怪物 「承」-4-(完)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

関連タイピング

問題文

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(わたしはしないのとしょかんにあしをはこんだ。はじめはどこかでおかしなことが)

私は市内の図書館に足を運んだ。始めはどこかでおかしなことが

(おきてはいないかとまちなかをさんさくしていたが、)

起きてはいないかと街なかを散策していたが、

(なにもおきるようなけはいはないし、そもそもめぼしもなくあるきまわるのは)

なにも起きるような気配はないし、そもそも目星もなく歩き回るのは

(むだなろうりょくだとおもいいたったのだ。かわりに、まさききょうこがだした)

無駄な労力だと思い至ったのだ。かわりに、間崎京子が出した

(なぞのこたえをさぐりたかった。こたえをみつけたとしても、)

謎の答えを探りたかった。答えを見つけたとしても、

(なんのいみもないのかもしれないが、ようはしろはたをあっさりとあげるにも)

なんの意味もないのかも知れないが、要は白旗をあっさりと揚げるにも

(わたしのささやかなじそんしんがそれをゆるしてくれないのだった。)

私のささやかな自尊心がそれを許してくれないのだった。

(としょかんにつくとわたしはひつようなしりょうをかたっぱしからしょだなからひきぬいてきて、)

図書館に着くと私は必要な資料を片っ端から書棚から引き抜いて来て、

(てーぶるせきにじんをはる。まずわたしはおるとろすというかいぶつをしらべた。)

テーブル席に陣を張る。まず私はオルトロスという怪物を調べた。

(こいつだけよくしらないなまえだったからだ。しりょうによるとおるとろすは)

こいつだけよく知らない名前だったからだ。資料によるとオルトロスは

(けるべろすのおとうとで、くびのふたつあるいぬのすがたをしているらしい。)

ケルベロスの弟で、首の二つある犬の姿をしているらしい。

(あにはみっつくび。おとうとはふたつくびか。そのしたのおとうとがいればくびはひとつだろうか、とかんがえる。)

兄は三つ首。弟は二つ首か。その下の弟がいれば首は一つだろうか、と考える。

(くびがひとつのいぬだとしたら、それではただのいぬだな。くしょうしてずかんをとじる。)

首が一つの犬だとしたら、それではただの犬だな。苦笑して図鑑を閉じる。

(いぬか。すきゅらのかはんしんもいぬだったな。そうおもいながら、べつのほんをひらく。)

犬か。スキュラの下半身も犬だったな。そう思いながら、別の本を開く。

(すきゅらはじょうはんしんがじょせいで、かはんしんにろくたいのいぬがはえている)

スキュラは上半身が女性で、下半身に6体の犬が生えている

(さしえつきでせつめいされている。ちかくにあったひゅどらについてのずせつも)

挿絵つきで説明されている。近くにあったヒュドラについての図説も

(かくにんしたあと、けるべろすのこうをひらく。けるべろすはみつくびのまけんと)

確認した後、ケルベロスの項を開く。ケルベロスは3つ首の魔犬と

(しょうかいされているが、りゅうのおをもっているともかいてあった。)

紹介されているが、竜の尾を持っているとも書いてあった。

(なんだ、けるべろすもにしゅるいいじょうのせいぶつでこうせいされた)

なんだ、ケルベロスも2種類以上の生物で構成された

(ごうせいじゅうとしてのようそをもっているじゃないか。)

合成獣としての要素を持っているじゃないか。

など

(いや、しかしひゅどらにはそんなきじゅつはない。)

いや、しかしヒュドラにはそんな記述はない。

(べつのほんをなんさつかひらいたが、やはりひゅどらはたとうのへびといういがいに)

別の本を何冊か開いたが、やはりヒュドラは多頭の蛇という以外に

(べつのせいぶつのようそをもってはないようだ。わからない。きょうつうてんはなんだ?)

別の生物の要素を持ってはないようだ。分からない。共通点はなんだ?

(いらいらしてつくえをとんとんとゆびさきでたたく。)

イライラして机をトントンと指先で叩く。

(むかいのせきでさんこうしょをところせましとひろげているがくせいがにらみつけてくる。)

向かいの席で参考書を所狭しと広げている学生が睨みつけてくる。

(はんしゃてきににらみかえすとがくせいはおどろいたようすであっさりとめをそらす。)

反射的に睨み返すと学生は驚いた様子であっさりと目を逸らす。

(かった。すこしきをよくしてすふぃんくすにかんするほんのぺーじをひらく。)

勝った。少し気を良くしてスフィンクスに関する本の頁を開く。

(ぴらみっどのそばにちんざしている、おうのかおにらいおんのからだという)

ピラミッドのそばに鎮座している、王の顔にライオンの身体という

(みなれたすがたではなく、じょせいのかおとむね、そしてらいおんのどうたいに)

見慣れた姿ではなく、女性の顔と胸、そしてライオンの胴体に

(わしのつばさをはやしたかいぶつのさしえがめにはいった。(おや?)とおもって)

鷲の翼を生やした怪物の挿絵が目に入った。(おや?)と思って

(くわしくせつめいをよむが、ぎりしゃしんわにでてくるすふぃんくすは)

詳しく説明を読むが、ギリシャ神話に出てくるスフィンクスは

(こういうものらしい。れいのよんほんにほんさんぼんとうつりかわるあしのなぞかけは、)

こういうものらしい。例の4本2本3本と移り変わる足の謎かけは、

(このすふぃんくすがおいでぃぷすにたいしてといかけたという)

このスフィンクスがオイディプスに対して問いかけたという

(えぴそーどにもとづくようだ。なんとなくこどものころからのいめーじで、)

エピソードに基づくようだ。なんとなく子どものころからのイメージで、

(さばくをたびするひとにあのいしでできたすふぃんくすが)

砂漠を旅する人にあの石でできたスフィンクスが

(なぞかけをいどんでくるようにおもっていたが、ちがったらしい。)

謎かけを挑んで来るように思っていたが、違ったらしい。

(そうかんがえると、おぼろげながらきょうつうてんがみえたきがする。)

そう考えると、おぼろげながら共通点が見えた気がする。

(すふぃんくす、きまいら、すきゅら、ひゅどら、けるべろす、おるとろすと、)

スフィンクス、キマイラ、スキュラ、ヒュドラ、ケルベロス、オルトロスと、

(すべてぎりしゃしんわにとうじょうすることになるのだ。)

すべてギリシャ神話に登場することになるのだ。

(だがそんなおおざっぱなきょうつうてんがわかったところで、)

だがそんな大雑把な共通点が分かったところで、

(しょうてんがぼけすぎてなにもみえてこない。もういちどそれぞれのせつめいをよみかえす。)

焦点がぼけすぎてなにも見えてこない。もう一度それぞれの説明を読み返す。

(いくつかおなじこゆうめいしがでてきている。おなじえいゆうにたおされたのかともおもったが、)

いくつか同じ固有名詞が出てきている。同じ英雄に倒されたのかとも思ったが、

(へらくれすがさんびきほどやっつけているものの、あとはべつのえいゆうのしごとだった。)

ヘラクレスが3匹ほどやっつけているものの、あとは別の英雄の仕事だった。

(しかしすぐにべつのこゆうめいしがじゅうふくしてでてくることにきづく。)

しかしすぐに別の固有名詞が重複して出てくることに気づく。

(「けるべろすはてゅぽーんとえきどなのこである」)

『ケルベロスはテュポーンとエキドナの子である』

(「きまいらはてゅぽんとえきどなのむすめであり、ぺがさすをかる)

『キマイラはテュポンとエキドナの娘であり、ペガサスを駆る

(べれろぽんにたいじされた」・・・・・・etc.)

ベレロポンに退治された』……etc.

(どれもきょじんてゅぽんとかはんしんがへびのおんなのかいぶつえきどなが)

どれも巨人テュポンと下半身が蛇の女の怪物エキドナが

(つくったこどもたちばかりなのだ。)

作った子どもたちばかりなのだ。

(すきゅらをそのりょうしゃのことするのはいせつのようだが、)

スキュラをその両者の子とするのは異説のようだが、

(たしかにそんなかいせつをするほんもあった。だが、すふぃんくすのかいせつでてがとまる。)

確かにそんな解説をする本もあった。だが、スフィンクスの解説で手が止まる。

(すふぃんくすはてゅぽんとえきどなのむすめとするせつもあるが、)

スフィンクスはテュポンとエキドナの娘とする説もあるが、

(えきどながわがこおるとろすとのあいだにつくったむすめであるとするせつのほうが)

エキドナが我が子オルトロスとの間に作った娘であるとする説の方が

(いっぱんてきなようだ。わたしはほんをとじ、せなかをそらせてとしょかんのたかいてんじょうをみあげた。)

一般的なようだ。私は本を閉じ、背中を反らせて図書館の高い天井を見上げた。

(そこからみちびきだされるきょうつうてんは、こうだ。)

そこから導き出される共通点は、こうだ。

(「ろくたいのかいぶつはすべて、えきどなからうまれた」)

『6体の怪物はすべて、エキドナから生まれた』

(これがこたえだろう、まさききょうこ。かみをめくるかわいたおとがしゅういからひびいている。)

これが答えだろう、間崎京子。紙をめくる乾いた音が周囲から響いている。

(ふかいもやがかかっていたあたまが、ほんのすこしだけくりあになったきがする。)

深いもやがかかっていた頭が、ほんの少しだけクリアになった気がする。

(「きょうつうてんをさがしてみてね」とあのときあいつはいった。)

「共通点を探してみてね」とあの時あいつは言った。

(そしてそのなぞかけのこたえからあのおんなのめっせーじがうかびあがってくる。)

そしてその謎掛けの答えからあの女のメッセージが浮かび上がってくる。

(こおりざいくのようなかおのくちもとがいめーじのなかでなめらかにうごき、)

氷細工のような顔の口元がイメージの中で滑らかに動き、

(わたしをそれをよみとる。「えきどなをさがせ」ためいきをついた。)

私をそれを読み取る。『エキドナを探せ』溜息をついた。

(なんてまわりくどいんだ。)

なんて回りくどいんだ。

(あのおんなにつぎあったときにはなんとかしてなぐってみよう、とおもった。)

あの女に次会った時にはなんとかして殴ってみよう、と思った。

(そのとき、しずかだったかんないにちょっとしたさわぎがおこった。)

その時、静かだった館内にちょっとした騒ぎが起こった。

(たちあがってかけよると、わたしがさっきまでほんをあさってたしょだなから、)

立ち上がって駆け寄ると、私がさっきまで本を漁ってた書棚から、

(たいりょうのほんがらっかしてゆかにぶちまけられている。)

大量の本が落下して床にぶちまけられている。

(ちかくにいたらしいぱーまあたまのおばさんがろうばいして、)

近くにいたらしいパーマ頭のおばさんが狼狽して、

(じぶんじゃない、としきりにうったえている。)

自分じゃない、としきりに訴えている。

(かかりのにんげんがとんできて、ほんをひろいはじめた。)

係りの人間が飛んで来て、本を拾い始めた。

(そのひとの「いいかげんにしてくださいよ」という、)

その人の「いい加減にしてくださいよ」という、

(だれにぶつけていいのかわからないようなうんざりしたこえを、)

誰にぶつけていいのか分からないようなうんざりした声を、

(わたしはたしかにみみにした。)

私は確かに耳にした。

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