怪物 「結」上-2-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(このわたしじしん、もくようびにはじめてみたゆめをおぼえていたのに、)

この私自身、木曜日に初めて見た夢を覚えていたのに、

(すんでいるいえはきんようびをあらわすあおいてんのあるはんけいえりあにあるのだ。)

住んでいる家は金曜日を表す青い点のある半径エリアにあるのだ。

(おそらく、ちょっかんだか、れいかんだかのいれぎゅらーてきなこじんののうりょくも)

おそらく、直観だか、霊感だかのイレギュラー的な個人の能力も

(ここにはえいきょうしている。それをふまえて、かんがえる。)

ここには影響している。それを踏まえて、考える。

(あのまさききょうこがまだゆめをおもいだせないみどりのてんのひとつなどで)

あの間崎京子がまだ夢を思い出せない緑の点のひとつなどで

(おさまっているものだろうか。わからない。)

収まっているものだろうか。分からない。

(あのおんなどくとくの、”えたいのしれないかんじ”のばっくぼーんがなんなのか、)

あの女独特の、"得体の知れない感じ"のバックボーンがなんなのか、

(わたしにはまだわからないのだから。ろうかやきょうしつにひとかげもまばらになったころ、)

私にはまだ分からないのだから。廊下や教室に人影もまばらになったころ、

(わたしはようやくけいこうぺんをおいた。けっきょく、たかのしほのほかに、もくようびいぜんから)

私はようやく蛍光ペンを置いた。結局、高野志穂の他に、木曜日以前から

(ゆめをおぼえていたひとはいなかった。たかのしほのいえのきんじょにすんでいるこは)

夢を覚えていた人はいなかった。高野志穂の家の近所に住んでいる子は

(いたが、そのこはこわいゆめをみていることさえきづいていなかった。)

居たが、その子は怖い夢を見ていることさえ気づいていなかった。

(まあ、いい。できるかぎりのせいどはあげた。)

まあ、いい。出来る限りの精度は上げた。

(ちずにおとされたぼーるぺんのまるをもういちどみつめる。)

地図に落とされたボールペンの丸をもう一度見つめる。

(いそごう。ちずをかばんにしまい、わたしはこうしゃをあとにする。)

急ごう。地図を鞄に仕舞い、私は校舎を後にする。

(はやあしであるき、いちどいえにかえってじてんしゃをてにいれる。)

早足で歩き、一度家に帰って自転車を手に入れる。

(さどるにまたがりながらそらをみあげるとまだひはおちていなかった。)

サドルに跨りながら空を見上げるとまだ陽は落ちていなかった。

(さあ、いこう。そうつぶやいてぺだるをこぎだす。)

さあ、行こう。そう呟いてペダルを漕ぎ出す。

(とちゅう、おもいついてこうしゅうでんわによろうとした。)

途中、思いついて公衆電話に寄ろうとした。

(しかしちょうどとおりみちにあったこうしゅうでんわはれいの「おばけのでんわ」だ。)

しかしちょうど通り道にあった公衆電話は例の「お化けの電話」だ。

(なんとなくいやだったので、すこしとおまわりしてべつのこうしゅうでんわへむかう。)

なんとなく嫌だったので、少し遠回りして別の公衆電話へ向かう。

など

(ほどなくしてでんわぼっくすにたどりつき、じてんしゃをわきにとめて、)

ほどなくして電話ボックスにたどり着き、自転車を脇に止めて、

(なかにはいってじゅわきをあげる。)

中に入って受話器を上げる。

(てれほんかーどをいれて、おぼえているばんごうをぷっしゅする。)

テレホンカードを入れて、覚えている番号をプッシュする。

(こーるおんがすうかいなってからあいてがでた。いないだろうとおもって、)

コール音が数回鳴ってから相手が出た。いないだろうと思って、

(るすばんでんわにいれるつもりだったのに。)

留守番電話に入れるつもりだったのに。

(しかたがないので、いそがしいからきょうはあえないということをつたえる。)

仕方がないので、忙しいから今日は会えないということを伝える。

(あんのじょう、けんかになった。まいしゅうきんようびにあうやくそくをしていたのに、)

案の定、ケンカになった。毎週金曜日に会う約束をしていたのに、

(これでにしゅうれんぞくわたしからどたきゃんしてしまった。)

これで2週連続私からドタキャンしてしまった。

(だからといってべつにうわきをしているわけではない。)

だからと言って別に浮気をしているワケではない。

(やむにとまれぬじじょうがあるのだから。)

止むに止まれぬ事情があるのだから。

(ぎゃくにわたしへのあてつけのように、こんやはおんなをかうなどと)

逆に私へのあてつけのように、今夜は女を買うなどと

(くちにしたことのほうがよほどゆるせない。「しね」といってでんわをきった。)

口にしたことの方がよほど許せない。「死ね」と言って電話を切った。

(でんわぼっくすをでたときはあたまにちがのぼりれいせいさをかいていたが、)

電話ボックスを出たときは頭に血が上り冷静さを欠いていたが、

(しばらくじてんしゃをこいでいるとしだいにわれにかえってくる。)

しばらく自転車を漕いでいると次第に我に返ってくる。

(いけない。ほうこうがちがう。じてんしゃのかごからちずをとりだしてかくにんする。)

いけない。方向が違う。自転車のカゴから地図を取り出して確認する。

(このあたりはまだあおのえりあだ。はんどるをきってほうこうをしゅうせいした。)

この辺りはまだ青のエリアだ。ハンドルを切って方向を修正した。

(たちこぎでさきをいそぐ。けしきがひゅんひゅんとすぎさっていく。)

立ち漕ぎで先を急ぐ。景色がヒュンヒュンと過ぎ去っていく。

(そのなかへとけていくように、なみだがひとすじだけながれてきえていった。)

その中へ溶けていくように、涙がひと筋だけ流れて消えていった。

(ほんとに、わたしはなにをやっているのだろう。)

ホントに、私はなにをやっているのだろう。

(だめだ。このところ、こころとからだのばらんすをくずしている。)

駄目だ。このところ、心と身体のバランスを崩している。

(ちょっとしたことでおちこんだり、なやんだり。)

ちょっとしたことで落ち込んだり、悩んだり。

(いまもこんなわけのわからないことでいつのまにかひっしになっている。)

今もこんな訳の分からないことでいつの間にか必死になっている。

(いったいわたしはどうしてしまったのか。)

いったい私はどうしてしまったのか。

(「あなた、ちょっとかわったね」ときのうのよるせんぱいはいった。)

『あなた、ちょっと変わったね』と昨日の夜先輩は言った。

(こうこうにはいってからわたしはかわりはじめてしまったらしい。なぜなのだろう。)

高校に入ってから私は変わり始めてしまったらしい。何故なのだろう。

(けんどうぶをつづけていたほうがよかったかもしれない。)

剣道部を続けていた方が良かったかも知れない。

(そうおもいながらじてんしゃをこぎつづける。)

そう思いながら自転車を漕ぎ続ける。

(きがつくとわたしはあかのえりあにはいっていた。そしてそのさいしんぶまでは)

気がつくと私は赤のエリアに入っていた。そしてその最深部までは

(めとはなのさきだった。ただのありふれたじゅうたくがいだ。)

目と鼻の先だった。ただのありふれた住宅街だ。

(いまはなんのふきつないんしょうもうけない。なのにきんちょうしてしまうのは)

今はなんの不吉な印象も受けない。なのに緊張してしまうのは

(あたまでかんがえてしまうからなのだろう。さんさろのかどをまがったとき、)

頭で考えてしまうからなのだろう。三差路の角を曲がったとき、

(わたしはしんぞうがとまるほどおどろいた。こんくりーとべいにでんしんばしらが)

私は心臓が止まるほど驚いた。コンクリート塀に電信柱が

(むぞうさにたてかけられている。もとあったとおぼしきばしょには)

無造作に立てかけられている。元あったと思しき場所には

(あながあいていて、そこからまるでちからまかせにひきぬかれたかのようなこんせきが)

穴が開いていて、そこからまるで力任せに引き抜かれたかのような痕跡が

(じめんのひびわれとなってあらわれていた。でんせんのかくどがかわってかたほうはぴんとはり、)

地面のひび割れとなって現れていた。電線の角度が変わって片方はピンと張り、

(もうかたほうはたわんでぶらぶらとゆれている。)

もう片方はたわんでブラブラと揺れている。

(まるでこどもがおもちゃのはこにわであそんでいるようなげんじつばなれしたこうけいだった。)

まるで子どもがおもちゃの箱庭で遊んでいるような現実離れした光景だった。

(めにみえないきょだいなてがそらからふってくるようなさっかくをおぼえて)

目に見えない巨大な手が空から降ってくるような錯覚を覚えて

(わたしはおもわずからだをのけぞらせる。ききあつめたかいげんしょうのなかに)

私は思わず身体を仰け反らせる。聞き集めた怪現象の中に

(こんなものがあったはずだ。でもこれはたぶんべっけんだろう。)

こんなものがあったはずだ。でもこれは多分別件だろう。

(まったくだれもこのいへんにきづいたようすはない。)

全く誰もこの異変に気づいた様子はない。

(だれかにここでこうしているのをみられたらとおもうとわずらわしくなり、)

誰かにここでこうしているのを見られたらと思うと煩わしくなり、

(すぐにじてんしゃをはっしんさせた。)

すぐに自転車を発進させた。

(たかのしほのいえはそこからごふんとかからなかった。)

高野志穂の家はそこから5分と掛からなかった。

(わりとあたらしいじゅうたくがならんでいるいっかくの、あおいやねがいんしょうてきな)

わりと新しい住宅が並んでいる一角の、青い屋根が印象的な

(こじんまりとしたいえだった。いえのまえにじてんしゃをとめてわたしはうでどけいをみる。)

こじんまりとした家だった。家の前に自転車をとめて私は腕時計を見る。

(かのじょはばれーぶのれんしゅうにいくといっていたので、)

彼女はバレー部の練習に行くと言っていたので、

(まだぶかつからかえっていないじかんのはずだ。しんこきゅうをしてからよびりんをおす。)

まだ部活から帰っていない時間のはずだ。深呼吸をしてから呼び鈴を押す。

(いんたーふぉんから「はあい」というこえがして、)

インターフォンから「はあい」という声がして、

(しばしまつとげんかんのどあがあいた。)

暫し待つと玄関のドアが開いた。

(たかのしほによくにたこがらなじょせいがかおをのぞかせる。ははおやらしい。)

高野志穂に良く似た小柄な女性が顔を覗かせる。母親らしい。

(「あら。どなた」そういいながらどあをあけはなち、こちらにあゆみよってくる。)

「あら。どなた」そう言いながらドアを開け放ち、こちらに歩み寄ってくる。

(うちがわにちぇーんは・・・・・・・・・・・・ない。めせんのうごきをさとられないように)

内側にチェーンは…………ない。目線の動きを悟られないように

(すばやくかくにんしたあと、わたしはできるかぎりのよそいきのこえをだした。)

素早く確認した後、私は出来る限りのよそいきの声を出した。

(「しほさんはいらっしゃいますか」「あら、おともだち?めずらしいわねぇ。)

「志穂さんはいらっしゃいますか」「あら、お友だち? 珍しいわねぇ。

(でもごめんなさい。まだかえってないのよ。・・・・・・どうしましょう。)

でもゴメンなさい。まだ帰ってないのよ。……どうしましょう。

(うちにあがってまってくださる?ちらかってるけど」)

ウチに上がって待ってくださる? 散らかってるけど」

(「いえ、いいんです。ちょっとちかくきたのでよっただけですから。またきます」)

「いえ、いいんです。ちょっと近く来たので寄っただけですから。また来ます」

(そういってわたしはあたまをさげ、もうしわけなさそうなははおやに)

そう言って私は頭を下げ、申し訳なさそうな母親に

(へたくそなえがおをむけてじてんしゃにまたがった。)

ヘタクソな笑顔を向けて自転車に跨った。

(「さようなら」いえをじするあいさつとして、てきとうだったのかわからない。)

「さようなら」家を辞する挨拶として、適当だったのか分からない。

(ああいうときはなんというのだろう。おやすみなさい、かな。)

ああいうときはなんと言うのだろう。お休みなさい、かな。

(でもすこしじかんたいがはやいか。)

でも少し時間帯が早いか。

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