悪獣篇 泉鏡花 11

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね1お気に入り登録
プレイ回数193難易度(4.1) 4491打 長文
泉鏡花の中編小説
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 やまちゃん 4264 C+ 4.3 97.4% 1017.7 4459 119 99 2025/12/09

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問題文

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(かいのばば、わずかにてをほどき、おとがいでえりをさぐって、) 峡[かい]の婆、僅[わずか]に手を解き、頤[おとがい]で襟を探って、 (ぶしょうらしくつまみだした、ゆびのつめの) 無性[ぶしょう]らしく撮[つま]み出した、指の爪の (ながくはえのびたかとみえるのを、ひとつぶるぶるとふってちかづき、) 長く生伸[はえの]びたかと見えるのを、一つぶるぶると掉[ふ]って近づき、 (おとぎばなしのえにかいたげかいしゃというていで、おののくくちびるに) お伽話の絵に描いた外科医者という体[てい]で、震[おのの]く唇に (かすかにみえる、ふじんのしらはのうえをぬうよ。) 幽[かすか]に見える、夫人の白歯[しらは]の上を縫うよ。 (うらこのすがたははげしくゆれたが、こえははじめからえたてなかった。) 浦子の姿は烈[はげ]しく揺れたが、声は始めから得[え]立てなかった。 (めはみひらいていたのである。) 目は睜[みひら]いていたのである。 (「もうよいわいの、」) 「もう可[よ]いわいの、」 (とかいのばば、かたわらにみをひらくと、さかのしたのあねさまは、ふじんのかたのしたへてをいれて、) と峡の婆、傍らに身を開くと、坂の下の姉様は、夫人の肩の下へ手を入れて、 (りょうかたのわきをだいておこした。) 両肩の傍[わき]を抱いて起した。
(「ござれ、すのまたのごぜん、」) 「ござれ、洲の股の御前、」 (といって、さかしたのあねさま、ふじんのかたてを。) といって、坂下の姉様、夫人の片手を。 (すのまたのごぜんも、おなじくかたわらからふじんのかたてを。) 洲の股の御前も、おなじく傍[かたわら]から夫人の片手を。 (ぐい、ととって、ひったてる。みぎとひだりへ、なよやかにわきをひらいて、) ぐい、と取って、引立[ひった]てる。右と左へ、なよやかに脇を開いて、 (しごきのはしがふちをはなれた。かみのねはまげながら、) 扱帯[しごき]の端が縁を離れた。髪の根は髷[まげ]ながら、 (こうがいながら、がっくりとかたにくずれて、はやさやいつあしばかり、) 笄[こうがい]ながら、がッくりと肩に崩れて、早や五足[いつあし]ばかり、 (つられぐあいに、ちょうずばちを、うらのかきねへさそわれゆく。) 釣られ工合に、手水鉢[ちょうずばち]を、裏の垣根へ誘われ行[ゆ]く。 (うしろにのこって、すなじにひとりかいのばば、くだんのてを) 背後[うしろ]に残って、砂地に独り峡の婆、件[くだん]の手を (こしにきめて、かたがりながら、かたてをまえへ、ななめにひとあおり、) 腰に極[き]めて、傾[かた]がりながら、片手を前へ、斜めに一煽り、 (はたとあおると、あまどはおのずからきりきりとうごいてしまった。) ハタと煽ると、雨戸はおのずからキリキリと動いて閉[しま]った。
など
(ふたりのばばにさしはさまれ、いちにんにみちびかれて、) 二人の婆に挟[さしはさ]まれ、一人[いちにん]に導かれて、 (うすずみのえのように、くぐりもんをつれださるるとき、ふじんのすがたは) 薄墨の絵のように、潜門[くぐりもん]を連れ出さるる時、夫人の姿は (うしろざまにそって、かたへかおをつけて、ふりかえってあとをみたが、) 後[うしろ]ざまに反って、肩へ顔をつけて、振返ってあとを見たが、 (なごりおしそうであわれであった。) 名残惜しそうであわれであった。 (ときしもいちめんのうすがすみにところどころつやあるよう、つきのかげに、) 時しも一面の薄霞[うすがすみ]に処々艶あるよう、月の影に、 (あまどはしんとつらなって、あさがおのはをふくかぜに、さっとみだれて、) 雨戸は寂[しん]と連[つらな]って、朝顔の葉を吹く風に、さっと乱れて、 (はながみがちらちらと、れんぽのあとのここかしこ、ふじんをしとうて) 鼻紙がちらちらと、蓮歩[れんぽ]のあとのここかしこ、夫人をしとうて (ちりぢりなり。) 散々[ちりぢり]なり。 (あとしらなみのよせてはかえす、なぎさながく、みはただ、) あと白浪[しらなみ]の寄せては返す、渚[なぎさ]長く、身はただ、 (きなるくもをふむと、もすそもそらにはまべをひかれて、) 黃なる雲を蹈[ふ]むと、裳[もすそ]も空に浜辺を引かれて、 (どれだけきたか、あまのおとのただごうごうときゆるあたり。) どれだけ来たか、海の音のただ轟々[ごうごう]と聞ゆるあたり。 (「ここじゃ、ここじゃ。」) 「ここじゃ、ここじゃ。」 (どしりとふじんのよこたおし。) どしりと夫人の横倒[よこたおし]。 (「きたぞや、きたぞや、」) 「来たぞや、来たぞや、」 (「いまははや、きずい、きままになるのじゃに。」) 「今は早や、気随、気ままになるのじゃに。」 (いずこのはてか、すなのうえ。ここにもふねのかたちのとりがねていた。) 何処[いずこ]の果[はて]か、砂の上。ここにも船の形の鳥が寝ていた。 (ぐるりとさんにん、みつがなえにふじんをまいた、きんのめと、ぎんのめと、) ぐるりと三人、三[み]つ鼎[がなえ]に夫人を巻いた、金の目と、銀の目と、 (べにいとのめのむっつを、あしきほしのごとくきらきらと) 紅糸[べにいと]の目の六つを、凶[あし]き星のごとくキラキラと (いさごのうえにかがやかしたが、) 砂[いさご]の上に輝かしたが、 (「じぞうぼさつまつれ、ふぁふぁ、」とあざわらって、やまのかいがはたとてびょうし。) 「地蔵菩薩祭れ、ふァふァ、」と嘲笑って、山の峡[かい]がハタと手拍子。 (「やまのかいははんじょうじゃ、あはは、」とすのまたのごぜん、あしをあげる。) 「山の峡は繁昌[はんじょう]じゃ、あはは、」と洲の股の御前、足を挙げる。 (「すのまたもめでたいな、うふふ。」) 「洲の股もめでたいな、うふふ。」 (とほくそえみつつ、さかしたのおうなはこしをひねった。) と北叟笑[ほくそえ]みつつ、坂下の嫗は腰を捻った。 (もろごえ[もろごえ]に、) 諸声[もろごえ]に、 (「ふぁふぁふぁ、」) 「ふァふァふァ、」 (「うふふ、」) 「うふふ、」 (「あはははは。」) 「あはははは。」 (こんどはすのまたのごぜんがてをうつ。) 今度は洲の股の御前が手を拍[う]つ。 (「じぞうぼさつまつれ。」) 「地蔵菩薩祭れ。」 (とやまのかいがひとあしでる、そのあとへいしきをひねって、) と山の峡が一足出る、そのあとへ臀[いしき]を捻って、 (「やまのかいははんじょうじゃ。」) 「山の峡は繁昌じゃ。」 (「すのまたもめでたいな、」) 「洲の股もめでたいな、」 (「さかのしたいわいましょ、」) 「坂の下祝いましょ、」 (「じぞうぼさつまつれ。」) 「地蔵菩薩祭れ。」 (さすてひくてのちょうしをあわせた、なみのしらべ、まつのきょく。おどろおどろと) さす手ひく手の調子を合わせた、浪の調[しらべ]、松の曲。おどろおどろと (つきおちて、よはただもやとなるなかに、もののかげが、おどるわ、おどるわ。) 月落ちて、世はただ靄[もや]となる中に、ものの影が、躍るわ、躍るわ。 (ここに、ひとつめとふたつめのはまざかい、なみまのいわを) 二十 ここに、一つ目と二つ目の浜境[はまざかい]、浪間の巖[いわ]を (すそにひたして、みちばたにつとたかい、) 裾[すそ]に浸して、路傍[みちばた]に衝[つ]と高い、 (いちざらのごときおかがある。) 一座螺[ら]のごとき丘がある。 (そのいただきへ、あけがたのめをちばしらして、たいそくをついて) その頂へ、あけ方の目を血走らして、大息を吐[つ]いて (たたずんだのは、さじまにやどれるとりやまれんぺい。) 彳[たたず]んだのは、狭島[さじま]に宿れる鳥山廉平。 (れいのしまのしゃつに、そのかすりのひとえを) 例の縞[しま]の襯衣[しゃつ]に、その綛[かすり]の単衣[ひとえ]を (きて、こんのこくらのおびをぐるぐるとまきつけたが、) 着て、紺の小倉[こくら]の帯をぐるぐると巻きつけたが、 (じんじんばしょりのからずねに、ぞうりばきで) じんじん端折[ばしょ]りの空脛[からずね]に、草履ばきで (ぼうはかぶらず。) 帽は冠[かぶ]らず。 (きのうはおりめもただしかったが、つゆにしおれてかいしょうがなさそう、たかいところで) 昨日は折目も正しかったが、露にしおれて甲斐性が無さそう、高い処で (なげくびして、いたくくたびれたさまがみえた。おそらく) 投首[なげくび]して、太[いた]く草臥れた状[さま]が見えた。恐らく (すわといってはねおきて、べっそうじゅう、うえをしたへさわいだなかに、) 驚破[すわ]と言って跳ね起きて、別荘中、上を下へ騒いだ中に、 (しゃつをつけてひとつひとつそのこはぜをかけたくらい、おちついていたものは、) 襯衣を着けて一つ一つそのこはぜを掛けたくらい、落着いていたものは、 (このじんぶつばかりであろう。) この人物ばかりであろう。 (それさえ、よなかからあかつきへひきだされたような、とりとめのないなりかたち、) それさえ、夜中から暁へ引出されたような、とり留めのないなり形、 (ほかのひとびとはおもいやられる。) 他の人々は思いやられる。 (せんたろう、けんのすけ、じょちゅうのまつ、なかばたらき、かかえしゃふは) 銑太郎、賢之助、女中の松、仲働[なかばたらき]、抱え車夫は (いうまでもない。おりからいあわせたぶちなかまのりょうしもしごにん、) いうまでもない。折から居合わせた賭博仲間[ぶちなかま]の漁師も四五人、 (べっそうをひっぷるって、はっぽうへてをわけて、きゅうにすがたのみえなくなった) 別荘を引[ひっ]ぷるって、八方へ手を分けて、急に姿の見えなくなった (うらこをさがしにかけまわる。いましがたみちをはさんだむこうがわのやまのすそを、) 浦子を捜しに駈[か]け廻る。今しがた路を挟んだ向う側の山の裾を、 (ちらちらともやにともれて、たいまつのひのとんだもそれよ。れんぺいが) ちらちらと靄[もや]に点[とも]れて、松明の火の飛んだもそれよ。廉平が (このおかへなかばよじのぼったころ、きえたか、かくれたか、) この丘へ半ば攀[よ]じ上った頃、消えたか、隠れたか、 (やがてみえなくなった。) やがて見えなくなった。 (もとよりあてのないたずねびと。どこへ、とけんとうはちっともつかず、) もとより当[あて]のない尋ね人。どこへ、と見当はちっとも着かず、 (ただあしにまかせて、かなたこなた、おなじところをしごたびも、) ただ足にまかせて、彼方此方[かなたこなた]、同じ処を四五度も、 (およそにさんりのみちはもうあるいた。) およそ二三里の路はもう歩行[ある]いた。 (ふしょうなげんをはなつものは、いわくかわやからつきにうかれて、) 不祥な言を放つものは、曰く厠から月に浮かれて、 (なみにさそわれたのであろうもしれず、とすなわちふねをこぎいだしたのも) 浪に誘われたのであろうも知れず、と即ち船を漕ぎ出[いだ]したのも (あるほどで。) 有るほどで。 (しんだは、いきたは、ほんたくのしゅじんへでんぽうを、とくもでにざしきへ) 死んだは、活きたは、本宅の主人へ電報を、と蜘蛛手[くもで]に座敷へ (ちりみだれるのを、さわぐまい、さわぐまい。けいろのかわったいぬいっぴき、) 散り乱れるのを、騒ぐまい、騒ぐまい。毛色のかわった犬一疋[いっぴき]、 (においのたかいそうざいにも、みるめ、かぐはなのせまいとちがら、) 匂[におい]の高い総菜にも、見る目、齅[か]ぐ鼻の狭い土地がら、 (おもかげをゆめにみて、やまへゆりのはなおりにひょうぜんとして) 俤[おもかげ]を夢に見て、山へ百合の花折りに飄然[ひょうぜん]として (でかけられたかもはかられぬを、さじまのふじん、やはんより、そのゆくえが) 出かけられたかも料[はか]られぬを、狭島の夫人、夜半より、その行方が (わからぬなどと、さわぐまいぞ、おのおの。こころしてないぶんにおさがしもうせと、) 分らぬなどと、騒ぐまいぞ、各自[おのおの]。心して内分にお捜し申せと、 (ひとりおししずめてせいしたこのひと。) 独り押鎮めて制したこの人。 (れんぺいとても、ふじんがうおのよるをみようでなし、こんなおかへ、) 廉平とても、夫人が魚[うお]の寄るを見ようでなし、こんな丘へ、 (よもや、とはおもったけれども、さて、どこ、というめあてがないので、) よもや、とは思ったけれども、さて、どこ、という目的[めあて]がないので、 (ふねでさがしにでたのにたいして、そぞろにくもをつかむのであった。) 船で捜しに出たのに対して、そぞろに雲を攫[つか]むのであった。 (めのしたのはまには、ほそいきがごろっぽん、ひょろひょろとかぜにもまれたままのかたちで、) 目の下の浜には、細い木が五六本、ひょろひょろと風に揉まれたままの形で、 (しずまりかえってみえたのは、ときどきしおがみちてねをあらうので、こずえは) 静まり返って見えたのは、時々潮が満ちて根を洗うので、梢[こずえ]は (それよりそだたぬならん。) それより育たぬならん。 (それよりそだたぬならん。) それより育たぬならん。
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