ビデオ 中編-1-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7105 7.3 96.8% 583.5 4286 140 78 2024/09/24

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問題文

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(つぎのひ、ひるすぎにめざめたおれはししょうのいえにでんわをした。)

次の日、昼過ぎに目覚めた俺は師匠の家に電話をした。

(じゅっかいほどこーるおんをきいたあと、じゅわきをおく。つづけてけいたいにかけるが、)

十回ほどコール音を聞いたあと、受話器を置く。続けて携帯に掛けるが、

(でんげんがきれているか、でんぱがとどかないばしょに)

電源が切れているか、電波が届かない場所に

(いるらしいことしかわからなかった。しかたなく、きのうきたむらさんにきいた)

いるらしいことしか分からなかった。仕方なく、昨日北村さんに聞いた

(もとえきいんというせんぱいのいえをたずねてみることにした。)

元駅員という先輩の家を訪ねてみることにした。

(じゅぎょうにでるというせんたくしなど、とっくにふっとんでしまっている。)

授業に出るという選択肢など、とっくに吹っ飛んでしまっている。

(さいふのなかをたしかめて、かってもっていくにほんしゅのめいがらをきめる。さんざいだ。)

財布の中を確かめて、買って持っていく日本酒の銘柄を決める。散財だ。

(びでおがなんぼんかりられるとおもってるんだ。いえをでて、じてんしゃにのる。)

ビデオが何本借りられると思ってるんだ。家を出て、自転車に乗る。

(ひざしがまぶしい。ここすうじつすずしかったのに、きょうはやけにあつい。)

陽射しが眩しい。ここ数日涼しかったのに、今日はやけに暑い。

(ことしもまたなつがくるらしい。)

今年もまた夏が来るらしい。

(どうろぞいをこぎつづけて、ようやくそのじゅうしょにたどりつく。)

道路沿いをこぎ続けて、ようやくその住所にたどり着く。

(じゅうたくがいのなかのごくありふれたみんかだ。)

住宅街の中のごくありふれた民家だ。

(ちゃいむをならし、ようけんをつげる。)

チャイムを鳴らし、用件を告げる。

(よしださんというそのろくじゅうだいのだんせいは、にほんしゅをかかげてきたむらさんのしょうかいだと)

吉田さんというその六十代の男性は、日本酒を掲げて北村さんの紹介だと

(つげたとたんに、げんかんのおくへかおをつっこみ、「かあさん、おきゃくだ。おきゃく。)

告げた途端に、玄関の奥へ顔を突っ込み、「かあさん、お客だ。お客。

(おちゃをだしなさい」とどなった。そしていえのなかにまねきいれられる。)

お茶を出しなさい」と怒鳴った。そして家の中に招き入れられる。

(いったい、きたむらさんのなまえとにほんしゅ、どっちがきいたのかわからなかったが、)

一体、北村さんの名前と日本酒、どっちが利いたのか分からなかったが、

(はなしずきであることはまちがいないようだった。)

話し好きであることは間違いないようだった。

(きゃくまのざいすにこしかけ、すすめられるままにせんべいにてをのばしながら、)

客間の座椅子に腰掛け、勧められるままに煎餅に手を伸ばしながら、

(きたむらさんとどうりょうだったじだいのむかしばなしをしばしはいちょうする。)

北村さんと同僚だった時代の昔話をしばし拝聴する。

など

(ほんだいをきりだすまえのわきみちだったので、てきとうにあいづちをうっていたのだが)

本題を切り出す前の脇道だったので、適当に相槌を打っていたのだが

(わじゅつのせいなのか、これがいがいとおもしろくいつのまにかききいってしまっていた。)

話術のせいなのか、これが意外と面白くいつの間にか聞き入ってしまっていた。

(しはつのちょくぜんにねぼうして、じかんとのたたかいのなかそのぴんちをきりぬけたはなしなど)

始発の直前に寝坊して、時間との戦いの中そのピンチを切り抜けた話など

(おもわずてにあせにぎってしまったほどだ。)

思わず手に汗握ってしまったほどだ。

(やがてのどがかわいたといいだしたよしださんは、)

やがて喉が渇いたと言い出した吉田さんは、

(てーぶるのうえのにほんしゅをじっとりとみつめる。)

テーブルの上の日本酒をじっとりと見つめる。

(どうぞどうぞとてをひろげてすすめると、それじゃえんりょなく、)

どうぞどうぞと手を広げて勧めると、それじゃ遠慮なく、

(とたなからもってきたこっぷをわきにおき、せんをあけようとした。)

と棚から持ってきたコップを脇に置き、栓を開けようとした。

(ぶきようなてつきでなかなかあけられないのをみて、こちらでやってあげる。)

不器用な手つきでなかなか開けられないのを見て、こちらでやってあげる。

(こうあついと、かんなんてしてられないねぇ、)

こう暑いと、燗なんてしてられないねぇ、

(などといいながらよしださんはぐいぐいこっぷをかたむけはじめる。)

などと言いながら吉田さんはぐいぐいコップを傾けはじめる。

(おれはようやくここにきたりゆうをおもいだし、めのまえのはげあがったあたまに)

俺はようやくここにきた理由を思い出し、目の前の禿げ上がった頭に

(あかみがさしてくるのをみはからって、ほんだいをそっときりだした。)

赤みが差してくるのを見計らって、本題をそっと切り出した。

(「さとういちろう?」よしださんはいっしゅん、けげんそうなかおをしたあと、)

「サトウイチロウ?」吉田さんは一瞬、怪訝そうな顔をしたあと、

(すぐにくちをへのじにむすぶ。「なつかしいなまえだねぇ」)

すぐに口をへの字に結ぶ。「懐かしい名前だねぇ」

(ことばとはうらはらにひょうじょうはちっともなつかしそうではない。)

言葉とは裏腹に表情はちっとも懐かしそうではない。

(おそれをのんだような、こわばったかおだった。)

恐れを呑んだような、強張った顔だった。

(そしてぽつりぽつりとかこをほりおこすようにかたりだす。)

そしてポツリポツリと過去を掘り起こすように語りだす。

(むかし、よしださんがえきいんになってじゅうねんほどしかたっていない、)

昔、吉田さんが駅員になって十年ほどしか経っていない、

(まだわかいころのはなしだ。けんがいのあるえきにてんきんしてまもないころ、)

まだ若いころの話だ。県外のある駅に転勤して間もないころ、

(そのえきのじょやくからちゃのみばなしのなかで、きみょうなうわさをきかされた。)

その駅の助役から茶飲み話の中で、奇妙な噂を聞かされた。

(いわく、「さとういちろうのしたいをかたづけるとのろわれる」と。)

曰く、「サトウイチロウの死体を片付けると呪われる」と。

(ははぁ、さとういちろうというのは、てつどうじこでしんだみもとふめいしゃを)

ははぁ、サトウイチロウというのは、鉄道事故で死んだ身元不明者を

(あらわすいんごだなと、かれはあたりをつけた。)

表す隠語だなと、彼はあたりをつけた。

(ところがじょやくはかぶりをふるのである。)

ところが助役はかぶりを振るのである。

(ただのむえんまぐろじゃねぇ。さとういちろうはそういうなまえのまぐろだと。)

ただの無縁マグロじゃねぇ。サトウイチロウはそういう名前のマグロだと。

(よしださんはくびをひねった。かこにそういうなまえのれきしたいがでたとして、)

吉田さんは首を捻った。過去にそういう名前の轢死体が出たとして、

(それがどうだというんだろう。えじぷとのみいらののろいのように、)

それがどうだと言うんだろう。エジプトのミイラの呪いのように、

(そのしたいをしょりしたにんげんになにかおかしなことがたてつづいたのだろうか。)

その死体を処理した人間になにかおかしなことが立て続いたのだろうか。

(けれどそれにしてもうわさからうけるかんじがへんである。まるでそのしたいを、)

けれどそれにしても噂から受ける感じが変である。まるでその死体を、

(これからかたづけるようではないか。じょやくはにたりとわらってから、つづけた。)

これから片付けるようではないか。助役はニタリと笑ってから、続けた。

(「なんどもしぬのさぁ。さとういちろうは。かたづけてもかたづけても、)

「何度も死ぬのさぁ。サトウイチロウは。片付けても片付けても、

(おんなじかっこうでえきにあらわれてさ、またとびこみやがるのよ。)

おんなじ格好で駅に現れてさ、また飛び込みやがるのよ。

(なんども、なんども」ぞくりとして、よしださんはゆのみをとりおとした。)

何度も、何度も」ゾクリとして、吉田さんは湯飲みを取り落とした。

(そこまできいて、おれはおもわずはなしをさえぎった。)

そこまで聞いて、俺は思わず話を遮った。

(「まってください。さとういちろうって、そういうじこししたひとの)

「待って下さい。サトウイチロウって、そういう事故死した人の

(そうしょうじゃないんですか」よしださんははなしのこしをおられたことにはなをならしながら、)

総称じゃないんですか」吉田さんは話の腰を折られたことに鼻を鳴らしながら、

(ちがうよといった。「おなじにんげんなんだよ。さとういちろうってなまえの。)

違うよと言った。「同じ人間なんだよ。サトウイチロウって名前の。

(そいつがなんどもしぬんだ。れっしゃにとびこんで。おれたちえきいんが)

そいつが何度も死ぬんだ。列車に飛び込んで。オレたち駅員が

(かたづけて、けいさつがきて、みもとふめいだっていってひきとっていって、)

片付けて、警察が来て、身元不明だって言って引き取って行って、

(それでなんねんかたったら、またふらっとべつのえきにあらわれるんだよ。)

それで何年か経ったら、またフラッと別の駅に現れるんだよ。

(いや、だれもいきてうごいているところをみちゃいない。)

いや、誰も生きて動いている所を見ちゃいない。

(ただ、れっしゃにひかれているのをはっけんされるんだ」)

ただ、列車に轢かれているのを発見されるんだ」

(きたむらさんのはなしとちがう。おなじにんげんだって?そんなことがあるはずがない。)

北村さんの話と違う。同じ人間だって? そんなことがあるはずがない。

(「じゃあ、したいをだれかがなげこんでるんですか」)

「じゃあ、死体を誰かが投げ込んでるんですか」

(「ちがうね。せいたいはんのうってのがあるんだろ。じこなのかじさつなのかも)

「違うね。生体反応ってのがあるんだろ。事故なのか自殺なのかも

(ふめいで、もくげきしゃもいないへんしたいだから、かいぼうされるはずだ。)

不明で、目撃者もいない変死体だから、解剖されるはずだ。

(したいそんかいじけんだったなんてきいたことがないね。)

死体損壊事件だったなんて聞いたことがないね。

(すくなくともおれのときは・・・・・・」そこでよしださんはことばをきった。)

少なくともオレのときは……」そこで吉田さんは言葉を切った。

(どきどきしてくる。じゃましないというじぇすちゃーをして、さきをうながした。)

ドキドキしてくる。邪魔しないというジェスチャーをして、先を促した。

(そのうわさをきいてからごねんほどたったころ、)

その噂を聞いてから五年ほど経ったころ、

(よしださんはまたべつのえきにてんぞくになっていた。)

吉田さんはまた別の駅に転属になっていた。

(ゆきがちらつくさむいひに、しゅくちょくしつのそうじをしているとほーむのほうから)

雪がちらつく寒い日に、宿直室の掃除をしているとホームの方から

(きゅうにひめいがあがった。)

急に悲鳴が上がった。

(あわててかけつけるとせんぱいのえきいんがせんろにおりてなにごとかどなっている。)

慌てて駆けつけると先輩の駅員が線路に降りて何ごとか怒鳴っている。

(みると、せんろのしゅういにうすくつもったしろいゆきのうえに、あかいものがとびちっている。)

見ると、線路の周囲に薄く積もった白い雪の上に、赤いものが飛び散っている。

(まぐろだ、とすぐにわかった。それもばらばらだ。)

マグロだ、とすぐに分かった。それもバラバラだ。

(そういえばちょくぜんにとっきゅうがつうかしている・・・・・・)

そういえば直前に特急が通過している……

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