中島敦 光と風と夢 24
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | だだんどん | 6113 | A++ | 6.5 | 93.9% | 980.6 | 6410 | 415 | 100 | 2024/10/19 |
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問題文
(「わたしは、さもあとさもあのひとびととをあいしております。わたしはこころからこのしまをあいし、)
「私は、サモアとサモアの人々とを愛しております。私は心から此の島を愛し、
(いきているかぎりはじゅうきょに、しんだならぼちにと、かたくきめているのです。)
生きている限りは住居に、死んだなら墓地にと、固く決めているのです。
(だから、わたしのいうことを、くちさきだけのけいかいとおもってはいけないのだ。)
だから、私の言うことを、口先だけの警戒と思ってはいけないのだ。
(いまやしょくんのうえにおおきなききがせまってきている。いまわたしのはなしたしょみんぞくのようなうんめいを)
今や諸君の上に大きな危機が迫って来ている。今私の話た諸民族の様な運命を
(えらばねばならぬか、あるいはこれをきりぬけて、しょくんのしそんがこれのふそでんらいのちで、)
選ばねばならぬか、或いは之を切抜けて、諸君の子孫が此の父祖伝来の地で、
(しょくんのきおくをたたえることができるようになるか、そのさいごのききが)
諸君の記憶を讃えることが出来るようになるか、その最後の危機が
(せまっているのですぞ。じょうやくによるとちいいんかいとちーふ・じゃすてぃすとは、)
迫っているのですぞ。条約による土地委員会とチーフ・ジャスティスとは、
(まもなくにんきをかんりょうするでしょう。すると、とちはしょくんにもどされ、しょくんはそれを)
間もなく任期を完了するでしょう。すると、土地は諸君に戻され、諸君はそれを
(いかにつかおうとじゆうになるのです。かんあくなるはくじんどものてののびるのは)
如何に使おうと自由になるのです。奸悪なる白人共の手の伸びるのは
(そのときです。とちそくりょうきをてにしたものどもが、しょくんのむらへやってくるにちがいない。)
其の時です。土地測量器を手にした者共が、諸君の村へやって来るに違いない。
(しょくんのしれんのひがはじまるのです。しょくんがはたしてきんであるか?なまりのくずであるか?)
諸君の試錬の火が始まるのです。諸君が果して金であるか?鉛の屑であるか?
(しんのさもあじんはこれをきりぬけねばならない。いかにして?かおをくろくくまどって)
真のサモア人は之を切抜けねばならない。如何にして?顔を黒く隈取って
(たたかうことによってではない。いえにひをはなつことによってではない。ぶたをころし、)
戦うことによってではない。家に火を放つことによってではない。豚を殺し、
(きずつけるてきのくびをはねることによってではない。そんなことは、しょくんをいっそう)
傷つける敵の首を刎ねることによってではない。そんな事は、諸君を一層
(みじめなものにするだけです。しんにさもあをすくうものとは、どうろをひらき、)
惨めなものにするだけです。真にサモアを救う者とは、道路を開き、
(かじゅをうえ、しゅうかくをゆたかにし、つまりかみのあたえたもうたゆたかなしげんを)
果樹を植え、収穫を豊かにし、つまり神の与え給うた豊かな資源を
(かいはつするものでなければなりません。こういうのがしんのゆうしゃ、しんのせんしなのです。)
開発する者でなければなりません。こういうのが真の勇者、真の戦士なのです。
(しゅうちょうたちよ。あなたがたはつしたらのためにはたらいてくださった。つしたらはこころから)
酋長達よ。貴方方はツシタラの為に働いて下さった。ツシタラは心から
(おれいをもうしあげる。そうして、ぜんさもあじんがはんをあなたがたにとれば)
御礼を申上げる。そうして、全サモア人が範を貴方方に取れば
(よいとおもうのです。すなわち、このしまのしゅうちょうというしゅうちょう、とうみんというとうみんがのこらず、)
良いと思うのです。即ち、此の島の酋長という酋長、島民という島民が残らず、
(どうろのかいたくに、のうじょうのけいえいに、していのきょういくに、しげんのかいはつに、)
道路の開拓に、農場の経営に、子弟の教育に、資源の開発に、
(ぜんりょくをそそいだら、それもいちつしたらのあいのためでなく、しょくんのどうほう、してい、)
全力を注いだら、それも一ツシタラの愛の為でなく、諸君の同胞、子弟、
(さらにいまだうまれざるこうだいのために、そうしたどりょくをかたむけたら、どんなによかろうと)
更に未だ生れざる後代の為に、そうした努力を傾けたら、どんなに良かろうと
(おもうのです。」)
思うのです。」
(しゃじというよりけいこくないしせつゆにちかいこのえんぜつは、だいせいこうだった。)
謝辞というより警告乃至説諭に近い此の演説は、大成功だった。
(すてぃヴんすんがあんじたほどなんかいではなく、かれらのだいぶぶんによって)
スティヴンスンが案じた程難解ではなく、彼等の大部分によって
(かんぜんにりょうかいされたらしいことが、かれをよろこばせた。かれはしょうねんのようにうれしがって、)
完全に諒解されたらしいことが、彼を悦ばせた。彼は少年の様に嬉しがって、
(かっしょくのゆうじんたちのあいだをはしゃぎまわった。)
褐色の友人達の間をはしゃぎ廻った。
(しんどうろのそばには、つぎのようなどごをしるしたひょうがたてられた。)
新道路の傍には、次のような土語を記した標が立てられた。
(「かんしゃのどうろ」)
「感謝の道路」
(われらがごくちゅうしんぎんのひびにおけるつしたらのあたたかきこころに)
我等が獄中呻吟の日々に於けるツシタラの温かき心に
(むくいんとて われら いま このみちをおくる。われらがきずけるこのみち つねに)
報いんとて 我等 今 この道を贈る。我等が築けるこの道 常に
(ぬかるまず とはにくずれざらん。)
泥濘[ぬかる]まず 永久[とは]に崩れざらん。
(せんはっぴゃくきゅうじゅうよねんじゅうがつばつにち)
十九 一八九四年十月日
(わたしがまだまたーふぁのなをあげるのをきくと、ひとびと(はくじん)はみょうなかおをする。)
私がまだマターファの名を挙げるのを聞くと、人々(白人)は妙な顔をする。
(ちょうど、きょねんのしばいのうわさでもきいたときのように。あるものはまた、にやにやわらいだす。)
丁度、去年の芝居の噂でも聞いた時のように。或る者は又、にやにや笑い出す。
(げれつなわらいだ。なにはおいてもまたーふぁのじけんをりでぃきゅらすな)
下劣な笑だ。何は措いてもマターファの事件を可嗤的[りでぃきゅらす]な
(ものとしてはならぬとおもう。いちさっかのほんそうだけでは、どうにもならぬ。)
ものとしてはならぬと思う。一作家の奔走だけでは、どうにもならぬ。
((しょうせつかは、じじつをのべているときでも、ものがたりをかたっているのではないかと)
(小説家は、事実を述べている時でも、物語を語っているのではないかと
(おもわれるらしい。)だれかじっさいてきなちいをもつじんぶつが)
思われるらしい。)誰か実際的な地位を有つ人物が
(たすけてくれなければだめだ。)
援[たす]けて呉れなければ駄目だ。
(ぜんぜんめんしきのないじんぶつだが、えいこくかいんでさもあもんだいについてしつもんした)
全然面識の無い人物だが、英国下院でサモア問題に就いて質問した
(j・f・ほーがんしにあて、てがみをかいた。しんぶんによれば、かれはさいさんにわたって)
J・F・ホーガン氏に宛て、手紙を書いた。新聞によれば、彼は再三に亘って
(さもあのないふんについてのしつもんをしているから、そうとうこのもんだいにかんしんを)
サモアの内紛についての質問をしているから、相当この問題に関心を
(いだいているものとみられるし、しつもんのないようをみても、かなりじじょうにも)
抱いているものと見られるし、質問の内容を見ても、かなり事情にも
(つうじているらしい。このぎいんあてのしょめんのなかで、わたしはくりかえし、またーふぁの)
通じているらしい。此の議員宛の書面の中で、私は繰返し、マターファの
(しょけいのげんにしっするゆえんをせつめいした。ことに、さいきんはんらんをおこした)
処刑の厳に失する所以を説明した。殊に、最近叛乱を起こした
(しょうたませせのばあいとひかくして、そのあまりにへんぱなことを。)
小タマセセの場合と比較して、その余りに偏頗[へんぱ]なことを。
(なんらざいじょうのしてきできないまたーふぁ(かれは、いわばけんかをうられたに)
何等罪状の指摘できないマターファ(彼は、いわば喧嘩を売られたに
(すぎぬのだから)がせんかいりはなれたことうにりゅうたくされ、いっぽう、とうないはくじんの)
過ぎぬのだから)が千浬[カイリ]離れた孤島に流謫され、一方、島内白人の
(せんめつをひょうぼうしてたったしょうたませせはしょうじゅうごじゅっちょうのぼっしゅうですんだ。)
殲滅を標榜して立った小タマセセは小銃五十梃の没収で済んだ。
(こんなばかなはなしがあるか。いまやるーとにいるまたーふぁのところへは)
こんな莫迦な話があるか。今ヤルートにいるマターファの所へは
(かとりっくのぼくしいがいにだれもいくことがゆるされない。てがみをやることもできぬ。)
カトリックの牧師以外に誰も行くことが許されない。手紙をやることも出来ぬ。
(さいきん、かれのひとりむすめがかんぜんきんをおかしてやるーとへわたったが、はっけんされれば、)
最近、彼の一人娘が敢然禁を犯してヤルートへ渡ったが、発見されれば、
(またつれもどされるのだろう。)
又連戻されるのだろう。
(せんかいりいないにいるかれをすくうために、すうまんかいりかなたのくにのよろんを)
千浬以内にいる彼を救う為に、数万浬彼方の国の輿論[よろん]を
(うごかさねばならぬなんて、みょうなはなしだ。)
動かさねばならぬなんて、妙な話だ。
(もしまたーふぁがさもあへかえれるようだったら、かれはきっとそうしょくにはいるだろう。)
もしマターファがサモアへ帰れるようだったら、彼は屹度僧職に入るだろう。
(かれはそのほうめんのきょういくをうけてもいるし、また、そうしたひとがらでもあるのだから。)
彼は其の方面の教育を受けてもいるし、又、そうした人柄でもあるのだから。
(さもあまではのぞめずとも、せめてふぃじいとうくらいまでこられたら、そうして、)
サモア迄は望めずとも、せめてフィジイ島位まで来られたら、そうして、
(こきょうのそれとちがわぬしょくじ、いんりょうをあたえられ、よくにはときどきわれわれと)
故郷のそれと違わぬ食事、飲料を与えられ、慾には時々我々と
(あうことができたら、どんなにかありがたいのだが。)
会うことが出来たら、どんなにか有難いのだが。
(じゅうがつばつにち)
十月日
(「せんと・あいヴす」もかんせいにちかくなったが、きゅうに、)
「セント・アイヴス」も完成に近くなったが、急に、
(「うぃあ・おヴ・はーみすとん」をつづけたくなって、また、とりあげた。おととし、)
「ウィア・オヴ・ハーミストン」を続け度くなって、又、取上げた。一昨年、
(ふでをおこしてから、なんどとりあげては、なんどふでをなげたことやら。こんどこそ)
筆を起してから、何度取上げては、何度筆を投げたことやら。今度こそ
(なんとかまとまりそうだ。じしんというよりも、なんだか、そんなきがする。)
何とか纏まりそうだ。自信というよりも、何だか、そんな気がする。
(じゅうがつばつばつにち)
十月日
(このよにとしをへればへるほど、わたしはいっそう、とほうにくれたしょうにのようなかんじを)
此の世に年を経れば経る程、私は一層、途方に暮れた小児のような感じを
(ふかくする。わたしはなれることができない。このよにみることに、きくことに、)
深くする。私は慣れることが出来ない。この世に見ることに、聞くことに、
(かかるせいしょくのけいしきに、かかるせいちょうのかていに、じょうひんにとりすましたせいのひょうめんと、)
斯かる生殖の形式に、斯かる成長の過程に、上品にとりすました生の表面と、
(げびてきょうきじみたそのていぶとのたいしょうに、これらは、いかにとしをとっても、)
下卑て狂気じみた其の底部との対照に、之等は、如何に年をとっても、
(わたしにはなれしたしめないものだ。わたしはとしをとればとるほど、だんだんはだかに、)
私には慣れ親しめないものだ。私は年をとればとる程、段々裸に、
(おろかになるようなきがする。「おおきくなればわかるよ。」と、こどものじぶんに、)
愚かになるような気がする。「大きくなれば解るよ。」と、子供の時分に、
(よくいいきかされたものだが、あれはまさしくうそであった。じぶんはなにごとも)
よく言い聞かされたものだが、あれは正[まさ]しく嘘であった。自分は何事も
(ますますわからなくなるばっかりだ。・・・・・・・・・・・・これはたしかに、)
益々分らなくなるばっかりだ。・・・・・・・・・・・・之は確かに、
(ふあんである。しかしまたいっぽう、このために、せいにたいするじぶんのこうきしんが)
不安である。しかし又一方、このために、生に対する自分の好奇心が
(うしなわれないでいることもじじつだ。まったく、よのなかには、「じぶんにとって)
失われないでいることも事実だ。全く、世の中には、「自分にとって
(このじんせいは、もうなんどめかのけいけんだよ。もはやじぶんはじんせいからまなぶべき)
此の人生は、もう何度目かの経験だよ。最早自分は人生から学ぶべき
(なにものもないよ。」といったかおをしたろうじんが、じつにたくさんいる。いったい、)
何ものも無いよ。」といった顔をした老人が、実に沢山いる。一体、
(どんなろうじんがこのじんせいをにどめにせいかつしているというのだ?)
どんな老人が此の人生を二度目に生活しているというのだ?
(どんなこうれいしゃだって、かれのこんごのせいかつは、かれにとってはじめてのけいけんに)
どんな高齢者だって、彼の今後の生活は、彼にとって初めての経験に
(ちがいないではないか。さとったようなかおをしたろうじんどもを、わたしは(わたしじしんは)
違いないではないか。悟ったような顔をした老人共を、私は(私自身は
(いわゆるとしよりではないが、ねんれいを、しとのきょりのみじかさではかるけいさんほうによれば、)
所謂年寄ではないが、年齢を、死との距離の短さで計る計算法によれば、
(けっしてわかくはあるまい。)けいべつし、けんおする。そのこうきしんのないめつきを、)
決して若くはあるまい。)軽蔑し、嫌悪する。其の好奇心のない眼付を、
(ことには、「いまのわかいものは」といったしきの、やにさがったもののいいかたを(たんに)
殊には、「今の若い者は」といった式の、やにさがったものの言い方を(単に
(このゆうせいのうえにうまれでることが、たかだかにさんじゅうねんはやかったからと)
此の遊星の上に生れ出ることが、たかだか二三十年早かったからと
(いうだけで、じぶんのいけんへのそんちょうをあいてにしいようとする・あの)
いうだけで、自分の意見への尊重を相手に強いようとする・あの
(もののいいかたを)けんおする。quod curiositate)
ものの言い方を)嫌悪する。Quod curiositate
(congnoverunt suprbia amiserunt.)
congnoverunt suprbia amiserunt.
(「かれなどおどろきによりてみとめたるものを、おごりによりてうしないたりき」)
「彼等驚きによりて認めたるものを、傲[おご]りによりて失いたりき」
(びょうくがわたしに、さほどこうきしんのすりへりをもたらさなかったことを、わたしはよろこぶ。)
病苦が私に、さほど好奇心の磨減を齎さなかったことを、私は喜ぶ。
(じゅういちがつばつにち)
十一月日
(ごごのひざかりにわたしはひとりであぴあかいどうをあるいていた。みちからちらちらと)
午後の日盛りに私は独りでアピア街道を歩いていた。道からちらちらと
(しろいほのおがたっていた。まぶしかった。かいどうのはてまでみわたしてもひとひとりみえなかった。)
白い炎が立っていた。眩しかった。街道の果迄見渡しても人一人見えなかった。
(みちのみぎがわは、かんしょばたけがみどりのゆるやかなきふくをみせて)
道の右側は、甘蔗畑[かんしょばたけ]が緑の緩やかな起伏を見せて
(ずっときたまでつづき、そのはてには、もえあがるのうらんしょくのたいへいようがうんもまつのような)
ずっと北迄続き、その果には、燃上る濃藍色の太平洋が雲母末のような
(こじわをたたみながら、まるくおおきくふくれあがっていた。せいえんにゆれる)
小皺を畳みながら、円く大きく膨れ上っていた。青焔[せいえん]に揺れる
(おおうなばらがるりいろのそらとつづくあたりは、きんぷんをまじえたすいじょうきにぼかされて)
大海原が瑠璃色の空と続くあたりは、金粉を交えた水蒸気にぼかされて
(しろくかすんでみえた。)
白く霞んで見えた。