悪獣篇 泉鏡花 7

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね1お気に入り登録
プレイ回数104難易度(4.4) 4900打 長文
泉鏡花の中編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 やまちゃん 4388 C+ 4.4 97.8% 1082.1 4855 106 97 2025/12/03

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問題文

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(「ああ、これな、これな。」) 「ああ、これな、これな。」 (とひさしのゆうひにてをあげて、たそがれかかるすがたをよべば、) と廂[ひさし]の夕日に手を上げて、たそがれかかる姿を呼べば、 (あしをすそなるうしろかげ。) 蘆を裾なる背影[うしろかげ]。 (「おい、」とのみ、みもかえらず、はたととどまって、うちうなずいた。みみをそのまま) 「おい、」とのみ、見も帰らず、ハタと留まって、打頷いた。耳をそのまま (ことばをまつ。) 言[ことば]を待つ。 (「あるじ、いまのことをの、さかしたのねえさまにもしらしてやらっしゃれ、さだめし、) 「主、今のことをの、坂下の姉さまにも知らしてやらっしゃれ、さだめし、 (あのこもおがみたかろ。」) あの児[こ]も拝みたかろ。」 (ききつけて、くだんのおうな、ぶるぶるとかぶりをふった。) 聞きつけて、件[くだん]の嫗、ぶるぶると頭[かぶり]を掉[ふ]った。 (「むんにゃよ、としがうえだけに、ねえさまはごしょうのことはぬからぬぞの。) 「むんにゃよ、年紀[とし]が上だけに、姉さまは御生のことは抜からぬぞの。 (はちじょうがじまにかねがなっても、うといみみにきくひとじゃ。それにふたつめへ) 八丈ヶ島に鐘が鳴っても、うとい耳に聞く人じゃ。それに二つ目へ (いかっしゃるに、おくさまはとおりみち。もうさっきにおがんだじゃろうが、) 行かっしゃるに、奥様は通り路。もう先刻[さっき]に拝んだじゃろうが、 (ねんのためじゃたちよりましょ。ああ、それよりかおばあさん、」) 念のためじゃ立寄りましょ。ああ、それよりかお婆さん、」 (とかたほをあおくねじむけた、はなすじにひとつのめが、) と片頬[かたほ]を青く捻じ向けた、鼻筋に一つの目が、 (じろりとこなたをみてひかった。) じろりと此方[こなた]を見て光った。 (「ぬし、じゅずをわすれまいぞ。」) 「主、数珠を忘れまいぞ。」 (「おう、よいともの、おばあさん、ぬし、そのえいのはりをおとさっしゃるな。」) 「おう、可いともの、お婆さん、主その鱏[えい]の針を落さっしゃるな。」 (「ごねんにはおよばぬわいの。はい、」) 「御念には及ばぬわいの。はい、」 (といって、それなりむこうへ、あしをわければ、ひさしをはなれて、) と言って、それなり前途[むこう]へ、蘆を分ければ、廂[ひさし]を離れて、 (ひとりはみせをひっこんだ。いそののかぜひとしきり、ゆくものを) 一人は店を引込んだ。磯のの風一時[ひとしきり]、行[ゆ]くものを (おくってふいて、さっとかえって、こやをめぐって、ざわざわとなって、) 送って吹いて、颯[さっ]と帰って、小屋をめぐって、ざわざわと鳴って、
など
(ひっそりした。) 寂然[ひっそり]した。 (ほほほとはなやかな、わらいごえ、はまのあたりにはるかにきこゆ。) 吻々吻[ほほほ]と花やかな、笑い声、浜のあたりに遥に聞ゆ。 (ときにいちわんのちゃをいまだのみほさなかった、せんせいはつとこころづいて、いぶかしげなめで、) 時に一椀の茶を未だ飲干さなかった、先生はツト心着いて、いぶかしげな目で、 (まず、かたわらなるしょうねんのならんですわったせなをみて、) まず、傍[かたわら]なる少年の並んで坐った背[せな]を見て、 (またあたりをみまわしたが、つきよの、) また四辺[あたり]を眴[みまわ]したが、月夜の、 (ゆうひにかえったようなおもいがした。) 夕日に返ったような思いがした。 (おうなのことばがかれをみしたか、そのあしのはがのびて、) 嫗の言[ことば]が渠[かれ]を魅したか、その蘆の葉が伸びて、 (やまのこしをおおうとき、みなそこをふねがこいで、おかはぜというもの) 山の腰を蔽[おお]う時、水底を船が漕いで、岡沙魚[おかはぜ]というもの (つちにはね、まめがにのほずえにつきをみるさまを、) 土に跳ね、豆蟹[まめがに]の穂末[ほずえ]に月を見る状[さま]を、 (まのあたりにめにうかべて、あきのよるのつきのおもむきに、いつかこころのとられたみみへ、) 目のあたりに目に浮べて、秋の夜の月の趣に、いつか心の取られた耳へ、 (あしのねのあわだつおと、はずえをかぜのそよぐこえ、あたかもあめつちの) 蘆の根の泡立つ音、葉末を風の戦[そよ]ぐ声、あたかも天地[あめつち]の (つぶやきささやくがごとく、わがみのうえをかたるのを、ただゆめのようにききながら、) 呟き囁くがごとく、我が身の上を語るのを、ただ夢のように聞きながら、 (かおのじぞうににたなどは、おかしとうつつにもおもったが、いつごろ、) 顔の地蔵に似たなどは、おかしと現[うつつ]にも思ったが、いつごろ、 (どのじぶん、もうひとりのおうながきて、いつそのすがたがみえなくなったか、) どの時分、もう一人の嫗が来て、いつその姿が見えなくなったか、 (さだかにはおぼえなかった。たとえば、そよそよとふくかぜの、いつきて、) 定かには覚えなかった。たとえば、そよそよと吹く風の、いつ来て、 (いつやんだかをおぼえぬがごとく、ゆうひのいろの、なにのときに) いつ歇[や]んだかを覚えぬがごとく、夕日の色の、何の機[とき]に (わがそでを、さんいんへはずれたかをかたらぬごとく。) 我が袖を、山陰へ外れたかを語らぬごとく。 (さればそのあいだ、およそ、ときのいかばかりをすぎたかをわきまえず、つきよとばかり) さればその間、およそ、時のいかばかりを過ぎたかを弁えず、月夜とばかり (おもったのも、あかるくはれたきょうである。いつのほどにか、つぎざおも) 思ったのも、明るく晴れた今日である。いつの程にか、継棹[つぎざお]も (しょうねんのてにたたまれて、ふくろにはいって、ひもまでちゃんとゆわえてあった。) 少年の手に畳まれて、袋に入って、紐までちゃんと結[ゆわ]えてあった。 (こえをかけてみようとおもう、おうなはこやでくらいから、ほかのひとりはそこへとみやるに、) 声をかけて見ようと思う、嫗は小屋で暗いから、他の一人はそこへと見遣るに、 (たれもなし、つきをかたなる、やまのすそ、あしをしとねのねすがたのみ。) 誰[たれ]も無し、月を肩なる、山の裾、蘆を裀[しとね]の寝姿のみ。 (「けん、」) 「賢、」 (とよんだ、われながらきじのようにきこえたので、せきばらいして、) と呼んだ、我ながら雉子[きじ]のように聞えたので、咳[せきばらい]して、 (「けんくん、」) 「賢君、」 (「は、」) 「は、」 (とかいかつにへんじする。) と快活に返事する。 (「いまのばあさんはいくつぐらいにみえました。」) 「今の婆さんは幾歳[いくつ]ぐらいに見えました。」 (「このちゃみせのですか。」) 「この茶店のですか。」 (「いや、もうひとり、・・・・・・ここへきたとしよりがいたでしょう。」) 「いや、もう一人、・・・・・・ここへ来た年寄が居たでしょう。」 (「いいえ。」) 「いいえ。」 (「あれえ!ああ、あ、ああ・・・・・・」) 十三 「あれえ!ああ、あ、ああ・・・・・・」 (こわかった、むねがおどって、おさえたちぶさおもいよう、いまわしいゆめからさめた。) 恐かった、胸が躍って、圧[おさ]えた乳房重いよう、忌わしい夢から覚めた。 (うらこは、ひとりかやのうち。みのわななくのが) 浦子は、独り蚊帳の裡[うち]。身の戦[わなな]くのが (まだやまねば、うでをくみちがえにしっかりとりょうのかたをだいた、) まだ留[や]まねば、腕を組違えにしっかりと両の肩を抱いた、 (わきのしたからみゃくをうって、たらたらとつめたいあせ。) 腋の下から脈を打って、垂々[たらたら]と冷い汗。 (さてもそのよはあつかりしや、ゆめのおそれにもだえしや、) さてもその夜[よ]は暑かりしや、夢の恐怖[おそれ]に悶えしや、 (もみうらのきぬのかいまき、みぞおちをすべりのいて、) 紅裏[もみうら]の絹の掻巻[かいまき]、鳩尾を辷[すべ]り退[の]いて、 (ねまきのえもんくずれたる、ゆきのはだえにかやのいろ、) 寝衣[ねまき]の衣紋[えもん]崩れたる、雪の膚[はだえ]に蚊帳の色、 (ありあけのあかりにあおくそまって、まくらにみだれたびんのけも、) 残燈[ありあけ]の灯に青く染まって、枕に乱れた鬢[びん]の毛も、 (ねあせにしとどぬれたれば、えりおしろいもみずのかおり、みはただ、いましも) 寝汗にしとど濡れたれば、襟白粉も水の薫[かおり]、身はただ、今しも (もくずのなかをうかびでたかのおもいがする。) 藻屑の中を浮び出たかの思がする。 (まだからだがふらふらして、ゆかのとちゅうにあるような。これはねたときにいまもかわらぬ、) まだ身体がふらふらして、床の途中にあるような。これは寝た時に今も変らぬ、 (べつにあやしいことではない。ふたつめのはまのいしやがかたへ、くれがたぶつぞうを) 別に怪しい事ではない。二つ目の浜の石屋が方[かた]へ、暮方仏像を (あつらえにいったかえりを、いやな、ぶきみな、いまわしい、ばばの) あつらえに往った帰りを、厭な、不気味な、忌わしい、婆[ばば]の (あらものやのまえがとおりたくなさに、ちょうどみちしおをこげたから、) あらもの屋の前が通りたくなさに、ちょうど満潮[みちしお]を漕げたから、 (みるめのながれるいわのうえを、ふねでかえってきたせいであろう。) 海松布[みるめ]の流れる岩の上を、船で帰って来たせいであろう。 (ろをこいだのはせんさんであった、ゆめをこいだのもやっぱりせんさん。) 艪[ろ]を漕いだのは銑さんであった、夢を漕いだのもやっぱり銑さん。 (そのときはおりあしく、つりぶねもゆさんぶねもではらって、) その時は折悪[おりあし]く、釣船も遊山船[ゆさんぶね]も出払って、 (せんどうたちも、りょう、じびきでいそがしいから、といしやのおやかたがはまへでて、) 船頭たちも、漁、地曳[じびき]で急がしいから、と石屋の親方が浜へ出て、 (こぶねをいっそうかりてくれて、きしをこいでおいでなさい、やまからかぜが) 小舟を一艘[そう]借りてくれて、岸を漕いでおいでなさい、山から風が (ふけば、たたみをあるくよりあきらなもの、ふねをひっくりかえそうたって、) 吹けば、畳を歩行[ある]くより確なもの、船をひっくりかえそうたって、 (うみががってんするものではねえと、だいじょうぶにうけあうし、) 海が合点[がってん]するものではねえと、大丈夫に承合[うけあ]うし、 (せんたろうもなかなかしろうとばなれがしているよし、ひとのうわさも) 銑太郎もなかなか素人離れがしている由、人の風説[うわさ]も (きいているから、あんしんしてのってでた。) 聞いているから、安心して乗って出た。 (いわのあいだをすらすらとぬって、せんさんがふねをもってきてくれるあいだ、) 岩の間をすらすらと縫って、銑さんが船を持って来てくれる間、 (・・・・・・わたしはぎんのこなをうらごしにかけたようなうつくしいすなじにたって、) ・・・・・・私は銀の粉を裏ごしにかけたような美しい砂地に立って、 (あしもとまであいのえのぐをといたように、ひたひたかるくよせてくる、) 足許[あしもと]まで藍の絵具を溶いたように、ひたひた軽く寄せて来る、 (なみにこころはおかなかったが、またそうでもない。さっきのあらものやが) 浪に心は置かなかったが、またそうでもない。先刻[さっき]の荒物屋が (うしろへきて、あの、またへんなこえで、ごしんぞさまや、と) 背後[うしろ]へ来て、あの、また変な声で、御新祖様[ごしんぞさま]や、と (いいはしまいかと、たいていきをもんだことではない。・・・・・・) いいはしまいかと、大抵気を揉んだ事ではない。・・・・・・ (ばあさんはいくらもいる、ほんたくのおはりもばあさんなら、じぶんにおばがひとり、) 婆さんは幾らも居る、本宅のお針も婆さんなら、自分に伯母が一人、 (それもおばあさん。だいいちちかいところが、いまうちにいる、まつやのおふくろだと) それもお婆さん。第一近い処が、今内に居る、松やの阿母[おふくろ]だと (いって、このあいだりんそんからたずねてきた、それもとしより。なぜあんなに) いって、この間隣村から尋ねて来た、それも年より。なぜあんなに (おそろしかったか、じぶんにもわからぬくらい。) 恐ろしかったか、自分にも分らぬくらい。 (けむしはあやしいものではないが、ひとめみてもそうけだつ。おなじことで、) 毛虫は怪しいものではないが、一目見ても総毛立つ。おなじ事で、 (たとえぶきみだからといって、ちっともあやしいものではないと、せんさんは) たとえ不気味だからといって、ちっとも怪しいものではないと、銑さんは (いうけれど、あの、こがねいろのめ、きいろなかお、はうように) いうけれど、あの、黄金色の目、黄[きいろ]な顔、這うように (あるいたぐあい。ああ、おもいだしてもぞっとする。) 歩行[ある]いた工合。ああ、思い出しても悚然[ぞっ]とする。 (ふじんはかいまきのすそにさわって、つまさきからまたぞっとした。) 夫人は掻巻の裾に障って、爪尖[つまさき]からまた悚然[ぞっ]とした。 (けれどもそのとき、はまべにひとりたっていて、なんだかあやしいものなぞは) けれどもその時、浜辺に一人立っていて、なんだか怪しいものなぞは (よにあるものとはおもえないような、きじょうぶなかんがえのしたのは、) 世にあるものとは思えないような、気丈夫な考えのしたのは、 (じぶんがたたずんでいたしちはちけんさきの、きったてににじょうばかり、) 自分が彳[たたず]んでいた七八間さきの、切立[きった]てに二丈ばかり、 (おきからもゆるようなくれないのひかげもさせば、いちめんにはやまのみどりがつきにうつって、) 沖から燃ゆるような紅の日影もさせば、一面には山の緑が月に映って、 (ねりぎぬをさくような、やわらかなしらなみが、ねをひとまわり) 練絹[ねりぎぬ]を裂くような、柔[やわらか]な白浪が、根を一まわり (むすんじゃほどけてひろがる、おおきなたかいいわのうえに、みずいろのと、) 結んじゃ解けて拡がる、大きな高い巖[いわ]の上に、水色のと、 (びゃくえのと、ときいろのと、せいようのふじんがさんにん。) 白衣[びゃくえ]のと、水紅色[ときいろ]のと、西洋の婦人が三人。
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