悪獣篇 泉鏡花 8

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね1お気に入り登録
プレイ回数87難易度(4.5) 5174打 長文
泉鏡花の中編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 やまちゃん 3834 D++ 3.9 97.3% 1301.7 5130 139 99 2025/12/09

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問題文

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(びゃくえのがいちばんうえに、みずいろのそのかたが、ときいろのよりすこしたかく、いちだんしたに) 白衣のが一番上に、水色のその肩が、水紅色のより少し高く、一段下に (ふたりならんで、ゆびをくんだり、もすそをなげたり、むねをかるくそらしたり、) 二人並んで、指を組んだり、裳[もすそ]を投げたり、胸を軽くそらしたり、 (ときどきたのしそうにわらったり、はなしごえはきこえなかったが、さものんきらしく、) 時々楽しそうに笑ったり、話声は聞えなかったが、さものんきらしく、 (おもしろそうにあそんでいる。) おもしろそうに遊んでいる。 (それをまたそのひとびとのかいいぬらしい、けいろのいい、らっこのような) それをまたその人々の飼犬らしい、毛色のいい、猟虎[らっこ]のような (ちゃいろのかめの、くちのながい、みみのおおきなのが、なみぎわをはなれて、) 茶色の洋犬[かめ]の、口の長い、耳の大きなのが、浪際を放れて、 (いわのねにひかえてみていた。) 巖[いわ]の根に控えて見ていた。 (まあ、こんなひとたちもあるに、あのばあさんをばけものかなんぞのように、) まあ、こんな人たちもあるに、あの婆さんを妖物[ばけもの]か何ぞのように、 (こうまでこわがるのも、とはずかしくもあれば、またそんなひとたちがいる) こうまで恐[こわ]がるのも、と恥かしくもあれば、またそんな人たちが居る (よのなかに、とたのもしく。・・・・・・) 世の中に、と頼母[たのも]しく。・・・・・・ (と、うらこはかやにふるえながらおもいつづけた。) と、浦子は蚊帳に震えながら思い続けた。 (さんぶとなみにくろくとんで、らせんをえがくしろいみずあし、) 十四 さんぶと浪に黒く飛んで、螺線[らせん]を描く白い水脚[みずあし]、 (およぎだしたのはそのかめで。) 泳ぎ出したのはその洋犬[かめ]で。 (くるのはなにものだか、みとどけるつもりであったろう。) 来るのは何ものだか、見届けるつもりであったろう。 (ながいいぬのはなづらが、みずをでてういたむこうへ、せんさんがろをおして) 長い犬の鼻づらが、水を出て浮いたむこうへ、銑さんが艪をおして (おいでだった。) おいでだった。 (うしろのこまつばらのなかから、のそのそとひとがきたのに、ぎょっとしたが、) うしろの小松原の中から、のそのそと人が来たのに、ぎょっとしたが、 (それはいしやのおやかたで。) それは石屋の親方で。 (ぞうりばきでもぬれさせまいと、ふねがそこったあいだだけ、おぶってくれて、) 草履ばきでも濡れさせまいと、船がそこった間だけ、負[おぶ]ってくれて、 (のるとこぎだすのを、みずにまだ、あしをひたしたまま、ばんのような) 乗ると漕ぎ出すのを、水にまだ、足を浸したまま、鷭[ばん]のような
など
(すがたでたって、こしのふたつさげのたばこいれをぬいて、きせるといっしょに) 姿で立って、腰のふたつ提げの煙草入れを抜いて、煙管[きせる]と一所に (てにもって、ひざらをうつむけにしてふきながら、たしかなもんだたしかなもんだと、) 手に持って、火皿をうつむけにして吹きながら、確かなもんだ確かなもんだと、 (せんさんのろをほめていた。) 銑さんの艪を誉めていた。 (もうふねがいわのあいだをでたとおもうと、とがったへさきがするりとすべって、) もう船が岩の間を出たと思うと、尖った舳[へさき]がするりと辷って、 (なみのうえへのったから、ひやりとして、どうのまへてをついた。) 波の上へ乗ったから、ひやりとして、胴の間[ま]へ手を支[つ]いた。 (そのときろくしょういろのそのきったてのいわの、なぎさでみたとはおもむきがまたちがって、) その時緑青色のその切立ての巖[いわ]の、渚で見たとは趣がまた違って、 (かめのせにでものりそうな、なかごろへ、はやうすもやがかかったうえから、) 亀の背にでも乗りそうな、中ごろへ、早薄靄[うすもや]が掛った上から、 (びゃくえのがももいろの、みずいろのがしろのはんけちを、ふたりで、) 白衣[びゃくえ]のが桃色の、水色のが白の手巾[ハンケチ]を、二人で、 (ちいさくふったのを、じぶんはどうのまに、なかばそでをついて、たおれたように) 小さく振ったのを、自分は胴の間に、半ば袖をついて、倒れたように (なりながら、ぼうしのうちからあおいでみた。) なりながら、帽子の裡[うち]から仰いで見た。 (ふたつめのはまで、じびきをひくひとのかずは、みずをきったあみのさきに、) 二つ目の浜で、地曳[じびき]を引く人の数は、水を切った網の尖[さき]に、 (ふたすじくろくなってすなやまかけてはるかにみえた。) 二筋黒くなって砂山かけて遥かに見えた。 (ふねはみどりのいわのうえに、あさきあさぎのなみをわけ、おどろおどろかいそうのみだるるあたりは、) 船は緑の岩の上に、浅き浅葱の浪を分け、おどろおどろ海藻の乱るるあたりは、 (くろきせをぬけてもすぎたが、くびきりしずんだり、またぶくりとういたり、) 黒き瀬を抜けても過ぎたが、首きり沈んだり、またぶくりと浮いたり、 (いげたにくんだぼうのなかに、いけすがあちこち、さんさんごご。) 井桁[いげた]に組んだ棒の中に、生簀[いけす]があちこち、三々五々。 (かもめがちらちらとしろくとんで、はまのにかいやのまわりぶちを、) 鴎[かもめ]がちらちらと白く飛んで、浜の二階家のまわり縁を、 (ゆきかいするおんなもみえ、すだれをあげるうちわもみえ、さかみちのきりどおしを、) 行[ゆ]きかいする女も見え、簾を上げる団扇も見え、坂道の切通しを、 (くるまがならんでとぶのさえ、てにとるようにみえたもの。) 俥[くるま]が並んで飛ぶのさえ、手に取るように見えたもの。 (くがぢかなればきづかいもなく、ただけしきのよさに、) 陸近[くがぢか]なれば憂慮[きづか]いもなく、ただ景色の好[よ]さに、 (ああまでおそろしかったばばのいえ、おおでらのやぶがそことおもうなだを、) ああまで恐ろしかった婆の家、巨刹[おおでら]の藪がそこと思う灘を、 (いつこぎぬけたかわすれていたのに、なにをかんがえだして、) いつ漕ぎ抜けたか忘れていたのに、何を考え出して、 (またいまのいやなとしより。・・・・・・) また今の厭な年寄り。・・・・・・ (それがゆめか。) それが夢か。 (「ま、まって、」) 「ま、待って、」 (はてな、とふじんは、しろきうなじをまくらにつけて、おくれげのおとするまで、) はてな、と夫人は、白き頸[うなじ]を枕に着けて、おくれ毛の音するまで、 (がっくりとうちかたむいたが、みのわななくことなおやまず。) がッくりと打[うち]かたむいたが、身の戦くことなお留[や]まず。 (それともなぎさのすなにたって、いわのうえに、はるあきのうつくしいくもを) それとも渚の砂に立って、巖の上に、春秋[はるあき]の美しい雲を (みるような、さんにんのふじんのきぬをみたのがゆめか。うみもそらもすみすぎて、) 見るような、三人の婦人の衣[きぬ]を見たのが夢か。海も空も澄み過ぎて、 (うすもやのふぜいのたえにあまる。) 薄靄の風情の妙[たえ]に余る。 (けれども、いぬがおよいでいた、つきのなかならうさぎであろうに。) けれども、犬が泳いでいた、月の中なら兎であろうに。 (それにしても、またいしやのおやかたが、みずにたたずんだすがたがあやしい。) それにしても、また石屋の親方が、水に彳[たたず]んだ姿が怪しい。 (そういえばようがよう、ぶつぞうをたのみにゆくのだから、とじゅんれいじみたも) そういえば用が用、仏像を頼みに行[ゆ]くのだから、と巡礼染[じ]みたも (こころうれしく、ゆかたがけで、ぞうりで、ふたつめへでかけたものが、ひとのせなかで) 心嬉しく、浴衣がけで、草履で、二つ目へ出かけたものが、人の背[せなか]で (なみをわたって、ふねにのろうとはおもいもかけぬ。) 浪を渡って、船に乗ろうとは思いもかけぬ。 (いやいやおもいもかけぬといえば、あらものやの、あのとしより。) いやいや思いもかけぬといえば、荒物屋の、あの老婆[としより]。 (とおりがかりに、ちょいとほんのまっちをかいにはいったばかりで、) 通りがかりに、ちょいとほんの燐枝[マッチ]を買いに入ったばかりで、 (あんな、おそろしい、いまわしいぶきみなものを、しかもひるまみようとは、) あんな、恐ろしい、忌わしい不気味なものを、しかも昼間見ようとは、 (それこそゆめにもしらなかった。) それこそ夢にも知らなかった。 (ふねはそのためとしてみれば、いわのふじんもゆめではない。いしやのおやかたが) 船はそのためとして見れば、巖の婦人も夢ではない。石屋の親方が (じぶんをおぶって、せわをしてくれたのも、せんさんがふねをこいだのも、) 自分を背負[おぶ]って、世話をしてくれたのも、銑さんが船を漕いだのも、 (なみも、かもめもゆめではなくって、やっぱりいまのがゆめであろう。) 浪も、鴎も夢ではなくって、やっぱり今のが夢であろう。 (「ああ、おそろしいゆめをみた。」) 「ああ、恐しい夢を見た。」 (とかたがすくんで、もすそわなわな、ひとみをすえてこわごわあおぐ、) と肩がすくんで、裳[もすそ]わなわな、瞳を据えて恐々[こわごわ]仰ぐ、 (てんじょうのたかいこと。ぜんごさゆうは、どのくらいあるかわからず、すごくて) 天井の高い事。前後左右は、どのくらいあるか分らず、凄くて (みまわすことさえならぬ、かやにさみしきねみだれすがた。) 眴[みまわ]すことさえならぬ、蚊帳に寂しき寝乱れ姿。 (はたしてゆめならば、うみもおなじしおいりのあしまのみず。みずのどこからが) 十五 果して夢ならば、海も同じ潮入りの蘆間[あしま]の水。水のどこからが (ゆめであって、どこまでがじじつであったか。ふねはもうひとなみで、) 夢であって、どこまでが事実であったか。船はもう一浪[ひとなみ]で、 (ひとつめのはまへつくようになったとき、ここからあがって、くたびれたあしで) 一つ目の浜へ着くようになった時、ここから上って、草臥[くたび]れた足で (またすなをふもうより、おがわじりへこぎあがって、こものはを) また砂を蹈[ふ]もうより、小川尻[おがわじり]へ漕ぎ上って、薦の葉を (ひとまたぎ、やしきのせどのかきのきへ、とせんさんのいったことはたしかにいまも) 一またぎ、邸の背戸の柿の樹へ、と銑さんの言った事は確に今も (おぼえている。) 覚えている。 (ろよりはしおがおしいれた、かわじりのちとひろいところを、ふらふらとこぎのぼると、) 艪よりは潮が押し入れた、川尻のちと広い処を、ふらふらと漕ぎのぼると、 (なみのさきがひるがえって、しおのかげんもひともしごろ。) 浪のさきが翻って、潮の加減も点燈[ひともし]ごろ。 (ほばしらがにほんならんで、ふねがにそうかかっていた。ふなばたを) 帆柱が二本並んで、船が二艘[そう]かかっていた。舷[ふなばた]を (よこにとおって、きゅうにさむくなったはしのした、はしぐいにみずがひたひたする、) 横に通って、急に寒くなった橋の下、橋杭[はしぐい]に水がひたひたする、 (とんねるらしいもひとおもい。) 隧道[トンネル]らしいも一思い。 (いしがきのあるどてをみぎに、ひだりにいつもみるめより、すそもちかければ) 石垣のある土手を右に、左にいつも見る目より、裾[すそ]も近ければ (いただきもずっとたかい、かぶさるほどなるやまをみつつ、どうぶくれにひろくなった、) 頂もずっと高い、かぶさる程なる山を見つつ、胴ぶくれに広くなった、 (みずうみのようななかへ、よそのべっそうのはねばしが、) 湖のような中へ、他所[よそ]の別荘の刎橋[はねばし]が、 (ながれのなかば、きしちかしなすへかけたのが、) 流[ながれ]の半[なかば]、岸近な洲[す]へ掛けたのが、 (みちしおでいたものけてあった、はこにわのでんしんばしらかとおもうよう、) 満潮[みちしお]で板も除[の]けてあった、箱庭の電信ばしらかと思うよう、 (くいがすくすくとはりがねばかり。さんかくなりのすなじがむこうに、) 杭がすくすくと針金ばかり。三角形[さんかくなり]の砂地が向うに、 (あしのはがひとなびき、つるのかたつばさみるがごとく、こまつも) 蘆の葉が一靡[ひとなび]き、鶴の片翼[かたつばさ]見るがごとく、小松も (ふににてともとほど。) 斑[ふ]に似て十本[ともと]ほど。 (くれはてずともしはみえぬが、そのえだのなかをすくあおたごしに、) 暮れ果てず灯[ともし]は見えぬが、その枝の中を透く青田越しに、 (やねのたかいはもうわがや。ここのこまつのあいだをえらんで、きょうあつらえた) 屋根の高いはもう我が家。ここの小松の間を選んで、今日あつらえた (じぞうぼさつを) 地蔵菩薩を (ほとけさまでもだいじない、うじがみにしておまつりを、とせんさんにはなしながら) 仏様でも大事ない、氏神にして祭礼[おまつり]を、と銑さんに話しながら (みてすぎると、それなりにかわがまがって、ずっとみずがせもうなる、) 見て過ぎると、それなりに川が曲って、ずッと水が狭うなる、 (さゆうはあしがびょうとして。) 左右は蘆が渺[びょう]として。 (ふねがそのときぐるりとまわった。) 船がその時ぐるりと廻った。 (きしへきしへとつかうるよう。しまった、しおがとまったと、せんさんが) 岸へ岸へと支[つか]うるよう。しまった、潮が留[と]まったと、銑さんが (おどろいていった。ふなべりはあわだらけ。うりのたね、なすのかわ、わらのなかへこのはが) 驚いて言った。船べりは泡だらけ。瓜の種、茄子の皮、藁の中へ木の葉が (まじって、ふねもでなければあくたもながれず。まみずがここまで) 交[まじ]って、船も出なければ芥[あくた]も流れず。真水がここまで (おちてきて、しおにさからってもむせいで。) 落ちて来て、潮に逆らって揉むせいで。 (あせってせんさんのおしたふねが、がっきとあたってくいにつかえた。) あせって銑さんのおした船が、がッきと当って杭に支[つか]えた。 (しぶきがとんで、かたむいたふなばたへ、ぞろりとかかって、) 泡沫[しぶき]が飛んで、傾いた舷[ふなばた]へ、ぞろりとかかって、 (さらさらとみだれたのは、ひとたばねのおんなのくろかみ、ふたまきばかり) さらさらと乱れたのは、一束[ひとたばね]の女の黒髪、二巻ばかり (くいにまいたが、したにはなにがいるか、どろでわからぬ。) 杭に巻いたが、下には何が居るか、泥で分らぬ。
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