死せる魂 5
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問題文
(ああ!このよのなかでは、)
噫!この世の中では、
(やせがたのれんちゅうよりもふとりじしのれんちゅうのほうがたしかにじょうずにものごとをやりとげてゆく。)
痩形の連中よりも肥り肉の連中の方が確かに上手に物事をやり遂げてゆく。
(やせがたのれんちゅうというものは、どちらかといえば、)
痩形の連中というものは、どちらかといえば、
(せいぜいしょくたくぐらいのつとめにありつくか、)
せいぜい嘱託ぐらいの勤めにありつくか、
(それともただめいもくだけのやくをあてがわれて、)
それともただ名目だけの役を当てがわれて、
(あちらへぺたぺたこちらへぺたぺたと、とんとしりがおちつかず、)
あちらへペタペタこちらへペタペタと、頓と尻が落ち着かず、
(みょうにそのそんざいがふわふわしていて、ふけばとびそうでたよりないことおびただしい。)
妙にその存在がふわふわしていて、吹けば飛びそうで頼りないこと夥しい。
(ふとったれんちゅうはそこへいくとけっしてぼうけいてきなちいなどにはとどまっていないで、)
肥った連中はそこへ行くと決して傍系的な地位などには止どまっていないで、
(いつもじゅうようなちょくぞくのちいをしめ、そこにすわったがさいご、)
いつも重要な直属の地位を占め、そこに坐ったが最後、
(がっちりとこしをおちつけてかまえこんでしまうから、)
がっちりと腰を落ちつけて構えこんでしまうから、
(むしろいすのほうでひめいをあげてへたばってしまうけれど、)
寧ろ椅子の方で悲鳴をあげてへたばってしまうけれど、
(かれらじしんはあえてびくともすることではない。)
彼等自身は敢てビクともすることではない。
(かれらはけばけばしたがいけんがきらいで、)
彼等はけばけばした外見が嫌いで、
(きているえんびふくもやせたれんちゅうのほどじょうずなしたてではないが、)
著ている燕尾服も痩せた連中のほど上手な仕立ではないが、
(そのかわりかねばこのなかにはおたからがうなっているのだ。)
その代り金箱の中にはお宝が唸っているのだ。
(やせがたのれんちゅうは、さんねんもすればひとりのこらずのうどをしゃっきんのかたにいれてしまうが、)
痩形の連中は、三年もすれば一人残らず農奴を借金の形に入れてしまうが、
(ふとりじしのほうはたいぜんとかまえていながら、いつのまにかーー)
肥り肉の方は泰然と構えていながら、いつの間にかーー
(どこかまちはずれに、さいくんのなまえでかったいえがひょっこりあらわれる。)
何処か町はずれに、細君の名前で買った家がひょっこりあらわれる。
(またほかのまちはずれにべつのいえがたつ。)
また他の町はずれに別の家が建つ。
(それからしのきんざいのしょうそんがてにはいり、)
それから市の近在の小村が手に入り、
(ついでじしょやさんりんのかんびしたりっぱなむらがわがものになる。)
次いで地所や山林の完備した立派な村が我がものになる。
(やがてのことにふとったおとこはかみとこっかへのほうこうをおえ、)
やがてのことに肥った男は神と国家への奉公を終え、
(せけんてきなそんけいをかちえてめでたくしょくをしりぞくと、いなかへひっこんでじぬしになるーー)
世間的な尊敬を贏ち得て目出たく職を退くと、田舎へひっこんで地主になるーー
(つまり、おしもおされもせぬろしあのだんなしゅうとしておさまり、)
つまり、押しも押されもせぬロシアの旦那衆として納まり、
(おきゃくずきのじぬしとなって、ごしょうあんらくによせいをおくることになる。)
お客好きの地主となって、後生安楽に余生を送ることになる。
(ところがそのしごには、またもややせがたのそうぞくにんがあらわれて、)
ところがその死後には、またもや痩形の相続人が現われて、
(ろしあのしゅうかんにたがわず、)
ロシアの習慣にたがわず、
(たちまちにしておやじのぜんざいさんをまきちらしてしまうのである。)
忽ちにして親爺の全財産を撒き散らしてしまうのである。
(ちちこふがいちどうをながめまわしながら、)
チチコフが一同を眺めまわしながら、
(ざっとこんなようなことをむねにうかべていたことはいなみがたい。)
ざっとこんなようなことを胸に浮かべていたことは否み難い。
(そのけっか、かれはついにふとったれんちゅうのなかまへはいったが、)
その結果、彼はついに肥った連中の仲間へ入ったが、
(そこには、すでにかれのみしりごしのじんぶつが、ほとんどぜんぶそろっていた。)
そこには、既に彼の見知り越しの人物が、殆んど全部そろっていた。
(まっくろなこいまゆをしたけんじは、)
真黒な濃い眉をした検事は、
(まるで「おい、きみ、あちらのへやへいこう、ちょっとはなしがあるから」)
まるで『おい、君、あちらの部屋へ行こう、ちょっと話があるから』
(とでもいうように、ひだりのめでたえずめくばせをしているようなくせがある。)
とでも言うように、左の眼で絶えず眴せをしているような癖がある。
(けれどこのおとこは、しごくまじめなむっつりやなのだ。)
けれどこの男は、至極真面目なむっつり屋なのだ。
(ゆうびんきょくちょうはせたけのちんちくりんなおとこだが、しかしとんちがあって、)
郵便局長は背丈のちんちくりんな男だが、しかし頓智があって、
(なかなかのてつがくしゃだ。)
なかなかの哲学者だ。
(さいばんしょちょうはひじょうにしりょふんべつのあるあいきょうものだーー)
裁判所長は非常に思慮分別のある愛嬌者だーー
(こういったれんちゅうがみな、ちちこふをふるいしりあいのようにかんげいした。)
こういった連中がみな、チチコフを古い知合いのように歓迎した。
(それにたいしてかれは、ちょっときどったえしゃくをしたが、)
それに対して彼は、ちょっと気取った会釈をしたが、
(それでもいちいちうれしそうなかおつきをすることはけっしてわすれなかった。)
それでも一々嬉しそうな顔つきをすることは決して忘れなかった。
(そのばでかれは、ひどくあいそがよくてこしのひくいじぬしのまにーろふや、)
その場で彼は、ひどく愛想がよくて腰の低い地主のマニーロフや、
(みたところいささかがさつなそばけーヴぃっちとしりあいになったが、)
見たところ聊かがさつなソバケーヴィッチと知合いになったが、
(このそばけーヴぃっちは、しょっぱなからかれのあしをふんづけておいて、)
このソバケーヴィッチは、しょっぱなから彼の足をふんづけておいて、
(「やあ、ごめんなさい。」といったものだ。)
『やあ、御免なさい。』と言ったものだ。
(さっそくヴぃすとのさつをおしつけられたので、)
さっそくヴィストの札を押しつけられたので、
(かれはあいもかわらずいんぎんにおじぎをして、それをひきうけた。)
彼は相も変らず慇懃にお辞儀をして、それを引き受けた。
(かれらはみどりいろのてーぶるにむかってじんどると、)
彼等は緑色のテーブルにむかって陣取ると、
(そのままばんさんのでるまでこしをあげなかった。)
そのまま晩餐の出るまで腰をあげなかった。
(なにかしんけんなしごとにみをいれるといつもそうであるように、)
何か真剣な仕事に身を入れるといつもそうであるように、
(かいわははたととだえてしまった。)
会話ははたと跡絶えてしまった。
(ゆうびんきょくちょうはひじょうにくちだっしゃなおとこであったが、そのゆうびんきょくちょうですら、)
郵便局長は非常に口達者な男であったが、その郵便局長ですら、
(かるたのさつをてにとるとどうじに、そのかおにしさいらしいひょうじょうをうかべて、)
骨牌の札を手に取ると同時に、その顔に仔細らしい表情を浮かべて、
(じょうしんをかしんでかくしたまま、しょうぶがつづいているあいだじゅう、)
上唇を下唇でかくしたまま、勝負がつづいている間じゅう、
(そのようすをかえなかった。)
その容子を変えなかった。
(かれはえふだをだすときには、かたてでとんとてーぶるをたたいて、)
彼は絵札を出す時には、片手でトンとテーブルを叩いて、
(それがくいーんなら「さあいけ、おいぼれのぼんさいめ!」)
それがクイーンなら『さあ行け、老耄れの梵妻め!』
(またきんぐなら「いっちまえ、たんぼふけんのどびゃくしょうめ!」)
またキングなら『行っちまえ、タンボフ県の土百姓め!』
(などとすてぜりふをいったものだ。)
などと捨台詞を言ったものだ。
(そうするとさいばんしょちょうがこんなことをいった。)
そうすると裁判所長がこんなことを言った。
(「じゃあ、ぼくがそいつのひげっつらをこうきってくれるわさ!)
『じゃあ、僕がそいつの髭っ面をこう切ってくれるわさ!
(そのおんなのひげっつらもこうきってな!」)
その女の髭っ面もこう切ってな!』
(ときにはまた、ふだがてーぶるへたたきつけられるたんびに、)
時にはまた、札がテーブルへ叩きつけられるたんびに、
(「えい!のるかそるかだ、ほかにないからだいやといこう!」)
『えい! 伸るかそるかだ、他にないからダイヤと行こう!』
(などとかけごえがかけられる、そうかとおもうと、かんたんに)
などと掛声がかけられる、そうかと思うと、簡単に
(「そら、はーとだ!はーとのむしっくいだ!すぺおおやけだ!」とか、)
『そら、ハートだ! ハートの虫っ喰いだ! スペ公だ!』とか、
(「すぺーどやろうだ!すぺーどあまだ!すぺっこだ!」とか、)
『スペード野郎だ! スペードあまだ! スペっ子だ!』とか、
(また、もっとかんたんに「すぺだ!」とどなったりする。)
また、もっと簡単に『スペだ!』と呶鳴ったりする。
(これは、このなかまうちでおのおののふだにつけかえたなまえである。)
これは、この仲間うちで各々の札につけ替えた名前である。
(いちしょうふかたづくと、れいによってれいのごとく、かなりそうぞうしくぎろんをたたかわした。)
一勝負かたづくと、例によって例の如く、かなり騒々しく議論を闘わした。
(わがしんらいのきゃくもおなじようにぎろんにくわわったけれど、ひどくようりょうがよかったので、)
わが新来の客も同じように議論に加わったけれど、ひどく要領がよかったので、
(いちどうは、このおとこはぎろんをしながら、)
一同は、この男は議論をしながら、
(それでいてきもちのよいせりふをつかうわいとおもった。)
それでいて気持の好い台詞を使うわいと思った。
(かれはけっして、「おいでなすったね」などとはいわないで、)
彼は決して、『おいでなすったね』などとは言わないで、
(「はあ、そうおやりになるのですね、)
『はあ、そうおやりになるのですね、
(ではこのつーはひとつきらせていただきますよ」などといったちょうしである。)
ではこのツーはひとつ切らせて頂きますよ』などといった調子である。
(なにごとかをじぶんのてきにいっそうよくなっとくさせようとおもうと、)
何事かを自分の敵に一層よく納得させようと思うと、
(そのたんびにかれはえなめるをかけたぎんのかぎたばこいれをあいてのまえへさしだした。)
そのたんびに彼はエナメルをかけた銀の嗅煙草入れを相手の前へ差し出した。
(そのそこには、かおりをよくするために、すみれのはながふたついれてあるのがめについた。)
その底には、香りをよくするために、菫の花が二つ入れてあるのが眼についた。
(とくにこのたびびとは、)
特にこの旅人は、
(まえにのべたじぬしのまにーろふとそばけーヴぃっちにちゅういをむけていた。)
前に述べた地主のマニーロフとソバケーヴィッチに注意を向けていた。
(かれはさっそく、さいばんしょちょうとゆうびんきょくちょうをちょっとかたわらへよんで、)
彼は早速、裁判所長と郵便局長をちょっと傍らへよんで、
(ふたりのみのうえをききただした。)
二人の身の上を訊き糺した。
(かれのもちかけたじゃっかんのしつもんから、このおきゃくのはらにはたんなるこうきしんではなく、)
彼の持ちかけた若干の質問から、このお客の肚には単なる好奇心ではなく、
(なにかしたこころがあるのだということがうなずかれた。)
何か下心があるのだということが頷かれた。
(というのは、かれはまずなによりまっさきに、)
というのは、彼はまず何より真先に、
(ふたりがそれぞれどのくらいのうどをもっているか、)
二人がそれぞれどのくらい農奴を持っているか、
(またりょうちはどんなじょうたいにおかれているか、などということを、)
また領地はどんな状態に置かれているか、などということを、
(ねほりはほりたずねてから、はじめて、なまえやふしょうをきいたからである。)
根掘り葉掘り訊ねてから、初めて、名前や父称を訊いたからである。