悪獣編 泉鏡花 3

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね0お気に入り登録
プレイ回数361難易度(4.0) 4177打 長文
泉鏡花の中編小説です。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 いんちき 5471 B++ 5.8 93.7% 712.1 4173 277 100 2025/12/05
2 やまちゃん 4272 C+ 4.3 97.9% 943.9 4118 85 100 2025/12/03

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問題文

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(「わたしゃ、せんさん、どうしようかとおもったんです。) 五 「私ゃ、銑さん、どうしようかと思ったんです。 (なんにもいわないで、ぐんぐんひっぱって、かぶりをふるから、おおかた、) 何にも云わないで、ぐんぐん引張って、かぶりを掉[ふ]るから、大方、 (つりをよこそうというんでしょうとおもって、とまりますとね。) 剰銭[つり]を寄越そうというんでしょうと思って、留りますとね。 (やっとあんしんしたようにてをはなして、それからむこうむきになって、さしから) やッと安心したように手を放して、それから向う向きになって、緡[さし]から (あなのあいたのをひとつひとつ。) 穴のあいたのを一つ一つ。 (それがまたしばらくなの。) それがまたしばらくなの。 (わたしのてをひっぱるようにして、てのひらへくれました。) 私の手を引張るようにして、掌へ呉れました。 (ひやりとしたけれど、そればかりならよかったのに。) ひやりとしたけれど、そればかりなら可かったのに。 ((ごしんぞさまや)」) (御新姐様や)」 (とうらこのこえ、いようにふるえてきこえたので、) と浦子の声、異様に震えて聞えたので、
(「ええ、そのばばが、」) 「ええ、その婆[ばば]が、」 (「あれ、せんさん、きこえますよ。」と、ひとあしいそがわしく、) 「あれ、銑さん、聞えますよ。」と、一歩[ひとあし]いそがわしく、 (ぴったりよりそう。) ぴったり寄添う。 (「そのばばが、いったんですか。」) 「その婆が、云ったんですか。」 (ふじんはまたといきをついた。) 夫人はまた吐息をついた。 (「ばあさんがね、ああ。」) 「婆さんがね、ああ。」 ((ごしんぞさまや、おみあ、すいたらしいひとじゃでの、やすく、) (御新姐様や、御身ア、すいたらしい人じゃでの、安く、 (なかまのねでしんぜるぞい。)) なかまの値で進ぜるぞい。) (って、しわがれたこえでそういうとね、ぶんとあたまへひびいたんです。) ッて、皺枯れた声でそう云うとね、ぶんと頭へ響いたんです。 (そして、すいたらしいってね、わたしのてくびをじっとにぎって、まっきいろな、) そして、すいたらしいッてね、私の手首を熟[じっ]と握って、真黄色な、
など
(ひらったい、ちいさなかおをふりあげて、じろじろとみつめたの。) 平[ひらっ]たい、小さな顔を振上げて、じろじろと見詰めたの。 (そのにぎったてのつめたいことったら、まるでこおりのようじゃありませんか。) その握った手の冷たい事ッたら、まるで氷のようじゃありませんか。 (そしてめがね、きんめなんです。) そして目がね、黄金目[きんめ]なんです。 (ひかったわ!あなた。) 光ったわ!貴郎[あなた]。 (きらきらと、そのすごかったこと。」) キラキラと、その凄かった事。」 (とばかりでおもそうなつむりをあげて、にわかにくろくもやおこるとおもう、) とばかりで重そうな頭[つむり]を上げて、俄かに黒雲や起ると思う、 (きづかわしげにあおいでながめた。そらざまにめも) 憂慮[きづか]わしげに仰いで視[なが]めた。空ざまに目も (うっとり、ひもをゆわえたおとがいのふるうがみえたり。) 恍惚[うっとり]、紐を結えた頤[おとがい]の震うが見えたり。 (「こころもちでしょう。」) 「心持でしょう。」 (「いいえ、じろりとみられたときは、そのめのひかりでわたしのかおがきいろになったかと) 「いいえ、じろりと見られた時は、その目の光で私の顔が黄色になったかと (おもうくらいでしたよ。あかりにちかいと、あかくほてるようなきがするのと) 思うくらいでしたよ。灯[あかり]に近いと、赤くほてるような気がするのと (おんなじに。」) 同一[おんなじ]に。」 (もうわたし、ふたすじはりをさされたように、せなかのりょうほうから) もう私、二条[ふたすじ]針を刺されたように、背中の両方から (ぞっとして、あしもふらふらになりました。) 悚然[ぞっ]として、足もふらふらになりました。 (むちゅうでにさんげんかけだすとね、ちゃらんとおとがしたので、) 夢中で二三間駈け出すとね、ちゃらんと音がしたので、 (またはっとおもいましたよ。おあしをおとしたのがさきへ) またハッと思いましたよ。お銭[あし]を落したのが先方[さき]へ (きこえやしまいかとおもって。) 聞えやしまいかと思って。 (なんでもいちだいじのようにかえしたつりなんですもの、おとしたのをしっては) 何でも一大事のように返した剰銭[つり]なんですもの、落したのを知っては (おっかけてきかねやしません。せんさん、まあ、なんてこってしょう、) 追っかけて来かねやしません。銑さん、まあ、何てこッてしょう、 (どうしたばあさんでしょうねえ。」) どうした婆さんでしょうねえ。」 (さればおばうえののたまうごとし。としななそじあまりの、かみのまっしろな、) されば叔母上の宣うごとし。年紀七十[としななそじ]あまりの、髪の真白な、 (かおのひらたい、としのわりにしわのすくない、いろのきな、みみのとおい、からだのにおう、) 顔の扁[ひら]たい、年記の割に皺の少い、色の黄な、耳の遠い、身体の臭う、 (ほねのやわらかそううな、ふるまいのくなくなした、なおそのことばに) 骨の軟かそううな、挙動[ふるまい]のくなくなした、なおその言[ことば]に (したがえば、こんじきにめのひかりるおうなとより、せんたろうはほかに) 従えば、金色[こんじき]に目の光る嫗[おうな]とより、銑太郎は他に (こたえうるすべをしらなかった。) 答うる術を知らなかった。 (ただその、まっちひとつかいとるのに、はんときばかりたったしさいがしれて、) ただその、早附木一つ買い取るのに、半時ばかり経った仔細が知れて、 (うたがいはさらりとなくなったばかりであるから、きのどくらしい、とじぶんでおもうほど) 疑はさらりとなくなったばかりであるから、気の毒らしい、と自分で思うほど (いっこうなのんき。) 一向な暢気[のんき]。 (まっちは?おばさん。」とみせられたもののせなかをひとつ、) 「早附木は?叔母さん。」と魅せられたものの背中を一つ、 (とんとうつようなのをだしぬけにいった。) トンと打つようなのを唐突[だしぬけ]に言った。 (「ああ、そうでした。」) 「ああ、そうでした。」 (とこころつくと、これをおうなににぎられた、かいものをもったみぎのては、まだひだりのたもとのしたに) と心着くと、これを嫗に握られた、買物を持った右の手は、まだ左の袂の下に (つつんだままで、なでがたのゆきをなぞえに、ゆかたのすじもみずにぬれたかと、) 包んだままで、撫肩の裄[ゆき]をなぞえに、浴衣の筋も水に濡れたかと、 (ひたひたとしおれて、かたそでしるく、ぞっとしたのがそのままである。) ひたひたとしおれて、片袖しるく、悚然[ぞっ]としたのがそのままである。 (だいじなことをみるがごとく、そっとはずすと、せんたろうものぞくように) 大事なことを見るがごとく、密[そっ]とはずすと、銑太郎も覗くように (めをそそいだ。) 目を注いだ。 (「おや!」) 「おや!」 (「・・・・・・・・・・・・」) 「…………」 (くろのとうじゅすと、うすねずみになんどがかったきぬちぢみにたからづくしの) 六 黒の唐繻子と、薄鼠に納戸がかった絹ちぢみに宝づくしの (しぼりのはいった、はらあわせのおびをもれた、ときいろの) 絞[しぼり]の入った、腹合せの帯を漏れた、水紅色[ときいろ]の (しごきにのせて、うつくしきてはふようのはなびら、) 扱帯[しごき]にのせて、美しき手は芙蓉[ふよう]の花片[はなびら]、 (かぜもさそわずぶじであったが、きらりとかがやいたゆびわのほかに、) 風もさそわず無事であったが、キラリと輝いた指環の他に、 (まっちらしいもののかたちもない。) 早附木らしいものの形も無い。 (みつめて、ふじんは、) 視詰めて、夫人は、 (「・・・・・・・・・・・・」ものもえいわぬのである。) 「…………」ものも得いわぬのである。 (「ああ、つりといっしょにおとしたんだ。おばさんどのへん?」) 「ああ、剰銭と一緒に遺失[おと]したんだ。叔母さんどの辺?」 (ときばやにむきかえってゆこうとする。) と気早に向き返って行[ゆ]こうとする。 (「おまちなさいよ。」) 「お待ちなさいよ。」 (とさえぎってあげたての、しさいなくうごいたのを、うれしそうに、しょうねんのかたにかけて、) と遮って上げた手の、仔細なく動いたのを、嬉しそうに、少年の肩にかけて、 (みなおしていきをついて、) 見直して呼吸[いき]をついて、 (「ずくさん、およしなさいおよしなさい、きみがわるいから、ね、) 「銑さん、お止[よ]しなさいお止しなさい、気味が悪いから、ね、 (およしなさい。」) お止しなさい。」 (とさもいっしょうけんめい。おさえぬばかりにひきとどめて、) とさも一生懸命。圧[おさ]えぬばかりに引留めて、 (「あんなものは、いまごろなにになっているかわかりませんよ。) 「あんなものは、今頃何に化[な]っているか分かりませんよ。 (よう、ですから、せんさん。」) よう、ですから、銑さん。」 (「じゃよします、よしますがね。」) 「じゃ止します、止しますがね。」 (しょうねんはあまりのことに、) 少年は余りの事に、 (「ははははは、なんだかばけものででもあるようだ。」となかばつぶやいて、) 「ははははは、何だか妖物[ばけもの]ででもあるようだ。」と半ば呟いて、 (またわらった。) また笑った。 (わたしはばけものとしかかんがえないの、まさかいようとはおもわないけれど。」) 私は妖物としか考えないの、まさか居ようとは思わないけれど。」 (「ばけものですとも、ばけものですがね、そのくなくなしたところや、あたまで) 「妖物ですとも、妖物ですがね、そのくなくなした処や、天窓[あたま]で (あるきそうにするところから、きいろくうねったところなんぞ、なんのことはない) 歩行[ある]きそうにする処から、黄色く畝った処なんぞ、何の事はない (ばばのけむしだ。けむしのばあさんです。」) 婆の毛虫だ。毛虫の婆さんです。」 (「いやですことねえ。」とみぶるいする。) 「厭ですことねえ。」と身ぶるいする。 (「なにもそんなに、きみをわるがるにはあたらないじゃありませんか。そのばばに) 「何もそんなに、君を悪がるには当らないじゃありませんか。その婆に (てをにぎられたのと、もしやきのうえから、」) 手を握られたのと、もしや樹の上から、」 (とうえをみる。やぶはつきてたかいいしがき、えのきがそらにかぶさって、ゆかたに) と上を見る。藪は尽きて高い石垣、榎[えのき]が空にかぶさって、浴衣に (うすきひのひかり、ふたりはつきよをゆくすがた。) 薄き日の光、二人は月夜を行[ゆ]く姿。 (「ぽたりとおちて、けむしがくびすじへはいったとすると、おばさん、) 「ぽたりと落ちて、毛虫が頸筋[くびすじ]へ入ったとすると、叔母さん、 (どっちがいやなこころもちだとおもいます。」) どっちが厭な心持だと思います。」 (「たくさんよ、せんさん、わたしはもう、」) 「沢山よ、銑さん、私はもう、」 (「いえ、まあ、どっちがきみがわるいんですね。」) 「いえ、まあ、どっちが気味が悪いんですね。」 (「そりゃ、だって、そうねえ、どっちがどっちともいえませんね。」) 「そりゃ、だって、そうねえ、どっちがどっちとも言えませんね。」 (「そらごらんなさい。」) 「そら御覧なさい。」 (ときえてよしとおもえるさまして、) 説き得て可しと思える状[さま]して、 (「おばさんは、そのばばを、ばけものかなんぞのようにおおさわぎをやるけれど、) 「叔母さんは、その婆を、妖物か何ぞのように大騒ぎを遣[や]るけれど、 (きみのわるい、いやなかんじ。」) 気味の悪い、厭な感じ。」 (かんじ、とこえにちからをいれて、) 感じ、と声に力を入れて、 (「かんじというと、なんだかせんせいのこわいろのようですね。」) 「感じというと、何だか先生の仮声[こわいろ]のようですね。」 (「きらくなことをおっしゃいよ!」) 「気楽なことをおっしゃいよ!」
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