『金銀小判』小川未明1【完】
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | てんぷり | 5810 | A+ | 6.0 | 96.4% | 788.0 | 4752 | 173 | 87 | 2024/10/05 |
関連タイピング
-
プレイ回数10万歌詞200打
-
プレイ回数3.2万歌詞1030打
-
プレイ回数4309かな314打
-
プレイ回数75万長文300秒
-
プレイ回数6万長文1159打
-
プレイ回数8.3万長文744打
-
プレイ回数133歌詞831打
-
プレイ回数1.3万長文かな822打
問題文
(ひとりもののこうさくは、いえのなかにはなしあいてもなくそのひをくらしていました。)
ひとり者のコウサクは、家の中に話し相手もなくその日を暮らしていました。
(きたぐにはじゅうにがつにもなると、まっしろなゆきがつもります。)
北国は十二月にもなると、真っ白な雪が積もります。
(そのうちにいちねんのおわりがきまして、そこここのいえいえではもちをつきはじめました。)
そのうちに一年の終わりが来まして、そこここの家々では餅をつき始めました。
(となりはじぬしでしたので、たくさんもちをつきました。)
隣は地主でしたので、たくさん餅をつきました。
(こうさくは、そのにぎやかなわらいごえをききますと、)
コウサクは、そのにぎやかな笑い声を聞きますと、
(どうにかしてじぶんもおかねもちになりたいものだとくうそうしたのであります。)
どうにかして自分もお金持ちになりたいものだと空想したのであります。
(やがてなんにちかたつと、おしょうがつになりました。)
やがて何日かたつと、お正月になりました。
(けれど、ひとりもののこうさくのところへは、)
けれど、ひとり者のコウサクの所へは、
(あまりたずねてくるきゃくもいなかったのです。)
あまりたずねてくる客もいなかったのです。
(けっきょくそのほうがきらくなものですから、こうさくはこたつにはいってねていました。)
結局そのほうが気楽なものですから、コウサクはコタツに入って寝ていました。
(そとにはゆきがちらちらとふって、さむいかぜがふいて、ことこととまどのとや、)
外には雪がチラチラと降って、寒い風が吹いて、コトコトと窓の戸や、
(やぶれたかべいたなどをならしていました。)
破れた壁板などを鳴らしていました。
(がんじつも、こうしてぶじにおわってしまったよるのことであります。)
元日も、こうして無事に終わってしまった夜のことであります。
(「りょうがえ、りょうがえ、こばんのりょうがえ」と、)
「両替え、両替え、小判の両替え」と、
(よんであるくこどものこえがきこえてきたのであります。)
呼んで歩く子供の声が聞こえてきたのであります。
(まいとし、がんじつのよるには、おたからぶねや、もちだまのきにむすびつけるこばんを)
毎年、元日の夜には、お宝船や、餅玉の木に結びつける小判を
(こうしてうってあるくのでありました。)
こうして売って歩くのでありました。
(けれど、このばんはゆきがふっていましたから、)
けれど、この晩は雪が降っていましたから、
(そのなかをこうしてよんであるいているこどものこえが、あわれにきこえたのであります。)
その中をこうして呼んで歩いている子供の声が、哀れに聞こえたのであります。
(「りょうがえ、りょうがえ、こばんのりょうがえ」というこえは、)
「両替え、両替え、小判の両替え」という声は、
(かぜとともにとおくになったり、ちかくになったりしてきこえてきました。)
風とともに遠くになったり、近くになったりして聞こえてきました。
(こうして、こどもはよんであるきましたけれど、)
こうして、子供は呼んで歩きましたけれど、
(だれもかってくれるようなひとはいないとみえて、)
だれも買ってくれるような人はいないとみえて、
(そのこえはとぎれることなくつづいていました。)
その声は途切れることなく続いていました。
(こたつにあたってねていたこうさくは、そとはとてもさむいだろうにとおもいました。)
コタツにあたって寝ていたコウサクは、外はとても寒いだろうにと思いました。
(そして、こどもはもうがまんができなかったとみえて、こんどはいっけんいっけんにはいって、)
そして、子供はもう我慢ができなかったとみえて、今度は一軒一軒に入って、
(「こばんをかってください」と、たのんでいるようでありました。)
「小判を買ってください」と、頼んでいるようでありました。
(おそらく、いえのなかではひとびとがおさけをのんだり、かるたをとったり、)
おそらく、家の中では人々がお酒を飲んだり、カルタをとったり、
(また、おもしろいはなしをいろいろとしてわらっているのだとおもわれました。)
また、面白い話を色々として笑っているのだと思われました。
(しかし、だれもこのびんぼうなこどもにどうじょうをするものは、いないとみえました。)
しかし、だれもこの貧乏な子供に同情をする者は、いないとみえました。
(そのこどもは、じぬしのいえでもことわられたのでしょう。)
その子供は、地主の家でも断られたのでしょう。
(こどもはいまにもなきだしそうなこえをしながら、)
子供は今にも泣き出しそうな声をしながら、
(「りょうがえ、りょうがえ、こばんのりょうがえ」といいながら、こっちにあるいてきました。)
「両替え、両替え、小判の両替え」と言いながら、こっちに歩いてきました。
(やがてこうさくのいえのげんかんで、げたについたゆきをはらうちいさなあしおとがしました。)
やがてコウサクの家の玄関で、下駄についた雪をはらう小さな足音がしました。
(「こんばんは、どうかこばんをかってください」と、こどもはとのそとでいいました。)
「こんばんは、どうか小判を買ってください」と、子供は戸の外で言いました。
(こうさくはかわいそうにおもって、こたつからでて、とのそばにいきました。)
コウサクは可哀想に思って、コタツから出て、戸のそばに行きました。
(そしてとをほそめにひらきますと、そとはからだをきるようなさむいかぜがふいており、)
そして戸を細めにひらきますと、外は体を切るような寒い風が吹いており、
(ゆきがふっていました。まだやっつかここのつになったばかりのこどもがまっしろなからだで、)
雪が降っていました。まだ八つか九つになったばかりの子供が真っ白な体で、
(すすけたうすぐらいちょうちんをさげていました。)
すすけた薄暗いちょうちんをさげていました。
(「おお、かわいそうに」とおもって、こうさくはこばんをひとつつみかってやりました。)
「おお、可哀想に」と思って、コウサクは小判を一包み買ってやりました。
(こどもはなんどもおれいをいって、でていきました。)
子供は何度もお礼を言って、出ていきました。
(こうさくは、せんべいでつくられたこばんが)
コウサクは、せんべいで作られた小判が
(ねずみにでもくわれたらつまらないとおもって、それをとだなのなかにしまって、)
ネズミにでも食われたらつまらないと思って、それを戸棚の中にしまって、
(またこたつにはいって、いつしかぐーぐーとねいってしまいました。)
またコタツに入って、いつしかグーグーと寝入ってしまいました。
(こうさくはゆめをみました。それは、かったこばんがほんもののきんぎんのこばんであり、)
コウサクは夢を見ました。それは、買った小判が本物の金銀の小判であり、
(じぶんはおおがねもちになったというゆめをみたのであります。)
自分は大金持ちになったという夢を見たのであります。
(かれはおどろきとよろこびからめをさましました。)
彼は驚きと喜びから目を覚ましました。
(そして、じぶんはいつしかこたつにはいって、ねむっていたことにきづきますと、)
そして、自分はいつしかコタツに入って、眠っていたことに気づきますと、
(すべてがゆめであったとおもわれて、がっかりとしたのであります。)
すべてが夢であったと思われて、がっかりとしたのであります。
(しかし、どうしてもそれでは、なんとなくあきらめられないようなきもちがして、)
しかし、どうしてもそれでは、なんとなく諦められないような気持ちがして、
(わざわざおきて、とだなをあけてこばんをとりだしてみますと、)
わざわざ起きて、戸棚をあけて小判を取り出してみますと、
(それはとりあげられないほどのおもみがありました。)
それは取り上げられないほどの重みがありました。
(こうさくは、ますますふしぎにおもって、)
コウサクは、ますます不思議に思って、
(それをりょうてでつかんでたたみのうえへおろしてみますと、)
それを両手でつかんで畳の上へおろしてみますと、
(いつのまにかわったのか、ほんもののきんぎんのこばんのつつみでありました。)
いつのまに変わったのか、本物の金銀の小判の包みでありました。
(こうなると、こうさくはきゅうにあるよくぼうをいだきました。)
こうなると、コウサクは急にある欲望を抱きました。
(あのとき、もうひとつつみかっておけばよかった。)
あのとき、もう一包み買っておけばよかった。
(そうすれば、じぶんはむらでいちばんのおかねもちになったのにとおもいました。)
そうすれば、自分は村で一番のお金持ちになったのにと思いました。
(かれは、あのこどもがどこへいったのだろうとおもいました。)
彼は、あの子供がどこへ行ったのだろうと思いました。
(まださがしたらいるのではないかとおもい、)
まだ探したらいるのではないかと思い、
(かれはこどもをさがすためにいえをとびだしました。)
彼は子供を探すために家をとび出しました。
(そしてこどもをみつけたら、ぜんぶのこばんをかいとろうとかんがえました。)
そして子供を見つけたら、全部の小判を買い取ろうと考えました。
(ちょうどまちはふつかめで、はつうりなのでくらいうちからおきていました。)
ちょうど町は二日目で、初売りなので暗いうちから起きていました。
(また、みなはしんねんになってはじめてのかいもののあさでしたので、)
また、みなは新年になって初めての買い物の朝でしたので、
(よなかからまちへいって、ふくにありつこうとしていました。)
夜中から町へ行って、福にありつこうとしていました。
(いわばがんじつのよるは、このちほうではみんなねないといってよいくらいで、)
いわば元日の夜は、この地方ではみんな寝ないといってよいくらいで、
(まちのほうはとてもにぎやかでありました。)
町のほうはとてもにぎやかでありました。
(こうさくはゆきみちをあるいて、まちへいきました。)
コウサクは雪道を歩いて、町へ行きました。
(すると、「りょうがえ、りょうがえ、こばんのりょうがえ」というよびごえが)
すると、「両替え、両替え、小判の両替え」という呼び声が
(あちこちできこえてきました。かれは、もしやそのこどもではないかと)
あちこちで聞こえてきました。彼は、もしやその子供ではないかと
(はしっていきましたが、それはまったくちがうひとがうってあるいておりました。)
走って行きましたが、それはまったく違う人が売って歩いておりました。
(「これは、おれがふだんからしょうじきものだから、)
「これは、おれがふだんから正直者だから、
(かみさまがきっとおかねをさずけてくださったのだ」と、こうさくはおもいました。)
神さまがきっとお金を授けてくださったのだ」と、コウサクは思いました。
(「かみさま、どうかもうすこしおかねをさずけてください。)
「神さま、どうかもう少しお金を授けてください。
(わたしはむらでいちばんのおかねもちになって、いままでえらそうにしていたやつらを)
私は村で一番のお金持ちになって、今まで偉そうにしていたやつらを
(みくだしてやりますから」と、こうさくはねがいました。)
見下してやりますから」と、コウサクは願いました。
(そのうちによるがほのぼのとあけると、こばんをうるあわれなこどもは、)
そのうちに夜がほのぼのと明けると、小判を売る哀れな子供は、
(あるおおきなやしきののきしたで、つかれてねむっていました。)
ある大きな屋敷の軒下で、疲れて眠っていました。
(ゆきがからだにもあたまにも、まっしろにふきつけていました。)
雪が体にも頭にも、真っ白に吹きつけていました。
(そしてはこのなかのこばんは、すこしもうれずにいました。)
そして箱の中の小判は、少しも売れずにいました。
(ちょうどそこへとおりかかって、これをみつけたこうさくは、おおいによろこんで、)
ちょうどそこへ通りかかって、これを見つけたコウサクは、おおいに喜んで、
(これはかみさまがさずけてくださったのにちがいないといって、)
これは神さまが授けてくださったのに違いないと言って、
(ねむっているこどもをゆさぶりおこして、はこのなかのこばんをみんなかいとりました。)
眠っている子供を揺さぶり起こして、箱の中の小判をみんな買い取りました。
(こどもはねむそうなめをこすって、びっくりしたかおつきでこうさくをながめました。)
子供は眠そうな目をこすって、ビックリした顔つきでコウサクをながめました。
(かれは、ごきげんでいえへかえりました。)
彼は、ごきげんで家へ帰りました。
(そしてとだなのなかから、さくやかったきんぎんのこばんをとりだしてみますと、)
そして戸棚の中から、昨夜買った金銀の小判を取り出してみますと、
(またいつかわったのか、やはりせんべいのこばんであったのです。)
またいつ変わったのか、やはりせんべいの小判であったのです。