怪物 「結」下-3-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(つー、つー、というおとがみぎみみにりふれいんする。)

ツー、ツー、という音が右耳にリフレインする。

(わたしはさいごに、いおうとしていた。でんわをきられるまえに、)

私は最後に、言おうとしていた。電話を切られる前に、

(いそいでいおうとしていた。そのことにがくぜんとする。いっしょにきて。)

急いで言おうとしていた。そのことに愕然とする。いっしょにきて。

(そういおうとしていたのだ。)

そう言おうとしていたのだ。

(たよるもののないこのよるのやみのなかを、ともにあるくだれかのかたが、ほしかった。)

頼るもののないこの夜の闇の中を、共に歩く誰かの肩が、欲しかった。

(じゅわきをふっくにもどし、でんわぼっくすをでる。)

受話器をフックに戻し、電話ボックスを出る。

(すこしはなれたところにあるがいとうが、まばたたきをしはじめる。きえかけているのか。)

少し離れた所にある街灯が、瞬きをし始める。消えかけているのか。

(わたしはじてんしゃのはんどるをにぎる。いこう。ひとりでも、ゆめのつづきをしるために。)

私は自転車のハンドルを握る。行こう。一人でも、夢の続きを知るために。

(じてんしゃはかそくする。みみのかたちにそってかぜがくるくるとまわり、)

自転車は加速する。耳の形に沿って風がくるくると回り、

(ふくざつなおとのなかにわたしをとじこめる。)

複雑な音の中に私を閉じ込める。

(ふりむいてもでんわぼっくすはもうみえなくなった。はなれていくにしたがって、)

振り向いても電話ボックスはもう見えなくなった。離れて行くに従って、

(さっきのでんわがほんとうにあったできごとなのかわからなくなる。)

さっきの電話が本当にあった出来事なのか分からなくなる。

(なんどめかのかどをまがり、しばらくすすむとどうろのまんなかになにかが)

何度目かの角を曲がり、しばらく進むと道路の真ん中になにかが

(おかれていることにきがついた。そくどをゆるめてめをこらすと、)

置かれていることに気がついた。速度を緩めて目を凝らすと、

(それはこーんだった。こうじげんばによくある、あのえんすいがたをしたもの。)

それはコーンだった。工事現場によくある、あの円錐形をしたもの。

(ぱいろん、というのだったか。どうろのりょうがわにはみんかのこんくりーとべいが)

パイロン、というのだったか。道路の両側には民家のコンクリート塀が

(ならんでいる。ずっととおくまで。あすふぁるとのうえに、ただばちがいに)

並んでいる。ずっと遠くまで。アスファルトの上に、ただ場違いに

(はでなきいろとくろのこーんがひとつ、ぽつんとおかれているだけだ。)

派手な黄色と黒のコーンがひとつ、ぽつんと置かれているだけだ。

(とうぜん、むこうにはこうじのこんせきすらない。だれかのいたずらだろうか。)

当然、向こうには工事の痕跡すらない。誰かのイタズラだろうか。

(そのよこをすりぬけて、さらにすすむ。)

その横をすり抜けて、さらに進む。

など

(500めーとるほどいくとまたどうろのまんなかにさんかくのしるえっとがあらわれた。)

500メートルほど行くとまた道路の真ん中に三角のシルエットが現れた。

(またこーんだ。さけてつっきると、こんどは10びょうほどでつぎのこーんがしゅつげんする。)

またコーンだ。避けて突っ切ると、今度は10秒ほどで次のコーンが出現する。

(とおりすぎると、またすぐにつぎのこーんが・・・・・・それはきみょうなこうけいだった。)

通り過ぎると、またすぐに次のコーンが……それは奇妙な光景だった。

(ひとかげもなく、だれもとおらないしんやのじゅうたくがいに、なんらかのきけんがあることを)

人影もなく、誰も通らない深夜の住宅街に、何らかの危険があることを

(しめすものがせいぜんとならんでいるのだ。だがいけどもいけどもなにもない。)

示す物が整然と並んでいるのだ。だが行けども行けどもなにもない。

(ただこーんだけがみちにむぞうさにおかれている。だんだんとうすきみわるくなってきた。)

ただコーンだけが道に無造作に置かれている。段々と薄気味悪くなって来た。

(あまりかんがえないようにして、ほいーるのかいてんだけにいしきをしゅうちゅうしようとする。)

あまり考えないようにして、ホイールの回転だけに意識を集中しようとする。

(だが、そのせのたかいしるえっとをみたときにはこころがまえがなかったぶん、)

だが、その背の高いシルエットを見たときには心構えがなかった分、

(ぜんしんにしょうげきがはしった。こんどはこーんではない。ほそくてながく、あたまのぶぶんがまるい。)

全身に衝撃が走った。今度はコーンではない。細くて長く、頭の部分が丸い。

(みちでよくみるものだが、それがまよなかのどうろのまんなかにあるこうけいは、)

道でよく見るものだが、それが真夜中の道路の真ん中にある光景は、

(まるでこのよのものではないようないわかんがあった。)

まるでこの世のものではないような違和感があった。

(「しんにゅうきんし」をあらわすどうろひょうしきが、そのこんくりーとのどだいごと)

『進入禁止』を表す道路標識が、そのコンクリートの土台ごと

(ひっこぬかれてどうろのうえにおかれているのだ。)

引っこ抜かれて道路の上に置かれているのだ。

(しゅういをみまわしてももとあったとおぼしきあなはみつからない。)

周囲を見回しても元あったと思しき穴は見つからない。

(いったいだれが、そしてどこからはこんできたというのか。)

いったい誰が、そしてどこから運んで来たというのか。

(ぞくぞくするかたをおさえながら、)

ゾクゾクする肩を押さえながら、

(「しんにゅうきんし」されているそのむこうがわへとおりぬける。)

『進入禁止』されているその向こう側へ通り抜ける。

(これもぽるたーがいすとげんしょうなのか?)

これもポルターガイスト現象なのか?

(しかしこれまでにおきたかいげんしょうたちとは、)

しかしこれまでに起きた怪現象たちとは、

(あきらかにそのせいしつがことなっているきがする。)

明らかにその性質が異なっている気がする。

(いしのあめや、でんしんばしらやなみきがひきぬかれたじけん、)

石の雨や、電信柱や並木が引き抜かれた事件、

(なかみをぶちまけられるほんだなやびるのきみょうなていでんなどは、)

中身をぶちまけられる本棚やビルの奇妙な停電などは、

(”いと”のようなものをかんじさせない、あるいみじゅんすいないたずらのような)

"意図"のようなものを感じさせない、ある意味純粋なイタズラのような

(いんしょうをうけたが、このみちにおかれたこーんやどうろひょうしきは、)

印象を受けたが、この道に置かれたコーンや道路標識は、

(そのとういつされたいみといい、しつようさといい、なにものかの”いと”が)

その統一された意味といい、執拗さといい、何者かの"意図"が

(ほのみえるのである。)

ほの見えるのである。

(くるな。そのさんおんを、わたしはあたまのなかでさいせいする。)

く・る・な。その3音を、私は頭の中で再生する。

(ぽるたーがいすとげんしょうのあらわれかたがかわった。それがなぜなのかわからない。)

ポルターガイスト現象の現れ方が変わった。それが何故なのか分からない。

(あらわれかたがかわったというよりも、「すてーじがあがった」というべきなのか。)

現れ方が変わったと言うよりも、「ステージが上った」と言うべきなのか。

(これでは、rspk、はんぷくせいぐうはつせいねんりきなどというしろものではない。)

これでは、RSPK、反復性偶発性念力などという代物ではない。

(もっとおそろしいなにか・・・・・・)

もっと恐ろしいなにか……

(わたしははくいきにちからをこめる。めはぜんぽうをつよくみすえる。おじけづいてはいけない。)

私は吐く息に力を込める。目は前方を強く見据える。怖気づいてはいけない。

(びゅんびゅんとけしきはすぎさり、ほうかごにおとずれたおれんじのえんのちゅうしんちである)

ビュンビュンと景色は過ぎ去り、放課後に訪れたオレンジの円の中心地である

(じゅうたくがいへとうちゃくする。けっきょく、どうろひょうしきはあれいこうしゅつげんしなかった。)

住宅街へ到着する。結局、道路標識はあれ以降出現しなかった。

(いわばさいごのけいこくだったわけか。)

言わば最後の警告だった訳か。

(わたしはよぞらをあおぎ、つきのひかりにてらされたびるのかげをさがす。)

私は夜空を仰ぎ、月の光に照らされたビルの影を探す。

(このまちでいちばんたかいかげだ。そしてつきがそのびるにはんぶんかくれるようなしてんをもとめて、)

この街で一番高い影だ。そして月がそのビルに半分隠れるような視点を求めて、

(いきをころしながらじてんしゃをゆっくりとすすめる。)

息を殺しながら自転車をゆっくりと進める。

(うごくものはだれもいない。ほとんどのいえがねしずまってあかりももれていない。)

動くものは誰もいない。ほとんどの家が寝静まって明かりも漏れていない。

(さまざまなかたちのやねが、くろぐろとしたいようをしほうにひろげている。)

様々な形の屋根が、黒々とした威容を四方に広げている。

(やがてわたしはせのひくいかきねのまえにいきついた。まちにぽっかりとあいた)

やがて私は背の低い垣根の前に行き着いた。街にぽっかりと開いた

(あなのようなくうかん。むこうにはぎんいろのがいとうがみえる。)

穴のような空間。向こうには銀色の街灯が見える。

(しゃへいぶつのないばしょをえらんでとおるのか、かぜがつよくなったきがする。)

遮蔽物のない場所を選んで通るのか、風が強くなった気がする。

(こうえんだ。わたしはむねのなかにうずまきはじめたいいようのないよかんとともに、)

公園だ。私は胸の中に渦巻き始めた言いようのない予感とともに、

(じてんしゃをいりぐちにとめ、すたんどをおろしてからこうえんのなかにあしをふみいれた。)

自転車を入り口にとめ、スタンドを下ろしてから公園の中に足を踏み入れた。

(くつをやわらかくおしかえすつちのかんしょく。ぎんいろのひかりにくらくうかびあがるゆうぐたち。)

靴を柔らかく押し返す土の感触。銀色の光に暗く浮かび上がる遊具たち。

(みあげてもつきはびるにかくれていない。ここではない。)

見上げても月はビルに隠れていない。ここではない。

(けれどいま、わたしのしせんのさきには、がいとうのしたにたつふたつのひとかげがあるのだ。)

けれど今、私の視線の先には、街灯の下に立つ二つの人影があるのだ。

(ごくり、とくちのなかのわずかなすいぶんをのみこむ。)

ごくり、と口の中のわずかな水分を飲み込む。

(ひとかげたちもちかづいていくわたしにあきらかにきづいていた。)

人影たちも近づいて行く私に明らかに気づいていた。

(こちらをみつめているふくすうのしせんをたしかにかんじる。)

こちらを見つめている複数の視線を確かに感じる。

(かぜがみみもとにうなりをあげてとおりすぎた。)

風が耳元に唸りを上げて通り過ぎた。

(「またきたよ」かげのひとつがくちをひらいた。「どうなってるんだ」)

「また来たよ」影の一つが口を開いた。「どうなってるんだ」

(ようやくそのすがたかたちがみえてきた。めがねをかけたおとこだ。)

ようやくその姿形が見えて来た。眼鏡を掛けた男だ。

(しろいしゃつにすらっくす。ねくたいこそしていないが、)

白いシャツにスラックス。ネクタイこそしていないが、

(さらりーまんのようなふうぼうだった。しんけいしつそうなそのかおは、)

サラリーマンのような風貌だった。神経質そうなその顔は、

(30さいくらいだろうか。)

30歳くらいだろうか。

(「こんなじかんに、こんなばしょにくるんだから、わたしたちとおなじなんでしょうね」)

「こんな時間に、こんな場所に来るんだから、私たちと同じなんでしょうね」

(こえはわかいが、がいけんは50すぎのおばさんだった。)

声は若いが、外見は50過ぎのおばさんだった。

(じみなかーきいろのうわぎに、すかーと。)

地味なカーキ色の上着に、スカート。

(こぶとりのたいけいは、ふしぎとわたしのこころをなごませた。)

小太りの体型は、不思議と私の心を和ませた。

(「あの、あなたたちは、なにを・・・・・・」)

「あの、あなたたちは、なにを……」

(そこまでいって、ことばにつまる。)

そこまで言って、言葉に詰まる。

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