怪物 「承」-2-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(えきまえのびるがげんいんふめいのていでんにおそわれ、そのあとふろあごとにでたらめな)

駅前のビルが原因不明の停電に襲われ、その後フロアごとにでたらめな

(しょうめいのてんめつをくりかえしたというじけん。どれもふしぎなできごとばかりだ。)

照明の点滅を繰り返したという事件。どれも不思議な出来事ばかりだ。

(ひとつひとつをとると「ふしぎだね」ということばでおわってしまい、)

一つ一つを取ると「不思議だね」という言葉で終わってしまい、

(いっかげつもするとわすれられるていどのうわさばなしなのかもしれない。)

1ヶ月もすると忘れられる程度の噂話なのかも知れない。

(けれどそのどれもがきのうのたったいちにちでおこったのだとかんがえると、)

けれどそのどれもが昨日のたった一日で起こったのだと考えると、

(うすらさむくなってくる。さんじかんめのやすみじかんにはわたしもしぜんなかぜをよそおって、)

薄ら寒くなってくる。3時間目の休み時間には私も自然な風を装って、

(くらすめーとたちのうわさばなしのわにはいりこむ。そのぐるーぷではじょうほうつうのおやから)

クラスメートたちの噂話の輪に入り込む。そのグループでは情報通の親から

(しいれたらしいうわさをこうふんぎみにはなすこがちゅうしんになっていた。)

仕入れたらしい噂を興奮気味に話す子が中心になっていた。

(「そのこんびにがすごかったらしいよ。だれもさわってないのに)

「そのコンビニが凄かったらしいよ。誰も触ってないのに

(あいすのぼっくすのかばーがひらいたり、でんきがいきなりきえたり、)

アイスのボックスのカバーが開いたり、電気がいきなり消えたり、

(かってにしふとがうごいたり、なんにもしてないのにたなのざっしが)

勝手にシフトが動いたり、なんにもしてないのに棚の雑誌が

(ぱらぱらめくれたりしたらしいよ」)

パラパラめくれたりしたらしいよ」

(しふとはかんけいないだろう、とおもいながらきいていたが、)

シフトは関係ないだろう、と思いながら聞いていたが、

(なんだかだんだんとないようがせんじょうてきになってきているきがする。)

なんだか段々と内容が扇情的になってきている気がする。

(どこまでがほんとうなのかわからない。)

どこまでが本当なのか分からない。

(ひるやすみには、いつもよりゆっくりおべんとうをたべながら)

昼休みには、いつもよりゆっくりお弁当を食べながら

(ふくすうのぐるーぷのおしゃべりにみみをとがらせていた。)

複数のグループのお喋りに耳を尖らせていた。

(「あとさぁ。きょうのあさ、なんかへんなおとがしてたんだよね」)

「あとさぁ。今日の朝、なんか変な音がしてたんだよね」

(そんなことばにぴくりとはんのうする。)

そんな言葉にピクリと反応する。

(しゃべったそのこにおはしをむけて、べつのこが「あ、あたしのきんじょも。)

喋ったその子にお箸を向けて、別の子が「あ、あたしの近所も。

など

(どっかであさっぱらからこうじしてんのよ。そうおんこうがいよね」といった。)

どっかで朝っぱらから工事してんのよ。騒音公害よね」と言った。

(わたしのなかにいんすぴれーしょんがはしり、せきをたつ。)

私の中にインスピレーションが走り、席を立つ。

(そしてこうないにひとつだけあるこうしゅうでんわにはやあしでむかった。)

そして校内に一つだけある公衆電話に早足で向かった。

(でんわのしゅういにはほとんどひとがいない。)

電話の周囲にはほとんど人がいない。

(なぜかわからないが、あまりめだちたくなかったのでこうつごうだ。)

何故か分からないが、あまり目立ちたくなかったので好都合だ。

(そなえつけのでんわちょうでしやくしょのばんごうをさがす。)

備え付けの電話帳で市役所の番号を探す。

(どこがたんとうなのかわからないので、だいひょうばんごうにかけてないようをつげる。)

どこが担当なのか分からないので、代表番号に掛けて内容を告げる。

(ないせんでおつなぎします、ということばのあと、)

内線でお繋ぎします、という言葉のあと、

(ほりゅうおんをたっぷりきかされてからようやくでんわのあいてがでた。)

保留音をたっぷり聞かされてからようやく電話の相手が出た。

(ききたいことをたんとうちょくにゅうにはなす。いらだったようなこえがかえってきた。)

聞きたいことを単刀直入に話す。苛立ったような声が返ってきた。

(「あのですね。いま、しないでそんなこうきょうこうじはやっていません。)

「あのですね。今、市内でそんな公共工事はやっていません。

(じゃあみんかんきぎょうのそうおんこうがいだっていわれても、)

じゃあ民間企業の騒音公害だって言われても、

(それがどこでやってるのかもわからないじゃ、)

それがどこでやってるのかもわからないじゃ、

(ちゅういのしようもないでしょう?あさからなんなんですかいったい」)

注意のしようもないでしょう? 朝からなんなんですかいったい」

(ききもしないことまでかえってきた。そしてでんわはきられる。)

聞きもしないことまで返ってきた。そして電話は切られる。

(おもわずとけいをみるが、12じをまわっている。)

思わず時計を見るが、12時を回っている。

(ということは、あさから、とはべつのひとからのでんわのことらしい。)

ということは、朝から、とは別の人からの電話のことらしい。

(それもいっけんやにけんではなさそうだ。)

それも1件や2件ではなさそうだ。

(わかったことは、しないのおそらくふくすうのばしょでこうじをするようなおとが)

分かったことは、市内の恐らく複数の場所で工事をするような音が

(きこえているということ。)

聞こえているということ。

(しかもどこでおこなわれているのかだれにもわからないこうじが。)

しかもどこで行われているのか誰にも分からない工事が。

(いったい、これはなんだ?なにかがわたしたちのしゅういでおこりつつあるのに、)

いったい、これはなんだ?なにかが私たちの周囲で起こりつつあるのに、

(それがなんなのかいまだにわからない。)

それがなんなのか未だに分からない。

(ただすべてがみえないいとでつながっていることだけはわかる。)

ただすべてが見えない糸で繋がっていることだけは分かる。

(なかないすずめ。おもいだせないこわいゆめ。おちてくるいし。)

鳴かないスズメ。思い出せない怖い夢。落ちてくる石。

(ひきぬかれるなみき。おとだけのこうじ。まちじゅうでおこったきみょうなできごと。)

引き抜かれる並木。音だけの工事。街中で起こった奇妙な出来事。

(ひょうめんのてざわりにだまされてはいけない。ほんしつからめをそらしてはいけない。)

表面の手触りに騙されてはいけない。本質から眼を逸らしてはいけない。

(こうしゅうでんわのまえでわたしのこころはしずかになっていった。)

公衆電話の前で私の心は静かになっていった。

(ろうかへむけてあるきだす。あいつはいるだろうか。)

廊下へ向けて歩き出す。あいつはいるだろうか。

(あわなくてはいけない。そしてきかなくては。)

会わなくてはいけない。そして聞かなくては。

(すれちがうじょしがくせいたちと、わたしはおなじふくをきている。)

すれ違う女子学生たちと、私は同じ服を着ている。

(かのじょたちはきょうざいをだいている。もたれるようにわらいあっている。)

彼女たちは教材を抱いている。もたれるように笑いあっている。

(ぱんとぎゅうにゅうをもってあるいている。わたしはきょうしつへいそいでいる。)

パンと牛乳を持って歩いている。私は教室へ急いでいる。

(けれどそこにはあきらかなだんぜつがある。それはわたしじしんがいっぽうてきに)

けれどそこには明らかな断絶がある。それは私自身が一方的に

(つくってしまっただんぜつなのかもしれない。)

作ってしまった断絶なのかも知れない。

(でもそのだんぜつをここちよくかんじているじぶんがいる。)

でもその断絶を心地よく感じている自分がいる。

(おなじうわさをきいているのに、わたしだけはにちじょうからあしをふみはずしている。)

同じ噂を聞いているのに、私だけは日常から足を踏み外している。

(さぐろうとしているのだ。つぎにおこることを。そしてどうそなえるべきかを。)

探ろうとしているのだ。次に起こることを。そしてどう備えるべきかを。

(じちょうぎみにわらったしゅんかんをろうかのむこうからきたじょしにみられ、へんなかおをされる。)

自嘲気味に笑った瞬間を廊下の向こうから来た女子に見られ、変な顔をされる。

(みたことがあるこだ。おなじいちねんせいだろうか。またこわがられるな。)

見たことがある子だ。同じ1年生だろうか。また怖がられるな。

(あんがいとうじうじしたことをかんがえているじぶんにきづき、かるくほおをはる。)

案外とウジウジしたことを考えている自分に気づき、軽く頬を張る。

(そのきょうしつについたとき、ろうかがわのまどぎわでおしゃべりをしているすうにんのじょしがいた。)

その教室についた時、廊下側の窓際でお喋りをしている数人の女子がいた。

(なかのひとりにとおめからはなしかける。「いしかわさん、あいつ、きょうきてる?」)

中の一人に遠目から話しかける。「石川さん、あいつ、今日来てる?」

(そのこはこちらをちらりとみてひとさしゆびをきょうしつにむける。)

その子はこちらをチラリと見て人差し指を教室に向ける。

(わたしは「ありがとう」といって、きょうしつのどあにてをかけた。)

私は「ありがとう」と言って、教室のドアに手をかけた。

(じぶんのくらすではないが、このところここへくることがふえつつあるきがする。)

自分のクラスではないが、このところココへ来ることが増えつつある気がする。

(きょうしつのなかはどこにでもあるようなざわざわとしたくうきがみちていたが、)

教室の中はどこにでもあるようなざわざわとした空気が満ちていたが、

(あきらかにいしつなふんいきがすみのほうのいっかくからただよっている。)

明らかに異質な雰囲気が隅の方の一角から漂っている。

(せつめいしがたいが、めにみえないとうめいなあわがそのあたりを)

説明しがたいが、眼に見えない透明な泡がその辺りを

(おおっているようなかんじがする。)

覆っているような感じがする。

(このくらすのれんちゅうはみんなこれにきづいているのだろうか。)

このクラスの連中はみんなこれに気づいているのだろうか。

(そのあわのちゅうしんにこおりでできたようなえみをひょうじょうにはりつかせた)

その泡の中心に氷で出来たような笑みを表情に張り付かせた

(みじかいかみのおんながすわっている。まさききょうこというなまえだ。)

短い髪の女が座っている。間崎京子という名前だ。

(きょうしつにはいってきたわたしにきづいたのか、しゅういにいたすうにんのこに)

教室に入ってきた私に気づいたのか、周囲にいた数人の子に

(なにごとかをつげてせきからはなれさせたようだ。)

何事かを告げて席から離れさせたようだ。

(とりまきができつつあるというのはほんとうらしい。)

取り巻きができつつあるというのは本当らしい。

(このゆだんならないおんなのどこにそんなみりょくがあるのかわからない。)

この油断ならない女のどこにそんな魅力があるのか分からない。

(「ききたいことがある。ちょっとでられるか」)

「聞きたいことがある。ちょっと出られるか」

(なにかいじのわるいかるぐちでもでそうなけはいだったが、)

なにか意地の悪い軽口でも出そうな気配だったが、

(いがいにもかのじょはうなずいただけでたちあがった。)

意外にも彼女は頷いただけで立ち上がった。

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