怪物 「結」下-4-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(「だから、いってるでしょ。おなじだって。あんたもみたんだろ、あのゆめを」)

「だから、言ってるでしょ。同じだって。あんたも見たんだろ、アノ夢を」

(まよこからきこえたそのこえにおどろいてかおをそちらにむける。)

真横から聞こえたその声に驚いて顔をそちらに向ける。

(ちいさなてっさくのむこうにぶらんこがひとつだけあり、)

小さな鉄柵の向こうにブランコがひとつだけあり、

(そこにもうひとりのじんぶつがこしかけていた。)

そこにもう一人の人物が腰掛けていた。

(きぃきぃとくさりをきしませながらあしでからだをぜんごにゆすっている。)

キィキィと鎖を軋ませながら足で身体を前後に揺すっている。

(「あんた、こうこうせい?」ばかにしたようなことばがそのくちからはっせられる。)

「あんた、高校生?」馬鹿にしたような言葉がその口から発せられる。

(まぶかにきゃっぷをかぶっているが、わかいじょせいであることは、こえとふくそうでわかる。)

目深にキャップを被っているが、若い女性であることは、声と服装で分かる。

(ふとももがでたほっとぱんつにtしゃつという、すずしげなかっこう。)

太腿が出たホットパンツにTシャツという、涼しげな格好。

(あまりじょうひんなようにはみえない。)

あまり上品なようには見えない。

(「ま、ここまでたどりついたってことはただものじゃないわけだ」)

「ま、ここまでたどり着いたってことはタダモノじゃない訳だ」

(いみしんにわらう。わたしのたいないのけつえきがじょじょにかねつされていく。)

意味深に笑う。私の体内の血液が徐々に加熱されていく。

(おなじなのだ。このひとたちは。わたしと。かれらはまちでおこったかいきげんしょうとははおやごろしの)

同じなのだ。この人たちは。私と。彼らは街で起こった怪奇現象と母親殺しの

(ゆめのひみつをといて、ここにつどったにんげんたちなのだ。)

夢の秘密を解いて、ここに集った人間たちなのだ。

(えたいのしれないふきつさとふあんかんにかられてうごきまわったすうじつかんが、)

得体の知れない不吉さと不安感に駆られて動き回った数日間が、

(ぜったいてきにこじんてきなたいけんだったはずのすうじつかんが、へいこうするふくすうのにんげんのたいけんと)

絶対的に個人的な体験だったはずの数日間が、並行する複数の人間の体験と

(かさなっていたということに、かんきとさむけと、そしてこうようをおぼえていた。)

重なっていたということに、歓喜と寒気と、そして昂揚を覚えていた。

(「あなた、さっきのゆめは、どこまで?」)

「あなた、さっきの夢は、どこまで?」

(おばさんがこちらをむいてきいてきた。わたしはありのままにはなす。)

おばさんがこちらを向いて聞いてきた。私はありのままに話す。

(「やっぱり」すこしざんねんそう。「みんなおなじところまででめがさめてるのね」)

「やっぱり」少し残念そう。「みんな同じ所までで目が覚めてるのね」

(「も、もういいよ。ここでいつまでもはなしてたってしょうがないだろ」)

「も、もういいよ。ここでいつまでも話してたってしょうがないだろ」

など

(めがねのおとこがてをひろげておおげさにふった。)

眼鏡の男が手を広げて大げさに振った。

(「でもねぇ、これいじょうはどうやってもさがせないのよね」)

「でもねぇ、これ以上はどうやっても探せないのよね」

(おばさんがほおにてのひらをあてる。)

おばさんが頬に手のひらを当てる。

(「あんな、つきとびるのいちだけじゃ、あるていどにしかばしょをしぼれないし、)

「あんな、月とビルの位置だけじゃ、ある程度にしか場所を絞れないし、

(じかんたっちゃったから、よけいにわかんないのよね」)

時間経っちゃったから、余計に分かんないのよね」

(「こうしてたって、よけいわかんなくなるだけじゃないか」)

「こうしてたって、余計分かんなくなるだけじゃないか」

(「そうよねえ。とりあえず、ちかくまでいけば)

「そうよねえ。取り合えず、近くまで行けば

(なにかわかるんじゃないかとおもったんだけど・・・・・・」)

なにか分かるんじゃないかと思ったんだけど……」

(そんないいあいをききながら、わたしののうりにはせんしゅうのかんぶんのじゅぎょうで)

そんな言い合いを聞きながら、私の脳裏には先週の漢文の授業で

(せんせいがおしえてくれた「しっぷうにけいそうをしる」ということばが)

先生が教えてくれた「シップウにケイソウを知る」という言葉が

(うかびあがっていた。たしか、つよいかぜがふいてはじめてかぜにまけないつよいくさが)

浮かび上がっていた。確か、強い風が吹いて初めて風に負けない強い草が

(みわけられるように、よがみだれてはじめてのうりょくのあるにんげんが)

見分けられるように、世が乱れて初めて能力のある人間が

(とうかくをあらわすというようないみだったはずだ。)

頭角を現すというような意味だったはずだ。

(ひるまにはむすうのひとびとがいききするこのまちで、)

昼間には無数の人々が行き来するこの街で、

(だれもかれもじぶんたちのささやかなじょうしきのなかでこきゅうをしながらくらしている。)

誰もかれも自分たちのささやかな常識の中で呼吸をしながら暮らしている。

(それがたとえ、ひかげをえらんであるくはんざいしゃであったとしても。)

それが例え、日陰を選んで歩く犯罪者であったとしても。

(けれど、そんなまちでもこうしてよるになれば、じょうしきのからをやぶり、)

けれど、そんな街でもこうして夜になれば、常識の殻を破り、

(このよのことわりのうらがわをすりぬけるきみょうなにんげんたちがうごめきだす。)

この世のことわりの裏側をすり抜ける奇妙な人間たちが蠢き出す。

(ふだんは、おたがいにみちですれちがってもきづかない。)

普段は、お互いに道ですれ違っても気づかない。

(それぞれがそれぞれのこじんてきなせかいをいきている。)

それぞれがそれぞれの個人的な世界を生きている。

(それがいまはこうして、おなじひみつをもとめてここにいるのだ。)

それが今はこうして、同じ秘密を求めてここにいるのだ。

(のっぺりとしたとくめいのかめんをはずして。)

のっぺりとした匿名の仮面を外して。

(わたしはそのことにいいしれないむねのたかなりをおぼえていた。)

私はそのことに言い知れない胸の高鳴りを覚えていた。

(「よにんもいたら、なにかよいちえがうかんできそうなものなのにね」)

「4人もいたら、なにか良い知恵が浮かんできそうなものなのにね」

(おばさんがためいきをつく。)

おばさんがため息をつく。

(きゃっぷおんながはなでわらうように「よにんだって?ごにんだろ」とゆびをさした。)

キャップ女が鼻で笑うように「4人だって? 5人だろ」と指をさした。

(みんながそちらをみる。おおきないちょうのきがひとつだけがいとうのそばにたってる。)

みんながそちらを見る。大きな銀杏の木がひとつだけ街灯のそばに立ってる。

(そのきのみきのうらにかくれるように、しろいちいさなかおがこちらをのぞいていた。)

その木の幹の裏に隠れるように、白い小さな顔がこちらを覗いていた。

(わたしはそれがいきているにんげんにおもえなくて、かみのけがさかだつような)

私はそれが生きている人間に思えなくて、髪の毛が逆立つような

(しょっくがあった。けれどそのかおが、おどろきのひょうじょうをうかべ、はずかしそうに)

ショックがあった。けれどその顔が、驚きの表情を浮かべ、恥ずかしそうに

(きのうらにかくれたのをみて、おや?とおもう。)

木の裏に隠れたのを見て、おや? と思う。

(「え?あら。おんなのこ?」おばさんがかんだかいこえをあげる。)

「え? あら。女の子?」おばさんが甲高い声を上げる。

(「お、おいおい。いつからいたんだ。ぜんぜんきづかなかったぞ」)

「お、おいおい。いつからいたんだ。全然気づかなかったぞ」

(とめがねのおとこがつぶやいて、ひたいのあせをはんかちでぬぐう。)

と眼鏡の男が呟いて、額の汗をハンカチで拭う。

(「ねぇ、あなたきんじょのこ?こんなおそくにそとにでて、だめじゃないの」)

「ねぇ、あなた近所の子? こんな遅くに外に出て、だめじゃないの」

(おばさんがやさしいこえでよびかけると、かおをはんぶんだけだした。)

おばさんが優しい声で呼び掛けると、顔を半分だけ出した。

(10さいくらいだろうか。「あら、このこ、がいじんさんのこどもかしら」)

10歳くらいだろうか。「あら、この子、外人さんの子どもかしら」

(いわれてよくみると、がんきゅうがあおくひかっている。がいとうのひかりのかげんではないようだ。)

言われて良く見ると、眼球が青く光っている。街灯の光の加減ではないようだ。

(「かえったほうがいい。ここはあぶない」)

「帰った方がいい。ここは危ない」

(めがねのおとこがはやくちでそういい、ちかよろうとする。おんなのこはまたきのうらがわにかくれた。)

眼鏡の男が早口でそう言い、近寄ろうとする。女の子はまた木の裏側に隠れた。

(おとこがうでをまえにのばしながら、まわりこもうとする。)

男が腕を前に伸ばしながら、回り込もうとする。

(すると、そのこはそのうごきにそってぐるぐるとはんたいがわにまわる。)

すると、その子はその動きに沿ってぐるぐると反対側に回る。

(「あれ、なんだこいつ。なににげてんだよ、おい」)

「あれ、なんだこいつ。なに逃げてんだよ、おい」

(めがねのおとこがいらだったこえをあげるのを、ぶらんこにゆられながら)

眼鏡の男が苛立った声を上げるのを、ブランコに揺られながら

(きゃっぷおんながせせらわらう。「あんたろりこん?」「うるさい」)

キャップ女がせせら笑う。「あんたロリコン?」「うるさい」

(「ちょっと、やめなさいよ。おびえてるじゃないの」おばさんがおとこをなだめる。)

「ちょっと、やめなさいよ。怯えてるじゃないの」おばさんが男をなだめる。

(「たいしたものだな。このこ、このとしであたしたちとおなじものみてるんだよ」)

「大したものだな。この子、この歳であたしたちと同じモノ見てるんだよ」

(きゃっぷおんなのくちのはしがあがる。そんなばかな。こんなちいさなこどもが、)

キャップ女の口の端が上る。そんなバカな。こんな小さな子どもが、

(わたしとおなじことをかんがえてここまでやってきたというのだろうか。)

私と同じことを考えてここまでやって来たというのだろうか。

(そうおもったとき、わたしのみみがあるいへんをとらえた。「し」とだれかがみじかくいう。)

そう思ったとき、私の耳がある異変をとらえた。「し」と誰かが短く言う。

(いきをのむわたしたちのみみに、とりのなきごえのようなものがきこえてきた。)

息を呑む私たちの耳に、鳥の鳴き声のようなものが聞こえて来た。

(ぎゃあぎゃあぎゃあ・・・・・・からすだ。)

ギャアギャアギャア……カラスだ。

(わたしはとっさにそうおもった。こうえんのなかじゃない。ぜんいんがみがまえる。)

私はとっさにそう思った。公園の中じゃない。全員が身構える。

(なきごえはしだいにちいさくなり、やがてきこえなくなった。)

鳴き声は次第に小さくなり、やがて聞こえなくなった。

(ぶらんこがさびたおとをたててきゃっぷおんながおりてくる。)

ブランコが錆びた音を立ててキャップ女が降りて来る。

(「なんていったとおもう?」だれにともなく、そうといかける。)

「なんて言ったと思う?」誰にともなく、そう問い掛ける。

(「けいかいせよ、だ」かのじょはわたしのかおをみてそういった。)

「警戒せよ、だ」彼女は私の顔を見てそう言った。

(なぜかでじゃヴのようなものをかんじた。)

なぜかデジャヴのようなものを感じた。

(あしおとをころして、ぜんいんがこうえんのでぐちにむかう。)

足音を殺して、全員が公園の出口に向かう。

(こうどうにてんじるのがはやい。ためらわない。)

行動に転じるのが早い。躊躇わない。

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