中島敦 光と風と夢 15

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね0お気に入り登録
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中島敦の中編小説です
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1 すもさん 5398 B++ 5.6 95.6% 1178.8 6670 306 99 2024/09/01

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問題文

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(せいじてきなことにたちいるのはわずらわしい。このほうめんにおけるせいこうは、)

政治的な事に立入るのは煩わしい。此の方面に於ける成功は、

(じんかくきそんいがいのいかなるけっかをももたらさない、とさえおもう。)

人格毀損[きそん]以外の如何なる結果をも齎[もたら]さない、とさえ思う。

(・・・・・・・・・・・・わたしのせいじてきかんしん(このしまにおける)がへったわけでは)

・・・・・・・・・・・・私の政治的関心(この島に於ける)が減った訳では

(ない。ただ、ながくびょうがしかっけつなどすると、しぜん、そうさくにさくじかんが)

無い。ただ、長く病臥[びょうが]し喀血などすると、自然、創作に割く時間が

(せいげんされるので、このうえにもきちょうなじかんをとるせいじもんだいが)

制限されるので、此の上にも貴重な時間をとる政治問題が

(しょうしょううるさくなることがあるのだ。しかし、きのどくなまたーふぁのことを)

少々うるさくなることがあるのだ。しかし、気の毒なマターファのことを

(かんがえると、じっとしていられないようなきがする。せいしんてきえんじょしか)

考えると、じっとしていられないような気がする。精神的援助しか

(あたえることのできぬふがいなさ!だが、おまえにせいじてきけんりょくがあるとすれば、)

与えることの出来ぬ腑甲斐なさ!だが、お前に政治的権力があるとすれば、

(いったいどうしてやりたいのだ?またーふぁをおうにする?よろしい。そうなれば)

一体どうしてやり度いのだ?マターファを王にする?宜しい。そうなれば

(さもあはりっぱにそんぞくできるとおもっているのか?あわれなぶんがくしゃよ。おまえはほんとうに)

サモアは立派に存続できると思っているのか?哀れな文学者よ。お前は本当に

(そうしんじているのか?それとも、ちかいしょうらいにおけるさもあのすいぼうを)

そう信じているのか?それとも、近い将来に於けるサモアの衰亡を

(よそうしながら、ただかんしょうてきなどうじょうをまたーふぁにそそいでいるにすぎないのか?)

予想しながら、唯感傷的な同情をマターファに注いでいるに過ぎないのか?

(もっともはくじんてきなどうじょうを。)

最も白人的な同情を。

(こるヴぃんからのてがみのなかに、わたしのしょしんがあまりにいつも「きみの)

コルヴィンからの手紙の中に、私の書信が余りに何時も「君の

(ぶらっくす・あんど・ちょこれーつ」のことを)

黒色人及び褐色人[ブラックス・アンド・チョコレーツ]」のことを

(かきすぎる、といってきている。ぶらっくす・あんど・ちょこれーつにたいする)

書き過ぎる、と言って来ている。ブラックス・アンド・チョコレーツに対する

(かんしんがわたしのせいさくじかんをうばいすぎてはこまるという・かれのきもちはわからぬことはない。)

関心が私の制作時間を奪い過ぎては困るという・彼の気持は解らぬことはない。

(しかしけっきょく、かれ(ならびにほかのざいえいのゆうじんたち)には、わたしがわたしの)

しかし結局、彼(並びに他の在英の友人達)には、私が私の

(ぶらっくす・あんど・ちょこれーつにたいしていかにしんみなきもちをもっているかが)

ブラックス・アンド・チョコレーツに対して如何に親身な気持を有っているかが

(ほんとうにはわかっていないのだ。このことばかりでなく、ほかのいっぱんについても、)

本当には解っていないのだ。この事ばかりでなく、他の一般に就いても、

など

(よんねんかんもあわないでぜんぜんちがったかんきょうにみをおいているうちに、かれらとわたしとのあいだに、)

四年間も会わないで全然違った環境に身を置いている中に、彼等と私との間に、

(こえがたいみぞができているのではないか?このかんがえはおそろしい。したしいものが)

越え難い溝が出来ているのではないか?此の考は恐ろしい。親しい者が

(ながくはなれているのはよくないことだ。なきたいほどあいたくおもいながら、)

長く離れているのは良くないことだ。泣き度い程会いたく思いながら、

(あったとたんに、あんがい、そうほうともあじきなくこれのみぞをいしきしなければ)

会った途端に、案外、双方ともあじきなく此の溝を意識しなければ

(ならぬのではないか?おそろしいが、これはほんとうかもしれぬ。ひとはかわる。こっこくに。)

ならぬのではないか?恐ろしいが、之は本当かも知れぬ。人は変る。刻々に。

(われわれはなんたるかいぶつであるか!)

我々は何たる怪物であるか!

(にがつばつばつにちしどにいにて)

二月日 シドニイにて

(じぶんでじぶんにきゅうかをあたえ、ごしゅうかんくらいのよていでおーくらんどからしどにいへ)

自分で自分に休暇を与え、五週間位の予定でオークランドからシドニイへ

(あそびにきたのだが、どうこうのいそべるはしつう、ふぁにいはかんぼう、じぶんはかんぼうから)

遊びに来たのだが、同行のイソベルは歯痛、ファニイは感冒、自分は感冒から

(ろくまくえん。なにのためにきだのだかわからぬ。それでもとうしでは、)

肋膜炎。何のために来だのだか解らぬ。それでも当市では、

(ぷれすびてりあんきょうかいそうかいとげいじゅつくらぶと、つごうにかいこうえんをした。)

プレスビテリアン教会総会と芸術倶楽部[クラブ]と、都合二回講演をした。

(しゃしんをとられ、めだりよんをつくられ、まちのとおりをあるけば、ひとびとが)

写真を撮られ、像牌[メダリヨン]を作られ、街の通りを歩けば、人々が

(ふりかえってわたしをゆびさしわたしのなをささやく。めいせい?へんなものだ。かつてじぶんが)

振返って私を指さし私の名をささやく。名声?変なものだ。曾て自分が

(それになりあがることをいやしんだめいしに、いつしかなりあがっているのか?)

それに成上がることを卑しんだ名士に、何時しか成上がっているのか?

(こっけいなはなしだ。さもあでは、どじんのめからは、だいていたくにすむはくじんしゅうちょう。)

滑稽な話だ。サモアでは、土人の眼からは、大邸宅に住む白人酋長。

(あぴあのはくじんれんにとっては、せいさくじょうのてきかみかたか、いずれかだ。そのほうが)

アピアの白人連にとっては、政策上の敵か味方か、いずれかだ。その方が

(はるかにけんぜんなじょうたいだ。これのおんたいちの・しきさいのあせたゆうれいさしたるふうけいと)

遥かに健全な状態だ。此の温帯地の・色彩の褪せた幽霊然たる風景と

(くらべるとき、わがヴぁいりまのもりの、なんといううつくしさ!わが・かぜふくいえの、)

比べる時、我がヴァイリマの森の、何という美しさ!我が・風吹く家の、

(なんたるかがやかしさ!)

何たる輝かしさ!

(このちにいんたいしている、にゅーじーらんどのちち、さー・じょーじ・ぐれいに)

此の地に隠退している、ニュージーランドの父、サー・ジョージ・グレイに

(あった。せいじかぎらいのわたしがかれにめんかいをもとめたのは、かれがにんげんでああることを)

会った。政治家嫌いの私が彼に面会を求めたのは、彼が人間でああることを

(まおりぞくにもっともはくだいなにんげんあいをそそいだにんげんであることをしんじたからだ。)

マオリ族に最も博大な人間愛を注いだ人間であることを信じたからだ。

(あってみると、はたしてりっぱなろうじんだった。かれはじつによくどじんをそのびみょうな)

会って見ると、果して立派な老人だった。彼は実に良く土人をその微妙な

(せいかつかんじょうにいたるまで、しっている。かれはしんにまおりじんのみになって、かれらのことを)

生活感情に至る迄、知っている。彼は真にマオリ人の身になって、彼等のことを

(かんがえてやった。しょくみんちそうとくとしてまったくいれいのことだ。かれは、まおりじんにえいじんと)

考えてやった。植民地総督として全く異例のことだ。彼は、マオリ人に英人と

(どうとうのせいじじょうのけんりょくをあたえ、どじんだいぎしのせんしゅつをみとめた。そのためはくじんいみんに)

同等の政治上の権力を与え、土人代議士の選出を認めた。そのため白人移民に

(よろこばれず、しょくをじしたのである。しかし、かれのこうしたどりょくの)

欣[よろこ]ばれず、職を辞したのである。しかし、彼の斯うした努力の

(おかげで、にゅーじーらんどはいまもっともりそうてきなしょくみんちになっているのだ。)

お蔭で、ニュージーランドは今最も理想的な植民地になっているのだ。

(わたしはかれに、さもあでじぶんのしたこと、しようとほっしたこと、そのせいじてきじゆうに)

私は彼に、サモアで自分のしたこと、しようと欲したこと、其の政治的自由に

(ついてはじぶんのちからのおよぶところでないとするもとにかく、どじんのしょうらいのせいかつ、)

就いては自分の力の及ぶ所でないとするも兎に角、土人の将来の生活、

(そのこうふくのためにこんごもつくそうとしていることなどをかたった。ろうじんはいちいちきょうめいし、)

その幸福の為に今後も尽くそうとしていること等を語った。老人は一々共鳴し、

(げきれいしてくれた。いわく、「けっしてぜつぼうするものではない。わたしは、)

激励して呉れた。曰く、「決して絶望するものではない。私は、

(いかなるばあいにもぜつぼうがむようであることをしんにさとるまでちょうせいしたしょうすうしゃの)

如何なる場合にも絶望が無用であることを真に悟る迄長生した少数者の

(ひとりなのだ。」と。じぶんもだいぶげんきになった。ぞくあくをしりつくして、なお、)

一人なのだ。」と。自分も大分元気になった。俗悪を知り尽くして、尚、

(たかきものをうしなわないにんげんは、たっとばれねばならぬ。)

高きものを失わない人間は、貴ばれねばならぬ。

(このはいちまいをとってみても、さもあのあぶらぎったもりあがるようなつよいみどりいろと)

木の葉一枚をとって見ても、サモアの脂ぎった盛上がるような強い緑色と

(ちがって、ここのは、まるでせいきのない・うすれかかったようないろにみえる。)

違って、此処のは、まるで生気のない・薄れかかったような色に見える。

(ろくまくがなおりしだい、はやく、あの・くうちゅうにいつもりょくきんのびりゅうしがひかり)

肋膜が治り次第、早く、あの・空中に何時も緑金の微粒子が光り

(ふるえているような・かがやかしいしまへかえりたい。ぶんめいせかいのだいとしのなかでは)

震えているような・輝かしい島へ帰りたい。文明世界の大都市の中では

(ちっそくしそうだ。そうおんのわずらわしさ!きんぞくのぶつかりあうかたいきかいのおとの、)

窒息しそうだ。騒音の煩わしさ!金属のぶつかり合う硬い機械の音の、

(いらだたしさ!)

いらだたしさ!

(しがつばつにち)

四月日

(ごうしゅういきいらいのわたしとふぁにいとのびょうきもようやくなおった。)

濠洲行以来の私とファニイとの病気も漸く治った。

(このあさのこころよさ。そらのいろのうつくしさ、ふかさ、あたらしさ。いま、おおいなるちんもくは、)

此の朝の快さ。空の色の美しさ、深さ、新しさ。今、大いなる沈黙は、

(ただとおくのたいへいようのつぶやきによってやぶられるのみ。)

ただ遠くの太平洋の呟きによって破られるのみ。

(しょうりょこうとひきつづいてびょうきをしているあいだに、しまのせいじじょうせいはひどく)

小旅行と引続いて病気をしている間に、島の政治情勢はひどく

(きゅうはくしてきている。せいふがわのまたーふぁあるいははんらんしゃがわにたいする)

急迫して来ている。政府側のマターファ或いは叛乱者側に対する

(ちょうせんてきたいどがめだってきた。どじんのしょゆうせるぶきをすべてとりあげることに)

挑戦的態度が目立って来た。土人の所有せる武器を凡て取上げることに

(なるだろうという。いまやせいふがわのぐんびがじゅうじつしたにちがいない。いちねんまえとくらべて、)

なるだろうという。今や政府側の軍備が充実したに違いない。一年前と比べて、

(じょうせいはまたーふぁにいちじるしくふりだ。やくにんたち・しゅうちょうたちにあってもみても、)

情勢はマターファに著しく不利だ。役人達・酋長達に会っても見ても、

(せんそうをさけようとまじめにかんがえているものがないのにおどろかされる。はくじんかんりは)

戦争を避けようと真面目に考えている者がないのに驚かされる。白人官吏は

(これをりようしてじぶんなどのしはいけんのかくじゅうをかんがえるだけだし、つちと、ことにそのせいねんどもは)

之を利用して自分等の支配権の拡充を考えるだけだし、土人、殊にその青年共は

(せんそうときいただけで、ただもうこうふんしてしまう。またーふぁはあんがいおちついている。)

戦争と聞いただけで、ただもう興奮して了う。マターファは案外落着いている。

(かれはけいせいのふりをじかくしていないのだ。かれも、かれのぶかも、せんそうを、)

彼は形勢の不利を自覚していないのだ。彼も、彼の部下も、戦争を、

(じぶんなどのいしをはなれたひとつのしぜんげんしょうとかんがえているようだ。)

自分等の意志を離れた一つの自然現象と考えているようだ。

(らうぺぱおうは、かれとまたーふぁとのあいだにたとうとするわたしのちょうていをしりぞけた。)

ラウペパ王は、彼とマターファとの間に立とうとする私の調停を斥けた。

(めんとむかっているときはきわめてあいそのよいおとこだのに、あわないでいると、)

面と向っている時は極めて愛想の良い男だのに、会わないでいると、

(すぐこうだ。かれじしんのいしでないことはあきらかだが。)

直ぐ斯うだ。彼自身の意志でないことは明らかだが。

(ぽりねしあしきのゆうじゅうふだんがせんそうをよういにおこさせないであろうことを)

ポリネシア式の優柔不断が戦争を容易に起させないであろうことを

(ゆいいつのらいとして、きょうしゅぼうかんしているほかはないのか?けんりょくを)

唯一の頼として、拱手[きょうしゅ]傍観している外はないのか?権力を

(もつのはよいことだ。もし、それが、それをらんようしないりせいのしたにあるときは。)

有つのは善い事だ。もし、それが、それを濫用しない理性の下にある時は。

(ろいどにてつだわせながら「えっぶ・たいど」ちちとしてしんこうちゅう。)

ロイドに手伝わせながら「退潮[エッブ・タイド]」遅々として進行中。

(ごがつばつにち)

五月日

(「えっぶ・たいど」にくぎん。さんしゅうかんかかって、やっとにじゅうよんぺーじ。)

「退潮[エッブ・タイド]」に苦吟。三週間かかって、やっと二十四頁。

(それもぜんぶにわたって、もういちどかきなおしをようするのだ。(すこっとのおそるべき)

それも全部に亘って、もう一度書直しを要するのだ。(スコットの恐るべき

(はやさをかんがえるといやになる。)だいいち、これはさくひんとしてもくだらぬものだ。むかしは、)

速さを考えると厭になる。)第一、これは作品としても下らぬものだ。昔は、

(ぜんじつかいたぶんをよみかえしてみるのがたのしかったのに。)

前日書いた分を読返して見るのが楽しかったのに。

(またーふぁがわのだいひょうしゃがせいふとこうしょうのため、まいにちまりえからあぴあへ)

マターファ側の代表者が政府と交渉の為、毎日マリエからアピアへ

(かよっているときいて、かれらをうちへひきとって、ここからかよわせることにした。)

通っていると聞いて、彼等をうちへ引取って、此処から通わせることにした。

(まいにちおうふくじゅうよんまいるではたいへんだから。ただし、このことによって、わたしはいまやこうぜんと)

毎日往復十四哩では大変だから。但し、この事によって、私は今や公然と

(はんらんしゃがわのいちいんとみとめられるようになった。わたしへのしょかんは)

叛乱者側の一員と認められるようになった。私への書簡は

(いちいちちーふ・じゃすてぃすのけんえつをうけねばならぬ。)

一々チーフ・ジャスティスの検閲を受けねばならぬ。

(よる、るなんの「きりすときょうのきげん」をよむ。すばらしくおもしろい。)

夜、ルナンの「基督[キリスト]教の起源」を読む。素晴らしく面白い。

(ごがつばつばつにち)

五月日

(ゆうせんびだというのに、やっとじゅうごぺーじぶん(「えっぶ・たいど」)しか)

郵船日だというのに、やっと十五頁分(「退潮[エッブ・タイド]」)しか

(おくれない。もうこのしごとはいやになった。すてぃヴんすんけのれきしでも)

送れない。もう此の仕事は厭になった。スティヴンスン家の歴史でも

(またつづけようか?それとも、「うぃあ・おヴ・はーみすとん」?)

又続けようか?それとも、「ウィア・オヴ・ハーミストン」?

(「えっぶ・たいど」にはまったくふまんだ。ぶんしょうについていっても、)

「退潮[エッブ・タイド]」には全く不満だ。文章に就いて云っても、

(ことばのヴぇいるがありすぎる。もっとはだかのふでがほしい。)

言葉のヴェイルがあり過ぎる。もっと裸の筆が欲しい。

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