悪霊 江戸川乱歩 11

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね0お気に入り登録
プレイ回数913難易度(4.5) 5905打 長文
江戸川乱歩の短編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 zero 6370 S 6.5 97.4% 903.6 5913 157 99 2024/11/03
2 布ちゃん 5425 B++ 5.7 95.2% 1024.3 5850 293 99 2024/11/11

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問題文

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(かようにして、くがつにじゅうしちにちのれいかいは、じつにみじめなおわりをつげたのだが、)

斯様にして、九月二十七日の例会は、実にみじめな終りを告げたのだが、

(さわぎがしずまって、りゅうちゃんはしっしんからかいふくするし、まりこさんも)

騒ぎが静まって、龍ちゃんは失神から恢復[かいふく]するし、鞠子さんも

(えがおをみせるようになっても、かいいんたちはひとりもかえらなかった。かえろうにも)

笑顔を見せる様になっても、会員達は一人も帰らなかった。帰ろうにも

(かえられぬはめになってしまったのだ。というのは「おりえさん」のたましいが、)

帰られぬ羽目になってしまったのだ。というのは「織江さん」の魂が、

(あねざきふじんのげしゅにんは、そしてまた、まりこさんをおなじようにさつがいするというはんにんは、)

姉崎夫人の下手人は、そして又、鞠子さんを同じ様に殺害するという犯人は、

(しんれいけんきゅうかいのかいいんのなかにいるとめいげんしたからだ。)

心霊研究会の会員の中にいると明言したからだ。

(くろかわせんせいごふうふとまりこさんをのぞいたよんめいのかいいん、くまうらしと、そのだぶんがくしと、)

黒川先生御夫婦と鞠子さんを除いた四人の会員、熊浦氏と、園田文学士と、

(いっすんぼうしのつちのくんと、ぼくとが、おうせつしつにつどって、きまずいかおを)

一寸法師の槌野君と、僕とが、応接室に集って、気拙[きまず]い顔を

(みあわせていた。)

見合せていた。

(「わしは、あのこの、よげんは、じゅっちゅうはっく、てきちゅうすると、おもう。あいつは、)

「わしは、あの娘の、予言は、十中八九、適中すると、思う。あいつは、

(わしのいえに、いるじぶんから、いちどもでたらめを、いったことは、ないのだ」)

わしの家に、居る時分から、一度も出鱈目を、云ったことは、ないのだ」

(くまうらしがちんもくをやぶって、れいのざらざらしたどもりごえではじめた。かれはそんなさいにも、)

熊浦氏が沈黙を破って、例のザラザラした吃声で始めた。彼はそんな際にも、

(ひごろのくせをわすれないで、ほかのさんにんからはずっととおい、すみっこのいすにこしかけて、)

日頃の癖を忘れないで、他の三人からはずっと遠い、隅っこの椅子に腰かけて、

(でんとうがまぶしいというように、ひたいにてをかざしていた。)

電燈がまぶしいという様に、額に手をかざしていた。

(「ぼくはどうもしんじられませんね。それにげしゅにんがこのかいいんのうちにいるなんて、)

「僕はどうも信じられませんね。それに下手人がこの会員の内にいるなんて、

(じつにばかばかしいとおもう。こんやはりゅうちゃん、どうかしてたんじゃありませんか。)

実に馬鹿馬鹿しいと思う。今夜は龍ちゃん、どうかしてたんじゃありませんか。

(あねざきさんのじけんが、あのこのえいびんなこころに、なにかあんじてきにはたらきかけて、)

姉崎さんの事件が、あの子の鋭敏な心に、何か暗示的に働きかけて、

(さっきのようなげんえいをえがかせたんじゃありませんか」)

さっきの様な幻影を描かせたんじゃありませんか」

(ぼくがはんばくした。ぼくはきみもしっているようにじょうしきてきなおとこだ。れいかいつうしんに)

僕が反駁[はんばく]した。僕は君も知っている様に常識的な男だ。霊界通信に

(ついても、ほかのかいいんたちのようなもうもくてきなしんこうはもっていない。むろんかいに)

ついても、他の会員達の様な盲目的な信仰は持っていない。無論会に

など

(くわわっているくらいだから、いちおうのりかいはあるのだけれど、しんこうというよりは、)

加わっている位だから、一応の理解はあるのだけれど、信仰というよりは、

(むしろこうきしんのほうがかちをしめているていどだ。しぜん、こういういじょうなばあいになると、)

寧ろ好奇心の方が勝を占めている程度だ。自然、こういう異常な場合になると、

(ついじょうしきがあたまをもたげてくる。)

つい常識が頭を擡[もた]げて来る。

(「いや、それはれいばいじしんについてはいえるかもしれませんが、こんとろーるは)

「イヤ、それは霊媒自身については云えるかも知れませんが、コントロールは

(むかんけいです。「おりえさん」のたましいが、あのじけんにえいきょうされて、)

無関係です。『織江さん』の魂が、あの事件に影響されて、

(うそをいうなんてことは、かんがえられません」)

嘘を云うなんてことは、考えられません」

(つちのくんがおもいきったように、かおをあかくしてしゅちょうした。このいっすんぼうしは、まえにも)

槌野君が思切った様に、顔を赤くして主張した。この一寸法師は、前にも

(しるしたとおり、かいいんちゅうでもだいいちのれいかいしんじゃなのだ。かれはしゃこうてきなかいわでは、)

記した通り、会員中でも第一の霊界信者なのだ。彼は社交的な会話では、

(はにかみやで、だまりがちだけれど、れいかいのこととなると、ひとがちがったように)

はにかみ屋で、黙り勝ちだけれど、霊界のこととなると、人が違った様に

(ゆうかんになる。)

勇敢になる。

(「うん、そうだ。わしも、つちのせつに、さんせいだね。げんに、われわれの「おりえさん」は、)

「ウン、そうだ。わしも、槌野説に、賛成だね。現に、我々の『織江さん』は、

(あねざきみぼうじんの、ざんしを、ちゃんと、いいあてて、いるじゃないか。あれは、)

姉崎未亡人の、惨死を、ちゃんと、云い当てて、いるじゃないか。あれは、

(うそを、いわなかった。だから、こんどの、よげんも、うそでないと、かんがえるのが、)

嘘を、云わなかった。だから、今度の、予言も、嘘でないと、考えるのが、

(しとうだ」)

至当だ」

(くまうらしは、ひとひとりのいのちにかかわることを、ぶえんりょにだんげんする。)

熊浦氏は、人一人の命にかかわる事を、不遠慮に断言する。

(「しかし、すくなくとも、われわれのなかにはんにんがいるというてんだけは、どうもがてんが)

「併し、少くとも、我々の中に犯人がいるという点丈けは、どうも合点が

(できませんよ。だいいち、われわれかいいんには、あねざきさんをころすようなどうきが)

出来ませんよ。第一、我々会員には、姉崎さんを殺す様な動機が

(かいむじゃありませんか。あねざきさんがせいぜんれいかいにかおだしをしていたと)

皆無じゃありませんか。姉崎さんが生前例会に顔出しをしていたと

(いうことだけで、あのさつじんじけんと、このかいとをむすびつけてかんがえるのは、)

いうこと丈けで、あの殺人事件と、この会とを結びつけて考えるのは、

(すこしへんだとおもいますね」)

少し変だと思いますね」

(ぼくがいうと、くまうらしはひにくなわらいごえをたてて、ぎらぎらひかるめがねでぼくを)

僕が云うと、熊浦氏は皮肉な笑声を立てて、ギラギラ光る眼鏡で僕を

(にらみつけながら、)

睨みつけながら、

(「どうきがないって?そんな、ことが、わかるもんか。なるほど、あのひとは、)

「動機がないって?そんな、ことが、分るもんか。なる程、あの人は、

(ひょうめんじょうは、ただの、かいいんに、すぎなかった。だが、もののうらを、かんがえて、)

表面上は、ただの、会員に、過ぎなかった。だが、物の裏を、考えて、

(みなくちゃ、いかんよ。うらのほうでは、かいいんのうちの、だれかと、あのみぼうじんと、)

見なくちゃ、いかんよ。裏の方では、会員の内の、誰かと、あの未亡人と、

(どんなふかい、かかりあいが、あったかもしれん。あのひとは、わかくて、うつくしい、)

どんな深い、かかり合いが、あったかも知れん。あの人は、若くて、美しい、

(みぼうじんだったからね」)

未亡人だったからね」

(といみありげにいった。)

と意味ありげに云った。

(だれもはんたいせつをとなえるものはなかった。ぼくもみぼうじんがうつくしかったというろんきょには)

誰も反対説を唱えるものはなかった。僕も未亡人が美しかったという論拠には

(まったくどうかんであった。ぼくはそえこさんのかおばかりでなく、からだのうつくしさまで、)

全く同感であった。僕は曽恵子さんの顔ばかりでなく、身体の美しさまで、

(まざまざとみせつけられていたのだから。それにしても、もし「おりえさん」の)

まざまざと見せつけられていたのだから。それにしても、若し「織江さん」の

(たましいがいったように、かいいんのうちにげしゅにんがいるのだとしたら、あのうつくしい)

魂が云った様に、会員の中[うち]に下手人がいるのだとしたら、あの美しい

(しんたいにむごたらしいちのしまをえがいたやつは、あのかぼそいのどをむざんにえぐったやつは、)

身体にむごたらしい血の縞を描いた奴は、あのか細い喉を無惨に刳った奴は、

(いったいこのうちのだれだろうと、さんにんのかおをみくらべないではいられなかった。)

一体この内の誰だろうと、三人の顔を見比べないではいられなかった。

(「すると、ぼくたちのうちのだれかが、さつじんしゃだということになるわけですね」)

「すると、僕達の内の誰かが、殺人者だということになる訳ですね」

(むやみにすぱすぱとりょうぎりたばこをふかしつづけていたそのだぶんがくしは、あおいかおをして、)

無闇にスパスパと両切煙草をふかし続けていた園田文学士は、青い顔をして、

(すこしこえをふるわせて、くちをはさんだ。)

少し声を震わせて、口をはさんだ。

(「そうです、りゅうちゃんが、きぜつさえ、しなければ、はんにんの、なまえも、わかったかも)

「そうです、龍ちゃんが、気絶さえ、しなければ、犯人の、名前も、分ったかも

(しれません。しかし、かんじんのみでぃあむが、びょうにんに、なってしまっては、とうぶん、)

知れません。併し、肝腎のミディアムが、病人に、なってしまっては、当分、

(「おりえさん」のたましいを、よびだす、みこみがない。じつに、めいわくなはなしだ。ぼくらは、)

『織江さん』の魂を、呼出す、見込がない。実に、迷惑な話だ。僕等は、

(おたがいに、うたがいあわねば、ならんようなことに、なってしまった。どうだ、しょくん、)

お互に、疑い合わねば、ならん様なことに、なってしまった。どうだ、諸君、

(ここで、めいめいの、みのあかりを、たてて、さっぱりした、きもちで、わかれる、)

ここで、銘々の、身の明りを、立てて、サッパリした、気持で、別れる、

(ことにしては」)

ことにしては」

(くまうらしがていあんした。)

熊浦氏が提案した。

(「みのあかりをたてるというのは?」)

「身の明りを立てるというのは?」

(そのだぶんがくしがききかえす。)

園田文学士が聞き返す。

(「わけのない、ことです。ありばいを、しょうめいすれば、いいのだ。あの、)

「訳のない、ことです。アリバイを、証明すれば、いいのだ。あの、

(さつじんじけんの、たったじかんに、しょくんがどこに、いたかということを、はっきり、)

殺人事件の、起った時間に、諸君がどこに、いたかということを、ハッキリ、

(させれば、いいのです」)

させれば、いいのです」

(「それはうまいおもいつきですね。じゃ、ここでじゅんばんにありばいを)

「それはうまい思いつきですね。じゃ、ここで順番にアリバイを

(もうしたてようじゃありませんか」)

申立てようじゃありませんか」

(ぼくはさっそく、くまうらしのていあんにさんせいして、まずぼくじしんのありばいをせつめいした。)

僕は早速、熊浦氏の提案に賛成して、先ず僕自身のアリバイを説明した。

(それにつづいて、つちのくん、そのだし、くまうらしのじゅんじょで、くがつにじゅうさんにちの)

それに続いて、槌野君、園田氏、熊浦氏の順序で、九月二十三日の

(ごごぜろじはんからよじはんごろまでのこうどうをうちあけあった。)

午後零時半から四時半頃までの行動を打開[うちあ]け合った。

(まず、ぼくじしんは、せんびんにもかいたとおり、あねざきけをほうもんするまでは、)

先ず、僕自身は、先便にも書いた通り、姉崎家を訪問するまでは、

(ごごからずっと、つとめさきのしんぶんしゃにいたのだし、つちのくんは、)

午後からずっと、勤先[つとめさき]の新聞社にいたのだし、槌野君は、

(あさから、にかいがりをしているへやにすわりつづけて、いちどもがいしゅつしなかったと)

朝から、二階借りをしている部屋に座りつづけて、一度も外出しなかったと

(いうし、そのだぶんがくしはだいがくのしんりがくじっけんしつで、あるじっけんにぼっとうしていたと)

云うし、園田文学士は大学の心理学実験室で、ある実験に没頭していたと

(いうし、くまうらしもあのひはひるまいちどもがいしゅつしなかった、それはばあやが)

云うし、熊浦氏もあの日は昼間一度も外出しなかった、それは婆やが

(よくしっているはずだとのことで、いちおうはみなありばいがせいりつした。そのせきに)

よく知っている筈だとのことで、一応は皆アリバイが成立した。その席に

(しょうにんがいたわけではないのだから、うたがえばどのようにもうたがえたけれど、ともかくも)

証人がいた訳ではないのだから、疑えばどの様にも疑えたけれど、兎も角も

(いちどうのきやすめにはなった。)

一同の気やすめにはなった。

(「だが、ちょっとまってください」)

「だが、ちょっと待って下さい」

(ぼくはふと、あることをきづいて、びっくりしていった。)

僕はふと、あることを気づいて、びっくりして云った。

(「ぼくたちは、とんでもないおもいちがいをしているんじゃないでしょうか。)

「僕たちは、飛んでもない思い違いをしているんじゃないでしょうか。

(あねざきさんのじけんでいちばんうたがわしいのは、むらさきやがすりのみょうなおんなでしたね。たとえあれが)

姉崎さんの事件で一番疑わしいのは、紫矢絣の妙な女でしたね。仮令あれが

(しんはんにんでないとしても、まずぼくたちは、はんにんがだんせいかじょせいかというてんを、)

真犯人でないとしても、先ず僕たちは、犯人が男性か女性かという点を、

(さきにかんがえてみなければならないのじゃありませんか」)

先に考えて身なければならないのじゃありませんか」

(それをいうと、そのだしとつちのくんとは、なんともいえぬみょうなかおをして、ぼくを)

それを云うと、園田氏と槌野君とは、何とも云えぬ妙な顔をして、僕を

(みかえした。いってはいけないことをいってしまったのかしらと、はっとするような)

見返した。云ってはいけない事を云ってしまったのかしらと、ハッとする様な

(ひょうじょうであった。)

表情であった。

(くまうらしのおおきなべっこうぶちのめがねも、つまるようにぼくのほうをにらみつけた。)

熊浦氏の大きな鼈甲縁の眼鏡も、詰る様に僕の方を睨みつけた。

(「じょせいといって、きみ、かいいんのうちには、まりこさんと、れいばいを、のぞけば、たった、)

「女性といって、君、会員の内には、鞠子さんと、霊媒を、除けば、たった、

(ひとりしか、いないじゃないか」)

一人しか、いないじゃないか」

(どうにも、そのたったひとりのじょせいはくろかわふじんであった。ぼくはうっかり)

如何にも、そのたった一人の女性は黒川夫人であった。僕はうっかり

(おそろしいことをいってしまったのだ。)

恐ろしいことを云ってしまったのだ。

(「いや、けっしてそういういみじゃないのですけれど、やがすりのおんながあんなにもんだいに)

「イヤ、決してそういう意味じゃないのですけれど、矢絣の女があんなに問題に

(なっていたものだから。ついじょせいをれんそうしたのです」)

なっていたものだから。つい女性を聯想したのです」

(「うん、やがすりのおんなか。すくなくとも、いまのばあい、あいつは、のうこうなけんぎしゃだね」)

「ウン、矢絣の女か。少くとも、今の場合、あいつは、濃厚な嫌疑者だね」

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