ビデオ 後編-4-

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(ごほんせんえんでいっしゅうかんかりているびでお。では、あのふくろにのこっているのはなんだ?)

五本千円で一週間借りているビデオ。では、あの袋に残っているのはなんだ?

(いきがあらくなる。しかいがゆがむ。てがのびる。じぶんのてではないみたいだ。)

息が荒くなる。視界が歪む。手が伸びる。自分の手ではないみたいだ。

(しりたくない。しりたくない。そんなことばがあたまのうちがわでなる。)

知りたくない。知りたくない。そんな言葉が頭の内側で鳴る。

(けれどてがとまらない。どぶん、とねんどのたかいりゅうたいにてをつっこむようだ。)

けれど手が止まらない。どぶん、と粘度の高い流体に手を突っ込むようだ。

(ゆびさきまでいしがつたわるまでじかんがかかるような。)

指先まで意思が伝わるまで時間がかかるような。

(せいりてきなけんおかんがぞわぞわとひふのひょうめんをはいまわる。)

生理的な嫌悪感がぞわぞわと皮膚の表面を這い回る。

(ふくろのざらついたかんしょく。ゆびさきがそのなかへはいっていく。)

袋のざらついた感触。指先がその中へ入っていく。

(ぷらすてぃっくのかどにふれる。つかみ、ずるずるととりだす。)

プラスティックの角に触れる。掴み、ズルズルと取り出す。

(そのひょうめんにかかれたもじをみたしゅんかん、ていたいしていたようなじかんがはじけとんだ。)

その表面に書かれた文字を見た瞬間、停滞していたような時間が弾けとんだ。

(おもわずふきだしてしまう。ここではいえないようなたいとるだ。)

思わず吹き出してしまう。ここでは言えないようなタイトルだ。

(かりたことをすっかりわすれていた。いつもはきゅうさくばかりごほんかりるのだが、)

借りたことをすっかり忘れていた。いつもは旧作ばかり五本借りるのだが、

(しょうどうてきにそういうびでおをしんさくりょうきんでべつにかりていたのだった。)

衝動的にそういうビデオを新作料金で別に借りていたのだった。

(いままでのきょうふしんもすべてきえさって、ばかわらいしてしまった。)

今までの恐怖心もすべて消え去って、バカ笑いしてしまった。

(じぶんのまぬけさにだ。だから、ちゃいむがなったときもまるでいつものかんじで)

自分の間抜けさにだ。だから、チャイムが鳴った時もまるでいつもの感じで

(きやすく「はい」とへんじをしながらどあにむかったのだ。)

気安く「はい」と返事をしながらドアに向かったのだ。

(わらいをひきずったままで。)

笑いを引きずったままで。

(けれどだいどころのまえをとおりどあのまえにたとうとしたしゅんかんに、)

けれど台所の前を通りドアの前に立とうとした瞬間に、

(そのきみょうなものがめのまえにみえてあしがとまった。)

その奇妙なものが目の前に見えて足が止まった。

(まばたきのあいだにじぶんのすがたがみえた。)

まばたきの間に自分の姿が見えた。

(どあのまえにどっぺるげんがーがたっていたわけではない。)

ドアの前にドッペルゲンガーが立っていた訳ではない。

など

(そのもうひとりのじぶんのすがたのはいけいには、だいどころとそのむこうのへやとがある。)

そのもう一人の自分の姿の背景には、台所とその向こうの部屋とがある。

(してんがはんてんしている。おおきなかがみのまえにたったような。)

視点が反転している。大きな鏡の前に立ったような。

(けれどそのかがみはまるくゆがんでいる。じぶんのすがたも、だいどころも、はしのほうはゆがんで)

けれどその鏡は丸く歪んでいる。自分の姿も、台所も、端の方は歪んで

(つぶれたようになっている。まるいしかい。こんどはひかりのあとではなく、しかいそのものだ。)

潰れたようになっている。丸い視界。今度は光の跡ではなく、視界そのものだ。

(めをあけると、そのはんてんしたしかいはきえる。)

目を開けると、その反転した視界は消える。

(そしてめのまえのどあにくぎづけになる。せいかくには、そこにあいた)

そして目の前のドアに釘付けになる。正確には、そこに開いた

(ちいさなのぞきあな、どあすこーぷに。なにかがうごいたけはい。)

小さな覗き穴、ドアスコープに。何かが動いた気配。

(いっしゅん、すこーぷのしゅういのかなぐがきらりとひかる。)

一瞬、スコープの周囲の金具がキラリと光る。

(そとのつうろのけいこうとうにはんしゃしたのか。そしてすぐにあなはくらくなる。だれかいる。)

外の通路の蛍光灯に反射したのか。そしてすぐに穴は暗くなる。誰かいる。

(あのまるいあなからこちらをみている。まばたきをする。また、じぶんがみえる。)

あの丸い穴からこちらを見ている。まばたきをする。また、自分が見える。

(こんせんしたしかいが、あちらのみているものをおれにみせたように、)

混線した視界が、あちらの見ているものを俺に見せたように、

(おれのみているものをあちらにもみせていたのだろうか。そしてたどられた?)

俺の見ているものをあちらにも見せていたのだろうか。そして辿られた?

(せみがないている。かんだかく。みみのすぐそばで。あしになまりがはいったようにうごかない。)

セミが鳴いている。甲高く。耳のすぐそばで。足に鉛が入ったように動かない。

(どあのむこうのけはいがつよくなる。どんどん、とのっくがにど。)

ドアの向こうの気配が強くなる。ドンドン、とノックが二度。

(けれどそれは、、へんにつぶれたようなおとだった。どんどん、というよりも)

けれどそれは、、変に潰れたような音だった。ドンドン、というよりも

(べた、べた、とでもいうように。)

ベタ、ベタ、とでもいうように。

(かおがひきつる。うわくちびるがけいれんする。そうぞうしてしまう。)

顔が引きつる。上唇が痙攣する。想像してしまう。

(こーとのしたは、はじめから、ばらばらなのかもしれない。)

コートの下は、はじめから、バラバラなのかも知れない。

(にくへんから、にくへんへ。したいから、したいへ。さいしょから、さいごまで、ししゃのままで。)

肉片から、肉片へ。死体から、死体へ。最初から、最後まで、死者のままで。

(うごけない。かなしばりにでもかかったかのように。にげなくてはならないと、)

動けない。金縛りにでもかかったかのように。逃げなくてはならないと、

(あたまのどこかではわかっているのに。にぶいおとがして、どあのあしもとにめがいく。)

頭のどこかでは分かっているのに。鈍い音がして、ドアの足元に目が行く。

(かるいしんどう。どあのしたのわずかなすきまから、ごつごつと、)

軽い振動。ドアの下のわずかな隙間から、ゴツゴツと、

(なにかをおしこもうとしているようなおと。ゆびを、そうぞうする。)

なにかを押し込もうとしているような音。指を、想像する。

(そしてやがてそれがにくがひしゃげるようなおとにかわる。)

そしてやがてそれが肉がひしゃげるような音に変わる。

(めちめちめちというせいりてきなけんおかんをあおりたてるおとに。)

メチメチメチという生理的な嫌悪感を煽り立てる音に。

(やがてどあのしたのすきまからなにかあかぐろいものがみえてくる。つめもかわもはげた、)

やがてドアの下の隙間から何か赤黒いものが見えてくる。爪も皮も剥げた、

(じゅっぽんのうすくのばされたぼうのようなものが。どあすこーぷはくらいままだ。)

十本の薄く延ばされた棒のようなものが。ドアスコープは暗いままだ。

(だれかのめがそこにあるままで、どあのしたからはてのざんがいのようなものが)

誰かの目がそこにあるままで、ドアの下からは手の残骸のようなものが

(ねじこまれようとしていた。)

捻じ込まれようとしていた。

(どうじにかたり、とどあのまんなかにとりつけられているゆうびんうけがうごいた。)

同時にカタリ、とドアの真ん中に取り付けられている郵便受けが動いた。

(せみがないている。あたまのなかに、きおくがよみがえる。いつかのこうれいじっけんのきおくが。)

セミが鳴いている。頭の中に、記憶が蘇る。いつかの降霊実験の記憶が。

(おれはみたぞ。これを。このあと、ゆうびんうけがひらいて、そのすきまから)

俺は見たぞ。これを。この後、郵便受けが開いて、その隙間から

(なにかがでてこようと・・・・・・それからどうなった?)

なにかがでてこようと……それからどうなった?

(はやくおもいださないといけない。すきまからでてくるまえに。)

早く思い出さないといけない。隙間からでてくるまえに。

(のうがうまくはたらかない。そうだ。だれかがたすけてくれた。あれはだれだ?)

脳がうまく働かない。そうだ。誰かが助けてくれた。あれは誰だ?

(せみがないている。おもいだした。そのひとはもういない。おれはたすからない。)

セミが鳴いている。思い出した。その人はもういない。俺は助からない。

(そうおもうとちからがぬけた。たましいがぬけでるようにひざからくずれおちた。)

そう思うと力が抜けた。魂が抜け出るように膝から崩れ落ちた。

(それでもからだをはんてんさせて、はった。はおうとした。ゆめのなかにいるように、)

それでも身体を反転させて、這った。這おうとした。夢の中にいるように、

(まったくすすまない。うしろからにくのおとがする。)

全く進まない。後ろから肉の音がする。

(すこしでもとおざかろうと、それでもはった。だいどころをぬけた。)

少しでも遠ざかろうと、それでも這った。台所を抜けた。

(ひらいたしつないどあのだんさをこえて、へやのなかまでにげこんだ。)

開いた室内ドアの段差を越えて、部屋の中まで逃げ込んだ。

(うしろはふりかえれない。じかんのながれがわからない。)

後ろは振り返れない。時間の流れが分からない。

(じゅっぷんいじょうたったきもするし、いちじかんいじょうたったようなきもする。)

十分以上経った気もするし、一時間以上経ったような気もする。

(つめたいあせがかおをおおって、ゆかにしたたりおちる。)

冷たい汗が顔を覆って、床にしたたり落ちる。

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