悪獣篇 泉鏡花 2

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね1お気に入り登録
プレイ回数712難易度(4.1) 4258打 長文
泉鏡花の中編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 やまちゃん 4349 C+ 4.4 97.6% 940.5 4194 103 100 2025/12/03
2 いんちき 3642 D+ 3.8 94.1% 1096.4 4257 263 100 2025/12/05

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問題文

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(「なにが、おばさん。このひなかになにがこわいんです。) 「何が、叔母さん。この日中[ひなか]に何が恐いんです。 (おおかたまたけむしでしょう。だいじょうぶ、けむしはおっかけてはきませんから。」) 大方また毛虫でしょう。大丈夫、毛虫は追駈[おっか]けては来ませんから。」 (「けむしどころじゃあありません。」) 「毛虫どころじゃアありません。」 (とうらこはうしろみらるるさま。こえもひくう、) と浦子は後[うしろ]見らるる状[さま]。声も低う、 (「せんさん、よっぽどのあいだだったでしょう。」) 「銑さん、よっぽどの間だったでしょう。」 (「ざっといちじかん・・・・・・」) 「ざッと一時間……」 (はんぶんはかけねだったのに、ふじんはかえってさもありそうに、) 半分は懸直[かけね]だったのに、夫人はかえってさもありそうに、 (「そうでしたかねえ、わたしはもっとかとおもったくらい。) 「そうでしたかねえ、私はもっとかと思ったくらい。 (いつ、みせをでられるだろう、とこころぼそいったらなかったよ。」) いつ、店を出られるだろう、と心細いッたらなかったよ。」 (「なぜ、どうしたんですね、いったい。」) 「なぜ、どうしたんですね、一体。」
(「まあ、そろそろあるきましょう。なんだかきくたびれでも) 「まあ、そろそろ歩行[ある]きましょう。何だか気草臥[きくたび]れでも (したようで、あたまもあしもふらふらします。」) したようで、頭も脚もふらふらします。」 (ほをうつすのにひきそうて、からだでかばうがごとくにしつつ、) 歩を移すのに引添うて、身体で庇うがごとくにしつつ、 (「ほんとにおどろいたんですか。そういえば、かおのいろもよくないようですよ。」) 「ほんとに驚いたんですか。そういえば、顔の色もよくないようですよ。」 (「そうでしょう、ぞっとして、いまだにさむけがしますもの。」) 「そうでしょう、悚然[ぞっ]として、未だに寒気がしますもの。」 (とかたをすぼめてうつむいた、かいすいぼうもまえさがり、) と肩を窄めて俯向いた、海水帽も前下り、 (うなじしろくしおれてつれだつ。) 頸[うなじ]白く悄[しお]れて連れ立つ。 (しょうねんはかおをななめに、ちかぢかとぼうのなか。) 少年は顔を斜めに、近々と帽の中。 (「まったくいろがわるい。どうもけむしではないようですね。」) 「まったく色が悪い。どうも毛虫ではないようですね。」 (これにはこたえず、ややいしだんのまえをとおった。) これには答えず、やや石段の前を通った。
など
(しばらくして、) しばらくして、 (「せんさん、」) 「銑さん、」 (「ええ、」) 「ええ、」 (「かえりに、またここをとおるんですか。」) 「帰途[かえり]に、またここを通るんですか。」 (「とおりますよ。」) 「通りますよ。」 (「どうしてもとおらねばいけませんかねえ、どこぞほかに) 「どうしても通らねば不可[いけ]ませんかねえ、どこぞ他に (みちがないんでしょうか。」) 路がないんでしょうか。」 (「うみならあります。ここいらはおばさん、かいがんのひとすじみちですから、) 「海ならあります。ここいらは叔母さん、海岸の一筋路ですから、 (わかれみちといってはうしろのやまへゆくよりほかには) 岐路[わかれみち]といっては背後[うしろ]の山へ行[ゆ]くより他には (ないんですが、」) ないんですが、」 (「こまりましたねえ。」) 「困りましたねえ。」 (と、つくづくいう。) と、つくづく云う。 (「なにね、じこくによって、しおのひているときは、このべっそうのまえなんか、) 「何ね、時刻に因って、汐[しお]の干ている時は、この別荘の前なんか、 (いわをとんでわたられますがね、このふしのつきじゃどうですか、ばんがた) 岩を飛んで渡られますがね、この節の月じゃどうですか、晩方 (ひないかもしれません。」) 干ないかも知れません。」 (「ふねはありますか。」) 「船はありますか。」 (「そうですね、わたりぶねってべつにありはしますまいけれど、たのんだら) 「そうですね、渡船ッて別にありはしますまいけれど、頼んだら (だしてくれないこともないしょう、さきへいってきいてみましょう。」) 出してくれないこともないしょう、さきへ行って聞いて見ましょう。」 (「そうね。」) 「そうね。」 (「なに、おばさんさえしんようするんなら、ふねだけかりて、こぐことは) 「何、叔母さんさえ信用するんなら、船だけ借りて、漕ぐことは (ぼくにもこげます。ぼくじゃけんのんだというでしょう。」) 僕にも漕げます。僕じゃ危険[けんのん]だというでしょう。」 (「なんでもようござんすから、せんさん、あなた、) 「何でも可[よ]うござんすから、銑さん、貴郎[あなた]、 (どうにかしてください。わたしはもうかえりにあのみせのまえを) どうにかして下さい。私はもう帰途[かえり]にあの店の前を (とおりたくないんです。」) 通りたくないんです。」 (とまたうつむいたがこわごわらしい。) とまた俯向いたが恐々らしい。 (「おばさん、まあ、いったい、なにですか。」と、あまりのことにほほえみながら。) 「叔母さん、まあ、一体、何ですか。」と、余りの事に微笑みながら。 (「もうきこえやしますまいね。」) 四 「もう聞えやしますまいね。」 (とはばかるところあるらしく、こえもこのときなおひくい。) と憚る所あるらしく、声もこの時なお低い。 (「なにが、どこで、おばさん。」) 「何が、どこで、叔母さん。」 (「あすこまで、」) 「あすこまで、」 (「ああ!きたなみせへ、」) 「ああ!汚店[きたなみせ]へ、」 (「おおきなこえをなさんなよ。」とびっくりしたようにあわただしく、) 「大きな声をなさんなよ。」と吃驚[びっくり]したように慌しく、 (ひとみをすえて、そっという。) 瞳を据えて、密[そっ]という。 (「なにがきこえるもんですか。」) 「何が聞えるもんですか。」 (「じゃあね、いいますけれど、せんさん、わたしがね、いま、まっちを) 「じゃあね、言いますけれど、銑さん、私がね、今、早附木[マッチ]を (かいにはいると、だれもいないのよ。」) 買いに入ると、誰も居ないのよ。」 (「へい?」) 「へい?」 (「くださいな、くださいなって、そういうとね。あながひらいて、こわれごわれで、) 「下さいな、下さいなッて、そういうとね。穴が開いて、こわれごわれで、 (ねずみのいえのさんかいだてのような、とっつきのさんだんのこだなのうしろのね、) 鼠の家の三階建のような、取附[とっつき]の三段の古棚の背[うしろ]のね、 (ものおきみたいなくらいなかから、もくずをひいたかとおもう、きたないなりの、) 物置みたいな暗い中から、藻屑を曳いたかと思う、汚い服装[なり]の、 (ちいさなばあさんがね、よぼよぼとでてきたんです。) 小さな婆さんがね、よぼよぼと出て来たんです。 (かみのけがまっしろでね、かれこれはちじゅうにもなろうかというんだけれど、そのわりには) 髪の毛が真白でね、かれこれ八十にもなろうかというんだけれど、その割には (しわがないの、・・・・・・かおに。・・・・・・からだはやせてほねばかり、そしてね、ほねがくなくなと) 皺がないの、……顔に。……身体は痩せて骨ばかり、そしてね、骨がくなくなと (やわらかそうにこしをまげてさ。) 柔かそうに腰を曲げてさ。 (あたまでものをみるてったように、しらがをふって、ふっふっと) 天窓[あたま]でものを見るてッたように、白髪を振って、ふッふッと (いきをして、せいのひくいのが、そうやって、むねをおったから、) 息をして、脊の低いのが、そうやって、胸を折ったから、 (そこらをはうようにしてみせへくるじゃありませんか。) そこらを這うようにして店へ来るじゃありませんか。 (まっちをくださいなって、いったけれどきこえません。もっともね、はじめから) 早附木を下さいなッて、云ったけれど聞えません。もっともね、はじめから (きこえないのはかくごだというように、かおをあげてね、ひとのかおをながめてさ。) 聞えないのは覚悟だというように、顔を上げてね、人の顔を視[なが]めてさ。 (めでうけたまわりましょうというんじゃないの。) 目で承りましょうと云うんじゃないの。 (おばあさん、まっちをください、まっちを、といった、わたしのくちびるのうごくのを、) お婆さん、早附木を下さい、早附木を、といった、私の唇の動くのを、 (じっとながめていたっけがね。) 熟[じっ]と視めていたッけがね。 (そのかおをあげているのがたいぎそうに、またがっくりうつむくと、) その顔を上げているのが大儀そうに、またがッくり俯向くと、 (しらがのなかからみみのうえへ、ながく、ひからびたうでをだしたんですがね、) 白髪の中から耳の上へ、長く、干からびた腕を出したんですがね、 (てのひらがおおきいの。) 掌が大きいの。 (それをね、けだるそうに、ふらふらとふって、かたかたのひとさしゆびで、) それをね、けだるそうに、ふらふらとふって、片々の人指[ひとさし]ゆびで、 (こうね、ひだりのみみをおしえるでしょう。) こうね、左の耳を教えるでしょう。 (きこえないというのかね、そんならようござんす。わたしはなんだかひとめみると、) 聞えないと云うのかね、そんなら可うござんす。私は何だか一目見ると、 (いやなこころもちがしたんですからね、かわずといいから、) 厭な心持がしたんですからね、買わずと可いから、 (そのままてんをでようとおもうと、またそうゆかなくなりましたわ。) そのまま店を出ようと思うと、またそう行[ゆ]かなくなりましたわ。 (よわるじゃありませんか、ばあさんがね、けだるそうにこしをのばして、) 弱るじゃありませんか、婆さんがね、けだるそうに腰を伸ばして、 (みみを、わたしのかおのそばへよこむけにさしつけたんです。) 耳を、私の顔の傍へ横向けに差しつけたんです。 (ぷんとにおったの。なにともいえない、きなっくさいような、おしたじの) ぷんと臭ったの。何とも言えない、きなッくさいような、醤油[おしたじ]の (こげるような、いやなにおいよ。」) 焦げるような、厭な臭[におい]よ。」 (「や、そりゃこまりましたね。」と、これをきいてしょうねんもひそんだのである。) 「や、そりゃ困りましたね。」と、これを聞いて少年も顰んだのである。 (「まっちをください。 (はあ?)) 「早附木を下さい。 (はあ?) ((まっちよ、おばあさん。) (はあ?)) (早附木よ、お婆さん。) (はあ?) (はあっていうきりなの。めをねむって、くちをあけてさ、におうでしょう。) はあッて云うきりなの。目を眠って、口を開けてさ、臭うでしょう。 ((まっち、)ってわたしは、まったくよ。せんさん、なきたくなったの。) (早附木、)ッて私は、まったくよ。銑さん、泣きたくなったの。 (ただもうにげだしたくってね、そこいらみまわすけれど、) ただもう遁[に]げ出したくッてね、そこいら眗[みまわ]すけれど、 (あなたのすがたもみえなかったんですもの。 はあ、ながいあいだよ。) 貴下[あなた]の姿も見えなかったんですもの。 はあ、長い間よ。 (それでもようようきこえたとみえてね、くちをむぐむぐとさして) それでもようよう聞えたと見えてね、口をむぐむぐとさして (がってんがってんをしたから、またてまをとらないようにと、すぐにね、) 合点々々をしたから、また手間を取らないようにと、直ぐにね、 (どうかをひとつわたしてやると、しばらくして、まっちをいちだーす。) 銅貨を一つ渡してやると、しばらくして、早附木を一ダース。 (そんなにはいらないから、つつみをやぶいて、じぶんでひとつだけとって、ああ、やくおとし、) そんなには要らないから、包を破いて、自分で一つだけ取って、ああ、厄落し、 (とでよう、とすると、しっかりこの、」) と出よう、とすると、しっかりこの、」 (とかたてをしたに、そでをかさねたたもとをゆすったが、きみわるそうに、) と片手を下に、袖をかさねた袂を揺[ゆす]ったが、気味悪そうに、 (むねをかわしてそっとはらい、) 胸をかわして密[そっ]と払い、 (「たもとをつかまえたのに、ひっぱられてうごけないじゃありませんか。」) 「袂をつかまえたのに、引張られて動けないじゃありませんか。」 (「かさねがさね、なるほど、はあ、それから、」) 「かさねがさね、成程、はあ、それから、」
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