怪物 「結」下-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(くらい。くらいきぶん。どろのそこにしずんでいくかんじ。)

暗い。暗い気分。泥の底に沈んでいく感じ。

(わたしは、やけにくらいへやにひとりでいる。)

私は、やけに暗い部屋に一人でいる。

(ちらかったかべぎわに、じっとすわってなにかをまっている。)

散らかった壁際に、じっと座ってなにかを待っている。

(やがてそとからあしおとがきこえてわたしはうごきだす。げんかんにたち、)

やがて外から足音が聞こえて私は動き出す。玄関に立ち、

(どあにみみをつけていきをころす。くらいきもち。ころしたいきもち。)

ドアに耳をつけて息を殺す。暗い気持ち。殺したい気持ち。

(あしおとがしたからのぼってくる。わたしはそのあしおとが、ははおやのだとしっている。)

足音が下から登ってくる。私はその足音が、母親のだと知っている。

(やがてそのおとがどあのまえでとまる。どんどんどんというどあをたたくしんどう。)

やがてその音がドアの前で止まる。ドンドンドンというドアを叩く振動。

(せのびをして、ちぇーんをはずす。そしてろっくをかちりとひねる。)

背伸びをして、チェーンを外す。そしてロックをカチリと捻る。

(てにはかたいもの。わたしのてにあう、ちいさなはもの。)

手には硬い物。私の手に合う、小さな刃物。

(どあがあけられ、ぬうっと、あおじろいかおがのぞく。)

ドアが開けられ、ぬうっと、青白い顔が覗く。

(ははおやのかお。みたことのないひょうじょう。みたくないひょうじょう。)

母親の顔。見たことのない表情。見たくない表情。

(どあのむこう、ははおやのせなかごしにつき。まっくろいびるのしるえっとに)

ドアの向こう、母親の背中越しに月。真っ黒いビルのシルエットに

(はんぶんかくれている。どこかからくうきがもれているようなおとがする。)

半分隠れている。どこかから空気が漏れているような音がする。

(それはわたしのいきなのだろうか。)

それは私の息なのだろうか。

(いや、わたしのからだにはきっとどこかにしらないあながあいていて、)

いや、私の身体にはきっとどこかに知らない穴が開いていて、

(そこからすきまかぜがふいているんだろう。わたしははいりこんでくるかおに、)

そこから隙間風が吹いているんだろう。私は入り込んでくる顔に、

(はなしかけることも、わらいかけることも、みみをかたむけることもしなかった。)

話しかけることも、笑いかけることも、耳を傾けることもしなかった。

(ただてのなかにあるかたいものをにぎりしめ、くらいきもちをもっとくらくして。)

ただ手の中にある硬い物を握り締め、暗い気持ちをもっと暗くして。

(「・・・・・・っ」ひめいがきこえた。それはわたしがあげたのだときづく。)

「……ッ」悲鳴が聞こえた。それは私が上げたのだと気づく。

(どうきがする。いきがくるしい。ゆめだ。ゆめをみていた。からだをおこす。べっどのうえ。)

動悸がする。息が苦しい。夢だ。夢を見ていた。身体を起こす。ベッドの上。

など

(てんじょうからふりそそぐひかりがまぶしい。あかりがついたままだ。)

天井から降り注ぐ光が眩しい。明かりがついたままだ。

(とけいをみる。よなかのいちじはん。ふくをきたままいつのまにかねてしまっていた。)

時計を見る。夜中の1時半。服を着たままいつの間にか寝てしまっていた。

(てにはじっとりとあせをかいている。まだなにかにぎっているようなかんかくがある。)

手にはじっとりと汗をかいている。まだなにか握っているような感覚がある。

(なんどかてのひらをひらいたりとじたりしてみる。)

何度か手のひらを開いたり閉じたりしてみる。

(あたりをみまわすが、とくにいへんはない。あわだつようなさむけだけがからだをおおっている。)

辺りを見回すが、特に異変はない。粟立つような寒気だけが身体を覆っている。

(そのとき、ゆかにおいたらじおからきみょうなこえがきこえてきた。)

そのとき、床に置いたラジオから奇妙な声が聞こえてきた。

(ひどくまのびしたおとで、わらっているようなかんじ。)

ひどく間延びした音で、笑っているような感じ。

(よるのいえはしずまりかえっている。かーてんをしめた)

夜の家は静まり返っている。カーテンを閉めた

(にかいのまどのむこうからもなんのおともきこえない。)

2階の窓の向こうからもなんの音も聞こえない。

(ただらじおだけが、まのびしたわらいごえをひびかせている。)

ただラジオだけが、間延びした笑い声を響かせている。

(わたしはおもわずこんせんとにはしりより、こーどをひきぬいた。)

私は思わずコンセントに走り寄り、コードを引き抜いた。

(ぶつりとらじおはだまる。つけてない。わたしはねむるまえに、らじおなんてつけてない。)

ぶつりとラジオは黙る。つけてない。私は眠る前に、ラジオなんてつけてない。

(なんなのだ、これは。かでんせいひんのいじょう。まるでぽるたーがいすとげんしょうだ。)

なんなのだ、これは。家電製品の異常。まるでポルターガイスト現象だ。

(わたしはつくえのひきだしをおそるおそるあけ、らんざつにつめこまれたぶんぼうぐのなかから)

私は机の引き出しを恐る恐る開け、乱雑に詰め込まれた文房具の中から

(はさみをさがしだした。ちゅうがくじだいからつかっているこぶりなはさみ。)

鋏を探し出した。中学時代から使っている小ぶりな鋏。

(てにもってみたが、とくにおかしなところはない。)

手に持ってみたが、特におかしな所はない。

(ひとまずほっとしてひきだしをしめる。どういうことだろう。)

ひとまずホッとして引き出しを閉める。どういうことだろう。

(いままでのゆめはあけがた、めざめるちょくぜんにみるめいせきなゆめだった。)

今までの夢は明け方、目覚める直前に見る明晰な夢だった。

(ほかのひとたちのたいけんだんもいちようにおなじだ。)

他の人たちの体験談も一様に同じだ。

(しかしいまのはいっかいめかにかいめのれむすいみんじのゆめだ。)

しかし今のは1回目か2回目のレム睡眠時の夢だ。

(いままでだってほんとうはこの、ねむりについてあまりたっていないじかんたいにも)

今までだって本当はこの、眠りについてあまり経っていない時間帯にも

(おなじゆめをみていたのかもしれない。ただわすれてしまっているだけで。)

同じ夢を見ていたのかも知れない。ただ忘れてしまっているだけで。

(でもさっきのりあるさはなんだ?あきらかにいままでのゆめとはちがう。)

でもさっきのリアルさはなんだ? 明らかに今までの夢とは違う。

(はさみをにぎるかんしょくもはっきりのこっている。わたしはひだりてでじぶんのかおをさわった。)

鋏を握る感触もはっきり残っている。私は左手で自分の顔を触った。

(そしてこうおもう。(こっちがゆめなんてことはないよな))

そしてこう思う。(こっちが夢なんてことはないよな)

(ははおやにはさみをつきたてようとしているしょうじょこそがほんとうのわたしで、)

母親に鋏を突き立てようとしている少女こそが本当の私で、

(いまこうしてかんがえているわたしのほうがかのじょのみているゆめなんていうことは・・・・・・)

今こうして考えている私の方が彼女の見ている夢なんていうことは……

(なんだっけ、こういうの。かんぶんのじゅぎょうできいたな。こちょうのゆめ、だったか。)

なんだっけ、こういうの。漢文の授業で聞いたな。胡蝶の夢、だったか。

(ありえない、とくびをふる。だがすくなくとも、いままでのゆめとはきんぱくかんがちがった。)

ありえない、と首を振る。だが少なくとも、今までの夢とは緊迫感が違った。

(きょうふしんのあまりとちゅうでめざめてしまったのだから。(ゆめ・・・・・・だよな))

恐怖心のあまり途中で目覚めてしまったのだから。(夢……だよな)

(わたしはおそろしいそうぞうをしはじめていた。まなつのよるのへやのなかが)

私は恐ろしい想像をし始めていた。真夏の夜の部屋の中が

(つめたくなってきたようなさっかくをおぼえる。)

冷たくなって来たような錯覚を覚える。

(これまでのは、しょうてんとなっているそのしょうじょのみていた)

これまでのは、焦点となっているその少女の見ていた

(さついにみちたゆめがよるのまちにもれだしたもので。)

殺意に満ちた夢が夜の街に漏れ出したもので。

(いまみたのは、げんじつのどすくろいさついがりあるたいむで)

今見たのは、現実のドス黒い殺意がリアルタイムで

(わたしのあたまにかんしょうしていたのではないか、というそうぞうを。)

私の頭に干渉していたのではないか、という想像を。

(だとしたら、さっきのこうけいのつづきは?)

だとしたら、さっきの光景の続きは?

(もしゆめをみながらかのじょのさついにどうちょうしていたまちじゅうのにんげんたちが、)

もし夢を見ながら彼女の殺意に同調していた街中の人間たちが、

(わたしのようにあのたいみんぐでめざめていなかったとしたら?)

私のようにあのタイミングで目覚めていなかったとしたら?

(わたしはいてもたってもいられなくなり、へやのなかをぐるぐるとまわった。)

私は居ても立ってもいられなくなり、部屋の中をぐるぐると回った。

(ゆだんなのか。もうあしたにもてがとどくとおもって)

油断なのか。もう明日にも手が届くと思って

(だらしなくねてしまったわたしのせいなのか。)

だらしなく寝てしまった私のせいなのか。

(でもなにができたっていうんだ。)

でもなにが出来たって言うんだ。

(あんなおそくにまさききょうこのいえまでいってにがおえをかかせ、)

あんな遅くに間崎京子の家まで行って似顔絵を描かせ、

(それをてにまたあのじゅうたくがいをききこみすればよかったのか?)

それを手にまたあの住宅街を聞き込みすれば良かったのか?

(せめていえのばしょがとくていできれば・・・・・・)

せめて家の場所が特定できれば……

(そうかんがえたとき、わたしはしせんをななめしたにむけた。)

そう考えたとき、私は視線を斜め下に向けた。

(まて。どあのむこうのけしき。つきがはんぶんかくれていたびるのしるえっと。)

待て。ドアの向こうの景色。月が半分隠れていたビルのシルエット。

(ゆめのなかのしせん。あのびるはしっているぞ。)

夢の中の視線。あのビルは知っているぞ。

(しないにすむにんげんならきっとだれでもしっている。いちばんたかいびるなのだから。)

市内に住む人間ならきっと誰でも知っている。一番高いビルなのだから。

(びるのいちと、つきのいち。それがわかるなら、ばしょが、)

ビルの位置と、月の位置。それが分かるなら、場所が、

(それらがげんかんのなかからどあごしにみえているいえが、)

それらが玄関の中からドア越しに見えている家が、

(ほぼとくていできるかもしれない!)

ほぼ特定出来るかも知れない!

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