらず、5階のランプがついたところで

(せいしし、とびらがあいた。よかぜがしんにゅうしてくる。そとにはだれもいなかった。)

静止し、扉が開いた。夜風が侵入してくる。外には誰もいなかった。

(あしをふみだし、ぼけたままのおれののこしてはいごでとびらがとじた。)

足を踏み出し、呆けたままの俺の残して背後で扉が閉じた。

(かいだんをかけあがってきたゆうじんが、かるくいきをきらせてつうろのはしからとびでてくる。)

階段を駆け上ってきた友人が、軽く息を切らせて通路の端から飛び出てくる。

(「なんだいまの。なんでとおりすぎるんだ」)

「何だ今の。なんで通り過ぎるんだ」

(「そっちこそ、ちゃんとさんかいでぼたんおした?」)

「そっちこそ、ちゃんと3階でボタン押した?」

(「おした。やじるしのらんぷのてんとうしてたし」)

「押した。矢印のランプの点灯してたし」

(まるきりゆうじんがたいけんしてきたかいげんしょうのさいげんだ。)

まるきり友人が体験してきた怪現象の再現だ。

(ししょうからちゃくしん。「なんですかこれ」)

師匠から着信。「ナンですかコレ」

(こえがうわずるおれに、ししょうはばかばかしい、というようなくちょうで)

声が上ずる俺に、師匠はバカバカしい、というような口調で

(「きゅうこうもーど」といった。)

「急行モード」と言った。

(「がいこくせいのえれべーたーのなかにはあるんだよ。こういううらこまんどが」)

「外国製のエレベーターの中にはあるんだよ。こういう裏コマンドが」

(このめーかーのものは”しめ”ぼたんともくてきかいぼたんをどうじおしすることで、)

このメーカーの物は”閉”ボタンと目的階ボタンを同時押しすることで、

(そのあとどこのかいでよびだしぼたんがおされても)

その後どこの階で呼び出しボタンが押されても

(すべてきゃんせるされるのだそうだ。)

すべてキャンセルされるのだそうだ。

(げんざいのかいすうひょうじをみあげるとごかいのままだ。このとびらのむこうにまだはこはある。)

現在の階数表示を見上げると5階のままだ。この扉の向こうにまだ箱はある。

(ゆうじんがさんかいでおしたよびだしぼたんはむしされているのだ。)

友人が3階で押した呼び出しボタンは無視されているのだ。

(「ということは・・・・・・」)

「ということは……」

(「そう、そのまんしょんのれんちゅうはそれをしっててふだんからつかってるってこと」)

「そう、そのマンションの連中はそれを知ってて普段から使ってるってこと」

(そういってから、さいごに「あさっておくれんなよ」とつけくわえて)

そう言ってから、最後に「明後日遅れんなよ」と付け加えて

(ししょうはでんわをきった。)

師匠は電話を切った。

(おれはきょうあったことをおもいうかべる。)

俺は今日あったことを思い浮かべる。

(にもつをゆうじんのへやにおいてよんかいからしたにおりようとしたとき、)

荷物を友人の部屋に置いて4階から下に降りようとした時、

(うえのほうのかいからはこがおりてきたのに、よんかいをすどおりして)

上の方の階から箱が下りてきたのに、4階を素通りして

(いっかいまでいってとまった。あのとき、いっしょにいたしゅふはしたうちをしていた。)

1階まで行って止まった。あの時、一緒にいた主婦は舌打ちをしていた。

(あれはきゅうこうもーどをつかっただれかにしたうちをしていたのだ。)

あれは急行モードを使った誰かに舌打ちをしていたのだ。

(ゆうじんがせんじつ、そのしゅふとのりあわせたとき、そのときもかのじょはしたうちをしたという。)

友人が先日、その主婦と乗り合わせた時、その時も彼女は舌打ちをしたという。

(それはたにんがいっしょにのったことできゅうこうもーどが)

それは他人が一緒に乗ったことで急行モードが

(つかえなかったことにたいするいらだちだったのだろうか。)

使えなかったことに対するイラ立ちだったのだろうか。

(ゆうじんがたいけんしたことをひとつひとつけんしょうしても、)

友人が体験したことを一つ一つ検証しても、

(すべてこのきゅうこうもーどのそんざいでせつめいがつくようだ。)

すべてこの急行モードの存在で説明がつくようだ。

(あっけなくかいけつしてしまった「かいげんしょう」のしょうたいにおれたちは)

あっけなく解決してしまった「怪現象」の正体に俺たちは

(ひょうしぬけしてたちつくしていた。)

拍子抜けして立ち尽くしていた。

(めにみえないとびらのむこうにおびえていたのがばからしくなってくる。)

目に見えない扉の向こうに怯えていたのが馬鹿らしくなってくる。

(あのこどもたちもしっていたのだろうか。)

あの子どもたちも知っていたのだろうか。

(どうりではなしにのってこないはずだ。)

道理で話に乗ってこないはずだ。

(きっとおやからひみつにするようにいわれているにちがいない。)

きっと親から秘密にするように言われているに違いない。

(これいじょうきゅうこうもーどをしるひとがふえないように。)

これ以上急行モードを知る人が増えないように。

(そうだ。じぶんだけしっていればいいんだ。)

そうだ。自分だけ知っていればいいんだ。

(たにんがつかうきゅうこうもーどはめいわくなだけなのだから。「おれ、やっぱりこわいよ」)

他人が使う急行モードは迷惑なだけなのだから。「オレ、やっぱり怖いよ」

(ゆうじんがぽつりといった。たにんをまたせてもじぶんがべんりなら)

友人がぽつりと言った。他人を待たせても自分が便利なら

(それでいいとおもうそのしんりに、おれもせすじがさむくなるおもいがした。)

それでいいと思うその心理に、俺も背筋が寒くなる思いがした。

(きっとそれはとくめいだから。)

きっとそれは匿名だから。

(えれべーたーのまえでまちぼうけをくわされるひとがとくめいだからだ。)

エレベーターの前で待ちぼうけを食わされる人が匿名だからだ。

(だれだかしらないひとをまたせるあくい。)

誰だか知らない人を待たせる悪意。

(だれだがしらないひとにいらだつあくい。)

誰だが知らない人に苛立つ悪意。

(そんなささやかなあくいがこのまんしょんにじゅうまんして、)

そんなささやかな悪意がこのマンションに充満して、

(それがおれたちのこころをどうしようもなくくらくしずませるのだった。)

それが俺たちの心をどうしようもなく暗く沈ませるのだった。

(ゆうじんはにかいせいにあがるとき、そのまんしょんからにかいだての)

友人は2回生にあがる時、そのマンションから2階建ての

(あぱーとにひっこした。それまでのあいだ、かれはかいだんしかつかわなかったそうだ。)

アパートに引っ越した。それまでの間、彼は階段しか使わなかったそうだ。

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