泉鏡花 悪獣篇 12

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投稿者投稿者神楽@社長推しいいね2お気に入り登録
プレイ回数208難易度(4.2) 5231打 長文 かな
泉鏡花の中編小説です
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 やまちゃん 4232 C 4.3 98.0% 1203.5 5200 106 100 2025/12/10

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問題文

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(ちょうどひきしおのうみのいろは、けむりのなかにあいをたたえて、あるいは) ちょうど引潮の海の色は、煙の中に藍を湛[たた]えて、或[あるい]は (じゅうじょう、にじゅうじょう、ごじょう、さんじょう、まさごのゆかにたえてはつらなる、) 十畳、二十畳、五畳、三畳、真砂[まさご]の床に絶えては連なる、 (たいらないわの、あめつちのくしきてに、かなづちのあとの) 平らな岩の、天地[あめつち]の奇[く]しき手に、鉄槌[かなづち]のあとの (みゆるあり、けずりかけのやすりのめのたったるあり。のみのはがたを) 見ゆるあり、削りかけの鑢[やすり]の目の立ったるあり。鑿[のみ]の歯形を (しるしたる、のこぎりのくずかとかけかけしたる、そのひとつひとつに、) 印したる、鋸[のこぎり]の屑かと欠々[かけかけ]したる、その一つ一つに、 (しらなみのうたでひるがえるとばかりみえておとのないのは、いわをかざったみる、) 白浪の打たで翻るとばかり見えて音のないのは、岩を飾った海松[みる]、 (ところ、あわび、かきなどいうものの、よわにはいた) ところ、あわび、蠣[かき]などいうものの、夜半[よわ]に吐いた (きをおさめず、まだほのぼのとゆらぐのが、なぎさをこめてむすのである。) 気を収めず、まだほのぼのと揺[ゆら]ぐのが、渚を籠めて蒸すのである。 (ぎょかにさん。ふかぶかととまやをふせて、やねよりたかくくちをあけたり、) 漁家二三。深々と苫屋[とまや]を伏せて、屋根より高く口を開けたり、 (いえよりおおきくそこをみせたり、ころりころりとおおびくがいつつむっつ。) 家より大きく底を見せたり、ころりころりと大畚[おおびく]が五つ六つ。
(さてこのおかのねにひきよせて、いっそうとまをかけたふねがあった。) 二十一 さてこの丘の根に引寄せて、一艘[そう]苫を掛けた船があった。 (あまもみのきるしぐれかな、しおのしぶきはあびながら、) 海士[あま]も蓑[みの]きる時雨かな、潮の潵[しぶき]は浴びながら、 (よつゆやいとう、とものやさしく、よろけたまつにこづなをひかえ、) 夜露や厭[いと]う、ともの優しく、よろけた松に小綱を控え、 (めおのなみのすがたにひろげて、すらすらとほしたつなをしきねに、) 女男[めお]の波の姿に拡げて、すらすらと乾[ほ]した綱を敷寝に、 (みよしのくちがすやすやと、みはてぬゆめのいわまくら。) 舳[みよし]の口がすやすやと、見果てぬ夢の岩枕。 (かたわらなるとまやのせどに、みどりをそめたあおなのはた、) 傍[かたわら]なる苫屋の背戸に、緑を染めた青菜の畠、 (ゆいめぐらしたあしがきも、ふねも、いわも、ただなだらかな) 結い繞[めぐ]らした蘆垣[あしがき]も、船も、岩も、ただなだらかな (おもたいらに、そらにおどったはねつるべも、) 面平[おもたいら]に、空に躍った刎釣瓶[はねつるべ]も、 (もやをはなれぬくろいいとすじ。さとおうとつなくみおろさるる、) 靄を放れぬ黒い線[いとすじ]。些[さ]と凹凸なく瞰下[みおろ]さるる、 (かかるいちまいのえのなかに、もすそのはしさえ、かたそでさえ、うつくしきふじんのすがたを、) かかる一枚の絵の中に、裳の端さえ、片袖さえ、美しき夫人の姿を、
など
(いずこにかくすべくもみえなかった。) 何処[いずこ]に隠すべくも見えなかった。 (れんぺいはちいさなそのげかいにたいして、たかくくもにのったように、まるくもやに) 廉平は小さなその下界に対して、高く雲に乗ったように、円く靄に (つつまれたおかのうえに、ふみはずしそうにがけのさき、ごしゃくの) 包まれた丘の上に、踏[ふみ]はずしそうに崖の尖[さき]、五尺の (じぞうのぞうでたったけれども。) 地蔵の像で立ったけれども。 (ぜんにょをすくうべく、ここにあまくだったぼさつににず、せんけの) 善女を救うべく、ここに天降[あまくだ]った菩薩に似ず、仙家の (こうべをたれてたんそくした。) 頭[こうべ]を垂れて嘆息した。 (さればこのときのふうさいは、あくまのてにとらえられた、いったいの) さればこの時の風采は、悪魔の手に捕えられた、一体の (しもべのあやまってろをやぶって、げかいにおろされた) 僕[しもべ]の誤って廬[ろ]を破って、下界に追い下[おろ]された (あわれなおもむき。) 哀れな趣。 (れんぺいはうでをこまぬいてしょうぜんとしたのである。) 廉平は腕を拱[こまぬ]いて悄然としたのである。 (ときにうみのうえにひらめくものあり。) 時に海の上にひらめくものあり。 (つばさのいろの、かもめやとぶとみえたのは、なみにしずかなしらほのへんえい。) 翼の色の、鴎[かもめ]や飛ぶと見えたのは、波に静かな白帆の片影。 (ほかぜにちるか、もやきえて、とみれば、うみにあらわれた、) 帆風に散るか、靄消えて、と見れば、海に露[あらわ]れた、 (いちめんおおいなるいわのはしへ、ふねはかくれてほのすがた。) 一面大[おおい]なる岩の端へ、船はかくれて帆の姿。 (ぴたりとついてとどまったが、ひらりとこなたへ) ぴたりとついて留まったが、翻然[ひらり]と此方[こなた]へ (むきをかえると、なぎさにすわったおかのねと、うみなるそのいわとのあいだ、) 向[むき]をかえると、渚に据[すわ]った丘の根と、海なるその岩との間、 (はなれざしきのにさんけん、なかにせんすいをたたえたさまに、みちひとすじ、しののめの) 離座敷の二三間、中に泉水を湛えた状に、路一条[ひとすじ]、東雲の (あけてゆく、あおぞらのすくごとく、うすぎぬのくもさゆうにわかれて、) あけて行[ゆ]く、蒼空の透くごとく、薄絹の雲左右に分れて、 (いわのおもになびくなかを、ふねはただうごくともなく、しらほをのせた) 巌[いわ]の面[おも]に靡く中を、船はただ動くともなく、白帆をのせた (うみがちかづき、やがてよこざまにかろくまたなぎさにとまった。) 海が近づき、やがて横ざまに軽[かろ]くまた渚に止った。 (ほのなかより、みずぎわたって、うつくしくみずあさぎにあさつゆおいた) 帆の中より、水際立って、美しく水浅葱[みずあさぎ]に朝露置いた (おおりんのはないちりん、しらすのきよきはまに、うてなやひらくと、) 大輪[おおりん]の花一輪、白砂の清き浜に、台[うてな]や開くと、 (もすそをさばいてつとおりたった、ようそうしたるひとりのふじん。) 裳を捌いて衝[つ]と下り立った、洋装したる一人の婦人。 (よぼしにしいたあみのなかを、ひらひらとひろったが、あさげしきを) 夜干[よぼし]に敷いた網の中を、ひらひらと拾ったが、朝景色を (めずるよしして、あたりをみながら、そのとまぶねに) 賞[め]ずるよしして、四辺[あたり]を見ながら、その苫船[とまぶね]に (たちよってとまのうえにかたてをかけたまま、ふねのほうをかえりみると、ちどりは) 立寄って苫の上に片手をかけたまま、船の方を顧みると、千鳥は (なかぬがともよびつらん。ほのしろきよりびゃくえのふじん、) 啼[な]かぬが友呼びつらん。帆の白きより白衣[びゃくえ]の婦人、 (ときいろなるがまたひとり、つづいてぜんごにふねをはなれて、さゆうにわかれて) 水紅[とき]色なるがまた一人、続いて前後に船を離れて、左右に分れて (みがるによった。) 身軽に寄った。 (ふたりはみぎのふなばたに、ひとりはひだりのふなばたに、そのとまぶねにみをよせて、) 二人は右の舷[ふなばた]に、一人は左の舷に、その苫船に身を寄せて、 (たがいにとまをとってわけて、ふねのなかをさしのぞいた。) 互[たがい]に苫を取って分けて、船の中を差覗[さしのぞ]いた。 (あわきいろいろのきぬのもすそは、ながくなぎさへひいたのである。) 淡きいろいろの衣[きぬ]の裳は、長く渚へ引いたのである。 (れんぺいはいただきのきりをすかして、あしもとをさしのぞいて、かれらさんにんの) 廉平は頂の霧を透かして、足許を差覗いて、渠等[かれら]三人の (せいようふじん、おもうにあつらえのできをみにきたな。) 西洋婦人、惟[おも]うに誂[あつら]えの出来を見に来たな。 (とまをふいてふせたのは、このひとびとのちゅうもんで、はまにしんぞうの) 苫をふいて伏せたのは、この人々の註文で、浜に新造の (ぼおとででもあるのであろう。) 短艇[ボオト]ででもあるのであろう。 (とみるとふたりのわきのしたを、ひらりととびだしたねこがある。) と見ると二人の脇の下を、翻然[ひらり]と飛び出した猫がある。 (とたんにひとりのかたをこして、そらへおどるかと、もういっぴき、) トタンに一人の肩を越して、空へ躍るかと、もう一匹、 (つづいてへさきからつとぬけた。さいごのはまえあしをそろえて) 続いて舳[へさき]から衝[つ]と抜けた。最後のは前脚を揃えて (うみへいちもんじ、ほそながいちゃいろのどうをひとうねりうねらしたまで) 海へ一文字、細長い茶色の胴を一畝[ひとうね]り畝らしたまで (あざやかにみとめられた。) 鮮麗[あざやか]に認められた。 (まえのはしろいけにちゃのまだらで、なかのは、そのぜんしんうるしのごときが、) 前のは白い毛に茶の斑[まだら]で、中のは、その全身漆のごときが、 (ながくふったおのさきは、みよしをかすめてうせたのである。) 長く掉った尾の先は、舳[みよし]を掠めて失せたのである。 (そのとき、ぜんごして、とまからいずれもおもてをはなし、) 二十二 その時、前後して、苫からいずれも面[おもて]を離し、 (はらはらとふねをのいて、ひたとかおをあわせたが、むきをかえて、) はらはらと船を退[の]いて、ひたと顔を合わせたが、方向[むき]をかえて、 (さんにんともあたりをみまわしてたたずむさま、) 三人とも四辺[あたり]を眴[みまわ]して彳[たたず]む状、 (おぼろげながらはっきりとれんぺいのめにみおろされた。) おぼろげながら判然[はっきり]と廉平の目に瞰下[みおろ]された。 (みずあさぎのがたつきによって、そこともなくあおいだとき、いただきなるひとのすがたを) 水浅葱のが立樹に寄って、そこともなく仰いだ時、頂きなる人の姿を (みつけたらしい。) 見つけたらしい。 (てをあげて、にさんどつづけざまにさしまねくと、あとのふたりも) 手を挙げて、二三度続[つづけ]ざまに麾[さしまね]くと、あとの二人も (ひらひらと、たかくはんけちをふるのがみえた。) ひらひらと、高く手巾[ハンケチ]を掉[ふ]るのが見えた。 (ようこそあれ。) 要こそあれ。 (れんぺいはくもをいだくがごとくうえからのぞんで、みえるか、みえぬか、) 廉平は雲を抱[いだ]くがごとく上から望んで、見えるか、見えぬか、 (あわただしくうなずきこたえて、ただちにおかのうえに) 慌[あわただ]しく領[うなず]き答えて、直ちに丘の上に (くびすをめぐらし、さざえのかたちにきりくずした、) 踵[くびす]を回[めぐ]らし、栄螺[さざえ]の形に切崩した、 (ところどころあしがかりのだんのあるさかをぬって、ぐるぐるとかけてくだり、) 処々足がかりの段のある坂を縫って、ぐるぐると駈けて下り、 (すそをつたうて、つとたかく、とひととびひくく、くさをふみ、) 裾を伝うて、衝[つ]と高く、ト一飛[ひととび]低く、草を踏み、 (いわをわたって、およそじゅうしごふんときをへて、ここぞ、とおもうやまのねの、) 岩を渡って、およそ十四五分時を経て、ここぞ、と思う山の根の、 (なみにさらされたいわのうえ。) 波に曝[さら]された岩の上。 (つなもあり、たつきもあり、おおきなびくも、またそのびくのくちとかたずれに、) 綱もあり、立樹もあり、大きな畚[びく]も、またその畚の口と肩ずれに、 (ふねをみれば、とまふいたり。あのくらいたかかった、おかはちかくかしらに) 船を見れば、苫葺[ふ]いたり。あの位高かった、丘は近く頭[かしら]に (のぞんで、がけのあおすすきもてにとどくに、おんなたちの) 望んで、崖の青芒[あおすすき]も手に届くに、婦人[おんな]たちの (すがたはなかった。しらほははやなぎさをかなたに、うえはたいらで) 姿はなかった。白帆は早や渚を彼方[かなた]に、上は平[たいら]で (あったが、むねよりたかくうずくまる、うみのなかなるいわかげを、) あったが、胸より高く踞[うずく]まる、海の中なる巌[いわ]かげを、 (あかしのうらのあさぎりにしまがくれゆくふぜいにして。) 明石の浦の朝霧に島がくれ行[ゆ]く風情にして。 (かえってべつなるふねいっそう、ものかげにかくれていたろう。はじめてここに) かえって別なる船一艘、ものかげに隠れていたろう。はじめてここに (みいだされたが、ひとつめのはまのかたへ、はんちょうばかりはまのなぐれに) 見出されたが、一つ目の浜の方[かた]へ、半町ばかり浜のなぐれに (へだつるどころに、はこのようなこぶねをうかべて、ここのつばかりと、やっつばかりの、) 隔つる処に、箱のような小船を浮べて、九つばかりと、八つばかりの、 (まっくろなおとこのこ。ひとりはやっしとろづかをとって、まるはだかのこごしをすえ、) 真黒な男の児。一人はヤッシと艪柄[ろづか]を取って、丸裸の小腰を据え、 (おすほどにつっぷすよう、ひくほどにのけぞるよう、) 圧[お]すほどに突伏[つッぷ]すよう、引くほどに仰反[のけぞ]るよう、 (ただそこばかりうみがうごいて、へさきをゆりあげ、ゆりおろすを) ただそこばかり海が動いて、舳[へさき]を揺り上げ、揺り下すを (おもしろそうに。おさないほうは、りょうてにふなべりにつかまりながら、) 面白そうに。穉[おさな]い方は、両手に舷[ふなべり]に掴まりながら、 (これもはだかのかたでおどって、だぶりだぶりだぶりだぶりとおなじところに) これも裸の肩で躍って、だぶりだぶりだぶりだぶりと同一[おなじ]処に (もういちそう、なぎさにもやったおやぶねらしい、ろをあやつるこのたけよりたかい、) もう一艘、渚に纜[もや]った親船らしい、艪[ろ]を操る児の丈より高い、 (ほかのふなべりへなみをあびせて、やっしっし。) 他の舷へ波を浴びせて、ヤッシッシ。 (いや、みちくさするばあいでない。) いや、道草する場合でない。 (れんぺいは、ことばもつうじず、くにもちがってたよりがないから、かわって) 廉平は、言葉も通じず、国も違って便[たより]がないから、かわって (しょちせよ、とあんじされたかのごとく、そのとまぶねのなかになにごとかあることを) 処置せよ、と暗示されたかのごとく、その苫船の中に何事かあることを (さとったので、こころしながら、きはいそぎ、つかつかとけずねながく) 悟ったので、心しながら、気は急ぎ、つかつかと毛脛長く (わらぞうりでたちよった。) 藁草履で立寄った。
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