ビデオ 前編-3-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(「なにかへんだったか?」それはこっちがききたい。)

「なにか変だったか?」それはこっちが聞きたい。

(ごまんえんもしたわけありびでおてーぷがこれなのか?)

五万円もしたワケありビデオテープがこれなのか?

(あ、そういえばおれのだしたななせんえん、ししょうはかえしてくれるきがあるのだろうか。)

あ、そういえば俺の出した七千円、師匠は返してくれる気があるのだろうか。

(もういちどさいしょからさいせいする。すなあらしのあと、またえきのこうないがうつる。)

もう一度最初から再生する。砂嵐の後、また駅の構内が映る。

(しろいかめんのおとこがあらわれてかめらのまえでしゃべる。ほーむにはでんしゃもはいってこない。)

白い仮面の男が現れてカメラの前で喋る。ホームには電車も入ってこない。

(ざわざわしたおとにつつまれている。たんちょうなえいぞうがつづき、やがてとだえる。)

ざわざわした音に包まれている。単調な映像が続き、やがて途絶える。

(そしてすなあらし。おなじだ。とくにへんなところはない。)

そして砂嵐。同じだ。特に変な所はない。

(ししょうのかおをみるが、おれとおなじくしゃくぜんとしないようすだった。)

師匠の顔を見るが、俺と同じく釈然としない様子だった。

(それからあとにかい、おれたちはまきもどしとさいせいをくりかえした。)

それからあと二回、俺たちは巻き戻しと再生を繰り返した。

(けれどやはりなにもみつけられなかった。「つかまされたんじゃないですか」)

けれどやはり何も見つけられなかった。「掴まされたんじゃないですか」

(おれのことばにししょうはあくびでへんじをして、ふきげんそうに「ねる」といった。)

俺の言葉に師匠は欠伸で返事をして、不機嫌そうに「寝る」と言った。

(そしてふとんをしいてねはじめた。はやわざだ。おれはどうしたらいいんだろう。)

そして布団を敷いて寝始めた。早業だ。俺はどうしたらいいんだろう。

(かえろうかとげんかんのほうをみるが、なんだかきもちがわるくてあたまをふる。)

帰ろうかと玄関の方を見るが、なんだか気持ちが悪くて頭を振る。

(あのくろたにというひとが、「あのびでお、やばいぜ」といったそのことばに)

あの黒谷という人が、「あのビデオ、やばいぜ」と言ったその言葉に

(なにかただごとではないよかんをいだいたことがあたまにこびりついているのだ。)

何かただごとではない予感を抱いたことが頭にこびり付いているのだ。

(こんなもののはずはない。おれはびでおでっきのとりだしぼたんをおして、)

こんなもののはずはない。俺はビデオデッキの取り出しボタンを押して、

(びでおてーぷをひきぬく。ひかりにかざしてもういちどまじまじとかんさつするが、)

ビデオテープを引き抜く。光にかざしてもう一度まじまじと観察するが、

(たしょうふるいかんじがするものの、やはりありふれたてーぷだ。)

多少古い感じがするものの、やはりありふれたテープだ。

(よくきくなまえのめーかーめいがこくいんされている。)

よく聞く名前のメーカー名が刻印されている。

(けっこんだとか、そういうふおんなものがふちゃくしていないかしらべたが、ないようだ。)

血痕だとか、そういう不穏なものが付着していないか調べたが、ないようだ。

など

(ということはやはりないようになにかおかしなてんがあるのだろうか。)

ということはやはり内容になにかおかしな点があるのだろうか。

(かんがえこんでいるとししょうがまぶしいというしゅしのねごとをはっして)

考え込んでいると師匠が眩しいという趣旨の寝言を発して

(ねがえりをうったので、でんきをけしてやる。)

寝返りを打ったので、電気を消してやる。

(ほのぐらいまめでんきゅうのしたで、おれはでっきにふたたびびでおをせっとする。)

仄暗い豆電球の下で、俺はデッキに再びビデオをセットする。

(うぃぃんという、くたびれたようなおととともにさいせいがはじまる。)

ウィィンという、くたびれたような音とともに再生が始まる。

(すなあらし。えきのこうない。しろいかめんのおとこ。どくはく。むかいのほーむのわずかなひとのながれ。)

砂嵐。駅の構内。白い仮面の男。独白。向かいのホームのわずかな人の流れ。

(かすかにゆれるがめん。そしてすなあらし。ていし。まきもどし。さいせい。)

微かに揺れる画面。そして砂嵐。停止。巻き戻し。再生。

(すなあらし。ひとのまばらなよるのえきのこうない。しろいかめんのおとこのみどりのしゃつ。)

砂嵐。人のまばらな夜の駅の構内。白い仮面の男の緑のシャツ。

(えんぎじみたどくはく。むかいのほーむ。もうひとりがかまえているらしい)

演技じみた独白。向かいのホーム。もう一人が構えているらしい

(びでおかめら。ざわめき。たんちょう。そしてすなあらし。ていし。)

ビデオカメラ。ざわめき。単調。そして砂嵐。停止。

(ためいきをつく。なんどみてもおなじだ。なにもわからない。)

ため息をつく。何度見ても同じだ。なにもわからない。

(へんなところといえば、えきのほーむにたつしろいかめんのおとこという)

変な所と言えば、駅のホームに立つ白い仮面の男という

(ひにちじょうてきなこうけいくらいだが、それもいってしまえば、「それだけのこと」だ。)

非日常的な光景くらいだが、それも言ってしまえば、「それだけのこと」だ。

(なにもてらでたきあげくようなどたのむひつようはない。ただ、あるとすれば)

なにも寺で炊き上げ供養など頼む必要はない。ただ、あるとすれば

(おれのしらないじょうほうをぜんていとしたかいきげんしょう、たとえば、そのびでおをさつえいしたときには)

俺の知らない情報を前提とした怪奇現象、例えば、そのビデオを撮影した時には

(だれもかめらのまえにいなかったはずなのに、しろいかめんのおとこが)

誰もカメラの前にいなかったはずなのに、白い仮面の男が

(かってにうつりこんでいたとか、そういうかいだんのたぐい。)

勝手に映りこんでいたとか、そういう怪談の類。

(そんなことをかんがえてすこしきみがわるくなったが、そのかめんのおとこのそんざいかんが)

そんなことを考えて少し気味が悪くなったが、その仮面の男の存在感が

(なまなましすぎてあまりかいだんにそぐわない。どんなにななめからみても)

生々しすぎてあまり怪談にそぐわない。どんなに斜めから見ても

(しろうとのほーむびでおというていさいがくずれないのだ。)

素人のホームビデオという体裁が崩れないのだ。

(くびをひねりながら、もういちどびでおでっきにゆびをのばす。)

首を捻りながら、もう一度ビデオデッキに指を伸ばす。

(さいせい。すなあらし。とつぜんうつるよるのえきのこうない。がめんのはしからあらわれるしろいかめんのおとこ。)

再生。砂嵐。突然映る夜の駅の構内。画面の端から現れる白い仮面の男。

(ほーむにむいたままぼそぼそとしゃべるこえ。ゆれるがめん。ざわざわしたえきのおと。)

ホームに向いたままぼそぼそと喋る声。揺れる画面。ざわざわした駅の音。

(そのとき、おれのなかになにかのいわかんがめばえた。)

その時、俺の中になにかの違和感が芽生えた。

(なんだ?なにかがへんだったきがする。なんだろう。)

なんだ?なにかが変だった気がする。なんだろう。

(そんなおもいがのうりをはしったしゅんかんだった。)

そんな思いが脳裏を走った瞬間だった。

(ぷわんというふくれあがるようなおとがきこえたかとおもうと、)

プワンという膨れ上がるような音が聞こえたかと思うと、

(かめらあんぐるのはし、ほーむのがめんすみからだんがんのようなかたまりがとびこんできた。)

カメラアングルの端、ホームの画面隅から弾丸のような塊が飛び込んできた。

(でんしゃだ。でんしゃがとおる。ほーむのなかを。そのはいいろのはこはざんぞうのおをひいて、)

電車だ。電車が通る。ホームの中を。その灰色の箱は残像の尾を引いて、

(がめんのみぎからひだりへはしりぬけていった。おれはめをみひらいててれびのまえ、)

画面の右から左へ走り抜けていった。俺は目を見開いてテレビの前、

(からだをかたくしていきをとめていた。あってはいけないこうけいだった。)

身体を硬くして息を止めていた。あってはいけない光景だった。

(なんどくりかえしさいせいしてもなにもみつけられなかったはずのびでおが、)

何度繰り返し再生してもなにも見つけられなかったはずのビデオが、

(きゅうにてのひらをかえしたようにぶきみなすがたにへんぼうをとげたようだった。)

急に手の平を返したように不気味な姿に変貌を遂げたようだった。

(おもわずくびをすくめるようにしゅういをみまわす。)

思わず首をすくめるように周囲を見回す。

(ししょうのぼろあぱーとのへやのなかは、まめでんきゅうのひかりのしたでくらくしずかに)

師匠のボロアパートの部屋の中は、豆電球の光の下で暗く静かに

(ちんでんしているようだった。なにかおそろしいことがおこるようなまえぶれはない。)

沈殿しているようだった。なにか恐ろしいことが起こるような前触れはない。

(みみなりもしない。はやくなったこどうをいしきしながら、もういちどがめんをみる。)

耳鳴りもしない。早くなった鼓動を意識しながら、もう一度画面を見る。

(つうかしたでんしゃがまきちらしたおとがおさまったあとで、しろいかめんのおとこが)

通過した電車が撒き散らした音が収まった後で、白い仮面の男が

(こまったようなしぐさをみせながらかめらにむかって)

困ったような仕草を見せながらカメラに向かって

(「かっと、かっと」といった。でんしゃのおとにかぶって、)

「カット、カット」と言った。電車の音にかぶって、

(せりふがきえてしまったのだろう。そのことばがあまりににんげんくさくて、)

セリフが消えてしまったのだろう。その言葉があまりに人間臭くて、

(ぎりぎりのところでおれのこころをにちじょうせいのなかにとめおいた。)

ギリギリの所で俺の心を日常性の中に留め置いた。

(だからそのあとにおこったひめいにもなんとかたえられたのだろう。)

だからその後に起こった悲鳴にもなんとか耐えられたのだろう。

(そう、ひめいはがめんのなかでおこった。かめんのおとこがかめらにむかって)

そう、悲鳴は画面の中で起こった。仮面の男がカメラに向かって

(かっとのじぇすちゃーをしていたとき、ほーむのむかいがわで)

カットのジェスチャーをしていた時、ホームの向かい側で

(おおきなかみぶくろをかかえたじょせいがいきなりかなきりごえをあげたのだ。)

大きな紙袋を抱えた女性がいきなり金切り声を上げたのだ。

(びくっとしてかめんのおとこがふりかえりながらそちらをみる。)

ビクッとして仮面の男が振り返りながらそちらを見る。

(かめらもがくんとゆれたあとでかくどをかえてそちらにむけられる。)

カメラもガクンと揺れた後で角度を変えてそちらに向けられる。

(むかいのほーむではなんにんかがかけよってきて、じょせいがひめいをあげながら)

向かいのホームでは何人かが駆け寄ってきて、女性が悲鳴を上げながら

(ゆびさすせんろのあたりをみをのりだすようにしてみている。)

指差す線路の辺りを身を乗り出すようにして見ている。

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