古い家-5-

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プレイ回数437難易度(5.0) 3876打 長文 長文モード推奨
師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 じゅん 4242 C 4.4 95.0% 859.2 3847 202 68 2024/09/23
2 daifuku 3647 D+ 3.8 94.6% 1004.8 3884 219 68 2024/09/27
3 Shion 2866 E+ 2.9 95.8% 1322.2 3963 173 68 2024/09/24

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問題文

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(ししょうのなまえをさけびながら、きびすをかえしてふたたびかいだんをかけおりる。)

師匠の名前を叫びながら、踵を返して再び階段を駆け降りる。

(あしがもつれてかいだんをふみはずしそうになりながらぼくはいそいだ。)

足がもつれて階段を踏み外しそうになりながら僕は急いだ。

(がたたたたと、ついにしりもちをついてなかばすべりおちながら)

ガタタタタと、ついに尻餅をついて半ば滑り落ちながら

(ししょうのもつかいちゅうでんとうのひかりをしかいにとらえる。「ど、どうしました」)

師匠の持つ懐中電灯の光を視界に捉える。「ど、どうしました」

(かおをしかめながらようやくそういったぼくに、ししょうはすこしばつがわるそうなちょうしで)

顔をしかめながらようやくそう言った僕に、師匠は少しバツが悪そうな調子で

(「いや、くもが」といってかべぎわのてんじょうのすみにすをはるくものすがたをてらしだした。)

「いや、蜘蛛が」と言って壁際の天井の隅に巣を張る蜘蛛の姿を照らし出した。

(ぼくはほっといきをつきながらも、そのおおきなせなかのもようが)

僕はホッと息をつきながらも、その大きな背中の模様が

(ひとのかおにみえておもわずめをそらす。「なあ」とししょうがこごえではなしかけてくる。)

人の顔に見えて思わず目を逸らす。「なあ」と師匠が小声で話しかけてくる。

(「うえでも、くもがいただろう。くものすもいっぱいあった」)

「上でも、蜘蛛がいただろう。蜘蛛の巣もいっぱいあった」

(なにをいいだしたのかとおもって、さきをまつ。)

何を言い出したのかと思って、先を待つ。

(「ここでもそうだけど、そのくものすはぜんぶてんじょうとかはしらのうえのほうにあって、)

「ここでもそうだけど、その蜘蛛の巣は全部天井とか柱の上の方にあって、

(わたしらのかおにべたってついたりはしなかったな」)

私らの顔にベタってついたりはしなかったな」

(そうだった。そうだったが、それはいわれてみるとたしかになにかへんだ。)

そうだった。そうだったが、それは言われてみると確かになにか変だ。

(「ひとがとおるくうかんにだけくものすがないってことはさ。)

「ヒトが通る空間にだけ蜘蛛の巣がないってことはさ。

(だれかそこをとおってるってことじゃないか」)

誰かそこを通ってるってことじゃないか」

(たとえば、ここも。ししょうがまたしたへのかいだんをてらす。ひくっと、のどがなった。)

たとえば、ここも。師匠がまた下への階段を照らす。ひくっと、喉が鳴った。

(それはぼくのだろうか。それともししょうのだっただろうか。)

それは僕のだろうか。それとも師匠のだっただろうか。

(あ、まずい。このかんじは。ししょうが「もどるか?」とささやいた。)

あ、まずい。この感じは。師匠が「戻るか?」と囁いた。

(ぼくは「いきましょう」とこたえる。とまるべきところでとまれないかんじ。)

僕は「行きましょう」と応える。止まるべき所で止まれない感じ。

(それはかくじつにぼくのじゅみょうをちぢめているようなきがした。)

それは確実に僕の寿命を縮めているような気がした。

など

(みし、みし、というおととともにふたたびぼくらはちかへおりはじめた。)

ミシ、ミシ、という音とともに再び僕らは地下へ降り始めた。

(くものすをみあげながらかどをまがると、かいだんはまたしたへつづいている。)

蜘蛛の巣を見上げながら角を曲がると、階段はまた下へ続いている。

(なんだこれは。いくらなんでもふかすぎる。)

なんだこれは。いくらなんでも深すぎる。

(これだけちかへあなをほるとみずがでるはずだ。)

これだけ地下へ穴を掘ると水が出るはずだ。

(おおきなすいみゃくにあたらなかったとしても、みずのしんにゅうをふせぐためには)

大きな水脈に当たらなかったとしても、水の浸入を防ぐためには

(かべをなんじゅうにもしなくてはならないだろう。)

壁を何重にもしなくてはならないだろう。

(そんなめんどうなことをしてまでちかへおりるかいだんをつくる、)

そんな面倒なことをしてまで地下へ降りる階段を作る、

(どんなめりっとがあるというのか。それもおそらくめいじじだいいぜんのこうほうで。)

どんなメリットがあるというのか。それもおそらく明治時代以前の工法で。

(かべにあたって、おりかえす。かべにあたって、おりかえす。)

壁に当たって、折り返す。壁に当たって、折り返す。

(そのくりかえしをどれほどつづけただろう。)

その繰り返しをどれほど続けただろう。

(とちゅうからかずをかぞえることさえわすれてしまった。)

途中から数を数えることさえ忘れてしまった。

(そとはよるだ。はれたなつのよるのはずだ。)

外は夜だ。晴れた夏の夜のはずだ。

(けれどここはまるでじかんがとまってしまったかのようなくうかんだった。)

けれどここはまるで時間が止まってしまったかのような空間だった。

(たとえそとがくもりでも、あめでも、あさでも、ひるでもなにもかわりはしないだろう。)

たとえ外が曇りでも、雨でも、朝でも、昼でもなにも変わりはしないだろう。

(10ねんまえも、20ねんまえも、にほんがせんそうにまけたときだって、)

10年前も、20年前も、日本が戦争に負けた時だって、

(このちかのくうかんはこのままのすがたでここにあったのだろう。)

この地下の空間はこのままの姿でここにあったのだろう。

(かぜが、ほおにふれるといきのようにさらなるちかのそんざいをささやく。)

風が、頬に触れる吐息のようにさらなる地下の存在を囁く。

(しぜんにぼくもししょうもいきをころしながらすすむ。)

自然に僕も師匠も息を殺しながら進む。

(「なあ」さきをいくししょうがあたまをこっちにむけもせずにいう。)

「なあ」先を行く師匠が頭をこっちに向けもせずに言う。

(「このいえってさあ。どっからもいれなかったよな」)

「この家ってさあ。どっからも入れなかったよな」

(「はい」こたえながら、(とをぶちやぶらせたのはだれだよ)とこころのなかでどくづく。)

「はい」応えながら、(戸をぶち破らせたのは誰だよ)と心の中で毒づく。

(「このいえをほうきしたにんげんたちは、どっからでたんだ」)

「この家を放棄した人間たちは、どっから出たんだ」

(ああ。そんなこと、いまはわすれてしまっていたい。)

ああ。そんなこと、今は忘れてしまっていたい。

(ぞくぞくといやなふるえがせなかをとおりぬける。)

ゾクゾクと嫌な震えが背中を通り抜ける。

(でもたしかに、かんぬきだかつっかえぼうだかは、すべてうちがわからだった。)

でも確かに、かんぬきだかつっかえ棒だかは、すべて内側からだった。

(げんだいのようにそとからあけしめできるようなかぎはない。)

現代のように外から開け閉めできるような鍵はない。

(では、とじまりをしたさいごのひとりはいったいどうやってそとにでたのか・・・・・・)

では、戸締りをした最後の一人はいったいどうやって外に出たのか……

(まるですべてが、このはいきょのなかのじゅうにんのそんざいをしめしているようじゃないか。)

まるですべてが、この廃墟の中の住人の存在を示しているようじゃないか。

(それはつまり、このかいだんのいきつくさきに、「それ」がいるということだ。)

それはつまり、この階段の行き着く先に、「それ」がいるということだ。

(ぼくはいきをのみながらあしをうごかしつづけ、はやくかいだんのさきのかべが)

僕は息を飲みながら足を動かし続け、早く階段の先の壁が

(つきることをなかばのぞみ、そしてなかばいじょう、おそれていた。)

尽きることを半ば望み、そして半ば以上、恐れていた。

(たかすぎるけあがりにあたまががくがくとじょうげにゆられつづけ、)

高すぎる蹴上に頭がガクガクと上下に揺られ続け、

(いしきがすこしずつもうろうとしてくる。)

意識が少しずつ朦朧としてくる。

(おわらないかいだんはまやくのようにぼくののうをおかしはじめているのかもしれない。)

終わらない階段は麻薬のように僕の脳を冒し始めているのかも知れない。

(どこまでもふかくふりつづけるかんかくが、どうしようもなくここちよくなってくる。)

どこまでも深く降り続ける感覚が、どうしようもなく心地良くなってくる。

(あしをふみだすたびにかいだんのゆかがきしみ、かべがきしみ、てんじょうがきしむ。)

足を踏み出すたびに階段の床が軋み、壁が軋み、天井が軋む。

(かいちゅうでんとうのひかりに、ぱらぱらとふってくるほこりがちいさなかげをつくる。)

懐中電灯の光に、パラパラと振ってくる埃が小さな影をつくる。

(きっとからだじゅうまっくろになってしまっていることだろう。)

きっと身体中真っ黒になってしまっていることだろう。

(がんかにししょうのあたまがゆれている。ためしにかいだんをいちだんいちだんかぞえてみる。)

眼下に師匠の頭が揺れている。試しに階段を一段一段数えてみる。

(・・・・・・50をこえたあたりでやめてしまった。)

……50を越えたあたりでやめてしまった。

(ふと、こどものころたいけんしたそふのいえのどぞうのちかのことをかんがえる。)

ふと、子どものころ体験した祖父の家の土蔵の地下のことを考える。

(ひょっとするとぼくもししょうも、いつのまにかしんでいるのかもしれない。)

ひょっとすると僕も師匠も、いつの間にか死んでいるのかも知れない。

(どこまでもふかくおりていくせまいかいだんに、”いつ”がそのしゅんかんだったのか)

どこまでも深く降りていく狭い階段に、"いつ"がその瞬間だったのか

(きづきもしないで。まるでこのかいだんじしんがこきゅうしているかのように、)

気づきもしないで。まるでこの階段自身が呼吸しているかのように、

(かぜがかすかなうなりごえをまとってからだをすりぬけていく。だれもなにもしゃべらなくなった。)

風がかすかな唸り声を纏って身体をすり抜けていく。誰も何も喋らなくなった。

(もううえがどうなっているかたしかめようなんてきはおこらない。)

もう上がどうなっているか確かめようなんて気は起こらない。

(ひたすら、したへ。したへ・・・・・・きもちがよい。そこなんてなければいいのに。)

ひたすら、下へ。下へ……気持ちが良い。底なんてなければいいのに。

(「あ」ししょうのこえがぼくのいしきをかくせいさせる。)

「あ」師匠の声が僕の意識を覚醒させる。

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