ビデオ 後編-6-(完)

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師匠シリーズ
マイタイピングに師匠シリーズが沢山あったと思ったのですが、なくなってまっていたので、作成しました。

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問題文

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(つぎのばいとのひ、きたむらさんに「さとういちろうどうだった」ときかれたが、)

次のバイトの日、北村さんに「サトウイチロウどうだった」と聞かれたが、

(なまへんじをしただけではぐらかした。)

生返事をしただけではぐらかした。

(「よしださんはげんきでしたけど、ひまそうにしてましたよ」というと、)

「吉田さんは元気でしたけど、暇そうにしてましたよ」と言うと、

(「そうかぁ。ぼくもこんどあいにいこうかな」なんて、)

「そうかぁ。ボクも今度会いに行こうかな」なんて、

(なつかしそうにめがねをずりあげていた。)

懐かしそうに眼鏡をずり上げていた。

(そのすうじつごにあったとき、ししょうはこういった。)

その数日後に会った時、師匠はこう言った。

(「かていのはなしだ。しんそうはわかりっこないからね。そうおもってきいてくれ。)

「仮定の話だ。真相は分かりっこないからね。そう思って聞いてくれ。

(・・・・・・さとういちろうがしゅつぼつしたのはとっきゅうれっしゃがつうかしたときばかりだったな」)

……サトウイチロウが出没したのは特急列車が通過した時ばかりだったな」

(とっきゅうれっしゃにとびこみじさつがあると、せいそうやしゃたいのはそんちぇっくのあと)

特急列車に飛び込み自殺があると、清掃や車体の破損チェックのあと

(うんこうさいかいまでのじかんがながくなったときにはえいきょうをうけたじょうきゃくにたいし)

運行再開までの時間が長くなった時には影響を受けた乗客に対し

(とっきゅうりょうきんのはらいもどしをするけーすもあるそうだ。)

特急料金の払い戻しをするケースもあるそうだ。

(そのはらいもどしのがくしだいでは、のこされたいぞくにたいしてそんがいばいしょうせいきゅうがおこなわれても、)

その払い戻しの額次第では、残された遺族に対して損害賠償請求が行われても、

(とてもはらえないようなばくだいなすうじがあがってくることがあるのだとか。)

とても払えないような莫大な数字が上がってくることがあるのだとか。

(たしかにそんなことをきいたことがあるきがする。)

確かにそんなことを聞いたことがある気がする。

(じっさいに、そういうはらえるみこみのないうったえがあるのかどうかはともかくとして、)

実際に、そういう払える見込みのない訴えがあるのかどうかはともかくとして、

(そんなかのうせいがあると、いっぱんじんにおもわれていることがじゅうようなのだ。)

そんな可能性があると、一般人に思われていることが重要なのだ。

(そのつうねんは、かんぽうにのったこうりょしぼうにんのひきうけにんさがしにもくらいかげをおとす。)

その通念は、官報に載った行旅死亡人の引き受け人探しにも暗い影を落とす。

(たとえほんにんにみよりがあり、いぞくがそのじょうほうにきづいたとしても、)

たとえ本人に身寄りがあり、遺族がその情報に気づいたとしても、

(そうしたつうねんが、いめーじがあるかぎり、)

そうした通念が、イメージがある限り、

(おいそれとはてをあげられなくなってしまう。)

おいそれとは手を上げられなくなってしまう。

など

(そしてひきとりてもあらわれないまま、ひっそりとわすれさられるように)

そして引き取り手も現れないまま、ひっそりと忘れ去られるように

(きえていくししゃたち。そんなわすれさられていくものののこしたおもいが、)

消えて行く死者たち。そんな忘れ去られて行く者の残した思いが、

(まるでさいげんするようにきかいなじこをくりかえすのではないか。)

まるで再現するように奇怪な事故を繰り返すのではないか。

(「こんどこそ、かぞくがなのりでてくれる。そうおもってね」)

「今度こそ、家族が名乗り出てくれる。そう思ってね」

(ししょうのそのことばに、おれはしかししゃくぜんとしなかった。)

師匠のその言葉に、俺はしかし釈然としなかった。

(「だったらなんで、のろいなんてかけるんです」「しらない」)

「だったらなんで、呪いなんて掛けるんです」「知らない」

(あっさりとさじをなげたししょうにひょうしぬけして、ためいきをつく。)

あっさりとさじを投げた師匠に拍子抜けして、溜息をつく。

(「しんでみなければわからないことがあるってことだ」)

「死んでみなければ分からないことがあるってことだ」

(まあ、よかったじゃないか。おなじように「みてしまった」びでおのなかのかれらは、)

まあ、良かったじゃないか。同じように『見てしまった』ビデオの中の彼らは、

(そうぞうするだにおそろしいうんめいをたどったかもしれないのに、)

想像するだに恐ろしい運命を辿ったかも知れないのに、

(ぼくらはぶじだったんだから。「これもひごろのおこないのたまものだ」)

僕らは無事だったんだから。「これも日ごろの行いの賜物だ」

(ししょうはじょうだんめかしていう。)

師匠は冗談めかして言う。

(「もっとも、したいにふれていたらこんなものではすまなかっただろうけど」)

「もっとも、死体に触れていたらこんなものでは済まなかっただろうけど」

(ひごろのおこないがどうころんだのだかしらないが、そういえば、のろいのほこさきは)

日ごろの行いがどう転んだのだか知らないが、そう言えば、呪いの矛先は

(おれにばかりむいていた。いっしょにびでおをみたはずのししょうに)

俺にばかり向いていた。一緒にビデオを見たはずの師匠に

(なにごともおこらなかったのはなぜなのか。)

何ごとも起こらなかったのは何故なのか。

(それからびでおについてけいこくしてきたということはおなじくなかみをみていたはずの)

それからビデオについて警告してきたということは同じく中身を見ていたはずの

(くろたにというししょうのしりあいも、まるでへいぜんとしていた。なっとくがいかない。)

黒谷という師匠の知り合いも、まるで平然としていた。納得がいかない。

(ぶつぶつというとししょうははなでわらい、)

ぶつぶつと言うと師匠は鼻で笑い、

(「ぼくと、あのおっさんはてごわいからな」といいはなった。)

「僕と、あのオッサンは手ごわいからな」と言い放った。

(「どっちが、よりてごわいんですか」ときいてやると、)

「どっちが、より手ごわいんですか」と聞いてやると、

(へいぜんとじぶんをゆびさしている。)

平然と自分を指差している。

(しかしすくなくとも、すたんすのちがいはあるらしい。)

しかし少なくとも、スタンスの違いはあるらしい。

(ごじつししょうのへやでごろごろしているときにそれにきづいた。)

後日師匠の部屋でごろごろしている時にそれに気づいた。

(ししょうがちかくのこんびにへかいだしにいっているあいだ、なにげなくたなのうえをながめていると)

師匠が近くのコンビニへ買出しに行っている間、何気なく棚の上を眺めていると

(いちまいのびんせんをみつけたのだ。それはぼーるぺんでかかれていて、)

一枚の便箋を見つけたのだ。それはボールペンで書かれていて、

(ちゅうにはなんどかていせいしたあとがあり、せいしょまえのしたがきのようだった。)

中には何度か訂正した跡があり、清書前の下書きのようだった。

(あのびでおを、かたほうはくようもせずにうりとばした。)

あのビデオを、片方は供養もせずに売り飛ばした。

(そしてもうかたほうはいろいろやってみるだけのこうきしんというのか、)

そしてもう片方はいろいろやってみるだけの好奇心というのか、

(きょうみというのか、そういうものがあるようだった。)

興味というのか、そういうものがあるようだった。

(びんせんはこういうかきだしではじまる。ぜんりゃく(というもじをけしたあとがある))

便箋はこういう書き出しで始まる。前略(という文字を消した跡がある)

(とつぜんのおてがみ、もうしわけありません。わたしはごねんまえにそちらでとむらっていただいた)

突然のお手紙、申し訳ありません。私は五年前にそちらで弔っていただいた

(こうりょしぼうにんのかぞくです。こちらのなまえといどころはどうかごようしゃください。)

行旅死亡人の家族です。こちらの名前と居所はどうかご容赦ください。

(わたしはついせんじつそのじじつをしり、でんしゃをのりついですぐにも)

私はつい先日その事実を知り、電車を乗り継いですぐにも

(そちらへうかがおうとかんがえました。ですが、ごねんもたっていること、)

そちらへ伺おうと考えました。ですが、五年も経っていること、

(そしてだびにふしていただき、いまはやすらかにねむっているだろうことをおもうと、)

そして荼毘に付していただき、今は安らかに眠っているだろうことを思うと、

(そのこじんをおこしてまでこちらでひきとるということが、)

その故人を起こしてまでこちらで引き取るということが、

(よいことなのかわからなくなりました。)

良いことなのか分からなくなりました。

(なやんだすえに、ふでだけをとらせていただきます。)

悩んだ末に、筆だけを取らせていただきます。

(みがってなおねがいでこころぐるしいばかりですが、こじんをどうか)

身勝手なお願いで心苦しいばかりですが、故人をどうか

(そのままねむらせてあげてください。いひんも、できればいこつといっしょに)

そのまま眠らせてあげてください。遺品も、出来れば遺骨と一緒に

(とむらっていただければさいわいです。わたしはあいにはいくことはできませんが、)

弔っていただければ幸いです。私は会いには行くことは出来ませんが、

(とおくからこころよりのめいふくをいのっております。ほんらいならばはいびのうえごあいさつを)

遠くから心よりの冥福を祈っております。本来ならば拝眉のうえご挨拶を

(もうしあげるところ、りゃくぎながらしょちゅうをもっておれいとおわびをもうしあげます。)

申し上げるところ、略儀ながら書中をもってお礼とお詫びを申し上げます。

(そうそう(けしたあと)ぼうねんぼうがつぼうじつなにかけしたあとまえばらちょうちょうさま)

草々(消した跡)某年某月某日なにか消した跡前原町長様

(おわり。びでおについて、だそく。)

終わり。ビデオについて、蛇足。

(これだけはつっこまれるまえにいったほうがいいかとおもいまして。)

これだけは突っ込まれる前に言った方がいいかと思いまして。

(「しんじようと、しんじまいと」のまとめさいとなどでさとういちろうのうわさと)

「信じようと、信じまいと」のまとめサイト等でサトウイチロウの噂と

(おなじはなしをみつけてもぱくりだとおこらないでください。それをかいたのはわたしです。)

同じ話を見つけてもパクリだと怒らないで下さい。それを書いたのは私です。

(まとめさいとをみてないので、そもそもそのはなしが)

まとめサイトを見てないので、そもそもその話が

(まとめられているのかわかりませんが。)

まとめられているのか分かりませんが。

(かなりまえのはなしです。にねんかさんねんくらい?)

かなり前の話です。二年か三年くらい?

(そういうわけで。おやすみなさい。)

そういうわけで。おやすみなさい。

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