死せる魂 3
*1ワシーリイ・フョードルフ これは明らかに純然たるロシア名前であるのに、特に『外国人』と称しているところが滑稽である。
*2双頭の鷲のついた看板 当時、酒類は政府の専売となっており、酒場よりの収入が帝室の歳費に繰り入れられていたため、酒場の看板に帝室の紋章がつけてあったのである。
*3コツェプー アウグスト・フリードリッヒ・フェルジナンド(1761-1819)ドイツの劇作家。十七世紀末と十八世紀初頭の二期に亘りロシアに在住し、後にウィーンの帝室劇作家となったが、間諜の嫌疑によって死刑に処せられた。
第二
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順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | berry | 7041 | 王 | 7.2 | 97.1% | 554.4 | 4023 | 119 | 77 | 2024/12/17 |
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問題文
(きゅうじがまだそれをいちじいちじひろいよみしているあいだに、)
給仕がまだそれを一字々々拾い読みしている間に、
(ぱーうぇるいわーのヴぃっちちちこふはしないけんぶつにでかけていったが、)
パーウェル・イワーノヴィッチ・チチコフは市内見物に出かけて行ったが、
(このまちがほかのけんちょうしょざいちにくらべてすこしもおとっていないところをみて、)
この街が他の県庁所在地に比べて少しも劣っていないところを見て、
(どうやらまんぞくがいったらしい。)
どうやら満足がいったらしい。
(せきぞうかおくのきいろいとりょうはまぶしくめをい、)
石造家屋の黄いろい塗料は眩しく眼を射、
(もくぞうかおくのねずみいろのとりょうはつつましやかにくすんでみえた。)
木造家屋の鼠いろの塗料はつつましやかにくすんで見えた。
(かおくはいっかいだてのも、にかいだてのもあり、)
家屋は一階建のも、二階建のもあり、
(また、ちほうのけんちくしのかんがえではすばらしくうつくしいものとされている、)
また、地方の建築師の考えでは素晴らしく美しいものとされている、
(あいもかわらぬちゅうにかいつきの、いっかいはんだてというやつもあった。)
相も変らぬ中二階つきの、一階半建というやつもあった。
(こうしたいえいえが、ところによってはのはらのようにだだっぴろいとおりと)
こうした家々が、ところによっては野原のようにだだっぴろい通りと
(はてしもないもくさくのあいだにぽつんぽつんとたっており、)
涯しもない木柵の間にぽつんぽつんと立っており、
(ところによってはかたまってごちゃごちゃとたてこんでいた。)
ところによっては固まってごちゃごちゃと立てこんでいた。
(そういうところではひとのうごきがめにたって、いっそうかっきがあふれていた。)
そういうところでは人の動きが目に立って、一層活気があふれていた。
(ほとんどあめにさらされてしまったような、)
殆んど雨に晒されてしまったような、
(くれんでりやながぐつのえをかいたかんばんがめについた。)
クレンデリや長靴の絵を描いた看板が眼についた。
(またあおいずぼんのえをかいて)
また青いズボンの絵を描いて
(わるしゃわのさいほうしなにがしというようななまえをかかげているのもあった。)
ワルシャワの裁縫師何某というような名前を掲げているのもあった。
(かるつーずとかいぐんぼうのえをかいて、)
カルツーズと海軍帽の絵を描いて、
(「がいこくじんわしーりいふょーどるふ」となのりをあげているみせもあった。)
『外国人ワシーリイ・フョードルフ』と名乗りをあげている店もあった。
(またふたりのおとこがたまつきをやっているえかんばんもあったが、)
また二人の男が玉突をやっている絵看板もあったが、
(そのおとこたちには、ちょうどわがくにのげきじょうで、)
その男たちには、ちょうど我が国の劇場で、
(よくおおづめのまくにでるきゃくじんにふんしたやくしゃがきているようなえんびふくがきせてあった。)
よく大詰の幕に出る客人に扮した役者が著ているような燕尾服が著せてあった。
(そのきょうぎしゃたちは、きゅーをにぎったてをすこしうしろへひいて、)
その競技者たちは、キューを握った手を少し後ろへひいて、
(たったいまぴょんとひとつちょうやくしたばかりだといわんばかりに、)
立った今ピョンと一つ跳躍したばかりだと言わんばかりに、
(あしをしゃにかまえて、たまにねらいをつけているところである。)
足を斜にかまえて、玉に狙いをつけているところである。
(こうしたえのしたにはかならず「これすなわちとうてんなり」とかきそえてある。)
こうした絵の下には必らず『これ即ち当店なり』と書き添えてある。
(またむぞうさにとおりへてーぶるをすえつけて、くるみだの、せっけんだの、)
また無雑作に通りへテーブルを据えつけて、胡桃だの、石鹸だの、
(せっけんそっくりのしょうがもちだのをうっているところもあれば、)
石鹸そっくりの生薑餅だのを売っているところもあれば、
(まるまるとふとったさかなにふぉーくをつきさしたえかんばんをだしたにうりやもあった。)
丸々とふとった魚にフォークを突きさした絵看板を出した煮売屋もあった。
(なかでもいちばんおおくめにつくのは、)
中でも一番多く眼につくのは、
(いまでこそ「さかば」というかんたんなもじにかわってしまったけれど、)
今でこそ『酒場』という簡単な文字に変ってしまったけれど、
(そのころはまだていしつのもんしょうたるそうとうのわしを)
その頃はまだ帝室の紋章たる双頭の鷲を
(かんばんにつけていたのがきたなくくすんでしまったやつである。)
看板につけていたのが穢なくくすんでしまったやつである。
(ほどうはいたるところ、でこぼこしていた。)
鋪道は到るところ、でこぼこしていた。
(かれはこうえんもちょっとのぞいてみたが、そこにはほそいひょろひょろしたきが、)
彼は公園もちょっと覗いてみたが、そこには細いひょろひょろした木が、
(まだねもろくろくはっていないらしく、)
まだ根も碌々張っていないらしく、
(したのほうにさんかっけいにつっかいぼうをくんでうえてあるだけで、)
下の方に三角形に突支棒を組んで植えてあるだけで、
(そのつっかいぼうがまたおそろしくきれいにみどりいろのぺんきでぬりたててある。)
その突支棒がまた恐ろしく奇麗に緑いろのペンキで塗りたててある。
(それでも、こんなあしのせたけほどもないようなこだちのことも、)
それでも、こんな葦の背丈ほどもないような木立のことも、
(なにかでまちにいるみねーしょんのほどこされたことがしんぶんにでたおりには、)
何かで町にイルミネーションの施されたことが新聞に出た折には、
(「しとうきょくのはいりょにより、わがしはいまや、)
『市当局の配慮により、我が市は今や、
(じゅもくのうっそうとはんもせるこうえんによってかざられ、)
樹木の鬱蒼と繁茂せる公園によって飾られ、
(えんしょのこうにもせいりょうのきをまんきつしえるにいたれり。」とか、また、)
炎暑の候にも清涼の気を満喫し得るに至れり。』とか、また、
(「しみんのむねのかんげきにあふれてうちふるえ、)
『市民の胸の感激にあふれて打ち顫え、
(しちょうかっかにたいするかんしゃのなみださんぜんとしてくだるをみるはまことにいじらしきかぎりなり。」)
市長閣下に対する感謝の涙潸然として下るを見るは誠にいじらしき限りなり。』
(などとかきたてられたものである。)
などと書き立てられたものである。
(で、かれはじゅんさをつかまえて、きょうかいへはどういくのがいちばんちかいか、)
で、彼は巡査をつかまえて、教会へはどう行くのが一番ちかいか、
(かんちょうへはどう、ちじのやしきへはどうといったかぜに、)
官庁へはどう、知事の屋敷へはどうといった風に、
(くわしくみちをたずねてから、まちのちゅうおうをながれているかわをみにいった。)
詳しく道を訊ねてから、街の中央を流れている河を見に行った。
(そのとちゅうできのはしらにはりつけてあるしばいのびらをいちまいはぎとった。)
その途中で木の柱に貼りつけてある芝居のビラを一枚はぎとった。
(それはやどへかえってゆっくりみるためである。)
それは宿へ帰ってゆっくり見るためである。
(また、いたじきのほみちをあるいていくみめうるわしいひとりのふじんを、)
また、板敷きの歩道を歩いて行く見目うるわしい一人の婦人を、
(しげしげとみおくった。)
しげしげと見送った。
(おしきせのぐんぷくをきて、)
お仕着の軍服をきて、
(てにちいさいつつみをもったしょうねんがふじんのおともについていった。)
手に小さい包みを持った少年が婦人のお供について行った。
(かれはそのばしょのようすをいっそうはっきりおぼえておこうとでもするように、)
彼はその場所の様子を一層はっきり憶えておこうとでもするように、
(ひとわたりしほうをみまわしておいて、まっすぐにやどへかえると、)
一渉り四方を見まわしておいて、まっすぐに宿へ帰ると、
(きゅうじにちょっとむくろをささえられながらかいだんをのぼって、)
給仕にちょっと躯をささえられながら階段を登って、
(さっさとじぶんのへやへはいってしまった。)
さっさと自分の部屋へ入ってしまった。
(おちゃをいっぱいのんでから、てーぶるにむかってこしをおろすなり、)
お茶を一杯のんでから、テーブルにむかって腰をおろすなり、
(ろうそくをもってこさせて、れいのびらをぽけっとからとりだしたが、)
蝋燭を持って来させて、例のビラをポケットから取りだしたが、
(それをろうそくのあかりにちかづけると、)
それを蝋燭の灯に近づけると、
(みぎのめをちょっとしばたたくようにしながらよみにかかった。)
右の眼をちょっと屡叩くようにしながら読みにかかった。
(べつだんそのびらにはたいしたことはかかれていなかったーー)
別段そのビラには大したことは書かれていなかったーー
(こつぇぶーのしばいがかかっていて、ろーるのやくをぽぷりょーヴぃんが、)
コツェブーの芝居がかかっていて、ロールの役をポプリョーヴィンが、
(こーらのやくをじゃぶろわじょうがやるというだけで、)
コーラの役をジャブロワ嬢がやるというだけで、
(そのほかのやくしゃはいっこうめいもないてあいばかりであった。)
その他の役者は一向名もない手合いばかりであった。
(それでもかれはのこるくまなくそれにめをとおして、ひらどまのりょうきんまでしらべあげ、)
それでも彼は残る隈なくそれに眼をとおして、平土間の料金まで調べあげ、
(おまけに、このびらはけんのいんさつぶですったものだということまでたしかめた。)
おまけに、このビラは県の印刷部で刷ったものだということまで確かめた。
(それからうらにもなにかでていないかとおもって、ひっくりかえしてみたが、)
それから裏にも何か出ていないかと思って、引っくり返して見たが、
(なにもかいてなかったので、めをこすって、びらをきちんとたたむと、)
何も書いてなかったので、眼をこすって、ビラをきちんと畳むと、
(それをじぶんのてばこのなかへしまいこんだ。)
それを自分の手箱の中へしまいこんだ。
(かれにはなんでもてあたりしだいにこのてばこへしまいこむくせがあった。)
彼には何でも手あたり次第にこの手箱へしまいこむ癖があった。
(さてこのひは、こうしのれいにくをひとさらとくわすいっぽんをたいらげてから、)
さてこの日は、犢の冷肉を一皿とクワス一本を平らげてから、
(こうだいむへんなわれがろしあていこくのちほうによっては、よくいいぐさにされている、)
広大無辺な我がロシア帝国の地方によっては、よく言い草にされている、
(いいゆる「ふいごのようなだいいびき」をかいてねこんでしまうことで、)
謂ゆる『鞴のような大鼾』をかいて寝こんでしまうことで、
(どうやらまくになったらしい。)
どうやら幕になったらしい。