畜犬談2 太宰治
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問題文
(ことしのしょうがつ、やまなしけん、こうふのまちはずれに)
ことしの正月、山梨県、甲府のまちはずれに
(はちじょう、さんじょう、いちじょうというそうあんをかり、)
八畳、三畳、一畳という草庵を借り、
(こっそりかくれるようにすみこみ、)
こっそり隠れるように住みこみ、
(へたなしょうせつあくせくかきすすめていたのであるが、)
下手な小説あくせく書きすすめていたのであるが、
(このこうふのまち、どこへいってもいぬがいる。おびただしいのである。)
この甲府のまち、どこへ行っても犬がいる。おびただしいのである。
(おうらいに、あるいはたたずみ、あるいはながながとねそべり、)
往来に、あるいは佇み、あるいはながながと寝そべり、
(あるいはしっくし、あるいはきばをひからせてほえたて、)
あるいは疾駆し、あるいは牙を光らせて吠えたて、
(ちょっとしたあきちでもあると、かならずそこはやけんのすのごとく、)
ちょっとした空地でもあると、かならずそこは野犬の巣のごとく、
(くんずほぐれつかくとうのけいこにふけり、)
組んずほぐれつ格闘の稽古にふけり、
(よるなどむじんのがいろをかぜのごとく、)
夜など無人の街路を風のごとく、
(やとうのごとくぞろぞろたいぐんをなしてじゅうおうにかけまわっている。)
野盗のごとくぞろぞろ大群をなして縦横に駈け廻っている。
(こうふのいえごと、いえごと、すくなくともにひきくらいずつ)
甲府の家ごと、家ごと、少くとも二匹くらいずつ
(やしなっているのではないかとおもわれるほどに、)
養っているのではないかと思われるほどに、
(おびただしいかずである。)
おびただしい数である。
(やまなしけんは、もともとかいいぬのさんちとしてしられているようであるが、)
山梨県は、もともと甲斐犬の産地として知られているようであるが、
(がいとうでみかけるいぬのすがたは、)
街頭で見かける犬の姿は、
(けっしてそんなじゅんけつしゅのものではない。)
けっしてそんな純血種のものではない。
(あかいむくいぬがもっともおおい。)
赤いムク犬が最も多い。
(とるところなきあさはかなだけんばかりである。)
採るところなきあさはかな駄犬ばかりである。
(もとよりわたしはちくけんにたいしてはふくむところがあり、)
もとより私は畜犬に対しては含むところがあり、
(またゆうじんのそうなんいらいいっそうけんおのねんをまし、)
また友人の遭難以来いっそう嫌悪の念を増し、
(けいかいおさおさおこたるものではなかったのであるが、)
警戒おさおさ怠るものではなかったのであるが、
(こんなにいぬがうようよいて、どこのよこちょうにでもちょうりょうし、)
こんなに犬がうようよいて、どこの横丁にでも跳梁し、
(あるいはとぐろをまいてゆうぜんとねているのでは、)
あるいはとぐろを巻いて悠然と寝ているのでは、
(とてもようじんしきれるものでなかった。)
とても用心しきれるものでなかった。
(わたしはじつにくしんをした。できることなら、)
私はじつに苦心をした。できることなら、
(すねとうあて、こてとう、かぶとをかぶってまちをあるきたくおもったのである。)
すね当あて、こて当、かぶとをかぶって街を歩きたく思ったのである。
(けれども、そのようなすがたは、)
けれども、そのような姿は、
(いかにもいようであり、ふうきじょうからいっても、)
いかにも異様であり、風紀上からいっても、
(けっしてゆるされるものではないのだから、)
けっして許されるものではないのだから、
(わたしはべつのしゅだんをとらなければならぬ。)
私は別の手段をとらなければならぬ。
(わたしは、まじめに、しんけんに、たいさくをかんがえた。)
私は、まじめに、真剣に、対策を考えた。
(わたしはまずいぬのしんりをけんきゅうした。)
私はまず犬の心理を研究した。
(にんげんについては、わたしもいささかこころえがあり、たまにはてきかくに、)
人間については、私もいささか心得があり、たまには的確に、
(あやまたずしていできたことなどもあったのであるが、)
あやまたず指定できたことなどもあったのであるが、
(いぬのしんりは、なかなかむずかしい。ひとのことばが、)
犬の心理は、なかなかむずかしい。人の言葉が、
(いぬとひととのかんじょうこうりゅうにどれだけやくだつものか、)
犬と人との感情交流にどれだけ役立つものか、
(それがだいいちのなんもんである。)
それが第一の難問である。
(ことばがやくにたたぬとすれば、)
言葉が役に立たぬとすれば、
(おたがいのそぶり、ひょうじょうをよみとるよりほかにない。)
お互いの素振り、表情を読み取るよりほかにない。
(しっぽのうごきなどは、じゅうだいである。)
しっぽの動きなどは、重大である。
(けれども、この、しっぽのうごきも、)
けれども、この、しっぽの動きも、
(ちゅういしてみているとなかなかにふくざつで、)
注意して見ているとなかなかに複雑で、
(よういによみきれるものではない。)
容易に読みきれるものではない。
(わたしは、ほとんどぜつぼうした。そうして、)
私は、ほとんど絶望した。そうして、
(はなはだせつれつな、むのうきわまるいっぽうをあんしゅつした。)
はなはだ拙劣な、無能きわまる一法を案出した。
(あわれなきゅうよのいっさくである。)
あわれな窮余の一策である。
(わたしは、とにかく、いぬにであうと、まんめんにびしょうをたたえて、)
私は、とにかく、犬に出逢うと、満面に微笑を湛えて、
(いささかもがいしんのないことをしめすことにした。)
いささかも害心のないことを示すことにした。
(よるは、そのびしょうがみえないかもしれないから、)
夜は、その微笑が見えないかもしれないから、
(むじゃきにどうようをくちずさみ、)
無邪気に童謡を口ずさみ、
(やさしいにんげんであることをしらせようとつとめた。)
やさしい人間であることを知らせようと努めた。
(これらは、たしょう、こうかがあったようなきがする。)
これらは、多少、効果があったような気がする。