谷崎潤一郎 痴人の愛 50

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね1お気に入り登録
プレイ回数478難易度(4.5) 5384打 長文
谷崎潤一郎の中編小説です
私のお気に入りです
漸く物語も終盤となってきましたね
私はナオミちゃんの最初の浮気が
バレる場面が一番好きなんですけれど、
皆様はどうでしょうか?
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ばぼじま 4844 B 5.0 95.2% 1037.9 5293 265 99 2024/08/16

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問題文

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(こうしてはなれていればいるだけかのじょとのえんがうすくなるんだ。こくいっこくとかのじょは)

こうして離れていればいるだけ彼女との縁が薄くなるんだ。刻一刻と彼女は

(とおくへさりつつあるんだ。おのれやれ!にげようとしたってにがすもんか!おれは)

遠くへ去りつつあるんだ。己やれ!逃げようとしたって逃がすもんか!己は

(どうしてもひきもどしてやるから!くるしいときのかみだのみ、わたしはついぞ)

どうしても引き戻してやるから!苦しい時の神頼み、私はついぞ

(かみしんじんをしたことなぞはなかったのですが、そのときふいとおもいだして、かんのんさまへ)

神信心をしたことなぞはなかったのですが、その時ふいと思い出して、観音様へ

(おまいりをしました。そして「なおみのいばしょがいっときもはやくしれますように、)

お参りをしました。そして「ナオミの居場所が一時も早く知れますように、

(あしたにもかえってくれますように」と、まごころこめていのりました。それからどこを)

明日にも帰ってくれますように」と、真心籠めて祈りました。それから何処を

(どうあるいたか、にさんけんのばあへよって、ぐでんぐでんによっぱらって、おおもりのいえへ)

どう歩いたか、二三軒のバアへ寄って、ぐでんぐでんに酔っ払って、大森の家へ

(かえったのはよるのじゅうにじすぎでした。が、よってはいてもなおみのことが)

帰ったのは夜の十二時過ぎでした。が、酔ってはいてもナオミのことが

(しじゅうあたまのなかにあって、ねようとしてもよういにねつかれず、そのうちにさけが)

始終頭の中にあって、寝ようとしても容易に寝つかれず、そのうちに酒が

(さめてしまうと、またしてもひとつのことをくよくよとかんがえる。どうしたらいどころが)

醒めてしまうと、又しても一つの事をくよくよと考える。どうしたら居所が

(つきとめられるか、じじつくまがやとにげたかどうか、あいつのいえへだんぱんするにも)

突き止められるか、事実熊谷と逃げたかどうか、彼奴の家へ談判するにも

(そいつをたしかめたうえでなければけいそつすぎるし、そうかといってひみつたんていでも)

其奴を確かめた上でなければ軽率過ぎるし、そうかと云って秘密探偵でも

(たのまなければ、ちょっとたしかめるほうほうはなし、・・・・・・・・・と、さんざん)

頼まなければ、ちょっと確かめる方法はなし、・・・・・・・・・と、散々

(しあんにあまったあげく、ひょっこりかんがえついたのはれいのはまだのことでした。)

思案に余った揚句、ひょっこり考えついたのは例の浜田のことでした。

(そうそう、はまだというものがいたっけ、おれはうっかりわすれていたが、あのおとこなら)

そうそう、浜田と云う者が居たっけ、己はウッカリ忘れていたが、あの男なら

(おれのみかたになってくれよう。おれは「まつあさ」でわかれたときにあのおとこのじゅうしょを)

己の味方になってくれよう。己は「松浅」で別れた時にあの男の住所を

(ひかえておいたはずだから、あしたにもさっそくてがみをだすかな。てがみなんかじゃ)

控えて置いた筈だから、明日にも早速手紙を出すかな。手紙なんかじゃ

(じれったいからでんぽうをうつか?そいつもちょっとおおげさなようだが、たぶん)

懊れッたいから電報を打つか?そいつもちょっと大袈裟なようだが、多分

(でんわがあるだろうから、でんわをかけてきてもらうか?いやいや、きてもらうには)

電話があるだろうから、電話をかけて来て貰うか?いやいや、来て貰うには

(およばないんだ。そのひまがあったらくまがいのほうをさぐってもらうほうがいいんだ。このさい)

及ばないんだ。その暇があったら熊谷の方を探って貰う方がいいんだ。この際

など

(なによりかんようなのはくまがいのどうせいをしることにある。はまだだったらてづるがあるから)

何より肝要なのは熊谷の動静を知ることにある。浜田だったら手蔓があるから

(じきにほうこくをもたらしてくれよう。もっかのところ、おれのくるしみをさっしてくれ、)

直きに報告を齎してくれよう。目下のところ、己の苦しみを察してくれ、

(おれをすくってくれるものはあのおとこよりほかにないんだ。これもやっぱり「くるしいときの)

己を救ってくれる者はあの男より外にないんだ。これもやっぱり「苦しい時の

(かみだのみ」かもしれないんだが、・・・・・・・・・)

神頼み」かも知れないんだが、・・・・・・・・・

(あくるひのあさ、わたしはしちじにとびおきてきんじょのじどうでんわへはせつけ、でんわちょうを)

明くる日の朝、私は七時に飛び起きて近所の自動電話へ馳せ付け、電話帳を

(くると、いいあんばいにはまだのいえがみつかりました。)

繰ると、好い塩梅に浜田の家が見つかりました。

(「ああ、ぼっちゃまでございますか、まだおやすみで)

「ああ、坊っちゃまでございますか、まだお休みで

(ございますが、・・・・・・・・・」)

ございますが、・・・・・・・・・」

(じょちゅうがでてきてそういうのを、)

女中が出て来てそう云うのを、

(「まことにおそれいりますが、きゅうなようじでございますので、ちょっとなにとぞ)

「誠に恐れ入りますが、急な用事でございますので、ちょっと何卒

(おとりつぎを、・・・・・・・・・」)

お取次ぎを、・・・・・・・・・」

(と、おしかえしてたのむと、しばらくたってからでんわぐちへでてきたはまだは、)

と、押し返して頼むと、暫く立ってから電話口へ出て来た浜田は、

(「あなたはかわいさんですか、あのおおもりの?」)

「あなたは河合さんですか、あの大森の?」

(と、ねぼけたこえでいうのでした。)

と、寝惚けた声で云うのでした。

(「ええ、そうですよ、ぼくはおおもりのかわいですよ、どうもいつぞやはたいへんごめいわくを)

「ええ、そうですよ、僕は大森の河合ですよ、どうもいつぞやは大へん御迷惑を

(かけてしまって、それにとつぜん、こんなじこくにでんわをかけてはなはだしつれいなんですが、)

かけてしまって、それに突然、こんな時刻に電話をかけて甚だ失礼なんですが、

(じつはあの、なおみがにげてしまいましてね、」)

実はあの、ナオミが逃げてしまいましてね、」

(この、「にげてしまいましてね」というとき、わたしはおぼえずなきごえになりました。)

この、「逃げてしまいましてね」と云う時、私は覚えず泣き声になりました。

(ひじょうにさむい、もうふゆのようなあさのことで、ねまきのうえにどてらをいちまい)

非常に寒い、もう冬のような朝のことで、寝間着の上にどてらを一枚

(ひっかけたままあわててでてきたものですから、わたしはじゅわきをにぎりながら、)

引っ懸けたまま慌てて出て来たものですから、私は受話器を握りながら、

(どうぶるいがとまりませんでした。)

胴顫いが止まりませんでした。

(「ああ、なおみさんが、やっぱりそうだったんですか」)

「ああ、ナオミさんが、矢っ張りそうだったんですか」

(するとはまだは、いがいにも、いやにおちついてそういうのでした。)

すると浜田は、意外にも、いやに落ち着いてそう云うのでした。

(「それじゃあ、きみはもうしっているんですか?」)

「それじゃあ、君はもう知っているんですか?」

(「ぼくはさくやあいましたよ」)

「僕は昨夜遇いましたよ」

(「えっ、なおみに?・・・・・・・・・なおみにさくやあったんですか?」)

「えッ、ナオミに?・・・・・・・・・ナオミに昨夜遇ったんですか?」

(こんどは、わたしはまえとはちがったどうぶるいで、からだじゅうががくがくしました。あまりはげしく)

今度は、私は前とは違った胴顫いで、体中がガクガクしました。あまり激しく

(ふるえたのでまえばをかちりとそうわきのくちにぶっつけました。)

顫えたので前歯をカチリと送話器の口に打ッつけました。

(「さくやぼくはえるどらどおのだんすにいったら、なおみさんがきていましたよ。)

「昨夜僕はエルドラドオのダンスに行ったら、ナオミさんが来ていましたよ。

(べつにじじょうをきいたわけではないんですけれど、どうもようすがへんでしたから、)

別に事情を聞いた訳ではないんですけれど、どうも様子が変でしたから、

(おおかたそんなことなんだろうとおもったんです」)

大方そんな事なんだろうと思ったんです」

(「だれといっしょにきていましたか?くまがいといっしょじゃないんですか?」)

「誰と一緒に来ていましたか?熊谷と一緒じゃないんですか?」

(「くまがいばかりじゃありません、いろんなおとこがごろくにんもいっしょで、なかにはせいようじんも)

「熊谷ばかりじゃありません、いろんな男が五六人も一緒で、中には西洋人も

(いました」)

いました」

(「せいようじんが?・・・・・・・・・」)

「西洋人が?・・・・・・・・・」

(「ええ、そうですよ、そうしてたいそうりっぱなようふくをきていましたよ」)

「ええ、そうですよ、そうして大そう立派な洋服を着ていましたよ」

(「いえをでるとき、ようふくなんぞもっていなかったんですが、・・・・・・・・・」)

「家を出る時、洋服なんぞ持っていなかったんですが、・・・・・・・・・」

(「それがとにかく、ようふくでしたよ。しかもひじょうにどうどうたるやかいふくを)

「それがとにかく、洋服でしたよ。しかも非常に堂々たる夜会服を

(きていましたよ」)

着ていましたよ」

(わたしはきつねにつままれたように、ぽかんとしたきり、なにをたずねていいのやら)

私は狐につままれたように、ポカンとしたきり、何を尋ねていいのやら

(かいくれけんとうがつかなくなってしまいました。)

かいくれ見当が付かなくなってしまいました。

(ああ、もし、もし、どうしたんですか、かわいさん、)

二十二 「ああ、もし、もし、どうしたんですか、河合さん、

(・・・・・・・・・もし、・・・・・・・・・」)

・・・・・・・・・もし、・・・・・・・・・」

(わたしがあまりでんわぐちでだまっているので、はまだはそういってさいそくしました。)

私があまり電話口で黙っているので、浜田はそう云って催促しました。

(「ああ、もし、もし、・・・・・・・・・」)

「ああ、もし、もし、・・・・・・・・・」

(「ああ、・・・・・・・・・」)

「ああ、・・・・・・・・・」

(「かわいさんですか、・・・・・・・・・」)

「河合さんですか、・・・・・・・・・」

(「ああ、・・・・・・・・・」)

「ああ、・・・・・・・・・」

(「どうしたんですか、・・・・・・・・・」)

「どうしたんですか、・・・・・・・・・」

(「ああ、・・・・・・・・・どうしたらいいか)

「ああ、・・・・・・・・・どうしたらいいか

(わからないんです、・・・・・・・・・」)

分らないんです、・・・・・・・・・」

(「しかしでんわぐちでかんがえていたって、しようがないじゃありませんか」)

「しかし電話口で考えていたって、仕様がないじゃありませんか」

(「しようがないことはわかってるんだが、・・・・・・・・・しかしはまだくん、ぼくは)

「仕様がないことは分ってるんだが、・・・・・・・・・しかし浜田君、僕は

(じつにこまってるんですよ。どうしたものかとほうにくれているんですよ。あいつが)

実に困ってるんですよ。どうしたものか途方に暮れているんですよ。彼奴が

(いなくなってから、よるもろくろくねないくらいに)

いなくなってから、夜もロクロク寝ないくらいに

(くるしんでいるんです。・・・・・・・・・」)

苦しんでいるんです。・・・・・・・・・」

(ここでわたしははまだのどうじょうをもとめるためにせいいっぱいのあわれみをこめてつづけました。)

ここで私は浜田の同情を求めるために精一杯の哀れみを籠めてつづけました。

(「・・・・・・・・・はまだくん、ぼくはこのばあい、きみよりほかにたよりにするひとが)

「・・・・・・・・・浜田君、僕はこの場合、君より外に頼りにする人が

(ないもんだから、とんだごめいわくをかけるんですけれど、ぼくは、ぼくは、)

ないもんだから、飛んだ御迷惑をかけるんですけれど、僕は、僕は、

(・・・・・・・・・どうかしてなおみのいどころをしりたいんです。くまがいのところに)

・・・・・・・・・どうかしてナオミの居所を知りたいんです。熊谷の所に

(いるんだか、それともだれかほかのおとこのところにいるんだか、それをはっきりと)

いるんだか、それとも誰か外の男の所にいるんだか、それをハッキリと

(つきとめたいんです。ついてはまことに、かってなおねがいなんですが、きみのごじんりょくで)

突き止めたいんです。就いては誠に、勝手なお願いなんですが、君の御尽力で

(それをしらべていただくわけにはいかないでしょうか。・・・・・・・・・ぼくはじぶんで)

それを調べて戴く訳には行かないでしょうか。・・・・・・・・・僕は自分で

(しらべるよりも、きみがしらべてくださるほうがいろいろてづるがおありになりは)

調べるよりも、君が調べて下さる方がいろいろ手蔓がおありになりは

(しないかと、そうおもうもんですから、・・・・・・・・・」)

しないかと、そう思うもんですから、・・・・・・・・・」

(「ええ、そりゃ、ぼくがしらべればじきにわかるかもしれませんがね」)

「ええ、そりゃ、僕が調べれば直きに分るかも知れませんがね」

(と、はまだはぞうさもなさそうにいって、)

と、浜田は造作もなさそうに云って、

(「ですがかわいさん、あなたのほうにもおおよそどこというこころあたりはないんですか?」)

「ですが河合さん、あなたの方にも大凡そ何処と云う心当りはないんですか?」

(「ぼくはてっきりくまがいのところだとおもっていたんです。じつはきみだからおはなしますが、)

「僕はテッキリ熊谷の所だと思っていたんです。実は君だからお話しますが、

(なおみはいまだにぼくにないしょで、くまがいとかんけいしていたんです。それがこのあいだ)

ナオミは未だに僕に内証で、熊谷と関係していたんです。それがこの間

(ばれたもんだから、とうとうぼくとけんかになって、いえを)

バレたもんだから、とうとう僕と喧嘩になって、家を

(とびだしちまったんです。・・・・・・・・・」)

飛び出しちまったんです。・・・・・・・・・」

(「ふむ、・・・・・・・・・」)

「ふむ、・・・・・・・・・」

(「ところがきみのはなしだと、せいようじんだのいろんなおとこがいっしょだというし、ようふくなんか)

「ところが君の話だと、西洋人だのいろんな男が一緒だと云うし、洋服なんか

(きているというんで、ぼくにはまったくけんとうがつかなくなっちゃったんです。)

着ていると云うんで、僕には全く見当が付かなくなっちゃったんです。

(でもくまがいにあってくださればたいがいのようすはわかるだろうと)

でも熊谷に会って下されば大概の様子は分るだろうと

(おもうんですが、・・・・・・・・・」)

思うんですが、・・・・・・・・・」

(「ああ、よござんす、よござんす」)

「ああ、よござんす、よござんす」

(と、はまだはわたしのぐちっぽいことばをうちきるようにいうのでした。)

と、浜田は私の愚痴ッぽい言葉を打ち切るように云うのでした。

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