怪人二十面相37

関連タイピング
問題文
(では、そのうちまたゆっくりおめにかかろう。)
では、そのうちまたゆっくりお目にかかろう。
(にじゅうめんそうより)
二十面相より
(なかむらぜんしろうくん)
中村善四郎君
(どくしゃしょくん、かくしてにじゅうめんそうとこばやししょうねんのたたかいは、ざんねんながら、)
読者諸君、かくして二十面相と小林少年のたたかいは、ざんねんながら、
(けっきょく、かいとうのしょうりにおわりました。しかもにじゅうめんそうは、はしばけの)
けっきょく、怪盗の勝利に終わりました。しかも二十面相は、羽柴家の
(ほうこをひんじゃくとあざけり、だいじぎょうにてをそめているといばっています。)
宝庫を貧弱とあざけり、大事業に手をそめているといばっています。
(かれのだいじぎょうとはいったい、なにをいみするのでしょうか。こんどこそ、)
彼の大事業とはいったい、何を意味するのでしょうか。こんどこそ、
(もうこばやししょうねんなどのてにおえないかもしれません。またれるのは、)
もう小林少年などの手におえないかもしれません。待たれるのは、
(あけちこごろうのきこくです。それもあまりとおいことではありますまい。)
明智小五郎の帰国です。それもあまり遠いことではありますまい。
(ああ、めいたんていあけちこごろうとかいじんにじゅうめんそうのたいりつ、ちえとちえとの)
ああ、名探偵明智小五郎と怪人二十面相の対立、知恵と知恵との
(いっきうち、そのひがまちどおしいではありませんか。)
一騎うち、その日が待ちどおしいではありませんか。
(びじゅつじょう)
美術城
(いずはんとうのしゅぜんじおんせんからよんきろほどみなみ、しもだかいどうにそったやまのなかに、)
伊豆半島の修善寺温泉から四キロほど南、下田街道にそった山の中に、
(たにぐちむらというごくさびしいむらがあります。そのむらはずれのもりのなかに、)
谷口村というごくさびしい村があります。その村はずれの森の中に、
(みょうなおしろのようないかめしいやしきがたっているのです。)
みょうなお城のようないかめしいやしきが建っているのです。
(まわりにはたかいどべいをきずき、どべいのうえには、ずっとさきのするどく)
まわりには高い土塀をきずき、土塀の上には、ずっと先のするどく
(とがったてつぼうを、まるではりのやまみたいにうえつけ、どべいのうちがわには、)
とがった鉄棒を、まるで針の山みたいに植えつけ、土塀の内がわには、
(よんめーとるはばほどのみぞが、ぐるっととりまいていて、あおあおとしたみずが)
四メートル幅ほどのみぞが、ぐるっととりまいていて、青々とした水が
(ながれています。ふかさもせがたたぬほどのようじんです。たといはりのやまの)
流れています。深さも背がたたぬほどの用心です。たとい針の山の
(どべいをのりこえても、そのなかに、とてもとびこすことのできないおほりが、)
土塀を乗りこえても、その中に、とてもとびこすことのできないお堀が、
(ほりめぐらしてあるというわけです。)
堀りめぐらしてあるというわけです。
(そして、そのまんなかには、てんしゅかくこそありませんが、ぜんたいにあつい)
そして、そのまんなかには、天守閣こそありませんが、全体に厚い
(しらかべづくりの、まどのちいさい、まるでどぞうをいくつもよせあつめたような、)
白壁造りの、窓の小さい、まるで土蔵をいくつもよせあつめたような、
(おおきなたてものがたっています。)
大きな建物が建っています。
(そのふきんのひとたちは、このたてものを「くさかべのおしろ」とよんでいますが、)
その付近の人たちは、この建物を「日下部のお城」と呼んでいますが、
(むろんほんとうのおしろではありません。こんなちいさなむらにおしろなど)
むろんほんとうのお城ではありません。こんな小さな村にお城など
(あるはないのです。)
あるはないのです。
(では、このばかばかしくようじんけんごなたてものは、いったいなにもののすまい)
では、このばかばかしく用心堅固な建物は、いったい何者の住まい
(でしょう。けいさつのなかったせんごくじだいならばしらぬこと、いまのよに、)
でしょう。警察のなかった戦国時代ならば知らぬこと、今の世に、
(どんなおかねもちだって、これほどようじんぶかいていたくにすんでいるものは)
どんなお金持だって、これほど用心ぶかい邸宅に住んでいるものは
(ありますまい。)
ありますまい。
(「あすこには、いったいどういうひとがすんでいるのですか。」)
「あすこには、いったいどういう人が住んでいるのですか。」
(たびのものなどがたずねますと、むらびとはきまったように、こんなふうに)
旅のものなどがたずねますと、村人はきまったように、こんなふうに
(こたえます。)
答えます。
(「あれですかい。ありゃ、くさかべのきちがいだんなのおしろだよ。たからものを)
「あれですかい。ありゃ、日下部の気ちがい旦那のお城だよ。宝物を
(ぬすまれるのがこわいといってね。むらともつきあいをしねえかわり)
ぬすまれるのがこわいといってね。村ともつきあいをしねえかわり
(ものですよ。」)
者ですよ。」
(くさかべけは、せんぞだいだい、このちほうのおおじぬしだったのですが、いまの)
日下部家は、先祖代々、この地方の大地主だったのですが、今の
(さもんしのだいになって、こうだいなじしょもすっかりひとでにわたってしまって、)
左門氏の代になって、広大な地所もすっかり人手にわたってしまって、
(のこるのはおしろのようなていたくと、そのなかにしょぞうされているおびただしい)
残るのはお城のような邸宅と、その中に所蔵されているおびただしい
(こめいがばかりになってしまいました。)
古名画ばかりになってしまいました。
(さもんろうじんはきちがいのようなびじゅつしゅうしゅうかだったのです。びじゅつといっても)
左門老人は気ちがいのような美術収集家だったのです。美術といっても
(おもにこだいのめいがで、せっしゅうとかたんゆうとか、しょうがっこうのほんにさえなのでている、)
おもに古代の名画で、雪舟とか探幽とか、小学校の本にさえ名の出ている、
(こらいのだいみょうじんのさくは、ほとんどもれなくあつまっているといっても)
古来の大名人の作は、ほとんどもれなく集まっているといっても
(いいほどでした。なにひゃくぷくというえのだいぶぶんが、こくほうにもなるべきけっさく)
いいほどでした。何百幅という絵の大部分が、国宝にもなるべき傑作
(ばかり、かかくにしたらすうじゅうおくえんにもなろうといううわさでした。)
ばかり、価格にしたら数十億円にもなろうといううわさでした。