ビデオ 前編-5-
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | berry | 7548 | 神 | 7.7 | 97.9% | 529.1 | 4079 | 85 | 72 | 2024/09/24 |
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問題文
(「おもしろくは、ないでしょう」)
「面白くは、ないでしょう」
(ようやくそれだけをかえしたおれは、がめんにめをもどす。すなあらしになっていた。)
ようやくそれだけを返した俺は、画面に目を戻す。砂嵐になっていた。
(ししょうがてをのばし、さいせいしたままはやおくりをする。)
師匠が手を伸ばし、再生したまま早送りをする。
(きゅるきゅるとのいずがかたちをかえるけれど、)
キュルキュルとノイズが形を変えるけれど、
(がめんはいつまでもすなあらしのままだった。)
画面はいつまでも砂嵐のままだった。
(やがてがつんとてーぷがとまり、じどうてきにていしじょうたいでの)
やがてガツンとテープが止まり、自動的に停止状態での
(まきもどしがはじまった。そうか、ふたつめがあったのだからみっつめのえいぞうの)
巻き戻しが始まった。そうか、二つ目があったのだから三つ目の映像の
(うむをかくにんするひつようがあったのだ。)
有無を確認する必要があったのだ。
(「しんだとおもうか」ししょうがだれにきくともなしにつぶやく。)
「死んだと思うか」師匠が誰に聞くともなしに呟く。
(あのこーとのじんぶつのことだろう。)
あのコートの人物のことだろう。
(「たぶん」れきしたいってやつだ。もしかめらがえきいんにとめられず)
「たぶん」轢死体ってやつだ。もしカメラが駅員に止められず
(せんろをさつえいしていたら、とおもうとぞっとする。)
線路を撮影していたら、と思うとゾッとする。
(「あのおっさんがまわしてきたぶつだ。それだけじゃないな」)
「あのオッサンが回してきたブツだ。それだけじゃないな」
(ししょうはにやりとわらうと、「じっくりしらべてみることにするけど、)
師匠はニヤリと笑うと、「じっくり調べてみることにするけど、
(とりあえずもうねる」といって、またふとんによこたわった。)
とりあえずもう寝る」と言って、また布団に横たわった。
(おれはそれがたいまいをはたいたまけおしみのようにきこえて、)
俺はそれが大枚をはたいた負け惜しみのように聞こえて、
(なんだかざんねんなきぶんになった。なっとくいかないかおでてれびのまえにすわっているおれに、)
なんだか残念な気分になった。納得いかない顔でテレビの前に座っている俺に、
(せなかをむけたままのししょうがぼそっとことばをなげてよこす。)
背中を向けたままの師匠がボソッと言葉を投げてよこす。
(「びでおのなかはなつだ」いっしゅんなんのことかわからなかったが、)
「ビデオの中は夏だ」一瞬なんのことか分からなかったが、
(そういわれるとかめんのおとこのしゃつやむかいのほーむのひとびとのふくそうをみるかぎり、)
そう言われると仮面の男のシャツや向かいのホームの人々の服装を見る限り、
(あついきせつであることはたしかなようだ。)
暑い季節であることは確かなようだ。
(そうして、わずかなたいむらぐのあとにようやく)
そうして、わずかなタイムラグの後にようやく
(ししょうのいわんとしたことにおもいいたる。)
師匠の言わんとしたことに思い至る。
(こーとのじんぶつは、まるでそこだけことなるきせつのなかにいるかのような)
コートの人物は、まるでそこだけ異なる季節の中にいるかのような
(かっこうをしているのだ。もういちどだけ、とでんしゃのつうかまえのしーんをさいせいすると、)
格好をしているのだ。もう一度だけ、と電車の通過前のシーンを再生すると、
(そのじんぶつはぜんしんをおおきなこーとでおおい、そのてにはてぶくろをして、)
その人物は全身を大きなコートで覆い、その手には手袋をして、
(まぶかにかぶったぼうしとしろいますくでかおまでがいきからつつみかくしていた。)
目深に被った帽子と白いマスクで顔まで外気から包み隠していた。
(びでおのあらいえいぞうでは、まったくにんそうがわからない。おとこかおんなかも。)
ビデオの荒い映像では、全く人相が分からない。男か女かも。
(ただ、ぼうしにかくれてみえないそのめが、なぜかかめらのほうをむいたきがした。)
ただ、帽子に隠れて見えないその目が、なぜかカメラの方を向いた気がした。
(つぎのしゅんかんにそのからだはほーむからてんらくし、てつのかたまりがそれをなめすように)
次の瞬間にその身体はホームから転落し、鉄の塊がそれをなめすように
(とおりすぎていった。びでおをみたよるはけっきょくししょうのいえにとまった。)
通り過ぎて行った。ビデオを見た夜は結局師匠の家に泊まった。
(つぎのひはあさいちのだいがくのこうぎをすっぽかし、にげんめにしゅっせきしたあとで)
次の日は朝イチの大学の講義をすっぽかし、二限目に出席した後で
(さーくるのぶしつにころがりこんで、そのままだらだらとすごした。)
サークルの部室に転がり込んで、そのままダラダラと過ごした。
(なんにんかでつれだってがくうらのていしょくやでばんめしをくらい、)
何人かで連れ立って学裏の定食屋で晩飯を喰らい、
(とくにすることもないのでかいさん。おれはそのあしでこんびににより、)
特にすることもないので解散。俺はその足でコンビニに寄り、
(しょうみきげんのきれかけたにじゅうえんびきのぱんをかってじぶんのあぱーとにかえった。)
賞味期限の切れかけた二十円引きのパンを買って自分のアパートに帰った。
(ごほんせんえんでいっしゅうかんかりているれんたるびでおからてきとうににほんほどとりだして)
五本千円で一週間借りているレンタルビデオから適当に二本ほど取り出して
(ぱんをかじりつつみていると、じつにへいきんてきなわがいちにちがおわった。)
パンを齧りつつ見ていると、実に平均的な我が一日が終わった。
(のびをして、ああー、とかいうかんたんふがくちをつき、それからべっどにたおれこむ。)
伸びをして、ああー、とかいう感嘆符が口をつき、それからベッドに倒れ込む。
(ぶらさがったでんきゅうのひもを、よこになったままくろうしてつかむとへやのなかはくらくなる。)
ぶら下がった電球の紐を、横になったまま苦労して掴むと部屋の中は暗くなる。
(そしてかけぶとんをかぶってめをつぶる。きみょうなことがおこったのはそのときだ。)
そして掛け布団を被って目をつぶる。奇妙なことが起こったのはその時だ。
(とじられたまぶたのうらに、さっきまであかるかったでんきゅうのりんかくがうつる。)
閉じられた瞼の裏に、さっきまで明るかった電球の輪郭が映る。
(それはとりたてておかしくもない、ねるまえのいつものこうけいだ。)
それは取り立てておかしくもない、寝る前のいつもの光景だ。
(だが、そのでんきゅうのりんかくとはすこしはなれたいちに、もうひとつべつの)
だが、その電球の輪郭とは少し離れた位置に、もうひとつ別の
(りんかくがうつっていた。いっしゅんやきついたひかりが、わずかなしかくじょうほうをのうにとどけたあとで)
輪郭が映っていた。一瞬焼き付いた光が、わずかな視覚情報を脳に届けたあとで
(すぐにかくさんしてきえていく。めをとじたままそれをよくみようとしても、)
すぐに拡散して消えていく。目を閉じたままそれをよく見ようとしても、
(まぼろしのようにとけていってしまう。まぶたをひらくとくらやみのむこうにてんじょうがあるだけだ。)
幻のように溶けていってしまう。瞼を開くと暗闇の向こうに天井があるだけだ。
(ひもをつかみ、でんきをつけてからもういちどめをとじてみる。)
紐をつかみ、電気をつけてからもう一度目を閉じてみる。
(するとまたでんきゅうのりんかくがぽっ、ときょくうにうかび、)
するとまた電球の輪郭がポッ、と虚空に浮かび、
(そしてれんとげんしゃしんのようないんえいをのこしながらしみこむようにきえていった。)
そしてレントゲン写真のような陰影を残しながら染み込むように消えていった。
(こんどはもうひとつのべつのりんかくはみえなかった。なんどかめをまたたいたが、)
今度はもう一つの別の輪郭は見えなかった。何度か目を瞬いたが、
(おかしなものはみえない。なんだったのだろう。あれは。)
おかしなものは見えない。なんだったのだろう。あれは。
(まぶたのうらにりんかくがうつるほどひかりをはっする、もしくははんしゃするものなんて)
瞼の裏に輪郭が映るほど光を発する、もしくは反射するものなんて
(てんじょうにぶらさがっているでんきゅういがいないというのに。)
天井にぶら下がっている電球以外ないというのに。
(めをとじたしゅんかんの、たよりないきおくをよびおこす。)
目を閉じた瞬間の、頼りない記憶を呼び起こす。
(べっどにねころぶまえにそんなものをみていたはずはない。)
ベッドに寝転ぶ前にそんなものを見ていたはずはない。
(なんだかこどうがはやくなってきた。)
なんだか鼓動が早くなってきた。
(でんきゅうのよこに、むすうのまどからひかりのもれているびるをみていたなんて。)
電球の横に、無数の窓から光の漏れているビルを見ていたなんて。
(いきをふかくはき、そのあとかるくわらうようにさいごのいきがもれる。)
息を深く吐き、その後軽く笑うように最後の息が漏れる。
(きょうみたれんたるびでおにそんなびるがでてきただろうかとかんがえながら、)
今日見たレンタルビデオにそんなビルが出てきただろうかと考えながら、
(つかれためがしらをおさえて、でんきゅうのひもをたぐった。)
疲れた目頭を押さえて、電球の紐を手繰った。
(つぎのひもだいがくのじゅぎょうがあった。)
次の日も大学の授業があった。
(いちげんめ、にげんめとまじめにしゅっせきしたあと、ちゅうしょくをとるためにがくしょくへあしをはこんだ。)
一限目、二限目と真面目に出席したあと、昼食をとるために学食へ足を運んだ。
(とれーをもってしせんをめぐらせると、いつものしていせきにししょうのすがたをみつける。)
トレーを持って視線を巡らせると、いつもの指定席に師匠の姿を見つける。
(「かれーですか」)
「カレーですか」
(むかいのせきにこしかけると、かれはすぷーんをくちにいれたままうっそりとうなずく。)
向かいの席に腰掛けると、彼はスプーンを口に入れたままうっそりと頷く。
(がくしょくのかれーのlさいずは300えんでおつりがくるという)
学食のカレーのLサイズは300円でお釣りがくるという
(ていりょうきんにもかかわらずはらをすかせたがくせいのいぶくろをそこそこまんぞくさせてくれる)
低料金にも関わらず腹を空かせた学生の胃袋をそこそこ満足させてくれる
(ぼりゅーむをほこっている。もちろんあじはともかくとしてだ。)
ボリュームを誇っている。もちろん味はともかくとしてだ。
(「なにかわかりましたか」)
「なにか分かりましたか」
(おれのといかけに、しばらくくちをもぐもぐうごかしてからみずをのむ。)
俺の問いかけに、しばらく口をもぐもぐ動かしてから水を飲む。
(「ばしょは、わかったよ」)
「場所は、分かったよ」