人形-2-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ちゅけ | 5040 | B+ | 5.2 | 96.5% | 982.9 | 5136 | 182 | 98 | 2024/10/22 |
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問題文
(ししょうとおれはうなずく。みかっちさん、さいしょはけいごぎみだったのに)
師匠と俺は頷く。みかっちさん、最初は敬語気味だったのに
(いつのまにかししょうにもためぐちだ。「あ、でもこうたいよういんがくるまで)
いつの間にか師匠にもタメ口だ。「あ、でも交替要員が来るまで
(まだけっこうじかんあるから、えでもみてて」)
まだ結構時間あるから、絵でも見てて」
(きたときはおれたちしかいなかったのに、いつのまにか)
来た時は俺たちしか居なかったのに、いつの間にか
(もうひとりしょろうのだんせいがやってきてしょーとぼぶのじょせいがおうたいしている。)
もう一人初老の男性がやって来てショートボブの女性が応対している。
(おれはぎゃらりーのまんなかにたって、めをとじてみた。)
俺はギャラリーの真ん中に立って、目を閉じてみた。
(せいしんをしゅうちゅうし、いわかんをさぐる。)
精神を集中し、違和感を探る。
(するとやはり、にんぎょうのえがあるほうこうになにかいやなかんじがする。)
するとやはり、人形の絵がある方向になにか嫌な感じがする。
(しょうめいがあたりにくいせいなのかもしれないが、あのへんはみょうにくらいきがする。)
照明があたり難いせいなのかも知れないが、あの辺は妙に暗い気がする。
(「ねえみか、ともだち?なにねっしんにみてたの」しょーとぼぶの)
「ねえミカ、友だち? なに熱心に見てたの」ショートボブの
(じょせいがこえをかける。「うん。にんぎょうのえをちょっとね」「にんぎょうのえ?」)
女性が声をかける。「うん。人形の絵をちょっとね」「人形の絵?」
(くびをかしげるじょせいに、みかっちさんはなんでもない、とてをふった。)
首をかしげる女性に、みかっちさんはなんでもない、と手を振った。
(おれとししょうはひととおりえのせつめいをうけながらぎゃらりーをみていったが、)
俺と師匠は一通り絵の説明を受けながらギャラリーを見ていったが、
(しろうとめにはうまいのかへたなのかもよくわからない。)
素人目には上手いのか下手なのかもよくわからない。
(ただもだんなかんじのなんかいなえはなく、わりとしんぷるで)
ただモダンな感じの難解な絵はなく、わりとシンプルで
(しゃじつてきなさくひんがおおかった。)
写実的な作品が多かった。
(「みてみてこれ、あたしがもでる」などといってらふのえをゆびさしなど、)
「見て見てこれ、あたしがモデル」などと言って裸婦の絵を指さしなど、
(てんしょんのたかいみかっちさんとはうらはらに、おれたちはかいがかんしょうなど)
テンションの高いみかっちさんとは裏腹に、俺たちは絵画鑑賞など
(すぐにあきてきてしまった。とくにししょうなどろこつで、しょーとぼぶのじょせいが)
すぐに飽きてきてしまった。特に師匠など露骨で、ショートボブの女性が
(ねっしんにしょうかいしてくれているのにきのりしないなまへんじばかり。)
熱心に紹介してくれているのに気乗りしない生返事ばかり。
(そしてすこしいらいらしてきたらしいじょせいが)
そして少しイライラしてきたらしい女性が
(「えはあまりおすきじゃないみたいですね」というと、)
「絵はあまりお好きじゃないみたいですね」と言うと、
(それにこたえておもいもかけないことをくちにした。)
それに応えて思いもかけないことを口にした。
(「えなんて、ようするにすごくよごれたかみだ」)
「絵なんて、ようするにすごく汚れた紙だ」
(ぜっくするじょせいに、たたみかけるようにつづける。)
絶句する女性に、畳み掛けるように続ける。
(「みるくらいにしかやくにたたない」)
「見るくらいにしか役に立たない」
(へいぜんといってのけたししょうを、さすがにまずいとおもったおれが)
平然と言ってのけた師匠を、さすがにまずいと思った俺が
(むりやりひきずってそとにだした。)
むりやり引きずって外に出した。
(みかっちさんには「ちかくのきっさてんにいますから」といいおいて。)
みかっちさんには「近くの喫茶店にいますから」と言い置いて。
(ざわざわとみみざわりなざっとうのおとがとびこんでくる。)
ザワザワと耳障りな雑踏の音が飛び込んでくる。
(やはりああしたところは、かんしょうちゅうにきがまぎれないようにぼうおんがきいているのだろう。)
やはりああした所は、鑑賞中に気が紛れない様に防音が効いているのだろう。
(おれはししょうをといつめた。)
俺は師匠を問い詰めた。
(「なんであんなこというんです。ひとがせっかくえがいたさくひんに」)
「なんであんなこと言うんです。人がせっかく描いた作品に」
(「べつにけなしたつもりはなかったんだけどな」)
「別に貶したつもりはなかったんだけどな」
(「じぶんがすきなものをばかにされたらだれだっておこりますよ」)
「自分が好きなものをバカにされたら誰だって怒りますよ」
(ししょうはう~ん、といってあごをかく。)
師匠はう~ん、と言って顎を掻く。
(「おかるとのほうがよっぽどやくにたたないでしょ」)
「オカルトの方がよっぽど役に立たないでしょ」
(おれはじぶんじしんへのじぎゃくもこめてししょうをひなんした。)
俺は自分自身への自虐も込めて師匠を非難した。
(するとししょうはきゅうにとおくをみるようにめのしょうてんをさまよわせ、)
すると師匠は急に遠くを見るように目の焦点をさ迷わせ、
(よこをむいてじっとしていたかとおもうと、こちらへゆっくりとむきなおっていった。)
横を向いてじっとしていたかと思うと、こちらへゆっくりと向き直って言った。
(「やくにたたないものは、あいするしかないじゃないか」)
「役に立たないものは、愛するしかないじゃないか」
(ふたりのあいだにあしもとにちゅうしゃきんしのひょうしきのかげがおちていた。)
二人の間に足元に駐車禁止の標識の影が落ちていた。
(おれはいっしゅんなんとかえしていいかわからず、ただかれのめをみていた。)
俺は一瞬なんと返していいかわからず、ただ彼の目を見ていた。
(そのことばは、いまではししょうのすきだったあるげきさっかのことばだとしっている。)
その言葉は、今では師匠の好きだったある劇作家の言葉だと知っている。
(あるいはたわむれにくちにしたのかもしれない。)
あるいは戯れに口にしたのかも知れない。
(それともかれのしんそういしきからこぼれおちたのかもしれない。)
それとも彼の深層意識から零れ落ちたのかも知れない。
(けれどそのときのおれはおこるというよりあきれていて、)
けれどその時の俺は怒ると言うより呆れていて、
(そんなことばをくだらないとおもい、なんだそれとおもい、)
そんな言葉をくだらないと思い、なんだそれと思い、
(そしてそれからずっとわすれなかった。)
そしてそれからずっと忘れなかった。
(きっさてんでけいしょくをとりながら30ふんほどまったところで、)
喫茶店で軽食をとりながら30分ほど待ったところで、
(みかっちさんがやってきた。)
みかっちさんがやってきた。
(「ごめーん、おそくなったあ」などとかるいちょうしでせきにつき、)
「ごめーん、遅くなったあ」などと軽い調子で席に着き、
(さっきのししょうのしつげんなどまるできにしてないようすだった。)
さっきの師匠の失言などまるで気にしてない様子だった。
(みかっちさんはほっとさんどをちゅうもんしてから、さっそくほんだいにはいる。)
みかっちさんはホットサンドを注文してから、さっそく本題に入る。
(「あのえのにんぎょうって、こうこうじだいのともだちのもちものなんだけど、)
「あの絵の人形って、高校時代の友だちの持ち物なんだけど、
(なんかしんだおばあちゃんがくれたすごいふるいやつなんだって」)
なんか死んだおばあちゃんがくれた凄い古いヤツなんだって」
(そのともだちはれいこちゃんといっていまでもよくいっしょにあそぶなかなのだそうだが、)
その友だちは礼子ちゃんといって今でも良く一緒に遊ぶ仲なのだそうだが、
(さいきんすこしようすがおかしかったという。)
最近少し様子がおかしかったと言う。
(あるときかのじょのいえにあそびにいくと、「なんかわかんないけどえどじだいくらいの)
ある時彼女の家に遊びに行くと、「なんかわかんないけど江戸時代くらいの
(わふくのおんなのひとがなんにんかいて、まんなかのひとが)
和服の女の人が何人かいて、真ん中の人が
(そのにんぎょうをだいてすわってるしゃしん」みせられたそうで、)
その人形を抱いて座ってる写真」見せられたそうで、
(じぶんはそのにんぎょうをいだいているじょせいのうまれかわりなのだといいだしたらしい。)
自分はその人形を抱いている女性の生まれ変わりなのだと言い出したらしい。
(ききながしているとおこりだし、そのにんぎょうがいえにあるといって)
聞き流していると怒り出し、その人形が家にあると言って
(どこからかひっぱりだしてきて、それをだきしめながら「ねっ?」というのだ。)
どこからか引っ張り出してきて、それを抱きしめながら「ねっ?」と言うのだ。
(しゃしんのじょせいとにてるともおもえなかったし、どういっていいのか)
写真の女性と似てるとも思えなかったし、どう言っていいのか
(わからなかったが、そんなはなしじたいはきらいではないので)
わからなかったが、そんな話自体は嫌いではないの
(そういうことにしてあげた。)
そういうことにしてあげた。
(それにそんなふるいしゃしんとにんぎょうがともにまだげんそんしていたことに)
それにそんな古い写真と人形が共にまだ現存していたことに
(みょうなかんどうをおぼえて、「えにかきたい」とたのんだのだそうだ。)
妙な感動を覚えて、「絵に描きたい」と頼んだのだそうだ。
(「そのえがあれか」ししょうがなにごとかきづいたようにかたほうのまゆをあげる。)
「その絵があれか」師匠がなにごとか気づいたように片方の眉を上げる。
(なにかわかったのかとつぎのことばをまったが、なにもなかった。)
なにかわかったのかと次の言葉を待ったが、なにもなかった。
(みかっちさんはこーひーにしゅがーすてぃっくをながしこみながら、)
みかっちさんはコーヒーにシュガースティックを流し込みながら、
(めずらしくこわばったひょうじょうをうかべた。)
珍しく強張った表情を浮かべた。
(「でね、それからなんにちかたって、あ、いまからさんしゅうかんくらいまえなんだけど、)
「でね、それから何日か経って、あ、今から3週間くらい前なんだけど、
(そのれいこちゃんとかこうこうじだいのともだちよにんでおんせんりょこうしたんだけど」)
その礼子ちゃんとか高校時代の友だち4人で温泉旅行したんだけど」
(すこしことばをきる。そのくちもとがかすかにふるえている。)
少し言葉を切る。その口元が微かに震えている。
(「でんしゃにのってさ、さいしょよにんがけのせきがあいてなくてふたりせきにわたしと)
「電車に乗ってさ、最初四人掛けの席が空いてなくて二人席にわたしと
(れいこちゃんとですわってたんだ。ずっとおしゃべりしてたんだけど、)
礼子ちゃんとで座ってたんだ。ずっとおしゃべりしてたんだけど、
(いちじかんくらいしてからなんか、もってくるっていってたほんのはなしになってさ。)
1時間くらいしてからなんか、持ってくるって言ってた本の話になってさ。
(れいこちゃんがばっぐをごそごそやってて、あっまちがえた、っていうのよ。)
礼子ちゃんがバッグをゴソゴソやってて、あっ間違えた、って言うのよ。
(なに~?べつのほんもちってきちゃったの?ってきいたらさ」)
なに~? 別の本持って来ちゃったの? って聞いたらさ」
(つばを、のみこんでからつづける。「ずるって、ばっぐからあのにんぎょうがでてきて、)
唾を、飲み込んでから続ける。「ズルッて、バッグからあの人形が出てきて、
(「ほんとまちがえちゃった」って・・・・・・」おれはそれをきいてさっきのぎゃらりーでは)
『本と間違えちゃった』って……」俺はそれを聞いてさっきのギャラリーでは
(かんじられなかった、とりはだがたつようなかんかくをおぼえた。)
感じられなかった、鳥肌が立つような感覚を覚えた。
(「べつにあたまがおかしいこじゃないのよ。そのりょこうでもそれいがいはふつうだったし。)
「別に頭がおかしい子じゃないのよ。その旅行でもそれ以外は普通だったし。
(ただ、なんなんだろ、あれ。にんぎょうってたましいがやどるとかいうけど」)
ただ、なんなんだろ、あれ。人形って魂が宿るとかいうけど」
(それにとりつかれたような・・・・・・みかっちさんがつづけなかった)
それに憑りつかれたような……みかっちさんが続けなかった
(ことばのさきをあたまのなかでほかんしながら、おれはししょうをみた。)
言葉の先を頭の中で補完しながら、俺は師匠を見た。
(うでぐみをしてしんけんにきいているようにみえる。やがておもむろにくちをひらく。)
腕組みをして真剣に聞いているように見える。やがておもむろに口を開く。
(「そのにんぎょうをえがいたえが、さっきのぐるーぷてんでの)
「その人形を描いた絵が、さっきのグループ展での
(ふしぎなできごとのげんきょうということか」「だよね、どうかんがえても」)
不思議な出来事の元凶ということか」「だよね、どうかんがえても」
(みかっちさんは、どうしよ、とつぶやいた。)
みかっちさんは、どうしよ、と呟いた。
(「えをしょぶんしてもかいけつしたことにはならないな。)
「絵を処分しても解決したことにはならないな。
(かんだけど、そのにんぎょうじたいをなんとかしないと、)
勘だけど、その人形自体をなんとかしないと、
(まずいことになりそうなきがする」)
まずいことになりそうな気がする」
(ししょうはみをのりだして、つづけた。「そのこのいえにはおじゃまできる?」)
師匠は身を乗り出して、続けた。「その子の家にはお邪魔できる?」
(「うん。でんわしてみる」みかっちさんはせきをたった。)
「うん。電話してみる」みかっちさんは席を立った。
(やがてもどってくると、「いまからでもきていいって」とつげた。)
やがて戻って来ると、「今からでも来ていいって」と告げた。