中島敦 光と風と夢 17
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | だだんどん | 6133 | A++ | 6.6 | 93.1% | 919.2 | 6089 | 451 | 98 | 2024/10/13 |
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問題文
(それをみたままにうつしだす。(だから、あとはぎこうだけのもんだいだ。しかも)
それを見た儘に写し出す。(だから、あとは技巧だけの問題だ。しかも
(そのぎこうにはじゅうぶんじしんがあった。)これが、かれの・ゆいいつむにの・このうえなくたのしい)
其の技巧には充分自信があった。)之が、彼の・唯一無二の・此の上なく楽しい
(せいさくほうほうであった。これには、よいもわるいもない。ほかにほうほうをしらないのだから。)
制作方法であった。之には、良いも悪いもない。他に方法を知らないのだから。
(「なんといわれようとも、おれはおれのいきかたをこしゅうしておれのものがたりを)
「何と云われようとも、俺は俺の行き方を固執して俺の物語を
(かくだけのことだ。じんせいはみじかい。にんげんはしょせん)
書くだけのことだ。人生は短い。人間は所詮
(pulvis et umbraじゃ。なにをくるしんで、かきやこうもりどもの)
Pulvis et Umbraじゃ。何を苦しんで、牡蠣や蝙蝠共の
(きにいるために、おもしろくもないしんこくなかりもののさくひんをかくことがあろう。おれは)
気に入るために、面白くもない深刻な借物の作品を書くことがあろう。俺は
(おれのためにかく。たとえ、ひとりのどくしゃがなくなろうとも、おれというさいだいの)
俺の為に書く。たとえ、一人の読者が無くなろうとも、俺という最大の
(あいどくしゃがあるかぎりは。あいすべきr・l・s・しのどくだんをみよ!」)
愛読者がある限りは。愛すべきR・L・S・氏の独断を見よ!」
(じじつ、さくひんをかきおえるやいなや、かれはさくしゃたることをやめて、そのさくひんの)
事実、作品を書終えるや否や、彼は作者たることを止めて、其の作品の
(あいどくしゃになった。だれよりもねっしんなあいどくしゃに。かれは、まるで、それが)
愛読者になった。誰よりも熱心な愛読者に。彼は、まるで、それが
(ほかのだれか(もっともすきなさっか)のさくひんであるかのように、そして、そのさくひんの)
他の誰か(最も好きな作家)の作品であるかのように、そして、其の作品の
(ぷろっともきけつもなにもしらないひとりのどくしゃとして、こころからたのしく)
プロットも帰結も何も知らない一人の読者として、心から楽しく
(よみふけるのである。それが、こんどの「えっぶ・たいど」に)
読耽[よみふけ]るのである。それが、今度の「退潮[エッブ・タイド]」に
(かぎって、がまんにもよみつづけられなかった。さいのうのこかつだろうか?)
限って、我慢にも読みつづけられなかった。才能の涸渇[こかつ]だろうか?
(にくたいのすいじゃくによるじしんのげんたいだろうか?あえぎながら、かれは、ほとんど)
肉体の衰弱による自信の減退だろうか?喘[あえ]ぎながら、彼は、殆ど
(しゅうかんのちからだけで、とぼとぼとこうをつづけていった)
習慣の力だけで、とぼとぼと稿を続けて行った
(せんはっぴゃくきゅうじゅうさんねんろくがつにじゅうよっか)
十二 一八九三年六月二十四日
(せんそうちかかるべし。)
戦争近かるべし。
(さくや、わがやのまえのみちを、らうぺぱおうがめんをつつみ、きじょうして、)
昨夜、我が家の前の道を、ラウペパ王が面を覆[つつ]み、騎乗して、
(なにようのためか、あわただしくはしりすぎた。りょうりにんがたしかにそれをみたという。)
何用のためか、あわただしく走り過ぎた。料理人が確かにそれを見たという。
(いっぽう、またーふぁはまたーふぁで、まいあさめをさますと、かならず、)
一方、マターファはマターファで、毎朝眼を覚ますと、必ず、
(ゆうべまではなかったあたらしいはくじんのはこ(だんやくばこのこと)に)
昨夜[ゆうべ]迄は無かった新しい白人の箱(弾薬箱のこと)に
(とりかこまれているのをみだすという。どこからあつまってくるのか、かれにも)
取囲まれているのを見出すという。何処から集まって来るのか、彼にも
(わからないのだ。)
分らないのだ。
(ぶそうへいのこうしん、しょしゅうちょうのらいおう、ようやくしげし。)
武装兵の行進、諸酋長の来往、漸く繁し。
(ろくがつにじゅうななにち)
六月二十七日
(まちへおりてにゅうすをきく。りゅうせつふんぷん。さくやおそくたいこがひびき、ひとびとは)
街へ下りてニュウスを聞く。流説紛々。昨夜遅く太鼓が響き、人々は
(ぶきをとってむりぬうにはせつけたが、なにごともなかったと。いまのところ、)
武器を取ってムリヌウに馳せつけたが、何事もなかったと。今の所、
(あぴあしには、ことなし。しさんじかんにたずねたが、じょうほうなしという。)
アピア市には、事なし。市参事官に尋ねたが、情報なしという。
(まちからにしのわたしばまでいって、またーふぁがわのむらむらのようすをみようと、)
街から西の渡し場迄行って、マターファ側の村々の様子を見ようと、
(うまにのる。ヴぁいむすまでいくと、ろぼうのいえいえにひとびとがごたごた)
馬に騎[の]る。ヴァイムスまで行くと、路傍の家々に人々がごたごた
(たちさわいでいたが、ぶそうはしていない。かわをわたる。さんびゃくやーどでまた、かわ。)
立騒いでいたが、武装はしていない。川を渡る。三百碼[ヤード]で又、川。
(たいがんのこかげにうぃんちぇすたーをになったななにんのほしょうがいる。ちかづいても、)
対岸の木蔭にウィンチェスターを担った七人の歩哨がいる。近づいても、
(うごきもしなければこえもかけもしない。めでおうたのみ。わたしはうまにみずをのませ、)
動きもしなければ声も掛けもしない。目で追うたのみ。私は馬に水を飲ませ、
(「たろふぁ!」とあいさつしてそこをすぎた。ほしょうたいちょうも「たろふぁ!」とこたえた。)
「タロファ!」と挨拶して其処を過ぎた。歩哨隊長も「タロファ!」と応えた。
(これからさきのむらにはぶそうへいがいっぱいにつめかけている。しなじんしょうにんのすむようかん)
之から先の村には武装兵が一杯に詰めかけている。支那人商人の住む洋館
(ひとむねあり。ちゅうりつきがもんのところにひるがえる。ヴぇらんだにはひとびと、おんなたちがおおぜいたって)
一棟あり。中立旗が門の所に翻る。ヴェランダには人々、女達が大勢立って
(そとをながめている。なかにはじゅうをもったものもいた。このしなじんばかりでなはく、)
外を眺めている。中には銃を持った者もいた。此の支那人ばかりでなはく、
(しまにすむがいこくじんはみなじこのしざいをまもるにきゅうきゅうとしている。)
島に住む外国人は皆自己の資材を守るに汲々[きゅうきゅう]としている。
((ちーふ・じゃすてぃすとせいむちょうかんとがむりぬうからてぃヴぉり・ほてるに)
(チーフ・ジャスティスと政務長官とがムリヌウからティヴォリ・ホテルに
(ひなんしたそうだ。)みちでどみんへいのいったいがじゅうをにないだんやくとうをおび、)
避難したそうだ。)途で土民兵の一隊が銃を担い弾薬筒を帯び、
(しょうじょうしたようすでこうしんしてくるのにあう。ヴぁいむすにつく。むらの)
生々した様子で行進して来るのに遇う。ヴァイムスに着く。村の
(まらえにはぶそうしたおとこたちがじゅうまん。かいぎしつのなかにもひとびとがみち、)
広場[マラエ]には武装した男達が充満。会議室の中にも人々が満ち、
(そのでぐちのところからそとをむいて、ひとりのえんぜつしゃがおおごえでしゃべっている。)
その出口の所から外を向いて、一人の演説者が大声でしゃべっている。
(だれのかおにもよろこばしげなこうふんがある。みしりごしのろうしゅうちょうのところへよったが、)
誰の顔にも歓ばしげな昂奮がある。見知り越しの老酋長の所へ寄ったが、
(このまえあったときとはうってかわって、わかわかしくかっきづいてみえた。すこしやすんで)
此の前会った時とは打って変って、若々しく活気づいて見えた。少し休んで
(いっしょにするいをすう。かえろうとしてそとへでたとき、かおをくろくくまどり、こしぬのの)
一緒にスルイを吸う。帰ろうとして外へ出た時、顔を黒く隈どり、腰布の
(うしろをまきあげてでんぶのいれずみをあらわしたひとりのおとこがすすみでて、)
うしろを捲上げて臀部[でんぶ]の入墨をあらわした一人の男が進み出て、
(みょうなおどりをしてみせ、こがたなをそらたかくなげあげて、それをみごとにうけとめてみせた。)
妙な踊をして見せ、小刀を空高く投上げて、それを見事に受けとめて見せた。
(やばんでげんそうてきで、せいきにあふれたみものである。いぜんにもしょうねんがこんなことを)
野蛮で幻想的で、生気に溢れた観ものである。以前にも少年がこんな事を
(するのをみたことがあるから、これはきっとせんそうじの)
するのを見たことがあるから、之は屹度[きっと]戦争時の
(ぎれいみたいなものであろう。)
儀礼みたいなものであろう。
(いえにかえってからも、かれらのきんちょうしたこうふくげなかおが、あたまのなかにうずまいている。)
家に帰ってからも、彼等の緊張した幸福げな顔が、頭の中に渦巻いている。
(われわれのうちなるふるきばんじんがめざめ、たねうまのごとくにこうふんするのだ。しかし、わたしは、)
我々の中なる古き蛮人が目覚め、種馬の如くに昂奮するのだ。しかし、私は、
(そうらんをよそに、じっとしておらねばならぬ。いまとなっては、どうにもならない。)
騒乱をよそに、じっとしておらねばならぬ。今となっては、どうにもならない。
(わたしがてだしをしないほうが、かれらあわれなひとびとにとって、なお、なんらかのやくに)
私が手出をしない方が、彼等哀れな人々にとって、尚、何等かの役に
(たちえるかもしれぬのだ。うみがつぶれたあとのあとしまつについて、われわれがたしょうの)
立ち得るかも知れぬのだ。膿がつぶれた後の後始末に就いて、我々が多少の
(えんじょをなしえるみこみが、まだ、ほんのすこしはありそうだから。)
援助をなし得る見込が、まだ、ほんの少しはありそうだから。
(むりょくなぶんじんよ!わたしはこころをおさえ、ぜいをおさめるようなきもちでげんこうをかきつぐ。)
無力な文人よ!私は心を抑え、税を収めるような気持で原稿を書き継ぐ。
(あたまのなかには、うぃんちぇすたーをもったせんしのすがたがちらつく。せんそうはたしかに)
頭の中には、ウィンチェスターを持った戦士の姿がちらつく。戦争は確かに
(おおきなあんとれーぬまんだ。)
大きな誘惑[アントレーヌマン]だ。
(ろくがつさんじゅうにち)
六月三十日
(ふぁにいとべるをつれまちへおりる。こくさいくらぶでちゅうしょく。しょくごまりえのほうがくへ)
ファニイとベルを連れ街へ下りる。国際倶楽部で昼食。食後マリエの方角へ
(いってみる。せんじつとはちがってきょうはまるでしずかだ。ひとのいないみち。)
行って見る。先日とは違って今日はまるで静かだ。人のいない道。
(ひとのいないいえ。じゅうもみえぬ。あぴあへかえってこうあんいいんかいにかおをだす。ゆうしょくご、)
人のいない家。銃も見えぬ。アピアへ帰って公安委員会に顔を出す。夕食後、
(ぶとうかいにちょっとたちより、つかれてきたく。ぶとうかいじょうできくところによれば「つしたらが)
舞踏会に一寸立寄り、疲れて帰宅。舞踏会場で聞く所によれば「ツシタラが
(こんどのふんそうのげんいんをつくったのだから、かれ、およびかれのかぞくはとうぜん)
今度の紛争の原因を作ったのだから、彼、及び彼の家族は当然
(ばっせられるべきだ」と、れとぬのしゅうちょうがいっているよし。)
罰せられるべきだ」と、レトヌの酋長が言っている由。
(そとへでていくさにくわわろうというこどもじみたゆうわくにかたねばならぬ。まずいえを)
外へ出て戦に加わろうという子供じみた誘惑に勝たねばならぬ。先ず家を
(まもること。)
守ること。
(あぴあのはくじんれんのなかにもきょうふがおこりつつある。いざといえばぐんかんへ)
アピアの白人連の中にも恐怖が起りつつある。いざといえば軍艦へ
(ひなんすることになっているとか。もっか、どくかんにせきざいこう。おるらんどおも)
避難することになっているとか。目下、独艦二隻在港。オルランドオも
(ちかくにゅうこうのはず。)
近く入港の筈。
(しちがつよっか)
七月四日
(このにさんにちせいふがわのぐんたい(どみんへい)がぞくぞくあぴあにしゅうけつ。しゃくどういろのせんしを)
此の二三日政府側の軍隊(土民兵)が続々アピアに集結。赤銅色の戦士を
(まんさいしてかざかみからにゅうこうしてくるぼーとのぐん。そのせんしゅで、とんぼがえりをして)
満載して風上から入港して来るボートの群。その船首で、とんぼ返りをして
(けいきをつけるおとこ。せんしらがふねのうえからはっするみょうないかくてきなかんせい。)
景気をつける男。戦士等が舟の上から発する妙な威嚇的な喊声[かんせい]。
(たいこのらんだ。ちょうしはずれならっぱ。)
太鼓の乱打。調子外れな喇叭[らっぱ]。
(あぴあしちゅうではあかいはんかちがうりきれになってしまった。あかはんかちの)
アピア市中では赤い半巾[ハンカチ]が売切になって了った。赤ハンカチの
(はちまきが、まりえとあ(らうぺぱ)ぐんのせいふくなのだ。かおをくろくくまどったあかはちまきの)
鉢巻が、マリエトア(ラウペパ)軍の制服なのだ。顔を黒く隈どった赤鉢巻の
(せいねんたちで、しちゅうはごったがえしている。おうふうのようかさをさしたしょうじょと、)
青年達で、市中はごった返している。欧風の洋傘をさした少女と、
(いようなせんしとのつれだっていくさまは、なかなかおもしろい。)
異様な戦士との連立って行く様は、中々面白い。
(しちがつようか)
七月八日
(いくさはついにはじまった。)
戦は遂に始まった。
(ゆうしょくご、つかいがきて、ふしょうしゃらがみっしょん・はうすへはこばれてきているむねを)
夕食後、使が来て、負傷者等がミッション・ハウスへ運ばれて来ている旨を
(つげた。ふぁにい、ろいどといっしょにちょうちんをもってきじょう。かなりひえるが、)
告げた。ファニイ、ロイドと一緒に提灯を持って騎乗。かなり冷えるが、
(ほしのおおいよる。たぬんがまののにちょうちんはおき、あとはほしあかりでくだる。)
星の多い夜。タヌンガマノノに提灯は置き、あとは星明りで下る。
(あぴあのまちも、わたしじしんも、みょうなこうふんのなかにある。わたしのこうふんは、ゆううつな・)
アピアの街も、私自身も、妙な昂奮の中にある。私の昂奮は、憂鬱な・
(ざんにんなものであり、ほかのひとびとのは、ぼうぜんたる、あるいは、ふんげきせるそれである。)
残忍なものであり、他の人々のは、呆然たる、或いは、憤激せるそれである。
(りんじにあてられたかりびょういんは、ながいがらんとしたたてもので、ちゅうおうにしゅじゅつだいがあり、)
臨時に当てられた仮病院は、長いがらんとした建物で、中央に手術台があり、
(じゅうにんのふしょうしゃがいずれも、つきそいにんにかこまれ、へやのすみずみによこたわっていた。)
十人の負傷者がいずれも、附添人に囲まれ、部屋の隅々に横たわっていた。
(こがらな・めがねをかけたかんごふのらーじゅじょうが、きょうはたいへんたのもしくみえた。)
小柄な・眼鏡をかけた看護婦のラージュ嬢が、今日は大変頼もしく見えた。
(どくかんのかんごそつもきていた。)
独艦の看護卒も来ていた。
(いしゃはいまだきていなかった。かんじゃのひとりがつめたくなりかかっていた。それは、)
医者は未だ来ていなかった。患者の一人が冷たくなりかかっていた。それは、
(じつにりっぱなさもあじんで、いろあくまでくろくあらびやじんふうのわしがたのふうぼうをしていた。)
実に立派なサモア人で、色飽く迄黒くアラビヤ人風の鷲型の風貌をしていた。
(ななにんのきんしんしゃがとりかこんで、かれのてあしをさすっていた。はいをうちぬかれたらしい。)
七人の近親者が取囲んで、彼の手足をさすっていた。肺を射ち貫かれたらしい。
(どくかんのぐんいがおおいそぎでよびにいかれた。)
独艦の軍医が大急ぎで呼びに行かれた。