怪人二十面相45

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問題文
(あけちはつかつかとへやのなかへはいっていって、いびきをかいている)
明智はツカツカと部屋の中へはいっていって、いびきをかいている
(けいじのこしのあたりを、いきなりけとばしました。ぞくのためにだしぬかれて、)
刑事の腰のあたりを、いきなりけとばしました。賊のためにだしぬかれて、
(もうすっかりはらをたてているようすでした。)
もうすっかり腹をたてているようすでした。
(「おい、おい、おきたまえ。ぼくはきみに、ここでおやすみくださいって)
「おい、おい、起きたまえ。ぼくはきみに、ここでおやすみくださいって
(たのんだんじゃないんだぜ。みたまえ、すっかりぬすまれてしまった)
たのんだんじゃないんだぜ。見たまえ、すっかりぬすまれてしまった
(じゃないか。」)
じゃないか。」
(けいじは、やっとからだをおこしましたが、まだゆめうつつのありさまです。)
刑事は、やっとからだを起こしましたが、まだ夢うつつのありさまです。
(「う、う、なにをぬすまれたんですって?ああ、すっかりねむって)
「ウ、ウ、何をぬすまれたんですって?ああ、すっかりねむって
(しまった・・・・・・。おや、ここはどこだろう。」)
しまった……。おや、ここはどこだろう。」
(ねぼけたかおで、きょろきょろへやのなかをみまわすしまつです。)
寝ぼけた顔で、キョロキョロ部屋の中を見まわすしまつです。
(「しっかりしたまえ。ああ、わかった。きみはますいざいで)
「しっかりしたまえ。ああ、わかった。きみは麻酔剤で
(やられたんじゃないか。おもいだしてみたまえ、ゆうべどんなことが)
やられたんじゃないか。思いだしてみたまえ、ゆうべどんなことが
(あったか。」)
あったか。」
(あけちはけいじのかたをつかんで、らんぼうにゆさぶるのでした。)
明智は刑事の肩をつかんで、らんぼうにゆさぶるのでした。
(「こうっと、おや、ああ、あんたあけちさんですね。おお、ここは)
「こうっと、おや、ああ、あんた明智さんですね。おお、ここは
(くさかべのびじゅつじょうだった。しまった。ぼくはやられたんですよ。)
日下部の美術城だった。しまった。ぼくはやられたんですよ。
(そうです、ますいざいです。ゆうべまよなかに、くろいかげのようなものが、)
そうです、麻酔剤です。ゆうべ真夜中に、黒い影のようなものが、
(ぼくのうしろへしのびよったのです。そして、そして、なにかやわらかい)
ぼくのうしろへしのびよったのです。そして、そして、何かやわらかい
(いやなにおいのするもので、ぼくのはなとくちをふさいでしまったのです。)
いやなにおいのするもので、ぼくの鼻と口をふさいでしまったのです。
(それっきり、それっきり、ぼくはなにもわからなく)
それっきり、それっきり、ぼくは何もわからなく
(なってしまったんです。」)
なってしまったんです。」
(けいじはやっとめのさめたようすで、さももうしわけなさそうに、)
刑事はやっと目のさめたようすで、さも申しわけなさそうに、
(からっぽのかいがしつをみまわすのでした。)
からっぽの絵画室を見まわすのでした。
(「やっぱりそうだった。じゃあ、おもてもんとうらもんをまもっていたけいじしょくんも、)
「やっぱりそうだった。じゃあ、表門と裏門を守っていた刑事諸君も、
(おなじめにあっているかもしれない。」)
同じ目にあっているかもしれない。」
(あけちはひとりごとをいいながら、へやをかけだしていきましたが、)
明智はひとりごとをいいながら、部屋をかけだしていきましたが、
(しばらくすると、だいどころのほうでおおごえによぶのがきこえてきました。)
しばらくすると、台所のほうで大声に呼ぶのが聞こえてきました。
(「くさかべさん、ちょっときてください。」)
「日下部さん、ちょっと来てください。」
(なにごとかと、ろうじんとけいじとが、こえのするほうへいってみますと、)
なにごとかと、老人と刑事とが、声のするほうへ行ってみますと、
(あけちはげなんべやのいりぐちにたってそのなかをゆびさしています。)
明智は下男部屋の入り口に立ってその中を指さしています。
(「おもてもんにもうらもんにも、けいじくんたちのかげもみえません。そればかりじゃない。)
「表門にも裏門にも、刑事君たちの影も見えません。そればかりじゃない。
(ごらんなさい、かわいそうに、このしまつです。」)
ごらんなさい、かわいそうに、このしまつです。」
(みると、げなんべやのすみっこに、さくぞうじいやとそのおかみさんとが、)
見ると、下男部屋のすみっこに、作蔵じいやとそのおかみさんとが、
(たかてこてにしばられ、さるぐつわまでかまされて、ころがっている)
高手小手にしばられ、さるぐつわまでかまされて、ころがっている
(ではありませんか。むろんぞくのしわざです。じゃまだてをしないように、)
ではありませんか。むろん賊のしわざです。じゃまだてをしないように、
(ふたりのめしつかいをしばりつけておいたのです。)
ふたりの召使いをしばりつけておいたのです。
(「ああ、なんということじゃ。あけちさん、これはなんということです。」)
「ああ、なんということじゃ。明智さん、これはなんということです。」
(くさかべろうじんは、もうはんきょうらんのていで、あけちにつめよりました。いのちよりも)
日下部老人は、もう半狂乱のていで、明智につめよりました。命よりも
(たいせつにおもっていたたからものがゆめのようにいちやのうちにきえうせて)
たいせつに思っていた宝物が夢のように一夜のうちに消えうせて
(しまったのですから、むりもないことです。)
しまったのですから、むりもないことです。
(「いや、なんとももうしあげようもありません。にじゅうめんそうがこれほどの)
「いや、なんとも申しあげようもありません。二十面相がこれほどの
(うでまえとはしりませんでした。あいてをみくびっていたのがしっさくでした。」)
腕まえとは知りませんでした。相手をみくびっていたのが失策でした。」
(「しっさく?あけちさん、あんたはしっさくですむじゃろうが、このわしは、)
「失策?明智さん、あんたは失策ですむじゃろうが、このわしは、
(いったいどうすればよいのです。・・・・・・めいたんてい、めいたんていとひょうばんばかりで、)
いったいどうすればよいのです。……名探偵、名探偵と評判ばかりで、
(なんだこのざまは・・・・・・。」)
なんだこのざまは……。」
(ろうじんはまっさおになって、ちばしっためであけちをにらみつけて、)
老人はまっさおになって、血走った目で明智をにらみつけて、
(いまにも、とびかからんばかりのけんまくです。)
今にも、とびかからんばかりのけんまくです。
(あけちはさもきょうしゅくしたように、さしうつむいていましたが、やがて、)
明智はさも恐縮したように、さしうつむいていましたが、やがて、
(ひょいとあげたかおをみますと、これはどうしたというのでしょう。)
ヒョイとあげた顔を見ますと、これはどうしたというのでしょう。
(めいたんていはわらっているではありませんか。そのわらいがかおいちめんに)
名探偵は笑っているではありませんか。その笑いが顔いちめんに