ビデオ 前編-4-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

関連タイピング

問題文

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(なんだろう。ほーむをよこからさつえいしているかめらでは)

なんだろう。ホームを横から撮影しているカメラでは

(かくどがないせいでしたのせんろはみえない。)

角度がないせいで下の線路は見えない。

(ただ、ちょくぜんにつうかしたでんしゃのことをかんがえるとなにがおこったのか)

ただ、直前に通過した電車のことを考えるとなにが起こったのか

(わかったきがする。かめらがほーむのせんたんにむかってちかづこうとしたとき、)

分かった気がする。カメラがホームの先端に向かって近づこうとした時、

(「ちょっと」というらんぼうなこえがしてなにかがれんずをさえぎった。)

「ちょっと」という乱暴な声がして何かがレンズを遮った。

(いっしゅんみえたせいふくのすそから、どうやらえきいんにさつえいをとめられたのだとすいそくされる。)

一瞬見えた制服の裾から、どうやら駅員に撮影を止められたのだと推測される。

(くらくなったがめんのむこうから、どなりごえとなにかをしじするこえが)

暗くなった画面の向こうから、怒鳴り声と何かを指示する声が

(いりまじってきこえてくる。そしてふいにぶつんとさいせいがおわり、)

入り混じって聞こえてくる。そしてふいにブツンと再生が終わり、

(すなあらしがはじまった。おれはいまめのまえでおこったことをれいせいにせいりしようとする。)

砂嵐が始まった。俺は今目の前で起こったことを冷静に整理しようとする。

(びでおのないようがかわっている。それもおおきく。)

ビデオの内容が変わっている。それも大きく。

(どうしてそんなことがおこるのかかんがえる。こわがるのはそのあとだ。)

どうしてそんなことが起こるのか考える。怖がるのはその後だ。

(だまってがめんをみつめているおれのまえですなあらしはつづいている。)

黙って画面を見つめている俺の前で砂嵐は続いている。

(くらいへやですなあらしをみつめつづけていると、へんなきぶんになってくる。)

暗い部屋で砂嵐を見つめ続けていると、変な気分になってくる。

(ほうしゃじょうのひかりにかおをてらしだされるとなんだかそのしたのからだのそんざいが)

放射状の光に顔を照らし出されるとなんだかその下の身体の存在が

(きはくになっていくようだ。くらやみにじぶんのかおだけがうかんでいるようなきがする。)

希薄になって行くようだ。暗闇に自分の顔だけが浮かんでいるような気がする。

(なにかをしようというきがあったかわからないが、)

なにかをしようという気があったか分からないが、

(ほとんどむいしきにひとさしゆびがびでおでっきにむいたとき、おれはきづいた。)

ほとんど無意識に人差し指がビデオデッキに向いた時、俺は気づいた。

(まきもどしだ。まきもどしをしていない。)

巻き戻しだ。巻き戻しをしていない。

(このまえのさいせいがおわり、すなあらしがはじまったのでていしぼたんをおした。)

この前の再生が終わり、砂嵐が始まったので停止ボタンを押した。

(そのあと、おれはまきもどしをするのをわすれたままさいせいぼたんをおしたのだ。)

その後、俺は巻き戻しをするのを忘れたまま再生ボタンを押したのだ。

など

(そしてすなあらしのつづきからはじまったびでおは、またしろいかめんのおとこの)

そして砂嵐の続きから始まったビデオは、また白い仮面の男の

(ひとりげきをうつしだし、さっきのでんしゃがとおりぬけたあとのしーんでおわったのだ。)

一人劇を映し出し、さっきの電車が通り抜けた後のシーンで終わったのだ。

(べつのえいぞうだったということか。おれはこうふんしてすぐにまきもどしぼたんをおす。)

別の映像だったということか。俺は興奮してすぐに巻き戻しボタンを押す。

(さいせいちゅうのまきもどしはがめんがうつったままくるくるとめぐるましくうごく。)

再生中の巻き戻しは画面が映ったままクルクルとめぐるましく動く。

(すなあらしがおわって、でんしゃがひだりからみぎへもどっていき、かめんのおとこが)

砂嵐が終わって、電車が左から右へ戻って行き、仮面の男が

(ほーむにむかってぶつぶつとなにかをしゃべっているばめんのあとで、すなあらしにもどる。)

ホームに向かってブツブツと何かを喋っている場面の後で、砂嵐に戻る。

(そしてまたほーむのこうけいがうつしだされたのだ。)

そしてまたホームの光景が映し出されたのだ。

(しろいかめんのおとこがうつるだけのつまらないえいぞうがまたとだえ、すなあらしにもどり、)

白い仮面の男が映るだけのつまらない映像がまた途絶え、砂嵐に戻り、

(やがてがつんとぶつかるようなおとがしてがめんに)

やがてガツンとぶつかるような音がして画面に

(みどりいろの「ていし」のもじがうかんだ。せいりする。)

緑色の「停止」の文字が浮かんだ。整理する。

(このびでおてーぷにはすなあらしをはさんでふたつめのえいぞうがはいっていた。)

このビデオテープには砂嵐を挟んで二つ目の映像が入っていた。

(さいしょにししょうがはやおくりしたときは、たんにはやおくりじかんがたりなかっただけらしい。)

最初に師匠が早送りした時は、単に早送り時間が足りなかっただけらしい。

(そしてふたつのえいぞうはおなじじかん、おなじばしょでさつえいされたとおもわれる。)

そして二つの映像は同じ時間、同じ場所で撮影されたと思われる。

(おそらくなにかのえいぞうげきのために、りていくをしていたのだろう。)

恐らくなにかの映像劇のために、リテイクをしていたのだろう。

(ぼうとうからほぼおなじこうずだったけれど、むかいのほーむのひとのはいちなど)

冒頭からほぼ同じ構図だったけれど、向かいのホームの人の配置など

(こまかなちがいがあり、かんじたかすかないわかんはそのためだったのだろう。)

細かな違いがあり、感じた微かな違和感はそのためだったのだろう。

(そしてそのていく2で、でんしゃがこうないをとおってしまったために)

そしてそのテイク2で、電車が構内を通ってしまったために

(とうじょうじんぶつのかめんのおとこがかっとをようきゅうしたちょくご、なにかのいへんがおこった。)

登場人物の仮面の男がカットを要求した直後、なにかの異変が起こった。

(おそらくはじんしんじこだ。)

恐らくは人身事故だ。

(おれはていく2で、でんしゃががめんのはしからすがたをあらわすちょくぜんでえいぞうをいちじていしし、)

俺はテイク2で、電車が画面の端から姿を現す直前で映像を一時停止し、

(すろーさいせいのぼたんをおした。くっくっくっ、とがめんはつっかえながらうごき、)

スロー再生のボタンを押した。クックックッ、と画面はつっかえながら動き、

(のいずがまじったきたないえいぞうのなかでおれはむかいのほーむのみぎはしにいる)

ノイズが混じった汚い映像の中で俺は向かいのホームの右端にいる

(こーとをきたじんぶつをじっとおっていた。)

コートを着た人物をじっと追っていた。

(でんしゃがとおりすぎたあとのさわぎのなかで、むかいのほーむに)

電車が通り過ぎた後の騒ぎの中で、向かいのホームに

(そんなこーとのじんぶつがいたようなきがしないからだ。)

そんなコートの人物がいたような気がしないからだ。

(いきをのんでみつめているめのまえで、こーとのじんぶつはゆらりとゆれたかとおもうと)

息を飲んで見つめている目の前で、コートの人物はゆらりと揺れたかと思うと

(ほーむのせんたんからせんろにおちた。)

ホームの先端から線路に落ちた。

(そしてそのちょくごにつっこんでくるでんしゃ。とおりすぎたあとのさわぎ。)

そしてその直後に突っ込んでくる電車。通り過ぎた後の騒ぎ。

(やはりだ。こーとのじんぶつがひかれていた。あるいはしんだのかもしれない。)

やはりだ。コートの人物が轢かれていた。あるいは死んだのかもしれない。

(もういちどまきもどしておなじしーんをつうじょうさいせいでみてみると、)

もう一度巻き戻して同じシーンを通常再生で見てみると、

(すべてはあまりにいっしゅんのできごとだったので、)

すべてはあまりに一瞬の出来事だったので、

(しょけんでみのがしてもむりはないということがわかった。)

初見で見逃しても無理はないということが分かった。

(かめんのおとこも、かめらをもっているもうひとりのなかまもでんしゃが)

仮面の男も、カメラを持っているもう一人の仲間も電車が

(とおりすぎてからじょせいがひめいをあげるまで、だれかがせんろにおちたことに)

通り過ぎてから女性が悲鳴を上げるまで、誰かが線路に落ちたことに

(きづいていない。でんしゃつうかちゅうのほーむのようすからしても、)

気づいていない。電車通過中のホームの様子からしても、

(だれもきづかなかったのはたしかなようだ。)

誰も気づかなかったのは確かなようだ。

(じさつだろうか。えいぞうをみるかぎり、しゅういにだれかいたようにはない。)

自殺だろうか。映像を見る限り、周囲に誰かいたようにはない。

(じこや、だれかにつきおとされたのではないとすると、やはりじさつか、)

事故や、誰かに突き落とされたのではないとすると、やはり自殺か、

(あるいはたちくらみやほっさでてんとうしたのか。)

あるいは立ちくらみや発作で転倒したのか。

(なんどかくりかえしてさいせいしていると、すっかりじぶんが)

何度か繰り返して再生していると、すっかり自分が

(れいせいになっていることにきづく。それもそうだろう。)

冷静になっていることに気づく。それもそうだろう。

(じんしんじこのしゅんかんがうつったびでおてーぷとはいえ、)

人身事故の瞬間が映ったビデオテープとはいえ、

(じんたいがはかいされるばめんがうつっているわけではない。)

人体が破壊される場面が映っている訳ではない。

(かんせつてきに、じこがあったとわかるだけだ。)

間接的に、事故があったと分かるだけだ。

(それでもきみがわるいのにはちがいないが、よのなかにはそういう)

それでも気味が悪いのには違いないが、世の中にはそういう

(ぐろいしーんがばっちりうつったあくしゅみなびでおがあるときく。)

グロいシーンがバッチリ映った悪趣味なビデオがあると聞く。

(そんなものにくらべるとものたりないのはたしかだ。ごまんえん。)

そんなものに比べると物足りないのは確かだ。五万円。

(そんなたんごがあたまにうかび、ついでななせんえんというたんごもうかんだ。)

そんな単語が頭に浮かび、ついで七千円という単語も浮かんだ。

(そしてなんのきなしにうしろをふりむいた。)

そして何の気なしに後ろを振り向いた。

(そのとき、そのよるでいちばんちのけがひくしゅんかんがやってきた。)

その時、その夜で一番血の気が引く瞬間がやってきた。

(ふとんにはいっていたはずのししょうがおれのはいごにいて、)

布団に入っていたはずの師匠が俺の背後にいて、

(かたひざをたてたしせいでまえをぎょうししていたのだ。)

片膝を立てた姿勢で前を凝視していたのだ。

(そのめはけいけいとかがやいている。かおにはうっすらとびしょうがうかんでいる。)

その目は炯炯と輝いている。顔にはうっすらと微笑が浮かんでいる。

(しせんはびでおのがめんにむいていて、そのからだはすぐそこにいるのに、)

視線はビデオの画面に向いていて、その身体はすぐそこにいるのに、

(どうじにはるかとおくにいるようなかんじがしてこえをかけるのもためらわれた。)

同時に遥か遠くにいるような感じがして声を掛けるのも躊躇われた。

(かたまったようにうごけないおれに、ふいにししょうはちからをぬくようにわらいかけた。)

固まったように動けない俺に、ふいに師匠は力を抜くように笑い掛けた。

(「おもしろいな」)

「面白いな」

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